ラブリーサマーちゃんは諦めない、えんぷてい奥中康一郎の支えで “押してみる”姿勢示した「風の歌」

ラブリーサマーちゃんが新曲「ウインド・ソング」をリリースした。

本作は、BS-TBSの1月期ドラマ「ゲームチェンジ」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲で、共同プロデューサーとしてえんぷていの奥中康一郎(Vo, G)が参加。ここ最近のラブサマちゃんが鳴らしてきた、ブリットポップを下敷きにしたUKロックサウンドから一転、Men I Trustやジェーン・バーキンらを想起させるアンニュイでメロウな質感、AOR的な手触りをまとった仕上がりとなっている。

ほとんどの楽曲をセルフプロデュースで作り続けてきた彼女が、なぜ今回「共同プロデュース」という形で奥中を迎えたのか。制作プロセスの裏側から、歌詞に込めた思い、ドラマの世界観、そして村上春樹から受け取ったインスピレーションまで、ラブサマちゃんと奥中にたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 山口こすも

スーパー近所だった

──まず、お二人が出会ったきっかけから聞かせてもらえますか?

奥中康一郎(えんぷてい) 確か、ゆっきゅんと君島(大空)くんのライブのときに、下北沢シャングリラの楽屋で「はじめまして」の挨拶をしたのが最初な気がする。

ラブリーサマーちゃん そうだ。で、そのあとにゆっきゅんがおっくん(奥中)をうちに連れてきたんだよね。

奥中 しばらく3人で話してて、気付いたら深夜になって。ゆっきゅんは帰ったけど、俺とラブサマちゃんだけ残った。

ラブサマちゃん しかもスーパー近所だったんですよ。隣の丁目くらい。歩いて3分とか。

奥中 そこからお互いの家を行き来するようになったんだよね。

左から奥中康一郎(えんぷてい)、ラブリーサマーちゃん。

左から奥中康一郎(えんぷてい)、ラブリーサマーちゃん。

Men I Trustの「聴き方」で意気投合

ラブサマちゃん おっくんの家へ遊びに行ったとき、パソコンのデスクトップに「最近聴いたアルバム」のジャケットがずらっと並んでいるのを見て「あ、この人とならいろいろ話せるな」と思った。幅広く聴いてるから、きっと話も合いそうだなって。確かMen I Trustの話になったタイミングで、「ウインド・ソング」のデモも聴かせた気がする。あれってたぶん一昨年の夏とかじゃないかな。「Men I Trustみたいな雰囲気にしたら面白そうだね」って、遊び半分で1Aと1Bくらいまでは作ってたんです。ただ、サビがどうしても気に入らなくて、そのまま放置していて。それから1年くらい経って、ドラマのお話をいただいたタイミングで「じゃあ全編書き下ろそう」となったんです。それで、改めて奥中くんに共同プロデュースをお願いしました。

──最初は音楽の趣味で意気投合した感じだったんですね。

奥中 そうですね、Men I Trust以外にも、マック・デマルコやAlvvaysといったカナダのインディーシーン。ほかにもTame Impalaとか、あとTurnover……。

ラブサマちゃん ああ、Turnover! 「いいよね」って。でも一番大きかったのは、やっぱりMen I Trustの“聴き方”だったかもしれない。たぶん多くの人は、インディーポップとかドリームポップの延長でMen I Trustを捉えてると思うんですよ。でも奥中くんは「これはAORだよね」と言っていて。同世代でその解像度で聴いている人があまりいなかったから、「これは話せるぞ」と思ったんです。

奥中 僕もずっと1人で曲を聴いたり作ったりしていたから、ラブサマちゃんとはそういう細かいニュアンスが通じるのがめちゃくちゃうれしかった。

上から奥中康一郎(えんぷてい)、ラブリーサマーちゃん。

上から奥中康一郎(えんぷてい)、ラブリーサマーちゃん。

えんぷていなら絶対にいい形にしてくれるという信頼

──これまでラブサマちゃんは、意気投合した相手と「一緒に曲を作ろう」みたいな流れはあったんですか?

ラブサマちゃん ほとんどなかったですね。例えばライブで演奏してくれているサポートメンバーには、「ここはこう叩いてください」とか、わりと細かく指示することが多かったし、自分がハンドルを手放すことはなかった。でも今回、奥中くんとえんぷていにある程度任せてみようと思ったんです。私がこの曲でやりたいことを、彼らなら絶対にいい形にしてくれるだろうっていう信頼があったから。なので、こんなふうに共同プロデュースという形で人に曲を委ねるのは初めてのことです。

奥中 まずは僕の家で、ラブサマちゃんも交えて一緒に作業した時間がすごく大きかった気がする。

ラブサマちゃん そうだね。

奥中 ラブサマちゃんのデモを僕の家でDAWに流し込んで、その場で音を差し替えながら、「この音どう?」「あ、それいいね」とリアルタイムでやりとりしていきました。「ベース、もう少しこういうタッチで弾いてみよう」とか、「ブリッジミュートを強めにして、日本人があまりやらないニュアンスにしてみよう」みたいな。えんぷていとしても、この楽曲で表現したかったアレンジに関してメンバー全員に素養があったのは大きかったと思います。

村上春樹「風の歌を聴け」を10年ぶりに再読

──ドラマの話が来たとき、デモ素材の中からこの曲を選んだ理由は?

ラブサマちゃん プロデューサーの方から「主人公は『風』をイメージした人物です」と言われたんです。流されながらも、そこにあり続けるというか、ちょっと内気だけど、めげない存在。そういう、したたかさを感じさせるような曲にしてほしいって。そのあと脚本を読んでみたら、「風の歌を聴く者」というワードもあって、「あ、このドラマは村上春樹の『風の歌を聴け』からインスパイアされているのかも」と思ったんです。

ラブリーサマーちゃん

ラブリーサマーちゃん

──それで「ウインド・ソング」なのですね。

ラブサマちゃん それで10年ぶりくらいに「風の歌を聴け」を読み返したら、初めて読んだときとは印象が全然違ったんですよ。もう言っていることが全部わかる気がして、読み終わったときに号泣してしまって(笑)。そこから、「もし自分がこの物語の登場人物だったら、何を歌うだろう?」と考えたときに、「私はもがきの中にいる」と歌うよりも、「私よりもがいている人に向けて歌いたい」と。「風の歌を聴け」の中には「あきらめる人」と「あきらめない人」が出てくるんですけど、私は「まだあきらめていない側」だから、あきらめかけている人に向けて「まだ早いんじゃない?」と言いたい。その気持ちが出発点でした。

──なるほど。

ラブサマちゃん 風は風でも「強風」ではなく、「あたたかいそよ風」にしたかった。ぬるま湯のように、気付いたら体に染み込んでいるようなサウンド──歌も大げさに歌い上げるのではなくて、そよ風のようなナチュラルな感じにしようと。そこからBPMも自然と定まりましたね。

相談相手として心強かった

──メロディも、これまでのラブサマちゃんの作風とは少し趣が違いますよね。

ラブサマちゃん 今回はAメロ、Bメロが一気にできて、それに合うコードをあとから探していったんですよ。この曲のデモを作っていたころ、Cubaseに搭載されている「コードトラック」機能に初めて気付いて。これって、ピアノとかで適当に弾いたフレーズをコードに変換して、次に来そうなコードまでサジェストしてくれるもので。面白くて使いまくっていたら、今まで右往左往していた部分が一気にスムーズになった。結果的に、私があまり使ってこなかったコードも自然に取り入れられるようになったんです。そこからさらに奥中くんと、「ここはオンコードにするか、sus4にするか、add9にするか、どう思う?」みたいな話し合いをしました。

奥中 メロディに対して、僕だったらこういうエモさを足したい、みたいなリハモ(リハーモナイズ)の提案を出しつつ。その段階で、コードの流れとメロの“おいしいところ”がかなり固まった。そのあと歌詞を付けていく、という順番でしたね。

奥中康一郎(えんぷてい)

奥中康一郎(えんぷてい)

──歌詞も奥中さんのディレクションが入っているのですか?

奥中 歌詞については基本的に何も言ってないです。言われたくないでしょ?(笑)

ラブサマちゃん でもスタジオで作業していたときに、「歌詞の中で、ここの4文字がはまらない気がするんだけど、どう言い換えたらいいかな?」みたいな相談はしたよね。例えば「拙い悪あがき」という9文字のフレーズを、別の言い方にできないかなとか。「ささやかな試み」だったらどうだろう、とか。

奥中 いくつか選択肢があって、「どっちがいいと思う?」と聞かれることはありましたね。こっちから積極的に書き換えを提案するというよりは、あくまで選択の補助というか、最後のひと押しを手伝う感じでした。

ラブサマちゃん 「作詞作曲は自分がやる」と最初に言ったので、そこは任せてもらったんだけど、迷ったときに意見をもらえる相手がいるのは、すごく心強かったですね。