「新春浅草歌舞伎」の取材会が、去る12月18日に東京都内で行われた。
「新春浅草歌舞伎」は、若手歌舞伎俳優の登竜門として毎年正月に東京・浅草公会堂で行われる公演。出演者には、
取材会では、松也、歌昇、巳之助、新悟、種之助、米吉、隼人の7名が、2024年の公演をもって「新春浅草歌舞伎」への出演が一区切りとなることが発表された。松也はこのことに触れつつ、「来年は、僕がリーダーとして『浅草歌舞伎』に出させていただいてから、10年目という節目の公演になります。僕自身、若手の頃は『浅草歌舞伎』に憧れ、出演することを夢見て修業してきた時期もありました。これだけの長い期間、浅草でいろいろな経験をさせていただきましたので、その恩返しの気持ちも込めて、そろそろ後輩の皆さんに『浅草歌舞伎』を託したい、という思うようになりました」と経緯を明かす。また、橋之助と莟玉が見守る前で、卒業メンバーが歩き出しているチラシビジュアルについて、松也は「一部では“匂わせ”と言われておりました(笑)」と笑顔を浮かべた。
前回公演では新型コロナウイルス対策として、部ごとに出演者が異なったが、今回は出演者が部をまたぎ、全員が複数の演目に出演する。記者から「出演する演目から1つだけ役を選び、それに対する思いを語ってほしい」との要望を受け、まず松也は「僕は『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』の魚屋宗五郎ですね。僕は尾上菊五郎のお兄さんのもとで修業させていただいておりまして、自分にとって最後の『浅草歌舞伎』では、絶対にお兄さんのなさっていた演目をやらせていただきたい、と決めておりました。出演者のチームワークが求められる演目でもありますので、我々がこれまで積み上げてきた経験を存分に発揮し、心を1つにして皆さんにお届けしたい」と述べる。
歌昇は「一谷嫩軍記 熊谷陣屋」の熊谷直実を挙げ、「播磨屋のおじさま(中村吉右衛門)から教えていただいた演目はたくさんありますが、僕がおじさまのなさってきた演目で一番好きな演目が『熊谷陣屋』。播磨屋にとりましても、大事な演目の1つといっても過言ではない作品です。そんな熊谷直実を今回、僕にとって最後の『浅草歌舞伎』で初役で挑ませていただけるのはありがたいこと。役は、おじさまのやり方を教わっていらっしゃる松本幸四郎のお兄さんに教えていただきます」と語る。巳之助は「この流れで来たら、僕は『どんつく』の話をしなければなりませんね」とニヤリと笑い、「過去に一度、歌舞伎座でもやらせていただきましたが、今回はせっかく浅草で上演いたしますので、江戸の町並みがあって、後ろに浅草寺が見える、浅草の街の大道具を新しく作ってもらいます。お客様が劇場から出ると、先ほど舞台で観たものと同じ景色が広がっている……という、浅草でしかできない体験をしていただけると思います」と話した。
新悟は「1つに絞らないとだめですよね……」と苦悩した表情を見せたあと、「『魚屋宗五郎』のおはまですね。松也兄さんの作品への思いを受け止め支えつつ、おはまの根底にある世話女房の気持ちを意識しながら、演じたい」と語る。種之助は「『流星』は私1人だけの演目。なので『流星』の話をしないと、誰もしてくれなくなってしまう」と愛嬌たっぷりに述べつつ、「4つのお面を使って、雷の夫婦やその子供、そしておばあさんを演じ分けます。私は『浅草歌舞伎』で、立役から女方、三枚目のお役など、本当にいろいろなお役をいただいてきたので、その集大成をお見せしたい」とコメント。
米吉は「やはり『本朝廿四孝 十種香』の八重垣姫ですね。女方の大役・三姫の1つに数えられる、最高峰のお役ですし、第1部のトップバッターとなりますから、重厚な義太夫狂言の魅力を存分にお客様に味わっていただけるような『十種香』を作っていきたい」と言葉に力を込めた。隼人は「与話情浮名横櫛 源氏店」の切られ与三郎を挙げ、同役を片岡仁左衛門から教わることを明かし、「セリフに音楽性を持たせることや、世話物としての表現、そして落ちぶれた若旦那である与三郎の哀愁を大事に勤めたい」と意気込みを語った。
橋之助は「僕も米吉兄さんと一緒で『十種香』です。武田勝頼は、以前坂東玉三郎のおじさまの八重垣姫でも勤めた経験があります。お客様にご納得いただけるような、そして米吉兄さんが思わず口説きたくなってしまうような、色気のある勝頼にできれば。僕の2024年は、口説かれるところから始めたいと思います!」と宣言し、隣に座る米吉から「(コメントは)それでいいの!?」とツッコミが飛んだ。莟玉は「熊谷陣屋」の藤の方を挙げ「この役は、中村魁春のおじに教わります。おじは、吉右衛門のおじさまが『熊谷陣屋』をなさるときに、相模や藤の方のお役でご一緒しておりました。今回、歌昇の兄さんが初役で直実をなさるときに、ずっとおじが勤めてきた藤の方を僕に、と言っていただけたことが本当に幸せだなと、うれしく思っています」と笑顔を見せる。
話題は、出演者が一新され、松也がリーダーとなった2015年公演に。松也は「当時は自分にとって、環境が大きく変わった転換期でもありまして。リーダーを任せてもらえることに対して、うれしさと同時に、不安と恐怖が入り混じった感情を抱いていました。とてもよく覚えているのは、『自分がどのように引っ張っていったらいいんだろう、どのように公演を盛り上げていけばいいんだろう』と思い悩んでいたとき、後輩の皆さんが『一緒に盛り上げていきましょう! やれることは何でもやります!』と積極的に連絡をくださったこと。すごく心強かったですし、そのときに、『浅草歌舞伎』はワンチームとして、みんなで良くしていこう、という気持ちが固まったように感じました」と話す。巳之助も「みんなで不安と戦いながら、精一杯『浅草歌舞伎』を盛り上げようとしていました。宣伝活動のために、あれだけ短期間で大量のバラエティ番組に出たのは、あとにも先にもあの年だけだったかもしれない(笑)」とうなずく。
また米吉が「あの年は、ポスターもメンバーカラーを決めて、全員で色分けをしましたね。私はピンクを配色されたので、今日もピンクのネクタイを締めてきました!」と胸を張ると、登壇者全員が、自分のネクタイをチラリと見る。巳之助がメンバーのネクタイを確認し、「歌昇さんはブルー担当だったから、合ってるね! ほかのメンバーは……すみませんでした(笑)」と冗談交じりに謝罪し、会場を笑いで包んだ。「新春浅草歌舞伎」は1月2日から26日まで。
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「新春浅草歌舞伎」
2024年1月2日(火)~26日(金)
東京都 浅草公会堂
第1部
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、「本朝廿四孝 十種香」
出演
八重垣姫:
武田勝頼:
腰元濡衣:
白須賀六郎:
原小文治:
長尾謙信:
二、「与話情浮名横櫛 源氏店」
作:三世瀬川如皐
出演
切られ与三郎:
妾お富:中村米吉
番頭藤八:市村橘太郎
蝙蝠の安五郎:
和泉屋多左衛門:中村歌六
三、「神楽諷雲井曲毬 どんつく」
出演
荷持どんつく:坂東巳之助
親方鶴太夫:中村歌昇
太鼓打:中村種之助
大工:中村隼人
子守:
若旦那:中村橋之助
芸者:中村米吉
白酒売:坂東新悟
田舎侍:尾上松也
第2部
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、「一谷嫩軍記 熊谷陣屋」
出演
熊谷直実:中村歌昇
相模:坂東新悟
藤の方:中村莟玉
梶原平次景高:中村吉之丞
堤軍次:中村橋之助
源義経:坂東巳之助
白毫弥陀六:中村歌六
二、「流星」
出演
流星:中村種之助
三、「新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎」
作:河竹黙阿弥
出演
魚屋宗五郎:尾上松也
女房おはま:坂東新悟
小奴三吉:中村種之助
磯部主計之助:中村隼人
菊茶屋娘おしげ:中村莟玉
菊茶屋女房おみつ:中村歌女之丞
父太兵衛:市村橘太郎
鳶吉五郎:中村橋之助
召使おなぎ:中村米吉
岩上典蔵:坂東巳之助
浦戸十左衛門:中村歌昇
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かわどう こゆき @lgm_
浅草歌舞伎卒業かー。代替わりした時はぴよぴよだったけど、みんな立派に育って人気になって… https://t.co/DvOmzBYCYk