
細野ゼミ 補講5コマ目 [バックナンバー]
細野さんに聞きたい、あの曲この曲(ハマ・オカモト後編)
ユーミン、高橋幸宏、大貫妙子、小坂忠の楽曲で紐解く“細野晴臣のベーシスト脳”
2025年5月4日 20:00 9
大貫妙子「都会」で味わう細野の手癖
ハマ どんどんいきます。
大貫妙子「都会」
細野 これ、ドラムはクリス・パーカーだ。楽しかったね。同じアルバムにタイトなフュージョンっぽい曲があったんだけど、教授(
ハマ この曲で好きなのが、イントロ後、歌が入る瞬間のフィルの最後に細野さんが経過音(コードとコードをつなぐための音)でノリを出すんですよ。細野マジックの1つな気がしています。
細野 ちょっと聴かせて、そこ。
安部 (実際に聴きながら)あっホントだ! 細野さんの顔が見えたね。
ハマ 考えないで録っているのが伝わるテイクだよ。では、最後に向かっていきますよ。自分のバンドのライブでもカバーしたこともあるのですが、
小坂忠「ほうろう」
ハマ 使っているのは、FENDER Jazz Bassですかね?
細野 そうだね。
ハマ ピックで弾いてるような音の立ち上がりのよさ。細野さんが以前おっしゃっていたんですが、Jazz Bassのフロントのピックアップを少し削っていたって。だからリア寄りの音なのかな。ちょっとコリコリしてる。ミックスでの音作りもあると思うんですけど、とにかくものすごくいいベースの音。そして(曲の15秒~のフレーズを弾きながら)、この抜き感。
細野 「♪ドゥッドゥッ、ドゥッドゥッ、ドゥッドゥッ」っていうベースライン(曲の20秒あたり)、あれはスライ(Sly & The Family Stone)だね。
ハマ 「If You Want Me to Stay」みたいな。ものすごく細野さんが得意なノリとして演奏している感じもして大好きですね。自分のバンドでも、INOさんのライブでもやりました。たびたび演奏していて、その都度発見があって……ってここまで、僕の好きなことを勝手にしゃべってきましたけど。ラストは、以前に細野さんと対談した際、「自分のプレイが好きな曲ってありますか?」と質問したときにおっしゃっていた、(高橋)幸宏さんソロの「LA ROSA」です。ベーシスト
高橋幸宏「LA ROSA」
細野晴臣、ベーシストである自らを認める
ハマ というわけで、ベースに着目していろいろ聴いてきました。時期的には、はっぴいえんどはあえて外しましたけど、YMOの最初の頃まで。この時代が、細野さんが心身ともにベーシストとしての感覚が一番強かった頃なのかなって。
細野 そうね。その通り。
安部 わかりやすかった。実際にハマくんがベースを弾きながら解説してくれたのがとてもよかった。
細野 僕も、思い出したことがある。ユーミンの時代と同時期に、吉田美奈子の「扉の冬」ってアルバムをやっているんだ。それが演奏も含めてすごく好き。フレットレスで弾いているんだけど、「あんなのもうできないな」って思うよ。アレンジもよかったね。イキがいいというか、ひねくれたリズム感が面白い。ヘッドアレンジだけどね。
吉田美奈子「冬の扉」
ハマ 確かに、まっすぐなアレンジではないですよね。吉田美奈子さんの楽曲も、今回の系譜のリストにはなきゃいけないものですね。ミュージシャン力の高さ……というと陳腐な言葉ですけど、楽譜や理論とかじゃなく、ヘッドアレンジの感覚でそういうのをやってのけるという。そういう意味でのカッコよさを残してくれたのは、細野さんをはじめ、今聴いてきた時代のミュージシャンの皆さんなんだよな。そしてやっぱり細野さんは、「テクニックが~」みたいな世界とは全然別のベクトルで、めちゃくちゃ“ベーシスト”ですよね。
細野 テクニックには自信がないけど……でも、ベーシストだったんだなあ。
安部 最近YouTubeでティン・パン・アレーやキャラメル・ママの時期のいろんな動画を観ているんですけど、今日の話、そういう映像とつながった。
ハマ 「セブンスターショー」(1976年にTBSで放送された番組)とかね。あの番組で細野さんが演奏している「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」(
安部 僕も思った(笑)。
“ベーシスト脳”というものがある
──細野さん、昔の音源や演奏を2人に掘り下げられてきて、いかがでしたか?
ハマ 自分の身に置き換えて考えたら、かなり恥ずかしいですが(笑)。
細野 恥ずかしいというか、ピンとこないんだよね。他人事というか。でも確かに、新鮮に感じたものもあった。それに、自分の中で「何度も聴けるな」と思える曲ってあるんだ。今回挙げてもらったのだったら、「返事はいらない」や「LA ROSA」がそう。好きなテンポがあるのかもしれないね。ただ、基本は全部リズム&ブルースだね。シンガーソングライターの時代、はっぴいえんどの時代もそうだけど、リーランド・スカラーなどをいいなと思って真似したりしていたな。でもやっぱりブラックミュージックが好きなんだよ、ミュージシャンとしては。リズム&ブルースが大好き。
安部 だからこそ、考えなくてもフレーズが出てくるのかな。
細野 “ベーシスト脳”っていうのがあるんだろうね。今は小さくなっちゃったけど(笑)。
ハマ 細野さんの音楽を紹介する言葉とジャンルはいろいろありますけど、ブラックミュージック由来のファンキーな面は、ベースの演奏を通して感じるのが一番いい。
──では、お時間ということで。今回、ハマさんの実演と音源を合わせて聴いていて、細野さんのベースのフレーズに改めて感動してしまいました。歌っているみたいだな、と。
ハマ そうなんですよね。ただのフレーズじゃなくて、アレンジとして機能してるものが本当に多いし。
安部 自分は“機能しない経験”はよくあるんですよ。「それ、いらなくない?」みたいな(笑)。だけど細野さんの音楽は、違和感なく聴ける。そして、あとから「え、何これ?」ってなる。その塩梅が、細野さんしかできないところなんだよな。それを改めて感じましたね。
ハマ ホントに楽しかったです。僕がベースを弾いている箇所、どう文字にするんだっていうのはあるんですけど(笑)。「♪ドゥー、ドゥドゥ」とか(笑)。でもまあ、せっかくの機会なんで。
<終わり>
プロフィール
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、
安部勇磨
1990年東京生まれ。2014年に結成された
ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
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tAk @mifu75
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