ジョン・ケアードの最新作となる本作は、ジョヴァンニ・ボッカッチョの「Teseida」、ジェフリー・チョーサー作「騎士の物語」、ジョン・フレッチャーとウィリアム・シェイクスピアによる「二人の貴公子」をモチーフとしたダンスミュージカル。王女エミーリアに恋をした2人の騎士を主軸としたストーリーが展開し、アーサイト役を堂本、パラモン役を井上、エミーリア役を
ゲネプロでは、開演と共に和楽器の音色に乗せたダンサーたちのしなやかかつエネルギッシュな踊りが展開し、スモークと照明を駆使した幻想的な演出が舞台を包み込んだ。その奥から、日本の武者をイメージした出で立ちのアーサイトとパラモンが登場。2人は力強く歌声を重ね、観客を一気に物語の世界へと誘った。
舞台は回転する盆を効果的に用いて、森や屋敷、牢獄などさまざまなシーンがテンポよく繰り広げられる。互いを思い合い、騎士としての誇りと名誉を重んじるアーサイトとパラモンは、ある日、敵国アテネの大公シーシアスに捕虜として捕えられた。同じ牢獄で励まし合いながら生きる2人だったが、牢獄の窓からシーシアスの妹・エミーリアを見掛け、共に一目惚れしたところから関係性がこじれていき……。
堂本はエネルギッシュなダンスと殺陣で圧倒的な存在感を見せつつも、パラモンやエミーリアに対しては深い思いやりや愛情を向け、アーサイトの温かさ、人間臭さを丁寧に表現する。対する井上は、騎士としての威厳や実力を伸びやかな歌声で示す一方で、アーサイトの前では少年のような愛嬌を見せて、パラモンの魅力を多面的に演じた。いとこ同士にして親友、よきライバルでもあるパラモンとアーサイトのやり取りにはコミカルな部分も多く、2人の息の合った掛け合いやぶつかり合いにぜひ注目しよう。
またアーサイトとパラモンの2人を軸としつつも、彼らを取り囲む人たちのドラマも色濃く描き出される。時代に翻弄される女性たちの苦悩、芸能に賭ける者の思いなど、時代や状況は違えど現代の私たちにも共感できる部分が多く、中でも力強い歌唱としなやかな踊りで、エミーリアの凛とした知的な佇まいを体現した音月、たおやかで心優しい牢番の娘役を柔らかな語り口で演じつつ、恋に狂う様を熱狂的なダンスで表現した上白石の熱演は胸を打った。
さらに韻を踏んだセリフや歌詞、印象的でパワフルなナンバーの数々、シンプルだが想像力を掻き立てる舞台装置、美しいシルエットを作り出した衣装、アンサンブルによるダイナミックなダンスやアクロバットの数々と、随所にさまざまな“挑戦”が盛り込まれ、最後まで舞台から目が離せない。脚本・演出のジョン・ケアードによるそれら大いなる“挑戦”に、キャストとスタッフが一丸となって応え、作品を前へ前へと強く押し出している。これまで幾多の名作を生み出してきた帝国劇場の歴史に、新たな名作が誕生した瞬間だ。
なお昨日7月28日に東京・帝国劇場で行われた囲み取材には、堂本、井上、音月、上白石、大澄、島田が出席し、作品への思いを語った。堂本は本公演の開幕を前に「2カ月の稽古で、ジョン(・ケアード)を筆頭にみんなで作品をゼロから作りました。お客様が入ってやっと完成した感覚があって……まだ初日ですが、みんなすごい達成感を感じていると思う」と感慨深げに語る。今年2月から4月には帝国劇場で「Endless SHOCK」で座長を務めていた堂本が「今年は帝劇に4カ月も立っていて、こんなにありがたいことはない。素晴らしい諸先輩方が作り上げた劇場だということを絶対忘れず、舞台に立ちたい」と真摯に述べると、井上は「4カ月ってもう住んでるようなものですよね。家賃払ったほうがいいんじゃない?」と茶目っ気たっぷりにコメントし、堂本を笑わせた。
続く井上は「苦労もありましたが、お客様と一緒にこの作品を世に出すことができて幸せ。演じていても楽しいので、すごい幸福感に溢れています」と心境を明かし、本作については「いろんな要素がある作品ですが、演劇として素敵なものになったのがうれしい」と出来栄えに自信をのぞかせる。インタビュアーに初日の観客の反応を尋ねられると、井上は「この作品はコメディでもある。物語が進むにつれてお客様も笑ってくださるようになって……『あの男2人(アーサイトとパラモン)、バカなんじゃないか』という空気が漂ってきました」と印象を語り、記者たちを笑いで包んだ。
「お稽古中から光一さんと芳雄さんがラブラブだったのでちょっとやきもちをやいていましたが……(笑)」と切り出したのは音月。音月は続けて、「お互いにリスペクトしていらっしゃる。ピリッとした稽古中でもカンパニーが一致団結できたのは、お2人の穏やかな関係性のおかげです。光一さんと芳雄さんの背中を見ながら千秋楽までがんばりたい」と稽古を振り返りつつ意気込む。上白石も「稽古中は私たちしか知らなかったものが、ここからどんどん広がっていくと思うと幸せ。夢だった帝国劇場なので、皆さんの足を引っ張らないよう(笑)がんばります」と気合十分に述べた。
岸は「『作品をお客様に渡すことが何よりの幸せ』とジョンも言っていました。ぜひ足を運んでいただきたいです」と呼びかけつつ、自身の所属するMon STARSのメンバー・橋本さとしが出演中の「新感線☆RS『メタルマクベス』disc1」に触れて「個人的なことですが、豊洲でやってるシェイクスピアを題材にした作品には負けないようにしたい(笑)」と冗談を飛ばした。大澄は「カンパニーみんなで一生懸命作りました。リニューアルした帝劇にぜひ来てください」とメッセージを送り、さらに島田は「レ・ミゼラブル」でジョン・ケアードと出会ったことに触れ、「彼は私の人生を開いてくれた恩人。夢のようなキャストの皆様とご一緒にジョンの新作に携われてうれしい」と喜びを語った。
さらに話題はプレビュー公演の初日、アーサイトとパラモンが抱擁を交わす場面で顔がぶつかり、2人がキスをしてしまうアクシデントがあったことにも及んだ。井上は、アーサイトとパラモンは抱き合うシーンが多く、井上と堂本の身長差を考慮して顔の向きも稽古で決めてあったと述べつつ、「なんか本番のテンションで、光一くんの顔が僕の顔の真ん前にきてしまった」と実演を交えつつ振り返り、会見場を沸かせる。堂本は「完全に僕のミス」と苦笑いを浮かべつつ「そのあとは2人でポーッとしてしまって……本公演では結局、そのシーンはなくなってしまいました(笑)」と明かし、これを受けた岸は「あの日だけは、(「騎士物語」ならぬ)キス物語でしたね」とコメントして、記者たちを大きな笑いで包んだ。
またお互いの印象について、堂本は「これまで活動してきたフィールドは違ったかもしれないけど、僕と芳雄くんの志は同じ方を向いていると感じる」と厚い信頼を寄せ、「彼がいつも言ってくれていますが、1人で主演を張る感覚とは違っていて。『しんどいことは2分割、喜びは2倍になる』ような感じで、心地いいです」と微笑んだ。井上は堂本の言葉に「結婚式の挨拶みたい(笑)」とコメントしつつ、「謙虚なので自分では『違う』と言っていますが、光一くんは立派なミュージカル俳優。彼と一緒にやることで、スターってこういうことなんだ、と思います。輝きや華やかさはもちろん中身も伴っていて、新しい挑戦をみんなに見せている。僕もとても勉強になるし、今当たり前のように一緒に舞台に立っているのがすごくうれしい」と堂本に視線を送った。
最後に堂本が「今ここに立っていることが本当に幸せで。この作品だけで打ち上げ花火のように終わってほしくないという気持ちがあるので、ここからいろいろつながれば素敵だなと。でも今はしっかりと『ナイツ・テイル』をお客様に届けたいです」と笑顔を見せ、会見は終了した。
なお東京・帝国劇場は本作のプレビュー公演が幕を開けた7月25日にリニューアルを完了。正面エントランスのアプローチの照明に“光の演出”が追加されたほか、場内のカーペットと客席が一新した。また5箇所あるトイレが最新式設備のものとなり、ロビーで展開されているショップのフードメニューや商品ラインナップについても変更が加えられている。
ミュージカル「ナイツ・テイル-騎士物語-」の上演時間は、休憩を含めて約3時間。東京公演は8月29日まで行われ、その後9月18日から10月15日まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールで上演される。
なおこのたび、今秋NHKで放送される「SONGS」に堂本と井上が出演することが決定。番組では「ナイツ・テイル」のナンバーがスペシャルバージョンで披露されるほか、リハーサルの様子や初日の舞台映像、さらに2人の対談が放送される。詳細は続報を待とう。
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
ミュージカル「ナイツ・テイル-騎士物語-」
2018年7月27日(金)~8月29日(水)
※7月25日(水)・26日(木)はプレビュー公演。
東京都 帝国劇場
2018年9月18日(火)~10月15日(月)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
原作:ジョヴァンニ・ボッカッチョ「Teseida」、ジェフリー・チョーサー「騎士の物語」、ジョン・フレッチャー / ウィリアム・シェイクスピア「二人の貴公子」
脚本・演出:ジョン・ケアード
作詞・作曲:ポール・ゴードン
日本語脚本・歌詞:今井麻緒子
振付:デヴィッド・パーソンズ
キャスト
アーサイト:
パラモン:
エミーリア:
牢番の娘:
シーシアス:
ジェロルド:
ヒポリタ:
ダンサー:石井亜早実、遠藤令、門間めい、
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