尾上松也×中村歌昇×坂東巳之助×坂東新悟×中村種之助×中村隼人×中村橋之助×中村莟玉の花形8人が歴史をつなぐ、3年ぶりの「新春浅草歌舞伎」

3年ぶりに「新春浅草歌舞伎」が復活する。1980年のスタート以来、“若手歌舞伎俳優の登竜門”として、近年では市川猿之助、片岡愛之助、中村獅童、中村勘九郎、中村七之助らもしのぎを削ってきた公演。2015年からはメンバーが一新して、尾上松也を筆頭に新年の浅草を盛り上げてきた。

しかしこの2年、新型コロナウイルスの影響で「新春浅草歌舞伎」は一時中止に。3年ぶりの再始動となる今回は、出演者入れ替わりの2部制で、松也をはじめ、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉といった、「新春浅草歌舞伎」常連メンバーが出演する。ステージナタリーでは、「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の現場に潜入。チラシに使用されている、溌剌とした8人の姿はどのような過程を経て生まれたものなのか、その様子をレポートする。また8人には公演に向けた熱い思いをそれぞれ語ってもらった。

【撮影レポート】取材・文 / 熊井玲撮影 / 櫻井美穂
【インタビュー】取材 / 熊井玲、櫻井美穂文 / 櫻井美穂

笑いすぎには注意?「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影レポート

10月下旬、東京都内某所にて「新春浅草歌舞伎」のビジュアル撮影が行われた。それぞれの仕事場や劇場、稽古場から俳優たちが駆けつけて、撮影は18時過ぎからスタート。現場に到着すると、まずは全員、撮影が行われる大きなスタジオにふらっと顔を出し、俳優やスタッフたちとあいさつを交わす。そしてスタジオの様子をぐるっと見回したあと、それぞれの控室に戻って身支度を整えた。

個別カットの撮影を終えて、20時過ぎから8人勢ぞろいのビジュアル撮影がスタート。最初にスタジオに顔を見せたのは、松也だった。現在の「新春浅草歌舞伎」のリーダーでもある松也は、スタッフやカメラマンに丁寧に声をかけながら、場の空気を温めていく。その後、続々と俳優たちが顔を見せ、互いに声をかけ合ったり、ポスターのラフデザインを確認したりと、撮影への気分を高めていった。

デザイナーが用意してきたイメージビジュアルは、8人がV字風に並んだものと、円陣を組むように頭を突き合わせたものの2種。「肩には手をかけず、でも円陣を組むイメージでお願いします」とカメラマンが声をかけると、松也が率先して動き出し、冗談を言って場を和ませながら撮影がスタートした。数分間シャッターが切られたのち、カメラマンの手元をのぞき込んで、デザイナーや俳優たちがチェック、が数回繰り返される。

左から中村歌昇、坂東新悟、中村隼人、中村莟玉、中村橋之助、中村種之助、坂東巳之助、尾上松也。

左から中村歌昇、坂東新悟、中村隼人、中村莟玉、中村橋之助、中村種之助、坂東巳之助、尾上松也。

メンバーに声をかけ、士気を高める尾上松也(右端)。

メンバーに声をかけ、士気を高める尾上松也(右端)。

デザインラフを見直していた松也が、「もっと笑顔にしよう」と提案して再び円陣を組むが、下を向いているのでお互いの表情が見えない。橋之助が「みんなはどんな表情?」と尋ねると、歌昇が「『やるぞ!』っていう顔!」と即答し、2人のスピード感あるやり取りに全員が破顔した。

続けて8人がV字に並んでの撮影も行われた。俳優たちの体格の違いもあり、全員が影になったり隠れたりしないようにV字を作るのはなかなか難しい。数枚テストで撮ったものを見ながら、松也と巳之助はカメラマンと言葉を交わし、ラフデザインを見直して「照明を増やしたらどうなるだろう?」「下から煽るように撮ってみたらどうなるかな」とさまざまなアイデアを出す。その間、ほかの俳優たちもそれぞれに身体の向きを微調整したり、前後の俳優に立ち位置のアドバイスをするなどして、“より良く見える構図”を自主的に探り始めた。そんな試行錯誤の甲斐あって、撮影は順調に進行。撮影の間中、松也が俳優たちの気分を上げようと大きめの声で冗談を言い、それに巳之助や歌昇、種之助、新悟、隼人が続き、橋之助、莟玉は“笑いすぎ”るのを堪えるのに精一杯という表情を見せた。

「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の様子。

「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の様子。

このV字の撮影に俳優もカメラマンも手応えを感じて、当初予定されていた撮影時間は既に過ぎていたが、もう一度円陣を組んだバージョンを撮影しよう、ということに。最初よりも緊張が取れ、グッと明るい表情になった俳優たちが、さらに自分たちのテンションを上げていくように声を掛け合いながら円陣を組むと、正月公演らしい華やかさがあふれ出した。最終的に、カメラマンもデザイナーも俳優たちも納得の写真が撮れ、誰からともなく大きな拍手が起きて撮影は終了。俳優たちはカメラマンやスタッフにねぎらいの声をかけながら、スタジオを後にした。

「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の様子。

「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の様子。

「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の様子。

「新春浅草歌舞伎」ビジュアル撮影の様子。

3年ぶりに復活!8人が語る「新春浅草歌舞伎」に懸ける熱い思い

ビジュアル撮影の合間に、8人にインタビューを実施。「新春浅草歌舞伎」への思いや、自身が出演する演目への意気込みを聞いた。また尾上松也には、1・2部それぞれの演目を紹介してもらう。

尾上松也

尾上松也

「新春浅草歌舞伎」の歴史をつないでいく

この2年、コロナ禍で「新春浅草歌舞伎」は中止になっていましたが、「それでもなんとかできないか」ということは、僕を含めたメンバー全員が思い続けてきたことです。大変ありがたいことに、2021年・2022年の歌舞伎座一月興行では、それぞれ外題に“浅草”を入れ込んだ「壽浅草柱建」、「難有浅草開景清 岩戸の景清」を浅草メンバーで上演させていただきました。ですが、やはり「浅草で公演したい」という気持ちは変わらなくて。「新春浅草歌舞伎」には、これまで先輩方が積み重ねてくださった歴史があります。それを僕らの代で止めてしまうことは、どうしても避けたかった。ですので、こうして復活し、また歴史をつないでいけるということは、本当にうれしいですね。

尾上松也

尾上松也

今回は、昼夜2部制でお送りします。第1部の幕開けは「双蝶々曲輪日記 引窓」。隼人くんと橋之助くんが先陣を切って登場します。南与兵衛の役は、隼人くんも演じてみたいという話を耳にしたことがあり、思いが1つになりました。続いて、巳之助くんと新悟くんによる「男女道成寺」。「引窓」が重厚なお芝居ですので、そのあとは華やかな踊りをご覧いただきます。お客様も、踊りのお家柄である巳之助くんの道成寺ものは観たいでしょうし、巳之助くんと新悟くんの仲良しペアなので(笑)、息の合った踊りを楽しんでいただけるのでは。

第2部は、「傾城反魂香 土佐将監閑居の場」(通称「吃又」)と「連獅子」をお目にかけます。「吃又」の歌昇くんと種之助くんご兄弟は、2017年の自主公演で、それぞれ又平とおとくを演じています。自主公演に選ぶ演目は、「いつか本興行でこの役をやれたら」という思いがあってのこと。歌昇くんと種之助くんが再び「吃又」に挑むのは、3年ぶりの「新春浅草歌舞伎」にふさわしいと思いましたし、また、2人はそれぞれお役を播磨屋のお兄さん(二世中村吉右衛門)に習ったとのことでしたので、お兄さんへの追善の気持ちも込めての上演となります。僕は、本作で雅楽之助役を勤めます。何度か修理之助で出させていただいたことはありますが、雅楽之助は出演時間こそ短いですがカッコいいお役で、いつか勤めたいと思っていました。お役は坂東彦三郎さんに教えていただきます。僕が初めて修理之助を勤めたとき、彦三郎さんがとても素敵な雅楽之助をなさっていて。雅楽之助を演じることがあったら絶対に教えていただきたいと思っておりました。

「連獅子」は、僕にとって思い入れのある演目です。今回のように、親獅子を演じる機会はこれまで何度かありましたが、仔獅子は、(中村)獅童さんにお声がけいただいて演じた、2010年の南座公演だけ。当時は、僕自身まだお役も付かず、歌舞伎以外の分野でも知られていない状況でした。獅童さんに抜擢していただけたことが本当にうれしく、人一倍やる気に満ちあふれていましたね。僕もまだまだ修業中の身ですが、獅童さんにチャンスをいただいたように、自分より若手の俳優たちが成長できる機会を積極的に作っていきたいと思っています。また「新春浅草歌舞伎」は、地域の皆さんと一体になって盛り上げていく公演です。昼夜公演とも、バランス良く演目を並べておりますので、公演をご覧になったあとは、ぜひお正月気分満載で、浅草の街に出かけていただきたいですね。