左から怨念JAP、Authority、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.9(前編) [バックナンバー]

MCバトルネイティブ世代の証言:Authority&怨念JAP

“若い世代”という枠を作ってもいいと思った

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“若い世代”という枠を作ってもいいと思った

怨念JAP

怨念JAP

──怨念さんは「高ラ」には?

怨念JAP エントリーもしてないですね。ずっと観てたし、興味もあったんだけど、ラップを始めたのが19歳だったんで、すでに年齢制限を超えてて。

KEN 最初に始めたのはバトル?

怨念JAP 僕はサイファーですね。東京に出てきてSNSを調べたら、タイミングが合ったのが北千住サイファーだったんで、そこに参加したのが最初です。

KEN 地元とか友達のような関係性がないところに参加したんだ。緊張しなかった?

怨念JAP しましたけど、意外といけちゃうタイプなんで(笑)。ただ、ラッパーとしてのキャリアはかなり短いですね。けっこう早めに裏方に回ったんで。

Authority 怨念くんはバトルでめっちゃキレてるイメージありますよ。

怨念JAP 「MC BATTLE THE罵倒」に出てたからそのイメージがあるっぽいんですよね。

Authority 尖ってましたよ(笑)。

怨念JAP 子供の頃に極真空手をやってたんで(笑)。空手の試合に出るマインドに近かったかも。技術うんぬんよりも「俺はやれる!」「やってやる!」みたいな気持ち先行だった。でも、ラップを始めて3、4年で、「俺がステージに出るのは違うかもしれない」と思ったんですよね。バトルは面白いけど、ステージ側ではないのかなって。

KEN それはなぜ?

怨念JAP 自分のバトルの映像を観たり、録った音源を聴いて「こいつセンスねえな」と思ったんです。始めたのも遅かったから、ここから努力しても、先に始めた同世代のラッパーとの差は埋められないかもなと思って。オウソもそうですが、同い年とか1、2歳差のプレイヤーがすごく多かったんで、余計にそう感じたんですよね。

──そこで「凱旋MC BATTLE」を2017年9月16日に渋谷のclub bar FAMILYでスタートさせますね。1回目の優勝はMasa & トラヴィス・スットコ(Donatello)でした。

怨念JAP バトルやイベントは、キャリアが上の人がシーンの中心だったから、自分たちの世代でイベントを立ち上げたいと思ったんですよね。「戦極MCBATTLE」のお手伝いをしてた経験もあったから、小箱でイベントを開けるぐらいのノウハウはMC正社員さんから教わって身に付いていたんで。それでイベントを企画したら形になったし、自分がステージに立つときよりも達成感を感じて、「じゃあこっちに切り替えよう」と思ったんです。

KEN 20代前半で裏方に専業で回る人って少なかったよね。

怨念JAP ラッパーと並行しながら裏方もやる人はいたけど、専業はほぼいなかったと思います。

KEN 「凱旋」は年齢層が低かったよね。「高ラ」に影響を受けた世代がパーティを開いて、バトルも観客も同世代というのは、すごく美しい流れだと思った。

怨念JAP 同世代で、若い世代は若い世代同士で遊べる空間がないと全力で楽しめないと思ったし、そういうバトルイベントがあってもいいだろうなって。

KEN ライブイベントは「どんなアーティストが出るか」「どの世代が出るのか」といった基準や趣旨があるのに、バトルイベントはそういう選択肢があまりなかったよね。

怨念JAP そうですね。だから“若い世代”という枠を作ってもいいと思ったんです。普通に制服でクラブに来てる子とかいましたもん。

Authority “卒イベ文化”はなかったんですか?

怨念JAP 長野はなかったね。

KEN 卒イベ文化って? 卒業イベント?

Authority そうです。青森は、卒業する年齢のやつらが、合同で一緒にパーティを主催するっていう文化があったんですよ。

KEN パーティと卒業イベントが一緒になった感じだ。

Authority そこで俺もバトルをやりましたよ。もうバトルが流行りすぎて、卒イベにバトルを組み込んだほうが収益が出るぞ、みたいな。卒業を祝うイベントなのに、めちゃくちゃディスり合ってるやつがいるという。意味わかんないですよ(笑)。

──門出を祝ってエール交換するどころか(笑)。

Authority しかも賞金を奪い合って。卒業という記念日を分かち合ったほうが絶対いいのに(笑)。でも、同世代のバトルは普通のバトルとはちょっと違う感覚がありますよね。やりやすいというか、しゃべりやすい感じがある。

“いいバトル、いいライブ”を目指した「凱旋 MC battle」

KEN THE 390

KEN THE 390

KEN 「凱旋」は最初から怨念くんがブッキングも決めたんだよね。

怨念JAP そうです。バトルもライブも自分で電話して。

KEN 怨念くんはブッキングにしろオファーにしろ、最初の連絡は絶対に電話だよね。

怨念JAP 本当は直接会いたいんですけどね。

KEN 最近はメールかSNSが基本なのに珍しいタイプ。

怨念JAP LINEとかだと、どうしても定型文になってしまうから、気持ちが伝わらない気がするんですよね。でも電話や対面だと、例えば断られるにしても、完全拒絶なのか、タイミングの問題なのか、みたいな塩梅がわかるじゃないですか。

KEN 温度感がわかるね、確かに。

怨念JAP 「押しまくればいけるかも?」とか(笑)。だから、必ず直接コミュニケーションは取ろうと思ってます。

──以前、別のインタビューで、「凱旋は当初、まったく儲からなかった」とお話しされていましたね。

KEN そうなんだ。最初からうまくいってたイメージがあるけど。

怨念JAP 全然ですよ。イベントの作り方は知ってたけど、ビジネスとしての進め方、お金にする方法はわかってなかった。だから、最初は赤字ばっかりだったし、イベントをやるためにバイトして、イベントやって借金作って、さらにバイトして……焼肉屋で14時間ぐらい働いてました。それで200万ぐらい借金が重なった頃に、Shibuya O-EASTで「凱旋MC battle東西選抜春ノ陣2019」を開催することになって、そこらへんでやっとトントンから黒字に転換していって。

KEN 大型化して、ビジネスになったという。

怨念JAP キャパ200ぐらいの、例えば渋谷のVUENOS(2020年5月に閉店)レベルでチケットを売り切っても、出演料や経費で全部飛んじゃうどころか赤字なんですよね。でも、イベントをショボくはしたくないから、そこはケチれない。だからclubasiaとかVUENOSあたりの規模感のときが一番キツかったですね。

KEN そこでチマチマしてると、次につながらないしね。「凱旋」はMCバトルイベントだけど、同時にライブにも力を入れてたと思う。バトルイベントはバトルに出る人のライブというある種のプロモーション的な機能もあったけど、「凱旋」はバトル界隈ではない人もライブに呼んでたし、いわゆるバトルヘッズとラップリスナーをちゃんとつなげようとしてたと思うんだよね。

怨念JAP せっかくイベントを開くなら、いいバトルはもちろん、いいライブをお客さんに観てほしいし、自分も観たかったんですよね。だから単純ですけど、“いいバトル、いいライブ”をすることしか目的がなかった。

──「いつかはこれで儲けよう」とは思ってなかった?

怨念JAP 考えてなかったというか、想像がつかなかったですね。空間として面白かったし、友達や仲間も増えていったから、この場を続けたいな、ぐらいで。だから、“夢中と熱中”がモチベーションでしたね。

<後編に続く>

Authority(オウソリティー)

青森県黒石市出身のラッパー。「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」を見てラップを始める。2016年から4年連続「ULTIMATE MC BATTLE(UMB)」青森予選で優勝し、本戦に出場。2018年にはUMB本戦で準優勝、2019年には優勝を果たした。2022年、優勝賞金1000万円をかけた「BATTLE SUMMIT」で優勝。近年は楽曲制作に力を入れており、これまでに4作のEPをリリースしている。

Authority (@5_autho_5) | Instagram

怨念JAP(オンネンジャップ)

「凱旋 MC battle」のオーガナイザー。ラッパーとしての活動を経て、21歳で「凱旋 MC battle」を立ち上げ、企画、出場者のブッキング、司会も自ら務めている。近年では「凱旋MC Battle Special アリーナの陣」「凱旋MC Battle -さいたまスーパーアリーナ-」などアリーナクラスの会場で同大会を開催。8月25日には大阪・CLUB JOULEにて「凱旋MC battle 夏ノ陣U-27」を実施する。

凱旋MCbattle (@gaisenmcbattle) | X

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。

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