細野ゼミ 補講8コマ目 [バックナンバー]
細野晴臣が再び歌い始めた20年前を振り返る(前編)
細野晴臣を歌に向かわせた狭山でのライブ、キラキラの伊藤大地がもたらした影響
2025年12月17日 20:00 22
「10年後が楽しみだね」に込められた真意とは
──かねてより「バンドを辞めるのが趣味」と発言されていた細野さんですが、漣さん、伊賀さん、大地さんとの“バンド活動”が特に長く続いたのはどんな理由があったのでしょうね。
細野 “音楽クラブ”みたいな感じだったよ。ブギーなんかをカバーをするときに、その40年代のノリを出すための練習が楽しかった。だんだんできるようになっていくプロセスが、すごくうれしくてね。
安部 どういう練習をするんですか?
細野 演奏を繰り返して、「それだ!」ってリズムができたら、みんなで固めてく。
ハマ “正解”のイメージが細野さんの頭の中にあるわけじゃないですか。それをいきなり形にできる人って、まずいないですよね。
細野 いないよ。
ハマ だから、「繰り返し練習するのが楽しかった」というのは、すごく重要な話だなと思います。
細野 学生の頃は繰り返し練習していたけど、プロになるとそういう機会がなくなっちゃうじゃない? しかも、あんなに昔の曲をみんなやらないでしょ? やったとしても、「昔の曲を今風にやる」という感覚だと思う。今風にやるから、みんな「できないことはない」という気持ちが強いと思うんだよ。でも昔の曲のノリはできない人のほうが多いわけ。やっぱり練習しないとダメだというね。
ハマ どの楽器も練習は大事ですけど、特にビートが重要なんでしょうね。
細野 そう。でも、やっぱり言葉で伝えられないんだよね。言葉にすることはできるけど、実際に演奏してみないとわからない。
安部 曲を聴き込むだけじゃ限界がありますよね。口で説明しても伝わらないし、やっぱり演奏しないとわからない感覚はある。僕は練習が苦手だけど。
ハマ あなた練習、嫌いだもんね。ジャムセッション否定派だし(笑)。細野さんもセッション自体は面白くないとおっしゃってたけど。まあ、みんな演奏のノリを体に入れたくてセッションをやってるのかもしれないね。最近のバンドでもけっこう練習するんですか?
細野 うん、してる。でもね、ちょっと放っておいてる(笑)。
ハマ 細野さんの曲を一緒にやるとき、バンドに対して「自由にやってみて」みたいな?
細野 ある程度は言うけど、みんなには「10年後が楽しみだね」と言っていて。まだ20代なんだから……。
──細野さんのプロデュース論のようなものが垣間見えて興味深いです。
ハマ
細野 自分自身も、昔の音楽についてまだわからないことがいっぱいある。頭ではわかってるんだけど、いまだにバンドと一緒に演奏するときに「どうやったらうまくできるだろう」ってずっと思ってるの。練習しているとちょっと近付くときがあるから、「それ!」って言って覚えてもらうんだけど。
ハマ ハマるときはあるんですか?
細野 最近は自分のソロ中心なので、そういうことはなかなかないね。
「自分で何か気付かなきゃ」と思わせる細野先生
ハマ ビクター期の作品に話を戻すと、伊賀さんたちとレコーディングしてきた一連の作品は、ある種の“バンド力”が表れているんでしょうね。細野さんの中で「それそれ!」が増えていったから、カバーできる曲も、歌おうと思う曲も増えた。だからこそカバーがたくさんある。答え合わせになりました。シンプルに細野さんが「好きな曲をやって歌おう」という気持ちになれたんだろうなという。
細野 そうだね。楽しみながら演奏してたよ。
安部 だし、「これ以上言っても、今はこれでいいや」という余裕もすごいと思った。「違う!」とならない感じ。
ハマ 僕ら、ついついメンバーに「違う!」とか言っちゃうよね。
安部 言っちゃう。でも自分自身、正解がわからないからいつも歯がゆいんです。頭の中では理想の音が鳴ってるけど、そこにどう近付ければいいのかわからなくて。細野さんみたいに、「まだだな」とはなれなくて、「どうにか形にするんだ」となっちゃっう。反省ですね。
ハマ 僕らもそういうことありますよ。でも結局、自分もそうなんですけど、指摘される側というか、やる本人が「こうだ」とか「こうかも?」とか面白がってないと、絶対そうならないので。
細野 それはそうだよね。強制はできないよ。
ハマ 気付きというか、考えさせるためには言いますけど、今はそれほど強く言うことはないですね。力ずくの時代もありましたけど(笑)。違う方法を考えてほしいときは今でも言います。細野さんのお話を聞くと背筋が伸びますね。
細野
安部 へえ!
ハマ それは細野さんや立夫さんからすると、“じじ臭い”じゃないけど、そういう印象だったんですか?
細野 僕はそうは思ってなかったな。でも、二十歳前後の彼の中では“おっちゃんのリズム”として理解できたわけだから。それでOKなんだよ。
ハマ&安部 あー!
安部 咀嚼できたということですもんね。なるほどな。
ハマ でも、それを細野さんが「“おっちゃんのリズム”でよろしく」と言っても、絶対にそうはならなかったわけじゃないですか。
安部 細野さんって絶対いい先生になれるよね。
──ここでは皆さんにとっての“ゼミの先生”の設定ですけど(笑)。
ハマ スパルタじゃなくて、「自分で何か気付かなきゃ」と思わせるタイプの先生だろうね。
細野 でも、僕はあきらめるほうが多いから、先生はムリ(笑)。
一同 (爆笑)。
<近日公開の後編に続く>
プロフィール
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2025年10月にアーティスト活動55周年を記念して、SPEEDSTAR RECORDSから発表したアルバム7作品のアナログ盤が再発された。
安部勇磨
1990年東京生まれ。2014年に結成された
ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
バックナンバー
高野 寛 🍥 @takano_hiroshi
僕の記憶が正しければ、伊藤大地くんが細野さんと初めて一緒に演奏した日を目撃してたはず。青山CAYで細野さんが定期的に開催していたイベント。大地くんは太陽バンドで久保田麻琴さんの目に止まって、麻琴さんが細野さんに紹介した...とその時聞いた気がする。
https://t.co/RDIeQN5An8