カーネーション直枝政広

今日もあの街で名曲が 第4回 [バックナンバー]

カーネーション直枝政広が江戸川土手で語る「Edo River」

東京、王道、渋谷系……あらゆる“中心”との微妙な距離感

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東京、王道、渋谷系との微妙な距離感

──先日直枝さんが出演されたYouTubeチャンネル「豪の部屋」で、「ポップなものを作ってるつもりだけど、ズレてしまっている」というお話をされていましたよね(参照:【カーネーション 直枝政広】最近ロングインタビューも行った2人によるインタビューには載らない!ここでしか話せないディープな話をする2時間!!)。自分では王道だと思っているものが、世間的には王道ではないと。

もう僕にはわかんないんですよ(笑)。本当に真ん中を狙ってるつもりなんだけど、何かが決定的に抜け落ちているみたいで。80年代後半から90年代半ばまで、僕の中ではワールドミュージックとヒップホップが王道だったんだけど、どうやらそれは違うらしい(笑)。The Beatlesとかボブ・ディランとか、自分の核はそういう太い幹で支えられているはずなんですけどね。それでも世の中の真ん中とは、なんとも言えないズレや距離感があるみたいなんです。

江戸川を眺める直枝政広。

江戸川を眺める直枝政広。 [高画質で見る]

──住んでいる場所も東京の中心から離れているし、やっている音楽もド真ん中からはズレている。直枝さん自身に“中心からつい離れたくなる”という気質があるんですかね。

それはね、あると思う(笑)。中学の同級生に銀座で生まれ育った人たちがいたんですけど、そういう人は本当に銀座から出ないんですよ。どこかに行かずとも、そこにすべてがあるから。自分はその輪の中から出たり入ったりしながら、客観的に見ていて。そっちのほうが、僕にとっては面白いんですよね。

──あえて遠巻きに見ていたいというか。

そうなんです。ちょっとした茂みとか川とか、電車から見て「あそこに行ってみたいな」と何十年も思っている場所がたくさんあるけど、そういうところも実際に行くことはほとんどなくて。もったいなくて行けないんですよ。

──もったいない?

実際に行くと、何があるかわかっちゃうじゃないですか。それがもったいないなと思っちゃって。ずっと憧れていたいというか。“実際に足を踏み入れない”ということを選ぶだけで、その場所が自分にとって神聖な場所になるんです。だから「こういうものがあるんだろうな」と考えはするけど、そこは想像で止めておく。行けば何があるかすぐわかるけど、ドキドキがなくなっちゃうのが嫌なんです。そういうのも含めて“ちょっと離れて見る”というのが癖になっているのかもしれないですね。単に臆病なだけだろ、というのもありますけど(笑)。

流山橋から見た江戸川。

流山橋から見た江戸川。 [高画質で見る]

──自分は完全に後追いなのですが、「Edo River」リリース当時に隆盛していた渋谷系のムーブメントとも、付かず離れずの微妙な距離感がおそらくありましたよね。

ありましたね。当時は完全に渋谷系が時代の中心にいたけど、僕らはそこにも属せない天然さを持っていて。どうしたって消せない臭みがあるというか。「Edo River」はちょっと渋谷系に寄ってはいたんですけど。

──それでも渋谷系のド真ん中では……。

ないですね。「今流行っているイギリスのグループはこれだよね」「ジャズを取り入れるならこうだよね」とか、そういうことをうまくやっている人たちが渋谷系の真ん中にいて。僕らは、そういうスタイリッシュなことは全然やろうとしなかったんですよ。自分の中に眠っている響きを思い起こしながら「俺たちには俺たちの鳴りがあるよね」と楽しんでいた。まあ、真ん中への行き方も、どう立ち回っていいかもわからないというのもありましたけど(笑)。そういうことを教えてくれる人もいなかったですし。なので、ただただ天然に、本当にやりたいことをやっていただけですよ。エスカレーターズのZOOCOとか、COSA NOSTRAの桃ちゃん(鈴木桃子)にコーラスを頼んでいたし、界隈としては近かったんですけどね。それでも、ひと言では言えない不思議な距離があったなと、改めて振り返って感じます。

同じような眺めでも歌になる

──先日、柏育ちの折坂悠太さんに取材をしたんですが(参照:折坂悠太はなぜ柏の映画館でライブをしたのか?減りゆく“実験の場”に感じる表現者としての危機感)、「『自分の住んでいる場所にはいったい何があるんだろう』というのを、つい考えてしまう」というお話をされていて。隣町である松戸で長年暮らしてきた直枝さんもそういったことを考えられますか?

どうでしょうね。何もない松戸が当たり前になりすぎちゃって。僕はもっとどっぷりなんですよ。

──松戸の“何もなさ”を受け入れきっている?

かもしれない。でも、たまに流山とかで知らない景色を見るとうれしいですよ。あそこはまだ「昔はこうだったんだろうな」と匂ってくるものがあったりして。川を中心に産業が成り立っていた頃の風情や香りが漂っている。あとは我孫子と柏の間にある布施弁天も大好きです。近くのあけぼの山公園とかも、冬はイルミネーションがすごくてね。あのあたりでミュージックビデオを撮ったこともありました。周りが広大な田園地帯で、寂しい感じも含めて最高です。

カーネーション「カルーセル」MV

──直枝さんは、そういう郊外にしかないものを見つけて楽しんでいらっしゃるんですね。

もともと、地図を見たりするのが大好きなんです。遠い昔の交通網とか川とか、そういうことについて考えるのがすごく好き。地図を見ながら「ここはどんなところなのかな?」とよく想像しますし、昔は地図帳に鉄道の路線を引いて遊んでいたくらいで。

──架空の路線を?

そうです、そうです。それぐらい土地の流れみたいなものが好きなんですよね。

──最近では「郊外の景色が均一化されてきている」という問題もよく上がったりしますが、そういったことについて思うところはありますか?

それすら歌になるでしょう。だから受け入れてますよ。同じような眺めであっても歌になる。

──そこにネガティブな感情は持っていない?

景色が変わっていくのはもうしょうがないですから。僕は変わっていく街並みを見て「ここは昔、川だったんだろうな」とか想像するのを楽しんでるし、それでいいんだと思います。どんな場所にもそれぞれの面白さがある。郊外の不気味な感じも、地方の広大な土地も、同じくらい好きなので。

──なるほど。

この前も車で走っているときに、すごく細い路地を見つけたんですよ。「この先に何があるんだろう」と、ものすごく気になって。でも、行かないんです(笑)。

──あくまで遠くから見ている(笑)。

そう。余談ですけど、僕、Laura day romanceというバンドがすごく好きで。2ndアルバム(「roman candles|憧憬蝋燭」)のジャケットが、河川敷の寂しい感じの景色ですごくいいんですよ。ああいうのを見ると「絶対買わなきゃ」と思っちゃう。あの冬枯れてる感じね。すごく親近感を覚えます。

──Laura day romanceはいろんなところでレコメンドされていましたけど、そういったところにもシンパシーを感じているんですね。直枝さんより下の世代のアーティストで言うと、Summer Eyeこと元シャムキャッツの夏目知幸さんが最近ライブで「Edo River」をカバーされています。

そうだそうだ。1回生で聴きましたよ。最高でした。

──夏目さんも千葉県の浦安市出身なんですよね。

あ、そうなんだ! 「青べか物語」の浦安ね。あそこは旧江戸川が流れてますからね。

──そんな夏目さんが「Edo River」を歌うというのは、千葉県北西部のバトンが下の世代へと受け渡されている証拠なのかなと。

渡します! あはははは。ぜひ音源化してほしいですね。

カーネーション直枝政広

カーネーション直枝政広 [高画質で見る]

【動画はこちら】直枝政広が約30年ぶりにMVロケ地へ再訪する様子を公開中。

プロフィール

直枝政広(ナオエマサヒロ)

1959年生まれ、東京都出身。1983年12月にカーネーションを結成し、シングル「夜の煙突」でナゴムレコードからデビュー。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は大田譲(B, Vo)と2人で活動している。最新アルバムは2023年11月リリースの「Carousel Circle」。2025年7月、書籍「星の峡谷 夢日記 二〇二二~二〇二五」を上梓。カーネーションのほか、ソロ活動や執筆、プロデュースなど、精力的に活動している。

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読者の反応

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コメカ @comecaML

とっても良いインタビューだった

「僕は、電灯が少なくて周りが見えないような場所にも、その怖さを含めて物語があるような気がしているんです。カッコいいものだけがすべてじゃないですから」

カーネーション直枝政広が江戸川土手で語る「Edo River」
https://t.co/GUuvjXFnlV

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