なとりが手がけた「【推しの子】」第3期のエンディング主題歌「セレナーデ」。この曲は劇中キャラクターのアクアをモチーフに書き下ろされたダンスナンバーで、2月4日にCDシングルとしてリリースされた。編曲には、なとりが敬愛するボカロPのツミキ(NOMELON NOLEMON、Aooo)が参加した。
音楽ナタリーでは、なとりとツミキにインタビューを実施。お互いのルーツや出会い、なとりが“呪われた曲”だと表現する「セレナーデ」制作の裏側にあった苦悩、共通する音楽観まで、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 柴那典
文脈とは無関係にビビッときた
──なとりさんは思春期の頃からツミキさんの楽曲を聴いてきたそうですね。
なとり 自分がツミキさんの曲を聴き始めたのはリスナーの中でもわりと遅めなんです。「アングレイデイズ」とか──。
ツミキ いや、早いほうよ(笑)。
なとり いやいや。曲を聴いて「メロディのセンスが圧倒的にヤベえ人だ」と思ったんです。学生時代は電車の中でツミキさんの曲だけのプレイリストを聴きながら登校してました。僕にとって青春の人ですね。
──ツミキさんの曲のどういったポイントが好きだったんでしょうか?
なとり 学生時代、軽音部に入って文化祭で難しいボカロ曲を歌ってちやほやされたいという夢があったんです。その想像をしたときに、一番カッコよく思えるのがツミキさんの曲でした。メロディのセンスだけでなく、合いの手とかにも自分をカッコいいと思わせてくれる不思議な力があって。今もそこは影響を受けています。
ツミキ 僕はボカロPとしてデビューしてから今年で8、9年目ぐらいなんですけれど、なとりや、もっと下の世代の子たちからも、僕のボカロ曲を聴いて音楽を始めましたとか、ギターを買いましたという報告をたくさん受けるようになって。それはすごくうれしいですね。自分がやってきたことの功績を感じるというか、ブレずにやってきてよかったなと思います。なとりのような偉大なアーティストに何か1つでも与えられたのなら、日本の音楽シーンに何かしら還元できた気持ちになりますね。
──ツミキさんがなとりさんの曲を知ったきっかけは?
ツミキ 「Overdose」がバズってる時期に、いろんな場所で聴く機会がありました。あの時期、インターネット発というジャンルの中でも僕みたいなニコニコ動画やボーカロイド出身以外に、TikTokで発信するアーティストが多く並んでいた印象があって。その中でもなとりだけにビビッときたんです。
──今ではなとりさんはボーカロイドシーンにルーツがあることを公言していますが、そういうことも当時はあまり情報として広まってはいなかったですよね。なので、シンプルに音を聴いて惹かれるものがあったのではないかと思います。
ツミキ まさにそうですね。文脈は関係なかったです。メロディの運びと、それを伝える息遣い、ボーカリゼーションが、それまであまり聴いたことない形をしているなと思って。そこから興味を持ったあとに、2023年の「YouTube Music Weekend」の企画の一環で対談させてもらう機会があって。そこでちゃんと聴いてみようと思ったら全曲すごくカッコよくて、ドハマりしちゃいました。それから大ファンです。
なとり うれしいです。
──「Overdose」以外の曲を聴いて印象は変わりましたか?
ツミキ 変わりましたね。最初は「体温の低い人なんやろな」っていう印象があったんですけど、熱量の高いエネルギッシュな楽曲もあって。ライブでは「ぶっ殺す!」とか言うんですよ(笑)。そういうパンキッシュな部分も持っているし、多面的な魅力があるなと思いました。
なとり ツミキさんに会うたびにそういうこと言われるんで、申し訳ないなって(笑)。俺は大好きな人に対して「愛を込めてぶっ潰したい」という気持ちがあるんです。好きな人にカッコいいと思われることがアーティストとして一番光栄なことだと思ってるから、そこからちょっと変な角度で熱量が出てるのかもしれません。
──最初に対談した際はリモートだったと思いますが、実際にお会いしたときの印象はどうでしたか?
なとり NOMELON NOLEMONのライブでご挨拶したときに「お前がなとりか!」みたいな感じになったのが初対面で。その数カ月後に「飲みに行きませんか」と誘って、2人で飲みながら話しました。
ツミキ そうそう。確かにそうだった。
なとり 俺が「ツミキさんのこの曲が好きです」みたいなことを2時間ぐらいずっと言い続けて、ツミキさんがめんどくさそうにしてたのを覚えてます(笑)。でも、それに応じてツミキさんがなとりの好きなところを言ってくれる瞬間があって、すごく感慨深いものがありました。ずっと憧れていた人が、自分の大切にしていることをちゃんとわかってくれている。本当によかったなと思いました。
──ツミキさんはどうでしょうか? 後輩というか、同じカルチャーの流れにいる人なんだという実感が、実際に話して強くなったのではないかと思います。
ツミキ そうですね。僕も同じく、なとりのメロディにセンスを感じていたので。同じセンスや感覚を持った、共通言語で話せる人が、それまで僕の周りにあんまりいなかったので、すごくうれしかったですね。ただ、後輩という感覚はなくて。同志というか、同じ種を持ってるものとして、お互い音楽をがんばろうって感じです。
「【推しの子】」第3期は「いい曲」を作るだけではダメ
──「セレナーデ」を共編曲することになった経緯は?
なとり その飲み会で、俺が「いつかツミキさんと一緒に曲を作れたらめっちゃ幸せです」みたいなことを話したらツミキさんも「やりたい」と言ってくれて。そこから2、3回ぐらい飲みに行ったときも「マジで曲作りたいです」とずっと話してました。で、今回ちょうどやりたい曲ができたのでお声がけさせてもらいました。作っていく過程で、この曲に足りないものをぶち込んでもらえる人はツミキさんしかいないと思ったので。
──「セレナーデ」はテレビアニメ「【推しの子】」第3期のエンディング主題歌ですが、まず、どういう曲を書こうと思いましたか?
なとり 「【推しの子】」のタイアップという大きなチャンスの中で、たくさんの人に聴かれる曲をちゃんと作りたいなという思いはありました。ただ、「【推しの子】」の第3期は特にダークで鬱々としたシーズンで。そこに対して、ただ「いい曲」を作るだけではダメだと思ったんです。ちゃんと覚悟して挑まなきゃいけないなと、すごく悩みながら作りました。この「セレナーデ」に至るまでに何曲も作り上げて、最終的にこの形になったんです。「【推しの子】」に対しても、なとりとしてのプライドに対しても、違和感のないものにしたいというマインドで作っていました。
──デモ段階では何曲もあったということですが、「これだ」となったポイントは?
なとり メロがよかったというのが大きいです。この曲の一番好きなところが「罰をください」っていう歌詞のところなんですけど、その言葉とメロが噛み合った瞬間に「あ、これは来たかも」と思いました。「【推しの子】」と、なとりの重なる部分がようやくできた。その瞬間に、この曲でいこうと決めました。
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なとりからツミキへのラブレター



