東京ウブストーリー 第9回 [バックナンバー]
岩手出身・高橋響(Cody・Lee(李))の上京物語
上福岡駅西口ロータリーには桜が咲いていて、生ぬるい都会の風が鼻先をかすめた
2026年3月20日 18:00 4
来たる新生活に向けて住み慣れた街を離れ、期待と不安を胸に東京での暮らしを始める人も多いこの季節。本連載では地方出身のアーティストに「上京」をテーマにエッセイを依頼し、東京に“ウブ”だった頃の思い出をつづってもらいます。
今回は岩手出身の高橋響(
自分がどのように「都会コンプレックス」と向き合ったかを説明しようと思う。
【はじめに】
高校生の頃、地元の駅前で外国の方に「Is there a family restaurant nearby?(この近くにファミリーレストランはありますか?)」と聞かれた事があった。
進学校に通っていた私は毎朝「ユメタン」から50問出題される小テストをこなしていたので英語には自信があった。そしてハッキリとした声でこう答えた。
「No(ない)」
駅前にファミレスのひとつもない町で18年を過ごした自分が、東京の街で、どのように「都会コンプレックス」と向き合っていったかを話そうと思う。
【上京】
新花巻駅のホームでやまびこを待っていた。胡四王の畑にはまだ粗目雪が残っていて、高速列車が通過する度、わずかに線路に残った雪がきらきらと舞い上がった。母と彼女に見送られながらやまびこに乗り込んだ。
新幹線が進むにつれて車窓は雪から新緑へ、宇都宮を過ぎる頃には桜が見え始めた。
大宮駅で新幹線を降り、JR川越線を使って川越駅へ、東武東上線に乗り換え、ほどなくして上京して初めて住んだ街、ふじみ野市上福岡に到着した。
ここで「ん…上京って言ってるけど、そこ埼玉じゃね?」と思った方もいるだろう。
説明するから落ち着いて。上福岡駅から最寄りの東京、成増駅までの距離は約17km。
東京都内で最も距離のある駅間は奥多摩駅-篠崎駅で約82kmだ。その5分の1程度の距離、これは誤差の範疇であるので「上京」と言って差し支えない。
ここまでが理論で、ここからが感情。
「うるせぇよ、バーカ!!」
上福岡駅西口ロータリーには桜が咲いていて、生ぬるい都会の風が鼻先をかすめた。
上京した日の感覚はあれに似ていた。
台北で行き交う原付や夜市と檳榔屋のネオン看板を見た時、香港は湾仔の公園で旅人蕉や棕櫚類が生い茂っているのを見た時、バンコクのカオサン通りで青臭いツンとした匂いが鼻を突いた時…自分にとっては海外に行った時に感じる衝撃と同等か、それ以上の経験だった。
「おやすみ」「おはよう」を言う人もいなければ、「ダメ」とも「いいよ」とも言う人がいない。この晩、不完全で歪な自由を手にいれた気がした。
この年、映画「君の膵臓を食べたい」が大ヒットを記録した。
一方、私はダンボールの上で、鍋に入ったままの茹でたパスタに、ポン酢をかけて食べていた。
この年、藤井聡太四段(15)が前人未到の公式戦29連勝記録を樹立した。
一方、私(18)は2日でジーンズメイトのアルバイトを辞めた。
実家の最寄り駅がSuica非対応だった自分にとっては、Suicaが便利な事も、高校生の頃、岩手県の最低賃金716円を下回る700円でアルバイトをしていた自分にとっては、東京都の最低賃金が932円な事も、全部が気に食わなかった。
東京で「楽しい」と思う度に、故郷で過ごした18年間を否定するみたいで辛かった。
さて、私の都会コンプレックスがどれほど厄介だったかが伝わっただろうか?
【都会コンプレックスとの向き合い方】
最後にこのエッセイのメインテーマでもある「どのように都会コンプレックスと向き合ったか」を説明しようと思う。
都会コンプレックスは「東京に比べて地元が劣っている」という考えから生まれるものだ。即ち「地元にあって東京にないもの」を見つける事で都会コンプレックスは希釈されていく。
地元にあって東京にないもの……
「豊かな自然?」
「いや、等々力渓谷がある」
「温泉?」
「代田のBONUS TRACKの少し先に温泉旅館『由縁別邸 代田』がある」
地元にあって東京にないもの……
それはただひとつ「和風レストラン まるまつ」のみである。
和風レストラン まるまつを愛する事で、都会コンプレックスを薄めていく外ない。
【さいごに】
上京した日から9年が経ち、結婚をし、車を買い、今は妻と犬と3人で、東京で暮らしている。それでも、未だに都会コンプレックスの呪縛からは逃れられていないし、きっとこの先もそう。
和風レストラン まるまつの話は半分嘘で半分本当だ。もう半分は「上京」というかけがえのない経験をした代償なのだろうと思っている。そう思えば妙に腑に落ちるのだ。
春になり木の芽風が吹けば、またあの日の事を思い出すだろう。
高橋響[Cody・Lee(李)]
4人組バンドCody・Lee(李)のボーカル&ギター担当。2020年12月にリリースしたアルバム「生活のニュース」のリード曲「我愛你」のミュージックビデオが台湾やアメリカを中心に世界各国で話題を呼ぶ。2022年5月にアルバム「心拍数とラヴレター、それと優しさ」でメジャーデビュー。2025年には目標としていた東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)での単独公演や高橋の故郷である岩手・花巻市文化会館での凱旋公演を実現させた。2026年3月18日にメジャー3rd EP「GOLD」をリリース。3月28日に東京・Veats Shibuyaにて開催するワンマンライブ「3rd-EP『GOLD』 Release Live Show 『ありがとう、ロックンロール』」をもって、当面の活動を休止する。
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