左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.7(後編) [バックナンバー]

「フリースタイルダンジョン」ブームを経て:サイプレス上野&輪入道

“名脇役”を目指す輪入道、“すげー勝ちたい”サイプレス上野

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フリースタイルじゃなくても表現する方法はある

左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

──「ダンジョン」で起こったフリースタイルブームを、渦中にいる2人はどのように感じていましたか?

輪入道 単純に知名度は上がったし、バトル経由でライブにも呼んでもらえる機会が増えたから、目指してる所への近道になったと思いますね。

サ上 俺も知名度が上がって、仕事も増えたけど、一方で「建設的」のような自分のイベントの集客につながらないジレンマがあったな。あと風俗のキャッチからめちゃくちゃ声かけられるようになった。

輪入道 僕も一緒ですね。キャッチがめちゃ声かけてくる。

──指標がキャッチだ(笑)。

輪入道 あと、中学生も番組を観てることがわかったのも大きかったですね。子供が観るってことがわかってから、バトルがやりやすくなったんですよ。

KEN それはなんで?

輪入道 大学生以上の大人しか観てない、キャッチしか観てないと思ってたときは(笑)、どうキャラを出したり、空気を作ればいいかにちょっと悩んでたんですよ。でも、そういう層だけじゃなくて、子供も観てることがわかって、あえて過激なことをやったりする必要はないし、自分のやりたいようにやればいいんだなって。そこでスランプからも抜けることができました。

KEN 子供が観てることがリミッターになってしまうことはなかったんだ。

輪入道 そうですね。「自分が小学生だったら、カッコいいと思うこと」をイメージすればいいんだなって。逆に言えば「ヒーローになればいいんだ」って、カッコつけきれるようになったんですよ。

KEN その発想は面白いね。

──ブーム以降、バトルへの感触は変わりましたか?

輪入道 簡単になったかもしれない。昔のほうがいろいろ考える必要があったけど、ブーム以降のほうがシンプルにわかりやすいものが求められるようになったし、そういう意味で簡単になったかなと。それが勝率とイコールではないんですけど。

サ上 あと、バトル力のほかにパフォーマンス力、ライブ力が問われるようになってるよね。大舞台では特に。

輪入道 最近はいわゆるバトルヘッズが少なくなって、分け隔てなくヒップホップを聴くリスナーが多いから、余計にそうかもしれないですね。

──MCバトルがネイティブな世代と戦うときに、組手の違いなどを感じることは?

輪入道 やっぱり若い子は単純にラップがうまいですよね。特に会場が大きくなったら、「うまくて聴きやすい」は重要な要素だと思うし、そういう相手と戦うのは、自分としてはワクワクしますね。相手がうまければうまいほど、「食らったままは負けたくねえ」と思うから、いい感じの相乗効果が生まれて、結果いいバトルになる手応えもある。

サ上 昔は生き様とかメッセージが評価軸としてあったと思うけど、今はもっと単純なラップのうまさが評価されるし、ウケやすくなってると思う。だからプロレスと総合格闘技の違いというか。俺はプロレスが好きだから、試合に至るまでの背景とか“技をどう受けて、どう返すか”みたいな部分も興味があるけど、今のバトルはもっと“一撃の勝負”みたいなクイックな感じかも。でも、その波もまた変わるかもしれないけどね。一撃必殺スタイルが飽和したら、掘ることの楽しさみたいな方向に回帰することもあるのかもしれない。あと、韻踏合組合がライブバトルの「ENTER LIVE BATTLE」を始めたり、DJにはサウンドクラッシュもあるし、MCバトル以外の戦い方はたくさんあるから、その中で自分の求める方向を選べるのはすごくいいよね。

KEN 「ラップスタア誕生」も人気だし、入り口が増えて、それを自分で選べるのは健康的だと思う。

サ上 フリースタイルじゃなくても表現する方法はあるからさ……それを言ったらこの企画が成り立たないけど(笑)。

“名脇役”を目指す輪入道、“すげー勝ちたい”サイプレス上野

左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

──最後にお二人は今後どのようにMCバトルに関わっていきますか?

輪入道 個人的には“名脇役”ですかね。

──主役じゃなくて?

輪入道 どう注目されるかは自分が決めることではないんですけど、自分としては“周りを引き立てる役”が、自分のあるべき姿なのかなって。単純にそっちのほうが自分としても渋いと思うし。もう16年ぐらいバトルに出てると、「ここで自分が勝つべきなのか?」と感じるときもあるんですよね。もちろん、勝つ気ではいるんですけど、「俺が絶対にナンバーワンだ」みたいな我欲は薄れてきているし、負けるとしてもいい形で負けたり、相手のよさを引き出したり、主役にできるような“一番いい形の脇役”みたいなあり方も考えますね。特に若手に対しては。

KEN それはキャリアを経たから思うことだよね。10代から40代超えまでが同じ土俵で戦うような、こんなに年齢差のある競技ってほかにはないと思うし、その中でベテランになればなるほど、次の世代のことを考えるようになる気がする。20歳下の、これからスターになろうとしてるやつを、完膚なきまでに叩き潰す気にはなかなかならないもんね。

輪入道 相手をコテンパンに潰す、俺の強さを見せつけるみたいなモチベーションでバトルには出ないですよね、もはや。それよりも自分に声がかかるうちは、シーンの力になりたいというほうが大きい。「全然うまくバトルが運べないな」という時期はあるんですけど、それは年齢のせいではないと思うんで、まだ衰えは感じてないし、バトルを楽しめてるうちは、そういうスタンスでいようかなって。

──サ上さんはいかがでしょうか?

サ上 俺が地元で開催してるMCバトル「ENTA DA STAGE」は、2023年末に最大規模の大会を開いて……まあそれで大借金を背負ったんですけど(笑)。「自分は取りまとめをするようなキャラじゃねえんだけどな」とも正直思うし、でも俺は横浜にこだわってるし、横浜で誰もそういうイベントをやってくれねえなら自分でやるしかないなって。だからこそ横浜を代表するイベントにしたいと思ってるし、運営もするし、自分も出場して、全国から賛同してくれる仲間たちを集めて、年に一度の祭りにしたい。ただ、祭りだけど巨大化はしたくないかな。誰でもエントリーできるような野良犬の大会でありたいし、その面白さを「ENTA DA STAGE」に落とし込みたいね。

KEN ほかのバトルには出るの?

サ上 面白い大会があったら、声をかけてくれれば出たい。やっぱりバトルに出るのは面白いから。結局、俺がバトルに出るのはサ上とロ吉の活動の延長だし、これまでの活動の延長であって、「音楽を楽しみたい」「シーンを沸かせたい」っていうのがモチベーションなんだよね。ただ、俺はすげー勝ちたい(笑)。完全にベテラン枠に入ったから、そんな俺が勝ったらどうなるのかな、ということにも興味があるし。だからKENや輪入道にもスパーリングしてほしい。

輪入道 それはぜひとも!

サ上 RISANO(テレビ朝日系「フリースタイルティーチャー」でサイプレス上野が講師を務めた)とかドリーム(サイプレス上野主宰の自主制作レーベル・ドリーム開発)のキッズと一緒に練習すると、そこでヤバいラインが出てきてハッとすることがあるんだよね。自分の引き出しを増やすためにも、そういうことは必要なのかな……というのが、俺のアナザースカイ(笑)。

KEN なんかオチつけなきゃダメなの?(笑)

サイプレス上野(サイプレスウエノ)

サイプレス上野とロベルト吉野のマイクロフォン担当。通称・サ上。大型フェスやロックイベントへの出演、アイドルとの対バンなどジャンルレスな活動を展開。2020年にはサイプレス上野とロベルト吉野が結成20周年を迎え、同年7月に結成20周年コラボEP「サ上とロ吉と」をリリース。2022年には漢a.k.a GAMI、鎮座DOPENESS、TARO SOUL、KEN THE 390、tofubeats 、STUTSらが参加する7枚目のオリジナルフルアルバム「Shuttle Loop」をリリースした。2015年よりテレビ朝日系で放送開始されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」では初代モンスター、2代目司会進行役を務めた。

サイプレス上野とロベルト吉野official website

輪入道(ワニュウドウ)

1990年、東京生まれ千葉育ち。2007年にラッパーとしての活動を開始。2013年に自らが主宰するレーベル・GARAGE MUSIC JAPANから1stアルバム「片割れ」をリリースした。フリースタイルを得意とし、数々のMCバトルで好成績を収める。「MC BATTLE THE罵倒」では2014年、2016年、2018年の3度優勝。テレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」では2017年8月より2代目モンスターを務めた。2023年7月に5枚目のアルバム「朝が満ちる」をリリース。

輪入道 official website

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。

KEN THE 390 Official

※記事初出時、クレジットに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

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高木"JET"晋一郎 @TKG_JET_SHIN

こちら後編です!(あとでちゃんと告知)

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