2005年⽣まれのシンガーソングライター&プロデューサー・野本慶によるソロプロジェクト、Meg Bonusのニューアルバム「TO THE YOU (ME) I MET BEFORE」がリリースされた。
さまざまなジャンルを横断する先鋭的かつ普遍的な音楽性で注目を浴びるMeg Bonus。気になる新作は、「夢の中を旅する少年が孤独を受け入れる」というコンセプトのもと、先行シングル「MERMAID」、17歳のときに原型が作られたという「LOVE」など全10曲で構成されている。
音楽ナタリーではマスタリングチェックを終えたばかりの野本にインタビュー。コンセプトアルバムを作ろうと思ったきっかけや、“夢の中”を表現するためのアイデア、収録曲の制作秘話を聞いた。「高校1年生の頃に曲を作り始めてから、今、初めて曲を作っていない状態」という彼の達成感に満ちた言葉を受け取って、アルバムをより深く楽しんでほしい。
取材・文 / 天野史彬撮影 / kokoro
夢の中を泳いで、自分の孤独と向き合う
──2ndフルアルバム「TO THE YOU (ME) I MET BEFORE」を聴かせていただいて、Meg Bonusの過去作のどれとも違った、胸を締め付けられるような、懐かしくなる感覚がありました。本作はどのようなテーマを持って作られた作品なのでしょうか?
無意識下にあるものを意識化することでトラウマを取り除いていく、フロイトの「精神分析」という心理療法があって。それについての本を読んでいたら、「夢の中に無意識の自分自身が出てくる」という話と、起きたときに夢を記録する精神分析の方法が紹介されていたんです。それを読んだとき、「夢の中を泳いで、自分の孤独と向き合う」というコンセプトが浮かびました。もともと「コンセプトアルバムを作りたい」とは思っていて。
──それはなぜですか?
一貫したアルバムのほうがいいものになると、ずっと思っていたんです。ヨルシカやフランク・オーシャンのような僕が影響を受けてきた人たちも、コンセプトが明確なアルバムを作っている。それでずっと自分でも作ってみたかったんです。
──これまでMeg Bonusとして「18PERSONAL」「New,man」「LOSS」と、2作のEPと1作のフルアルバムを発表されてきましたが、その流れがあったうえで「今だったらコンセプトアルバムが作れる」という感覚もありましたか?
そうですね。1枚目のアルバム「New,man」(2025年4月発表)のときは時間的にも経験値的にもできなかったけど、2枚目のフルアルバムでは絶対にやろうと思っていました。今回は、一切の妥協をしていません。アルバムとして聴いてもらうことを前提に作りました。
──コンセプトをどのような音楽性で具現化しようと考えましたか?
今までのようにリファレンスを明確に決めたわけではなく、自分から出てきたアイデアを大切にしながら作ったので、自然に生まれた部分が多いと思います。アルバムの全体像として念頭にあったのはポーター・ロビンソンの「Nurture」(2021年発表)と、Bon Iverの「22, A Million」(2016年発表)というアルバムで。あの2作くらい、アルバムを通して一貫した目線を持ちたかったんです。そのうえで、タイトル曲の「TO THE YOU (ME) I MET BEFORE」が去年の夏前くらいにできたんですけど、バンッと広がりのある音楽が作れたなと思って。この曲を起点にアルバムの構成も思いつきました。前半は、夢の中で地に足のつかない状態を表現するために主にビートレスにする。そのあとビートが入ってきて、目が醒めた状態を表現する──そういう流れを、一旦ノートに書き出しました。
──タイトル曲で開けた表現が生まれたというのは、どういった理由があったのだと思いますか?
いろいろと、解放されたような人生の瞬間があったんです。あの……まあ、だいぶいろいろあったんです(笑)。
──はい。
それが去年の夏前の温かくなってきた時期で。僕、ポーター・ロビンソンとかに出会う前から高木正勝が好きなんですけど、高木正勝のような幻想的な雰囲気の曲を作りたいというずっと抱いていた気持ちと、自分の解放された感情がマッチしたんだと思います。
──今のお話を聞いて思うんですけど、今回のアルバムは野本さんにとってかなりパーソナルな作品であると言えますか?
言えますね。
──それは、これまで発表されてきた作品ともまた違った体感の作品なのでは?
そう思います。ここまで明確に言葉やテクスチャーにパーソナルなものを打ち出したことはなかったし、それゆえに恥ずかしくもあった。でも、作っていて「これだ」という感覚もありました。「ずっと、こういうことをやりたかったんだ」って。
──では、完成したときの手応えも大きかったですか?
そうですね……というか、完成したのは2時間前くらいなんですよ(※取材は3月上旬に実施)。この取材部屋の下の階でマスタリングチェックしていたんです。曲間が決まったのも、ついさっき(笑)。
──そうか、僕が聴かせていただいたのはマスタリング前の音源でしたね。
この2時間くらい、不思議な感覚で。高校1年生の頃に曲を作り始めてから、今、初めて曲を作っていない状態なんですよ。ここ5年くらい、曲を作らなかった日は1日もなかった。旅行先にも曲作りの機材を持って行くし、常にリファレンスを聴き続けているような生活でした。それなのに、浮かんでいるアイデアはあっても「まあ、今はなにもしないでいいや」と思えている。それくらい今回のアルバムは達成感が大きいですね。
──高校1年生の頃から毎日休まずに曲を作り続けてきた、その原動力はなんだと思いますか?
ああ……。報われない感じ、じゃないですかね。人生の。「これがあるから、人生があんまり楽しくなくてもいけるかな」って、曲作りをしながら思っていました。曲作りを始めるまで、人生をそんなにうまくやれていない感じがあって。でも、自分の中に芯となるものがあれば、それにすがりついていれば、どうにかなるじゃないですか。常に満たされないものを埋めているときにだけ、「そこにいてもいい」と言われているような。そういう感覚がずっとあったんです。
──そんな野本さんが今「曲を作らなくてもいい」と思えているのは、アルバム「TO THE YOU (ME) I MET BEFORE」の存在が本当に大きいということですよね。着地したような感覚はありますか?
着地したかも。着地したから、また次に進めるかな。本当に、作ることができてよかったアルバムです。
──今回のアルバムは、今まで以上に歌に向き合われたのではないかと思いますが、どうですか?
そうですね、向き合ったかな。シンプルに地声を出すようになりました。裏声も使っているけど、それはカタルシスを出すための裏声であって、基本的には地声でいこうと決めていました。今までは自分の声が好きではなかったので、「ボカロPになりたい」とか、誰かフィーチャリングゲストを呼びたいと思っていたんですけど、このアルバムでそれを言っても仕方がないなって。それで、自分の声でどう聴かせられるかは考えましたね。
生々しくもきれいな音楽が生まれたとき、付いてくる感情
──ここからは1曲ずつ、どのような音楽的アイデアや思い浮かぶ情景があって生まれたのかを伺います。1曲目「OVERLAP」は鮮烈な幕開けを飾る曲だと思いますが、どのように生まれた楽曲ですか?
この曲は、うなされながらもどうにか眠りにつこうとする──そんなイメージがありました。サウンドデザインとベースで入ってくれている高橋佳輝さんの「寂」(2024年発表のアルバム「杳杳」収録)という曲がすごくよくて。その曲をサンプリングして、そこにビートを乗せたいというアイデアがずっとあったんです。それを起点にイントロを作ったんですけど、「なんか違うな……」となり、その部分をアウトロに持っていったら、すごくハマった。なので、この曲はアウトロから逆算するようにしてイントロまでを作っていったんです。逆算しながら作ったからこそ、「眠りに入っていく」ということが考えやすかったのかもしれない。
──高橋佳輝さんは前作「LOSS」でも一緒に制作されていましたが、高橋さんの「寂」という曲は今回のアルバムの8曲目「LOVE」でもサンプリングされていますよね。そのくらい、野本さんにとって大きなインスピレーション源ということですか?
そうですね。佳輝さんの存在自体が僕にとっては大きいです。今回のアルバムでは3カ所で「寂」をサンプリングしているんですけど、フランク・オーシャンのアルバム「Blonde」(2016年発表)で、バディ・ロスの「Running Around」という曲がメタファーや回想のように差し込まれている部分がいくつかあって、そこから着想を得ました。
──「もう疲れたな。」という言葉でアルバムが始まることで、アルバムを聴いている自分の日常と、このアルバムで描かれるものが深く重なる感覚がありました。「疲れ」の感情に、聴き手とアルバムをつなぐ普遍的なものがあるように思ったんですけど、この歌い出しについてはどんなことを意識しましたか?
これは自然と出てきた言葉ですね。あと、このアルバムの歌詞については、自分ではあまり言及しないでおこうと思っていて。
──わかりました。ただ、先ほど名前が出たフランク・オーシャンの作品のように、音楽的には先進性を持ちながら、同時にとても個人的で人間的なものが表現されている音楽を野本さんも追い求めているんだなと感じます。
そうですね。作りながら自分自身にとってセラピーになるような。そうやって生まれた音楽が、生々しくて、でもすごくきれいなものになったとき、「あの出来事はドラマだったのかもしれない」という感情が付いてくる。そういう音楽が作れたらいいなと思います。
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ストリングスがもたらす美しさ、寂しさ



