ハンブレッダーズがニューアルバム「GALAXY DRIVE」をリリースした。
本作は「地球から銀河系をドライブし、帰ってくるまでの車内で流れるプレイリスト」をコンセプトに掲げ、楽曲からアートワークに至るまで一貫した世界観で構築されたコンセプトアルバム。音楽性の幅広さと、アルバムとしてのまとまった世界観を両立した快心の1作となっている。
「GALAXY DRIVE」のリリースを受け、音楽ナタリーはライター・天野史彬に本作のレビューを依頼。ムツムロ アキラ(Vo, G)が紡ぐ言葉に重点を置きながら、ハンブレッダーズというバンドが描き続けてきた“理想”と“現実”、そしてその変化の形を紐解いていく。
文 / 天野史彬
通底する「銀河」のイメージ
透き通った空気がおいしい季節だ。寒さはもちろん手厳しいが、1人きりの帰り道にコートのポケットに手を突っ込んで、イヤホンで好きな音楽でも聴きながら歩いている時間はそれなりに幸福だ。暑いと外を歩くのもしんどいものだが、冬は歩けば歩くだけ体が温まってくるから、いい。ハンブレッダーズの新しいアルバム「GALAXY DRIVE」は、そんな冬の散歩にピッタリだと、僕は思う。「ドライブなのに散歩ですか」とツッコまれそうだが、僕は車の免許を持っていないし、そろそろ意識して体を動かさなきゃいけない年頃のおじさんなのだ。許してくれ。この作品は「地球から銀河系をドライブし、帰ってくるまでの車内で流れるプレイリスト」というテーマを根底に置いた、ハンブレッダーズ初のコンセプトアルバム。1曲目の「プレイリスト」が流れ始めた瞬間から、その柔らかくメロディアスなサウンドに導かれて、僕らは目くるめく音楽の世界に入り込む。バンドの演奏は徐々に勢いを増す。激しさを増す。速度を増す。音が視界を覆う。まるで僕らを日々の重力から解き放つように。
この「GALAXY DRIVE」というタイトルを見て、ハッとした人もいるかもしれない。ハンブレッダーズが去年、バンドの地元である大阪の大阪城ホールで開催した初の主催フェスのタイトルは「GALAXY PARK」だった。今年も5月に「GALAXY PARK in EXPO」が大阪府・吹田市で開催予定。「GALAXY」、つまり「銀河」のイメージは彼らが鳴らすロックに、ずっと前から深く結び付いている。例えば、2019年にリリースされた、その名も「銀河高速」という楽曲。あるいは、そのさらに前、アルバム「純異性交遊」(2018年)の1曲目に収録された「DAY DREAM BEAT」で歌われた「ひとり 登下校中 ヘッドホンの中は宇宙」というフレーズ。はたまた、メジャー1stアルバム「ユースレスマシン」(2020年)に収録された「逃飛行」では、「窓から見える人工衛星と / アイコンタクトを取るんだ / 夜が怖いなら自転をしない / 星を探してドライブするんだ」と、新作に通じる世界観が歌われた。「銀河」や「宇宙」は、ハンブレッダーズにとって消えることのない理想とロマンチシズムの象徴としてあり続けている。そんなバンドの変わることのない本質的なテーマを、アルバム「GALAXY DRIVE」は中核に据えているのだ。アルバムの1曲目「プレイリスト」では、こう歌われる──「この世界の何処にいても息苦しいなら / よく似た星に住所を移したっていいから / 胸騒ぐ時はボリュームを上げてダンスを / イメージするんだよ イメージするんだよ」。ただの楽観主義ではない。やたらと宇宙に行きたがるお金持ちの道楽の類でもない。僕らの日々にはまだマシなものがあるんだと伝えるために、ハンブレッダーズは音楽という名の銀河を奏でる。
ただ、ハンブレッダーズは変わらない本質をずっと大切に中心に置きながら、それと同時に、豊かな変化と成熟を遂げてきたバンドでもある。時代の変化や、彼ら自身の年齢の変化と呼応するように、ハンブレッダーズの楽曲が捉えるものはより深く、よりリアルに、変化してきた。例えば、バンド初期の楽曲「ファイナルボーイフレンド」(2018年)で歌われたのは、「僕がジジイ 君がババアになっても / 物陰に隠れてキスをしよう」──そんな、純粋で、素朴な、恋心。こうした楽曲がもたらした「終わらない青春や恋愛の煌めきを歌うバンド」というパブリックイメージは、今なおハンブレッダーズに根強く残り続けているものかもしれないし、それも決して間違いではないだろう。ただ、前述したメジャー1stアルバム「ユースレスマシン」の表題曲「ユースレスマシン」で、彼らは「クレイジー 君が見せる歯に / 心なしか心が見えやしない / 白と黒で全てを分けたがる / 君の話は聞きたくない」と歌う。ハンブレッダーズの楽曲は、徐々に徐々に、強いロマンを抱えるがゆえに生まれる世界との摩擦すら描写するように変化を遂げていった。恋がしたい。夢が見たい。仲間と馬鹿話がしたい。みんなでロックを歌いたい。やりたいのはそんなシンプルなことなのに、それらがシンプルにできない世界がある。ねじれていて、曖昧で、自分も見知らぬ誰かも傷だらけで、疲れていく、そんな僕らの生活がある。じゃあ、そこで自分たちはいったい、何を奏で得るのか?──そんな問いを含んだハンブレッダーズの歌たちは、キラキラと輝くいつかの青春を夢想するだけではなく、誰しもが擦り切れながら生きる日々、その現実と強いリンクを持つに至った。2021年、コロナ禍の只中にリリースされたアルバム「ギター」、この覚悟ゆえのシンプルさを極めたようなタイトルのアルバムに収録された「BGMになるなよ」で、ムツムロ アキラはこんなふうに歌い出す──「愛と平和を歌っても相変わらずな世界で / 変わらず愛と平和を歌うことが僕の戦いさ」。ただ単に「夢を見ること」ではなく、「夢を見ながら現実を生きるとはどういうことか?」を歌う。そんな成熟し続けるバンド=ハンブレッダーズがここにいる。
刻み込まれる“2026年の現実”
新作「GALAXY DRIVE」には、ハンブレッダーズがずっと抱き続けるピュアで恋多き夢想家としての表情と、バンドが歳を重ね、変化し続ける過程で手に入れた時代や社会を見つめる冷静でリアルな眼差しが見事に融和している。前述したように、このアルバムには「地球から銀河系をドライブし、帰ってくるまでの車内で流れるプレイリスト」というロマンチックなコンセプトがある。そこには疾走するロックソングがあり、ポップなダンストラックがあり、目くるめく音楽世界が広がっている。ただ、その細部を覗き込めば、そこには人々の毎日が、僕らの営みが、2026年の現実が、刻み込まれている。例えば6曲目に収録された「わっか」。どこか懐かしさも感じさせる牧歌的な雰囲気の切ないラブソング。「君が笑った時 頭にわっかがついてた / 頭にわっかがついてたのをハッキリ見たよ」──そう歌われる純朴な思いに惹きつけられるとともに、その恋がすでに失われたものであるという事実がまた胸を締めつける名曲だ。この曲にはさりげなくこんなフレーズが現れる。「仕事場の匂いが取れなくて 二回するシャンプー」。はかなくも愛らしいラブソングに差し込まれる、日々の労働の匂い。こうした写実的なリリシズムが、このアルバムに刻まれた理想と現実、その両方の解像度を引き上げていく。
写実性という観点で言えば、4曲目に収録された「SUPER TOMODACHI」も素晴らしい1曲だ。この曲のテーマは「大人の友情」と言えるだろう。グルーヴィなファンクロックサウンドに乗せて歌われるのは、「毎日連絡しなくて別にいい / 2人になったら無言で別にいい / あの頃みたいにゲームはやらない / それでも僕らはずっと変わらない」なんていう、恐らく20代以上ならばきっと多くの人に身に覚えがあるような感覚。しかも曲の後半では「気付かぬ間にたちまち 健康の話」とか「実家にあるかも知れない レアカードに資産価値」とか「仕事と仕事の合間に サウナで気晴らし」とか「3時間の映画は長い 集中できない / 切り抜き動画はダサい だけどやめられない」とか……そんな「共感」という言葉でも言い表せないくらいにゴツゴツしたリアルな手触りのフレーズが、ユーモア混じりに羅列されていく。そして、曲の中で繰り返される、「あらゆる嘘も分断も僕らを引き裂けない」という力強く鋭利な言葉。この曲では、大人になるにつれて損なわれ、失われていくものが捉えられている。YouTuberが大量にレアカードを買い込む動画を観ながら、実家の押し入れにあるかどうか思い出せないリザードンや青眼の白龍の存在をそれとなくぼんやり考えるような、平坦で怠惰な日常が捉えられている。しかし、それでも消えることない、未来にいくらで売れるかなんて気にせずレアカードをボロボロにしながら遊んだ日々の記憶もまた、ここには刻まれている。月日が流れて、多くのことが変わってしまったとしても、それでも変わらない「友だち」という関係の普遍的な尊さが、この曲には刻まれている。
「GALAXY DRIVE」の終着点は
時代への問題意識を「インターネットとかマジだっせえ」と痛快に歌い上げる「アイズワイドシャット」もいい。この曲のタイトルを見れば、きっと多くの人があの名作映画のことを思い出すだろう。個人的には、アルバム「GALAXY DRIVE」に心を打たれた人にはぜひ、スタンリー・キューブリック監督の映画「アイズ ワイド シャット」も観てもらいたい。「SUPER TOMODACHI」では「3時間の映画は長い」と歌っていたが、大丈夫。「アイズワイドシャット」は約2時間30分だ。
最後に、ハンブレッダーズ初のコンセプトアルバム「GALAXY DRIVE」は最終的にどこに行き着くのか?という点について。全15曲が収録された本作の13曲目「着陸」。この曲は、タイトルが示す通り「プレイリスト」から始まった銀河系ドライブの終着点と言えるだろう。その後に続く14曲目「恋の段落」と15曲目「ピース」は、再び地に足を着けて歩き出す現実の歌であり、どちらもがラブソングだ。「恋の段落」は配信シングルとしてリリースされた際に、作詞作曲を手がけたムツムロ アキラ(Vo, G)が「とても大切な人の結婚式の為に作った曲」とコメントを寄せていた。この「恋の段落」と「ピース」には「ラブソングである」という点のほかにも共通項がある。それは歌詞に「永遠」という言葉が出てくること。そして、「永遠」が、どちらの曲においても否定的に扱われているということである。「恋の段落」では「永遠なんてもう要らないから 長生きしよう」と歌われ、「ピース」では「永遠って言葉はちょっと / 破滅の匂いがしてるけど」と歌われる。この壮大なアルバムの最後で、ハンブレッダーズは「永遠」という幻想を否定する。「ピース」では「君と出会ってからはどんどん / 死ぬのが怖くなっていくよ」と歌われる。愛してやまない人がいるからこそ、大事なものがあるからこそ、鮮明に自らの瞳に映る「死」という現実を、ハンブレッダーズは歌う。目を逸らさないでくれ──アルバム「GALAXY DRIVE」は、そんなふうに僕に語りかけてくる。夢から、愛から、現実から、生から、死から、目を逸らさないでくれ。それが一番、ロマンチックだから。何度でも何度でも、このアルバムは僕にそう語りかけてくる。
公演情報
ハンブレッダーズ ワンマンツアー “2026年 銀河の旅”
- 2026年2月7日(土)栃木県 栃木県総合文化センター
- 2026年2月8日(日)宮城県 トークネットホール仙台
- 2026年2月13日(金)福岡県 福岡市民ホール 大ホール
- 2026年2月14日(土)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
- 2026年2月22日(日)北海道県 カナモトホール(札幌市民ホール)
- 2026年2月28日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2026年3月1日(日)香川県 サンポートホール高松
- 2026年3月4日(水)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2026年3月7日(土)石川県 金沢市文化ホール
- 2026年3月18日(水)東京都 東京ガーデンシアター
GALAXY PARK in EXPO
2026年5月24日(日)大阪府 万博記念公園
プロフィール
ハンブレッダーズ
2009年、高校の文化祭に出演するため結成。現在はムツムロ アキラ(Vo, G)、木島(Dr)、でらし(B, Cho)、ukicaster(G)の4人で活動している。ライブハウスを中心に活動を続け、2018年1月に初の全国流通盤として1stアルバム「純異性交遊」を発表。2020年2月に1stフルアルバム「ユースレスマシン」でメジャーデビューした。2024年には、大阪・大阪城ホールでの初のアリーナ公演「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」、初の東京・日本武道館公演「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Bタイム ~15th Special~」を即日完売の成功に収めた。2025年には、初の主催フェス「GALAXY PARK」を大阪・大阪城ホールにて開催。2026年1月にアルバム「GALAXY DRIVE 」をリリースし、2月より東京・東京ガーデンシアターでのファイナルを含む全国ツアー「ハンブレッダーズ ワンマンツアー “2026年 銀河の旅”」を実施する。5月には、主催フェス「GALAXY PARK in EXPO」をムツムロの地元・大阪府吹田市の万博記念公園で開催する。






