OSHIKIKEIGOの新曲「インスタントナイト」が配信リリースされた。
ソングライティング、トラックメイクなどセルフプロデュースで楽曲制作を行い、昨年4月に楽曲「モナリザ」でデビューを飾ったOSHIKIKEIGO。今年1月に彼はSpotifyが注目の次世代アーティストを紹介するプログラム「RADAR: Early Noise 2026」に選出されるなど、徐々にメジャーシーンで頭角を現している。音楽ナタリーでは、OSHIKIKEIGOにさまざまな変化のあった2025年を振り返ってもらいつつ、寄り添うことを意識したという新曲「インスタントナイト」について話を聞いた。インタビュー中、彼は自身にフィットする言葉を必死に探し続けながら、創作への情熱を語ってくれた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 須田卓馬
ミックスチェックは5分、質問タイムは3時間55分
──2025年はデビューも果たし、初ライブも行うなど、OSHIKIさんにとって初めて経験することばかりだったと思います。振り返っていかがでしょうか?
僕があまり人の視線を浴びて生きてこなかったというのもありますけど、「こんなにたくさんの人が関わるんだ」と思いました(笑)。
──なるほど(笑)。
音楽業界って、いちアーティストに対してびっくりする数の人たちが関わって動いているんですよね。そこに、そこはかとない感動を覚えました。僕もその一員になって、スタートラインにやっと立てた感じはあります。
──1人で音楽を作ってきた人の中には、たくさんの人が関わる環境になったことで疲弊してしまう人もいると思うんです。でも、OSHIKIさんは疲弊よりも感動が勝るんですね。
そもそも、自分が最強だなんて思っていないので。どちらかと言うと餅は餅屋的な考え方というか。僕はプロドラマーではないし、プロギタリストではないし、プロのピアニストでもないし、プロのミックスエンジニアやマスタリングエンジニアでもない。楽曲の根本を作って、プロの人たちに「自分はこうしたいんです」と伝える役割だと思うんです。つまり、周りに協力してくれる人がいないと僕の活動は成立しない。もちろん、1人だけで作り上げた音楽のよさもあると思うんですけど、1人で作った音楽は、きっと作り手の想像を出ないんじゃないかと思う。そもそも、僕は「会話ができるようになるべきだ」とずっと思っていて。
──それは一緒に作品を作る人や自分の楽曲を演奏してくれるプレイヤーの方々と、ですか?
そうです。ドラムであれ、ピアノであれ、ストリングスであれ、自分よりも知識がある方々に「もっとこうするべき」とアドバイスをもらいたいし、「もっとこうしたい」と自分からも言えるようになりたい。よりよい音楽を作ろうと会話が飛び交う環境であることが、僕は何より幸せだと思うんです。なんだかんだ、レコーディングが一番楽しいかもしれない。ご一緒しているミックスエンジニアの小森(雅仁)さんは僕が中高生の頃から憧れていた人で、そんな人と会ってしゃべることができて、最高すぎるんですよ。一緒にミックスチェックをやるときは、4時間くらいもらって、作業は5分で終わらせて、3時間55分くらいはずっと質問していますから(笑)。
──ははは。
そうすると、自分の知識欲が満たされていくんです。どうしたって、独学では到達できない領域ってあると思うんですよ。
──そうですね。
このネット時代のおかげで、僕らは独学でいろんなことを学べますけど、それゆえに情報を精査しづらい部分もあるじゃないですか。本当はまだ立つことすらおぼつかない子鹿みたいな状態の人にすら、SNSはいろんな知識を投げてくる。その情報を本当か嘘か見分けるのは難しいことだと思います。
「あなたを愛している」と伝えたいなら
──だから、OSHIKIさんは「会話ができるようになるべきだ」と思うんですね。そして、その根底には知識欲がある。
そうです。独学でやっていると、会話ができないことに苦痛を感じるんです。問題に直面したときに、独学だと、どうがんばっても解決できないことがあって。でも、会話をすることで答えにたどり着けたりする。だから、僕はいろんな人と話す機会の多いレコーディングが楽しくて仕方ないんです。
──いいですね。
もちろん、沸々と自分の中に疑問が溜まっていくのは決して悪いことではなかったなとも思います。もし僕が、生まれた瞬間から人とレコーディングできるような恵まれた環境にいたら、質問の量も減っていたと思うので。楽曲制作について誰にも質問ができなかった中学生や高校生の頃の歯がゆい気持ちが、今、爆発しているような気もしますね。
──すごく面白いお話です。質問を作るというのはとても孤独な作業で、そして、その質問を解決するためには、人と会話をしなければいけない。そういう部分を、OSHIKIさんはすごく明晰に見つめていますね。
当たり前のことですけど、ルールを知らないのにルールから逸脱することってできないじゃないですか。それと一緒で、セオリーを知らないのにセオリー外のことをやろうとするのはどうなんだろうって。まずは曲を作るうえで常識を知っておくべきだと思うんですよね。ルールから離れることが最善の選択になる可能性があるから、その判断をするためにまずは常識を知っておきたい、と思っているんです。コード然り、メロディ然り、マナーがあるからこそ、そこから逸脱する選択もできる。逆に「すべてが感覚である」という考え方は、あまり好きではないんです。
──今の「常識を知りたい」という話に、僕は感動しました。無理矢理に抽象化するようですけど、それは「秩序を知りたい」とか、「社会を知りたい」とか、そういうことに近いんじゃないでしょうか。
そうですね。もちろん、「世界はこうあるべきだ」とか「人生はこう生きるべきだ」のような大きなテーマを示した曲は絶対にあるべきだと思う。でも自分が歌うとなると、そういう大きなテーマは常識を意識する僕の感覚にはフィットしない気がするんです。僕らが生きている世界とは縁遠いものに感じる。
──なるほど。
例えば「あなたを愛している」と伝えたいのであれば、僕は「あなたの朝食を忘れずに食べるよ」とか、「絶対にあなたが寝る前に帰ってくるよ」と歌いたい。そのほうが聴いてくれる皆さんにとっても身近に感じられると思うんです。
──OSHIKIさんにとって、「常識」というのは、「現実」と強く結び付いているものなんですね。
そう思います。コロナウイルスが流行ったとき、僕は新潟で暮らしていて、「コロナ」という言葉だけを聞いたときは、どこか遠くで起こっている出来事のように感じていた。でも、マスクの着用を強制されたり、消毒液が置かれ始めたり、学校が早く終わったり……そうやって自分たちにも影響がおよんできたときに「あ、世界がヤバいんだ」と気付いて、恐怖を感じたんですね。
──ネットで流れてくるものではなくて、実際に目に見えるものや、身の回りで起きている身近なことによりリアルを感じるということですよね。OSHIKIさんの音楽は、歌声も吐息が耳にかかってくるような近さがあるし、音にも生活感がにじんでいる気がしていて。それにやはり、歌詞もスケールの大きなものを描くのではなく、ミニマムな関係性や身近な生活にフォーカスしている。それがなぜなのかを質問したいなと思ったんですけど、今のお話がまさにその答えですよね。それはずっと意識していたことなんですか?
いや、最初は何も考えていなかったです。純真無垢な興味ですよ。「面白い音楽を作りたい」と思った。そのうえで、米津玄師さんであったり、星野源さんであったり、Official髭男dismさんであったり、King Gnuさんであったり……挙げればキリがないですけど、高校生くらいの頃から大好きな人たちと話してみたいっていう。それが音楽作りの動機で。ただ、自分の音楽にはアイデンティティ的な部分が薄いと思っていたんですね。それが悪いと思っていたわけではないんですけど、デメリットがあるかどうかはずっと考えていて。そうやって自分の作る音楽を見つめて、見つめて、見つめた結果、僕の行動する範囲や、肌に触れる範囲で意味をなすテーマで表現していきたいと思ったんです。
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