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吉例顔見世大歌舞伎、幸四郎&染五郎親子が息の合った舞で魅了する「連獅子」

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「吉例顔見世大歌舞伎」が、11月1日に東京・歌舞伎座で開幕した。ステージナタリーでは、初日1日の夜の部をレポートする。

“芝居の国の正月”とも称される11月顔見世興行。夜の部は、軍記物語「義経記」と謡曲「鞍馬天狗」を素材とした時代狂言「鬼一法眼三略巻 菊畑」からスタートする。舞台は、吉岡鬼一法眼(中村芝翫)の館の庭。そこに庭の掃除を終えた奴の智恵内(中村梅玉)がくつろいでいると、鬼一が庭に現れる。庭の様子を見た鬼一から「菊の花壇は整えられているのに、木々の下に落ち葉が残っているのはなぜか」と問われた智恵内は、「風情を残すため、あえて落ち葉を残した」と返答。鬼一は智恵内の熊野育ちらしい考えを気に入り、熊野にいるはずの自身の弟・鬼三太について語り始める。現在は平家に仕える鬼一だが、元は源氏譜代の侍。源氏の滅亡が近いと悟った際、弟を熊野に忍ばせたのだった。これを聞いた智恵内は、鬼一に「もし弟が訪ねて来たらどうするか」と問う。実は智恵内こそ、鬼一の弟・鬼三太だったのだ。そこに、鬼一の娘・皆鶴姫(中村魁春)に仕える奴の虎蔵(中村莟玉)が現れ……。

定式幕が引かれると、紅葉した木々や、花壇に植えられた菊の花が美しい鬼一の庭が舞台に広がり、観客の目を楽しませる。梅玉は、源氏への忠義と、実兄である鬼一への愛情の間で葛藤する智恵内 / 鬼三太を、人間味あふれる芝居で立ち上げた。智恵内が、ほかの奴たちに鷹揚さを咎められ打ちかかられる場面では、箒を使った立ち回りでおおらかな豪腕さを表現しつつ、鬼一と肚を探り合う場面では、婉曲的な対話のなかで実兄の真意を掴もうとする理知的な一面を、緊張感ある演技で表した。

鬼一役の芝翫は、華奢な佇まいと優しげな雰囲気で“病がちな老人”を体現しつつ、智恵内からの問いかけにあえて厳しい言葉を返すシーンでは、凄みのある語り口で客席を圧倒する。本公演より初代中村莟玉を名乗る中村梅丸は、ある目的のために虎蔵として館に仕えるが、実は源氏の御曹司である源牛若丸を瑞々しくも気品ある芝居で好演。牛若丸が源氏再興への決意を語る場では、セリフを三味線の音色にリズミカルに合わせながら舞い踊り、その凛々しさに客席から「莟玉!」と大向うが飛んだ。

今作の敵役である笠原湛海を勤めた中村鴈治郎は、太く響く声色と粗暴な立ち振舞いで悪人としての存在感を示し、中村魁春は虎蔵に思いを寄せる皆鶴姫を愛らしく立ち上げる。皆鶴姫が自らの思いを伝える“くどき”の場では、智恵内を仲介して虎蔵の気持ちを間接的に確かめようとするも、その意図が智恵内になかなか伝わらず、ついに顔を隠し照れてしまう姿を、魁春はなんともいじらしく表現。梅玉はようやく皆鶴姫の意向に気づくも、2人の間をうまく取り持てず慌てる智恵内をコミカルに演じ、客席の笑いを誘った。

本作は梅丸にとって莟玉披露狂言。劇中で行われた口上では、莟玉と養父の梅玉に加え、魁春、芝翫、鴈治郎が並んだ。まず梅玉が「幼少の頃より、私の元で部屋子として修行を重ね早15年。このたび、私の養子として迎えることといたしまして、初代中村莟玉の名を名乗り、これにて改めてご披露を申し上げる運びに相成りました。一生懸命精進を重ね、いずれはひとかどの俳優となりまするよう、何卒、末永くご指導ご鞭撻のほどを、私よりもひとえにお願い申し上げます」と朗々と述べ、続く魁春は「このたびの養子ご披露、私もこのようにうれしいことはございません」と微笑む。芝翫は「梅丸さんは小さい時分から、梅玉の兄の元で修行を重ね、お芝居が大好きなちょっと変わった子だなと思っていたら、好きなままこの通り大きく立派になりまして。うれしゅうございます」と思いを語り、鴈治郎は「梅丸時代から『丸ちゃん、丸ちゃん』と私の息子・壱太郎共々に大変可愛く思っておりまして、このたびめでたく梅玉兄さんのご養子となり、莟玉のお披露目、もうこのようなうれしいことはございません」と声を震わせた。そして莟玉が「まだ未熟、不完全ではございまするが、この上はなお一層芸道に精進して参る所存でございます。何卒、ご指導ご鞭撻のほどを、ひとえにお願い申し上げたてまつります」と述べると、客席は温かい拍手で包まれた。

続いての演目は、松本幸四郎が親獅子、市川染五郎が仔獅子を勤める「連獅子」だ。能舞台を模した舞台に、手獅子を持った狂言師の右近(幸四郎)と左近(染五郎)が現れる。2人は獅子の精にまつわる謂れや故事を踊り伝えてみせるが……。

幸四郎は熟練した手付きで手獅子を操り、流れるような舞で親獅子としての風格を漂わせる。染五郎は持ち前の可憐さを際立たせながら、きびきびとした動きで仔獅子の若々しさを表現。試練のために親獅子が仔獅子を奈落に突き落とす場面では、染五郎は身体を素早く回転させながら奈落に落ちていく様子を臨場感たっぷりに演じ、幸四郎は、不安と期待が入り交じる親獅子の複雑な親心を、高く響く笛の音色に合わせた舞で表す。演目の終盤、親獅子の精、仔獅子の精として勇ましく毛を振る“獅子の狂い”の場面では、幸四郎は白い毛を、染五郎は赤い毛を躍動感たっぷりに振り回し、実の親子ならではの息の合った舞で観客を魅了した。

夜の部ラストを飾るのは、小説家・池波正太郎が手がけた歌舞伎作品「市松小僧の女」。本作が歌舞伎座で上演されるのは、1977年の初演以来、約42年ぶりのこと。劇中では、中村時蔵演じる男勝りな主人公・お千代と、鴈治郎演じるスリで生計を立てる年下の美少年・又吉の物語が描かれる。

呉服太物を商う嶋屋重右衛門(市川團蔵)は、前妻との間にもうけた娘・お千代を店の跡継ぎにさせるべく、線香問屋の三男坊・森田屋彦太郎(中村萬太郎)に婿入りしてくれないかと相談していた。腕っぷしが強いことで有名なお千代との縁談に、彦太郎は難色を示しつつも話がまとまりかけるが、重右衛門の後妻で、自身の娘であるお雪(中村梅枝)を跡継にしようと企むお吉(坂東秀調)が、屋敷からお千代を追い出してしまう。乳母であったおかね(片岡秀太郎)の家に身を寄せるお千代は、そこで侍相手にスリをしている又吉と出会い……。

時蔵がお千代として男物の道着姿で舞台に現れると、そのたくましい出で立ちに、会場はどよめきに包まれた。時蔵は、お千代を女役らしからぬ低い声でニヒルに演じ、重右衛門から金銭をふんだくろうと暴れる浪人をお千代が素手で倒すシーンでは、軽やかな立ち廻りで魅せ、貫禄を見せつけた。

鴈治郎は、スリの犯行現場を目撃したお千代を殺そうとするも、返り討ちに遭ったことでお千代と恋仲になる又吉を、愛嬌たっぷりに立ち上げる。お千代に抱きつき「死んだおふくろと同じ匂いだ」と甘える芝居で客席を和ませつつ、「私なんかのどこを好きになったんだい」と自信なさげなお千代に対して、「男が女に惚れるのに、理屈なんかいるのかい?」と語りかける又吉の男気を、堂々とした振る舞いで表現した。

粗雑な口調で男物の服ばかり着ていたお千代は、又吉との出会いをきっかけに、美しい女性へと変貌していく。時蔵はお千代の変化を、衣装や化粧だけではなく、声色や立ち振舞いで見事に表現してみせ、登場人物のみならず、観客を驚かせた。「吉例顔見世大歌舞伎」は25日まで。昼の部では、追手から逃げ回る辰次を幸四郎が勤める「研辰の討たれ」、芝翫と尾上松緑による軽妙でリズミカルな舞踊「関三奴」、尾上菊五郎が江戸の小悪党・髪結新三を演じる「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」が上演される。

「吉例顔見世大歌舞伎」

2019年11月1日(金)~25日(月)
東京都 歌舞伎座

昼の部

「研辰の討たれ」
守山辰次:松本幸四郎
平井九市郎:坂東彦三郎
平井才次郎:坂東亀蔵
八見伝介:中村亀鶴
小平権十郎:大谷廣太郎
猿廻し光吉:市村光
高橋三左衛門:中村寿治郎
吾妻屋亭主清兵衛:市村橘太郎
中間市助:片岡松之助
湯崎幸一郎:松本錦吾
粟津の奥方:市川高麗蔵
宮田新左衛門:坂東竹三郎
平井市郎右衛門:大谷友右衛門
僧良観:中村鴈治郎

「関三奴」
奴:中村芝翫
奴:尾上松緑

「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」
髪結新三:尾上菊五郎
手代忠七:中村時蔵
弥太五郎源七:市川團蔵
下剃勝奴:河原崎権十郎
お熊:中村梅枝
紙屋丁稚長松:尾上丑之助
肴売新吉:市村橘太郎
車力善八:坂東秀調
加賀屋藤兵衛:市村家橘
家主女房おかく:市村萬次郎
後家お常:中村魁春
家主長兵衛:市川左團次

夜の部

「鬼一法眼三略巻 菊畑」
奴智恵内実は吉岡鬼三太:中村梅玉
奴虎蔵実は源牛若丸:中村梅丸改め中村莟玉
笠原湛海:中村鴈治郎
吉岡鬼一法眼:中村芝翫
皆鶴姫:中村魁春

「連獅子」
狂言師右近後に親獅子の精:松本幸四郎
狂言師左近後に仔獅子の精:市川染五郎
僧蓮念:中村萬太郎
僧遍念:中村亀鶴

「江戸女草紙 市松小僧の女」
お千代:中村時蔵
市松小僧の又吉:中村鴈治郎
南町奉行同心永井与五郎:中村芝翫
娘お雪:中村梅枝
森田屋彦太郎:中村萬太郎
武士大沢録之助:澤村由次郎
掏摸の仙太郎:片岡市蔵
大番頭伊兵衛:市川齊入
後妻お吉:坂東秀調
百姓権兵衛:市村家橘
嶋屋重右衛門:市川團蔵
おかね:片岡秀太郎

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