髙山徹

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第15回 [バックナンバー]

Cornelius、くるり、スピッツ、indigo la End、sumikaらを手がける高山徹の仕事術(前編)

出音がカッコよければ何でもいい、機材へのこだわりはない

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小室サウンド全盛の時代にジョン・レノン

──Charaの「やさしい気持ち」(1997年4月リリース)は、録り音自体はきれいなのかなと思ったんですけど、すごい勢いでコンプで潰してますよね。かなりキラキラした音があふれている小室サウンド全盛の時代に、どういう経緯でああいう音に?

プロデューサーの渡辺善太郎さんとCharaとの間でけっこうやり取りがあったみたいで。最初僕、「ドンパンドンドンパン」って足踏みとクラップを聴いて、「Queenの『We Will Rock You』みたいな感じにしたいの?」ってCharaに聞いたら、「いや、違う。ジョン・レノンの感じにしたい」って言われて。そっち系の音を参考にしたら……ものすごくコンプかかってるじゃないですか(笑)。

──そうですね(笑)。

それで、ああいう感じになりました。あの曲は青葉台スタジオで録ったんですけど、地下に行くためのリフトが鉄板で囲われていて、そこの響きがすごくよかったのでスピーカーとマイクを突っ込んで、そこで「ドンパンドンドンパン」って鳴らして離れた距離で残響を拾ってリバーブにしたんですよね。

──へえ! エコーチャンバー的な使い方ですね。井戸リバーブの経験がそこで役に立ったんですね! ちなみにボーカルを潰すのに使ったコンプはどういうモデルですか?

ボーカルはUREI 1176LNだと思います。76全部押し──ブリティッシュモードだったと思います(※1176では音の圧縮比を決めるレシオのボタンを、すべて同時に押すと激しくかかる裏技が知られている)。

──あそこまでブレスの音がでかいのは今でもなかなか聴いたことがないなと思って(笑)。

そうですよね。今だったら細かくオートメーションカーブを書いて、ブレスの音量だけ下げることもできるけど、当時はそこまでできなかったので。あと、もともとのダイナミックレンジがすごく広いから。

──ではあれは、完全にミックスの段階であとから作り込んでるんですか? 普通に録っておいて、あとからグチャッと潰すみたいな。

録りの段階でわりとかけちゃいます。あれよりは若干弱かったとは思うんですけど、でもかなりかけます。できるだけ完成形に近い形でミュージシャンに聴かせてあげたほうが、表現の仕方も向こうも無意識のうちにやってくれるんで、やっぱり音楽的にいいんですよね。

──とは言え、あそこまでやると取り返しがつかないですよね。それでOKで行けるジャッジがすごいなと。アコギとかも、後ろからサステインがせり上がってくるぐらいかかっていて。アタックの頭が完全にない音になっていて。あの感じは、コンプ使いたての頃のThe Beatlesぐらいでしか聴いたことない感じがします(笑)。

バウンバウンいってますよね(笑)。でも、そういう感じを狙っていたので。僕、吉田仁さんとロンドンのスタジオに行って、僕の録ったものを向こうのエンジニアにミックスしてもらう機会があって。そのときの人たちが全部過激にやるんですよね。当時のイギリスはあまり景気がよくなくて安い機材ばかりで、日本のほうがいい機材だったんだけど、アイデアやセンスでカッコいい音に仕上げるんです。それを見て、「機材じゃないんだな」「何でもありなんだな」って思ったんですよね。そこに行くまでのプロセスとか関係なくて、出音がすべて。メーター振り切ってるのに全然気にしないし、音楽的によければ何でもアリなんですよ。だから自分でやるときも、あまり手法にこだわらないようにしてますね。うまくいかないだろうと思ってもあえてやってみたり。鳴っている音を再現するだけならきれいな音で録ればいいけど、エンジニアは表現しないといけないと思ってるので、時には振り切ることも必要だと思ってます。

──あれだけ潰すのは、チャド・ブレイク(※シェリル・クロウやThe Black Keysを手がけたエンジニア。ミックスでディストーションペダルを使うことで有名)の流れもあるのかなと。

うん、好きですね。あと、デイヴ・フリッドマン(※元Mercury Revのメンバーで、The Flaming LipsやMGMTのエンジニアとしても知られる)とかが大好きで。

──デイヴ・フリッドマンは、サンプリングっぽい質感で録る感じはありますよね。

そうですね、The Flaming Lipsとか、最近だとTame Impalaとか。フリッパーズをやっていた頃はトーレ・ヨハンソン(※The CardigansやEggstoneのエンジニアで、スウェディッシュポップの立役者)が好きで。彼もすごいコンプかけてて、ローファイの走りみたいな感じですよね。

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髙山徹

髙山徹

高山徹

1967年千葉生まれ。1985年にSTUDIO TWO TWO ONEで働き始め、名称がMUSIC INN 代々木となったあと、アシスタントエンジニアとして数多くのメジャーアーティストのセッションに立ち会う。2004年に自身の会社「Switchback」を設立。これまでにフリッパーズ・ギター、Cornelius、Chara、くるり、ASIAN KUNG-FU GENERATION、スピッツ、フジファブリック、sumikaら多数のアーティスト作品に関わっている。2008年には「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞に「Sensurround + B-sides」で、ノミネートされる。2010年に日本レコーディングエンジニア協会の理事に就任。

※高山徹の「高」ははしご高が正式表記。

中村公輔

1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMille Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。

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