実に4年ぶり、通算12枚目となるDIR EN GREYのオリジナルアルバム「MORTAL DOWNER」がついにリリースされた。
当初は2025年春頃に発表予定だったという本作だが、想定通りにはいかないのがDIR EN GREYがDIR EN GREYたる所以か。メンバーが一切の妥協をせずに作り上げたアルバムには、結成30周年を前にしながらも進化を止めることのない彼らの濃密なサウンドが詰め込まれている。
そんな渾身の1作を紐解くべく、音楽ナタリーではToshiya(B)にインタビュー。制作における試行錯誤や、完成した音源を聴いての率直な感想を明かしてもらった。インタビューの終盤で「絶対的なものはやっぱりDIR EN GREYですし、これから先も自分がこれ以上情熱を注げるものはDIR EN GREY以外にはないと思います」と柔らかな表情を浮かべながらもそう明言したToshiya。DIR EN GREYのベーシストとして活動を始めて約30年が経つ彼は、アルバムを作り上げた今、何を考えているのか。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 森好弘
結成30周年を前に見えた伸び代
──今回のアルバムの制作において、Toshiyaさんは昨年夏の雑誌インタビューで「かなり難産」という趣旨の発言をされていました。
そうですね。アルバムの制作期間的には、今までで一番長く時間をかけさせてもらいました。
──前作「PHALARIS」(2022年6月発売)から約4年ぶりということで、アルバムのリリーススパンとしてはこれまでとさほど変わらないのですが、制作に取りかかったタイミングから考えると今までで一番長期にわたったと。制作はいつ頃スタートしたんですか?
シングル「The Devil In Me」(2024年4月発売)を完成させてからアルバム制作が始まりました。なので、確実に2年以上かかってますね。
──制作開始当初、メンバーの皆さんの間で共有していたイメージみたいなものはありましたか?
いつもみたいな激しいアップテンポ感をちょっと抑えて、ミディアム系の曲が多くなるかもねという話はしました。
──「ARCHE」(2014年12月発売)以降は短めでシンプルな楽曲が多かったですが、そことはまた違ったものになりそうだと。
そうです。ただ、制作が進んでいく中で、なかなか着地点が見えなくて。それがアルバム制作期間の長さにもつながったんでしょうね。
──着地点というのは、アルバムの全体像について?
そう。その全体像が見えるまでの時間が異常にかかったので、かなりたくさん曲を作りましたね。アルバム3枚分ぐらいは作ったんじゃないかな。
──そんなに! 完成したアルバムは、おっしゃるようにミディアムテンポのヘビーな楽曲が中心。変化の付け方についても、いろいろこだわったのかなと感じました。
そういう意味では、今回のアルバムはとても実験的な内容かもしれませんね。例えば、1曲の中での構成含め、いろいろ詰め込むのではなくスパッと切っていくというか。
──ああ、わかります。いつもだったら「ここからもうひと展開していくんだろな」という場面で、唐突に終わったりするような。
そうです。もうひと盛り上がりしそうなのにしないという(笑)。もしかしたら、聴く人によっては肩透かしを食らうのかなと。そういう違和感がアルバム1枚を通して、いろんな場面にちりばめられているという点ではいつも以上に実験的ですね。
──これまでの作品だったら「きっとこの曲は、ライブでこういう盛り上がり方をするのかな?」とイメージしやすいところも多かったけど、おっしゃるように今作はその部分が未知数なような気がしています。
そういう作品を来年結成30周年という節目を迎える直前に制作できたのは、バンドとしてまだ伸びしろがあるということなんじゃないかなと思える節もありました。
──そう考えると、今作はライブに直結した作品集というよりも、まずはレコーディング作品としての完成度にこだわった1枚でもあるのかなと。どんどん音を削ぎ落とし、アレンジに関しても過剰な要素を付け加えない、引き算の美学を追求した作品だと感じました。
ありがとうございます。「DUM SPIRO SPERO」(2011年8月発売)くらいまでは足し算の美学というか、作り込んで構築していくことにこだわっていたんですけど、「ARCHE」からは引き算にシフトしていった。その流れは今も続いているものの、また違った側面からトライしている感覚かもしれません。
アルバムが完成した今もすごく不安なんです
──バンドの約30年にわたる歴史において、最初の10年はDIR EN GREYとしての存在理由や個性を見つけていく時期であり、次の10年で武器の数をどんどん増やし、その後の10年は手に入れた武器にどんどん磨きをかけていく……おそらく「ARCHE」以降のDIR EN GREYは手持ちの武器を増やすことなく、今手にしているものにより磨きをかけるフェーズなんでしょうね。
そう言っていただけるとすごくありがたいです。自分たち的にはやっていることはそこまで変わっていなくて、フォーカスする角度を変えながら、それによって聴いた人のどこに刺さるのかを模索している感覚で。もちろん、そうやってリスナーのことは常に意識はしますけど、最終的には自分たちに一番に刺したいという気持ちでいるので、今もそこで試行錯誤しているだけなんですよ。
──もちろん、自分たちが満足できるくらいの刺激がないと、ここまで活動は続かなかったでしょうね。
まず自分たちが楽しめて面白がれないと、続けるのは難しいですからね。
──ミディアムテンポのヘビーな楽曲でがっつり攻めて、刺激的に聴かせられる技法や表現力は、この数十年で積み重ねてきたものなんだなと、いちリスナーとして感じました。
でも、僕はアルバムが完成した今も、すごく不安なんですよ。
──不安、ですか?
そう。聴いてくださった方にちゃんと理解してもらえるかどうかが。今回は自分の中でもすごくクエスチョンが多いものになったのかなと思っているんです。もしかしたら最初に聴いた時点では「よくわからない」という感想が出てくるんじゃないかという気がしますし、僕自身もそういう不思議なアルバムだなと感じています。
──表層的なわかりやすさとは違った、聴き込めば聴き込むほどに、そこで展開されている世界の奥深さがより伝わる作風ですものね。そういう意味では、最初に聴いた時点では「?」と感じる人もいるかもしれませんし、ここ最近のDIR EN GREYのイメージをいい意味で裏切ってくれる作品なのかなと。
とにかくここに詰め込まれているものが今の5人が出したい音、今の5人が出せる音なので、聴いた方にそういうふうにポジティブに受け止めてもらえたらうれしいです。
霧から抜け出す一番の近道はライブ
──収録曲のうち、「The Devil In Me」以外の13曲はすべて新曲となりますが、制作において鍵になった曲は存在しますか?
これまでのアルバムは必ずキーになる曲が存在していて。それができたときにアルバムの最後のピースがはまるみたいなことが多々あったんですけど、今回に関してはそれがなかったんです。
──実は、そう感じて今の質問をしたんです。
いわゆるアルバムの顔になるような曲ですよね。今回はそれが最後までなくて。それによって、先ほど言った着地点が明確に見えないまま、どこに着地するべきなのかわからないまま制作が進んでいた。曲だけはものすごい数があったけど、どれを選ぶか悩むことが続いていたんです。
──では、「ここで着地しよう」と思うきっかけになった要素は?
時間ですね。締め切りがなければ、まだずっと作っていたと思います(笑)。正直に言うと、本当なら去年の3月とか4月ぐらいにはリリースするつもりだったんですけど、そこからどんどん延びていき、事務所ともずっと「どこまで延ばせるか?」という話をしていましたから。
──おっしゃるように、アルバムの顔となるような1曲が明確に存在しないにもかかわらず、全体の空気感やトータルの流れにすごくしっかりしたものがあって、一度聴き始めたらグイグイと引き込まれていくアルバムで。そこが本当に不思議なんです。
たぶん、ほぼ新曲で構成されていることも大きいんでしょうね。ただ、僕自身にとってはずっと霧の中にいるような感覚になるアルバムであって。なので、聴いてくださった方がそれぞれどんなイメージを持つのか、とても興味深いところではあります。
──これまでもアルバムを完成させたあと、「霧の中にいるような感覚」になったことはありましたか?
正直言うと、毎回そうなんですよ(笑)。ただ、今回は特にその感覚が強い。本来ならこうしてインタビューをしていただいたら、「こういう曲ができて、このアルバムの最後のピースが……」みたいなことを言いたいんですけど、そういうサービストークすらできないくらい。今は早くこの新曲たちをライブでやっていくことが、霧から抜け出す一番の近道なのかなと。
──リリース翌週の4月15日には早くも次のツアー「TOUR26 Downer Absolutely No One」が始まりますし。
そうですね。音源としてはこれがベストであり正解だと思ったからこそ、こうしてリリースされるわけなので、あとはライブを通してファンの皆さんと共有していく中で、新たな解釈であったり新しい世界を見つけることができたらなと思っています。
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Toshiyaのベーシストとしての自己評価





