世田谷代田駅前に佇むCody・Lee(李)高橋響。

今日もあの街で名曲が 第2回 [バックナンバー]

Cody・Lee(李)高橋響が世田谷代田で語る「世田谷代田」

この場所には、自分にとっての東京のイメージが詰まってる

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地名が出てくると無性にグッとくる

──世田谷代田に限らず、Cody・Lee(李)の曲には具体的な地名が頻繁に出てきますよね。今回の取材にあたって、場所にまつわる固有名詞が出てくる曲を書き出してみました。

・「トゥートルズ」
「東京へ Night Cruising」
「東京行の船に乗り込む」

・「江ノ島電鉄」
「鎌倉 和田塚 江ノ島を越えて藤沢」

・「東京」
「池袋行の準急電車」

・「桜町」
「桜町 僕らなら いつまでも一緒にいられると思ってた」

・「我愛你」
「ロンドン、香港、タリン、アスマラ」
「ウィーン、ドーハ、リヴァプール」
「高円寺、中野、吉祥寺、下北」
「トロント、バンコク、チュニス、ワルシャワ」
「北京、パリ、マドリード」
「笹塚、三茶、阿佐ヶ谷、新代田」

・「WKWK」
「台場の風は冷たいね」
「東雲JCTと高層タワーマンション」

・「winter」
「冬の冷たさは 東京も変わらないね」

・「しろくならない」
「東京はもうすっかり冬の匂いで寂しいです。」

・「冷やしネギ蕎麦」
「高円寺陸橋 流れるだけの日々を君と辿ったなら」
「山手通りちょっと先」
「素直だね 不動前」
「世田谷線 待ち合わせ キャロットタワーの下にしよ」

・「W.A.N.」
「大井町で君を探す」

・「おどる ひかり」
「隅田川に降る夕陽」

・「在夜市再見 feat. タブゾンビ(SOIL&“PIMP”SESSIONS)」
「台北メトロ飛び乗って」

・「1R DISCO」
「東京 トレンドを逆行」

・「DANCE扁桃体」
「田園都市線の改札前で」

・「下高井戸に春が降る feat. GOMESS」
「下高井戸にあるいつもの喫茶店で」
「京王線はまだ 踏切閉じたまま」

自分でも多いとは思ってましたけど、こう見ると改めて多いなと実感しますね(笑)。

──具体的な地名を頻繁に使うのはどういう理由からなんですか?

これはもう、単純に自分がそういう性質の人間なんです(笑)。昔から、好きなアーティストの曲に地名が出てくると無性にグッとくるような感覚があって。よしむらひらくさんという、すごく尊敬しているシンガーソングライターの方がいるんですけど、その人の曲にも地名がたくさん出てくるんですよ。それを聴くたび、夏の夕方にシャワーを浴びて散歩に出たときのような胸の締めつけを感じてしまう。そういう気持ちに、自分の音楽を聴いた人にもなってほしくて。例えばくるりの「京都の大学生」にも、「四条烏丸」「左京区」とか知らない地名がたくさん出てくるけど、行ったこともないのにノスタルジーを感じたり、そこで暮らしていた人の息吹を感じたりしてグッとくる。出てくる名詞が具体的であればあるほど、意外と誰にでも伝わる表現になるのかもしれない。

世田谷代田駅近くの羽根木公園にて。

世田谷代田駅近くの羽根木公園にて。

──Cody・Lee(李)の曲には地名以外にも固有名詞がたくさん出てきますもんね。

中でも土地にはいろんな人の思いが根付いているから、地名を具体的に出すのは、歌詞の間口を広げることにもなると思うんですよ。より共感してもらいやすくなったり、風景を思い浮かべてもらいやすくなったりする。自分が「京都の大学生」を聴いてグッときたように、その街を知らない人にも共感してほしいけど、やっぱりそこに住んでいた人に何かを思い出してもらえるのが一番うれしくて。

──それこそアルコ&ピースの平子さんが「世田谷代田」を聴いて何かを感じたように。

そうそう。あと、具体的な地名を出すのは、僕がヒップホップを好きだというのも影響しているかもしれないです。

──なるほど。ただ、Cody・Lee(李)の場合は、地元をはじめとした特定の場所やコミュニティをレペゼンするのとはまた違いますよね。東京23区の西側が多いとは言え、出てくる場所は基本的にバラバラで。

それは確かにそうですね。でもバラバラなようでトーンは統一されているような気がします。自分が行ってビビッとくるものがなかった場所については書かないですし。

世田谷代田駅近くの羽根木公園にて。

世田谷代田駅近くの羽根木公園にて。

──ということは、歌詞で使われているのは基本的に行ったことのある場所?

「ウィーン、ドーハ、リヴァプール」とかはさすがに違いますけど(笑)、基本的にはそうですね。例えばアニメのタイアップになっていた「おどる ひかり」は、歌詞が全然思い浮かばなくて、そのアニメの舞台になっている月島に行ったんですよ。そこで「隅田川に降る夕陽」というフレーズが出てきて。それくらい、歌詞を書く取っかかりとして“場所”というのはとても大切。「江ノ島電鉄」も今の妻と旅行に行ったときの体験からできた曲ですし、「W.A.N.」に出てくる大井町も、大井競馬場でのフリマに行ったときに降り立ったはず。たまにファンの方が、歌詞に出てくる場所を聖地として訪れてくれたりするんですけど、たくさんあるから大変だろうなと思います(笑)。

──スタンプラリーとかできそうなくらいありますね。

本当に(笑)。最近はライブで海外に行く機会がけっこうあるので、海外が舞台の曲もこれから作っていきたいです。

あの頃感じた匂いを忘れないようにしてきた9年間

──具体的な地名が頻繁に出てくるのは、Cody・Lee(李)が生活や暮らしを表現の軸に置いていることとも関係ありそうですよね。

そうですね。僕は特別な才能があるかというとそうではなくて。誰も気付かないことに自分だけが気付いて、それを俯瞰した目線で書ける能力とかはないと思っているんです。であれば、自分が体験したことを自分の温度感で伝えるというのが、与えられた使命のようなものなのかなって。そこは生涯通して突き詰めていきたいです。自分が体験したことをその温度感のまま表現するという意味で、曽我部(恵一)さんがロールモデルだと思っています。

──確かに、曽我部さんは自分の体験すべてをアウトプットしている印象があります。

あと、自分は東京生まれじゃないというのも大きいと思っていて。田舎から出てきた人の視点で東京を見るというのは、自分だからこそできる表現なのかなと。例えば、この連載の第1回に出ていた高城さん(参照:今日もあの街で名曲が 第1回 cero高城晶平が武蔵野で語る「武蔵野クルーズエキゾチカ」)と自分とでは、仮に同じ街を見ていたとしても、また違う目線があるというか。

羽根木公園にて、草野球を眺める高橋響。

羽根木公園にて、草野球を眺める高橋響。

──特に初期の作品には“地方から東京へ出てきた青年のストラグル”が生々しく描かれていましたよね。その頃と比べて、東京という街への眼差しは変化しましたか?

めちゃくちゃ変化しましたね。上京したての頃に感じた池袋駅の排気ガスやゴミの匂い、もっとさかのぼると中学生の頃に上野のビジネスホテルで感じたタバコ臭さ……そういう匂いへのアンテナが自分の中で弱くなっているような感覚があって。それがすごく怖いです。「そういう感覚すらも東京で生まれた人と一緒になってしまったら、自分の価値はどこにいってしまうんだろう」と、僕は本気で思ってる。あの頃感じた匂いをとにかく忘れないようにしてきた9年間だったというか……でも、だんだん気付かないようになっちゃいましたね。だからこそたまに地元に帰って、感覚をチューニングしてはいるんですけど。

──高橋さんにとって“匂い”が東京と地元の違いを象徴するものなんですね。

やっぱり東京と岩手では匂いがまったく違うんですよ。メンバーの原(汰輝)が東京生まれ東京育ちなんですけど、匂いについての話が全然噛み合わなくて。そこで「これは自分が田舎から出てきたから感じるものなんだ」と気付きました。

羽根木公園にて。

羽根木公園にて。

──“匂い”への感覚を失うことへ怖れを感じるというのは、自身の中でそれだけアイデンティティとして強いということですよね。

強いというか、もはや「自分にはそれしかない」と言ってもいいかもしれない。妻を大事にしたいとか、そういうことと同じくらい「東京に出てきたときの感覚を忘れたくない」という思いは自分にとって大切なもので。それくらい、上京ってすごく大きな出来事だったんです。9年経った今でも、新幹線に乗った瞬間のことは鮮明に覚えているし、それが音楽を作るうえでの原動力になっている。だからこそ、東京で生まれた人と何もかも同じになってしまってはダメだなと。

──「世田谷代田」のリリース時、高橋さんは「5年後とかに今では想像もつかないような音楽をやっていたとしても、『世田谷代田』を聴いたら、あ、俺らこんなバンドだったなって確認できる曲ですね」とおっしゃっていました(参照:2022年ブレイク筆頭候補バンド・Cody・Lee(李)「人力でやったほうが面白い、そこからあたたかみを感じてもらえたら」)。リリースからまだ3年ではありますが、今この言葉を振り返っていかがですか?

めちゃくちゃ当たってるなと思います。ライブでこの曲を演奏すると「戻ってきた」という感覚になるんです。演奏するたび特大のノスタルジーを感じて、いろんな記憶がよみがえる。それは“自分たちが戻ってくる場所”として機能しているということなのかなって。実は、最後の単語の羅列とかコーラスの感じは、別の曲のデモで試したことがあるんですよ。でも「世田谷代田」みたいな雰囲気は出なくて。やっぱりあのときの自分だからこそ作れた曲なのかなと思いますね。きっと今の自分じゃ作れない。そんな気がします。

世田谷代田駅前にて。

世田谷代田駅前にて。

プロフィール

高橋響(タカハシヒビキ)

4人組バンドCody・Lee(李)のボーカル&ギター担当。2020年12月にリリースしたアルバム「生活のニュース」のリード曲「我愛你」のミュージックビデオが台湾やアメリカを中心に世界各国で話題を呼ぶ。2022年5月にアルバム「心拍数とラヴレター、それと優しさ」でメジャーデビュー。「FUJI ROCK FESTIVAL」など大型フェスティバルにも多数出演している。

Cody・Lee(李)
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|| 𝓜𝓔𝓓𝓘𝓐

音楽ナタリー @natalie_mu にて高橋響 @monell_0512 のインタビューが公開されました

「この場所には、自分にとっての東京のイメージが詰まってる」

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