徹底検証「Japanese Funk」 (前編) [バックナンバー]
海外で急増する謎の音楽「Japanese Funk」とは何か?
TikTokによって交わった、Phonkとバイレファンキの音楽史をたどる
2026年4月16日 19:30 15
2026年に入り、日本のバイラルチャートを賑わせている謎の音楽ジャンル「Japanese Funk」。日本語ボーカルによるJ-POP的なメロディ、歪んだキック、そしてバイレファンキのリズムが同居するこの奇妙な音楽は、その多くが海外のプロデューサーたちによって大量生産され、日本市場へと逆輸入されている。
今、インターネットの音楽シーンでいったい何が起きているのか? この記事ではPhonkから連なるTikTokの音楽トレンドの変遷を振り返りつつ、この不思議な現象の核心に迫る。
取材・
突如チャートに現れた「MONTAGEM HIKARI」
今年1月14日にリリースされてから、国内バイラルチャートで長らく上位にランクインした「MONTAGEM HIKARI」という曲がある。同曲は「超かぐや姫!」のエンディングテーマやM!LKの新曲などと競り合いながら2月中旬まではトップに座して、執筆時点(2026年4月11日)でSpotifyでは1400万、YouTubeでは計2600万の再生回数を記録するに至った。もしもあなたがTikTokユーザーならば、ダンス動画とともに「朝の光の中で♪」と歌うリフレインが思い出されることだろう。
BellyJay「MONTAGEM HIKARI」
知らない人も一聴すれば、これがYOASOBIの「夜に駆ける」に代表されるような近年の“夜好性J-POP”の影響下にあると理解するはずだ。イントロがなく、再生ボタンを叩いた瞬間にボーカルが入る構成にも私たちは慣れたもので、リリースカットピアノと呼ばれる、ピアノ音源が残響なく消える音色にももはや親しみがある。
けれど、たった10秒ほどの7小節でAメロが断ち切られ、「朝の光の中で♪」とサビに突入する性急さには驚いてしまう。実際のところ歌詞の半分は「朝の光の中で♪」と歌っているのみで、その潔さには感心するが、慎重に耳を傾ければこんな疑問も浮かんでくる──幾田りらっぽい声はAIボーカル? それにしてもキックが歪みすぎじゃない? 後半にいきなり「ヒョッヒョッ」というサンバのパーカッションらしき音が入ってくるのはなぜ? 「MONTAGEM」とはなんだ? あとカバーアートはいろいろと平気なん?……などなど。
以上のような謎を呼び起こす作品は「MONTAGEM HIKARI」だけではない。Spotifyプレイリスト「Japanese Funk」を聴いてみよう。字面から想像されるような「日本のファンクミュージック」を期待してはいけない。これはジェームス・ブラウン的な意味でのそれではない。
JAPANESE FUNK 2026 - 日本語FUNK/PHONK/MONTAGEM
ジャンル名の紛らわしさに頭痛がしてきそうだが、さまざまな疑問は差し置いて、ここで言う「Japanese Funk」とはいったいどんな音楽なのか整理してみよう。
- ①尺が2分未満のJ-POP風の楽曲である
- ②日本語詞のボーカルがあり、その音声はAI生成である
- ③サビでビートが四つ打ちとなり、キックが歪んでいてデカい
- ④「ツッチャッチャ・チャッチャ」といったバイレファンキのリズムがある
- ⑤ジャケットでは既存IPのキャラクターが使われる
「MONTAGEM HIKARI」を例にとれば、①②③は問題ないとして、④について、冒頭から鳴るピアノが「ツッチャッチャ・チャッチャ」と刻んでおり、サビに入ると独特な音色のシンセがレイアリングされることで、そのリズムを強調しているのだと確認できる。⑤は見た通りである。
しかし「Japanese Funk」と括られる楽曲の中には、②AI歌唱ではなくサンプリングが使用されている場合も、④このリズムがどこにも採用されていない場合もある。が、一旦脇に置いておく。
ことさら奇妙に感じられるのは、「Japanese Funk」のプロデューサーの多くが、ちょっと前まではポルトガル語のMCを曲中に使っていたことであり、さらにさかのぼれば、ダークな雰囲気のビートに英語のラップを乗せていたことである。
どうも「Japanese Funk」のプロデューサーの大半は、今年に入ってから日本語詞を書き始めたらしい。機械翻訳の精度向上のためか、不自然といえるほどの破綻は少なく、ぎこちない日本語詞にシュールな愛らしさを覚える類の曲でもない。しかし、こうも一斉に始めたのはなぜなのか?
不可解な点はそれだけでない。これら楽曲の配信元であるレーベルの所在地も日本国内にないのである。並べてみれば、RioX、Tribal Trap、MIDNIGHT SHADOW、Launch13、Project Vyral、TTC Records──これらは順に、ベトナム、オランダ、イギリス、アルゼンチン、ドイツに本拠があり、最後の1つは私の検索能力が及ばず不明である。
件の楽曲のヒット以降、2カ月で20曲以上の「Japanese Funk」をリリースした0to8というレーベルがある。生まれたばかりのジャンルにとって最大の庇護者と言えるこのレーベルは、2022年に設立された「Zero to Infinity」という、UAEはドバイに拠点を置く企業である。
私は取材を試みた。なぜ0to8は「Japanese Funk」というジャンルに熱心に取り組んでいるのか? 送信から数時間後に届いた回答を要約すると、こうである。
「日本は重要な市場です。日本のオーディエンスは“新たな美学”への受容性が非常に高く、TikTokへのエンゲージメントも熱心だからです。けれど0to8は『Japanese Funk』が日本だけでなく、もっと遠くに届くと信じています。“日本的”とされるローカルなサウンドも、インターネットネイティブなコミュニティが牽引すれば瞬く間に世界的な現象となりうるのです。だからこそ『Japanese Funk』のムーブメントに期待できるのです。それは日本という枠を越え、きっと大きな成長を遂げるはずだから」
いきなり提示された壮大なビジョンに面食らいながら、彼らが何に基づいて話しているのかを理解する。これは0to8の未来予測であると同時に、業界の歩んだ過去を示している。
それは「Phonk(フォンク)」と「Funk(ファンキ)」というジャンルが、2020年代のTikTok音楽シーンで独特のグローバル市場を築き上げてきた過去である。発音が紛らわしく思うかも知れないが、どちらもJB的な意味でのファンクミュージックに語源を持ち、前者はアメリカはメンフィス、後者はブラジルはリオデジャネイロにおいて、20世紀へとルーツをたどることのできるジャンルである。
しかし、トレンドを高速回転させるTikTokの場においては文脈が切り離されて展開し、ほとんど従来とは異なるジャンルへと変わる。そして、すでに異形となったジャンルに接ぎ木されるようにして現れたのが「Japanese Funk(ジャパニーズファンキ、と読む)」だった。
J-POP風の歌詞は書けてもオーラルな言葉をしばしば誤読する機械が蔓延し、いよいよ表面だけ流暢に言葉が流れていくだけの時代に入ろうとしているようだ。しかし「Japanese Funk」には、まだ奇妙な直訳調の手触りが残っている。この違和感を頼りに、同ジャンルの起源を確かめていこう。
Phonkの台頭と、Funkの席巻の歴史
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アボかど @cplyosuke
取材も交えた文字通り徹底的な検証。めちゃくちゃおもしろかったです。アボかどの記事も参照されています
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