バーチャルシンガーのHACHIが4thアルバム「Revealia」をリリースした。
2019年に活動をスタートさせ、透明感のあるシルキーボイスとエモーショナルな表現力で多くのリスナーを獲得してきたHACHI。4thアルバムのタイトル「Revealia」は“打ち明ける”という意味を持つ英語「Reveal」に、主にラテン語が由来の“場所”、“世界”、“概念”を表す接尾辞「ia」を組み合わせた造語で、本作では「自己開示」というコンセプトのもと彼女の内面の深層が描かれている。
なぜ今回のアルバムを通して、心の内側をリスナーにさらけ出すことにしたのだろうか。作品のリリースに合わせてHACHIにインタビューし、その理由や背景に迫った。
取材・文 / 森山ド・ロ
自分を出すのがめちゃくちゃ怖かった
──今作「Revealia」は、どのようなアルバムになったと感じていますか?
今回のアルバムのテーマは「自己開示」なんです。「これまで隠してきた」というと言いすぎかもしれませんが、リスナーにはあまり見せてこなかった深い感情をさらけ出したアルバムになっていて、その分1曲1曲を表現するのにすごく緊張しました。
──自分をさらけ出すことへの緊張ですか?
そうです。私は活動するにあたって、ネガティブな感情を一切表に出さないようにしているんですよ。実はすごく繊細というか、1人で悩んでメンタルがどん底になってしまうタイプで。今のBEES(HACHIファンの呼称)にそう言っても誰も信じてもらえないくらい、自分の内面を表に出してきませんでした。
──それでも今回はさらけ出す道を選んだんですね。
人に寄り添うときって、最初に相手に共感するじゃないですか。「わかるよ、わかってあげられるよ」という共感から入る。そして人の深い感情に寄り添うためには、自分の経験も表に出していかなきゃいけないんですよね。そうじゃないと、薄っぺらい共感になってしまう。今回1曲1曲をこれまでに比べてより“深く”したんですけど、その分、自分を出すのがめちゃくちゃ怖かったです。
──曲のメッセージ性を今まで以上に深いものにしていった?
そうですね。深く寄り添いたいという思いが大きかったです。以前、みんなが求めるHACHI像を探りに探った結果、思いっきりスランプに陥ったことがあったんです。ライブで盛り上がるアップテンポな楽曲よりも、バラードのような温かい音楽を求められてるのかなって。
──確かに、HACHIさんはバラードの印象が強いかもしれないです。“さらけ出す”という行為が、今回のアルバムのテーマ「自己開示」につながっているんですね。
自分の感情を歌うにあたって、深層心理というか、奥深くにある感情をさらけ出せたらいいなって。BEESのことを信用しているからこういう話ができるんだよ、みたいな。さらに深いつながりを求めた結果、「自己開示」というテーマになりました。
──今までのアルバムとは角度が異なるテーマですよね。
そうですね。今まで出してきた楽曲は、自分が主人公ではないんですよ。いろんな人のいろんな経験を私が代弁するようなイメージでした。でも、今回のアルバムの楽曲は全部、私が主人公。コンセプトシートを自分で作ったり、書いていただいた歌詞に対して私の感情から生み出されたものをフィードバックしたり、すべて私自身の曲として作ってもらいました。それと、今まではあまり強い言葉や直接的な表現を使わないようにしていたんです。そういう表現があると「ちょっとここは丸くしてください」と修正してもらっていました。でも今回は初めて「死にたい」という言葉を口に出したと思います。そのレベルの重さまでいきましたね。
──最初に歌詞やデモが上がってきたとき、その重さに自分でうろたえなかったですか?
ならなかったです。もう腹は決まってました(笑)。
──自分自身をさらけ出すのが苦手だと自覚したのは、アーティストになってからでしょうか?
実は昔から自分の気持ちを隠しがちな性格だったんですよ。自分自身のことを人に話さないタイプ。人に嫌われるのが何より怖かったんです。極端に言うと、全人類に嫌われたくないと思っていました。でも、それが絶対に無理だということがわかっているから、自分の話をするのをやめていたんです。自分自身について話すことで意見の相違や価値観の違いが生まれて、相手が離れていったら嫌だなとずっと思っていて。
──人の“好き嫌い”に触れないようにしていたんですね
そうですね。相手の「嫌い」という感情に触れないように立ち回り、人が求める自分でいようとした結果、一度自分を見失いました。でも改めて、私はこういう音楽が好きで、こういうことで悩んできたんだ、という思いを表に出そうと。ちょっと人間臭い部分やドロッとしたところも出して、「それでもよければ、これからもそばにいてくれませんか? 改めて、友達になってくれませんか?」と伝えるようなアルバムを作りたいと思い、「Revealia」の制作に至りました。
お飾りみたいな言葉は届けたくなかった
──「Revealia」の収録曲の中で、特に印象深い楽曲は?
自分の深層心理に一番触れていると感じる曲が2つあって。先行リリースさせてもらった「To Be Alive」と「∞」です。この2曲の共通点は、これまでずっと楽曲制作をお願いしてきた方々に書いていただいたこと。「To Be Alive」はtee teaさん、「∞」は海野⽔⽟さんに提供いただいたんですけど、関係値ができあがっているから、すごく深いところまで踏み込めた感覚があります。普段から悩み相談というか、深い話をしてきた相手なので。「To Be Alive」に関しては「弱さを認めて生きてこそ」というテーマが自分の中にあり、「自分の汚い部分を認めつつ、それでも前に進む」という表現をしたかったんです。
──「To Be Alive」を聴いて最初に感じたのは、純粋に楽曲としてめちゃくちゃカッコいいなということで。
楽曲の雰囲気自体はそうですよね。ここまで感情を込めて叫んだのは、かなりひさしぶりでした。一聴すると「To Be Alive」は季語が多くて柔らかい印象の曲ではあるんですけど、「弱さを認める」というテーマの通り、実はかなり重たい曲なんです。
──この曲の中で、特に印象深いフレーズは?
「泥⽔啜って流す涙が1番綺麗だ」という歌詞が特に気に入っています。楽曲の最後に登場するフレーズなのですが、自分自身を許して、肯定できている歌詞だなと感じています。BEESからすると、「そんなことないよ」と言いたくなるフレーズかもしれませんけど、薄い言葉やお飾りみたいな言葉は、リスナーに届けたくなかったんです。結果的に歌にかなり感情がこもってしまい、BEESからも「鬼気迫る感じがする」と言われました。
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