ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.7(前編) [バックナンバー]
「フリースタイルダンジョン」モンスターたちのバトル史:サイプレス上野&輪入道
即興だからこそ、何をどう言うか
2024年6月13日 19:00 10
「罵倒」で揉まれて鍛えられた
──
KEN そこに10代で参加するのはヤバいよね。
輪入道 そうっすね。いろいろありました(笑)。
KEN いろいろ(笑)。
輪入道 当時は現場で野次を飛ばし合う空気があったんだけど、俺も一線を踏み越えた野次を飛ばしちゃって、それが原因でトラブルになったり。それは完全に自分が悪かったんで反省したし、「こういう内容は許されないんだな」みたいなことを、実地で学んだという感じはありますね。
サ上 そういうのは絶対あるよね。
輪入道 即興でのバトルは、韻のはずみで言うべきではない発言が出てしまうことがあると思うんですよ。本当に悪気がなくても、出てしまった言葉は戻せないし、痛い目にも合う。だから“何をどのようにラップするのか”みたいな、根っこの部分は「罵倒」で学びましたね。
KEN 揉まれて鍛えられるというのは確実にあるよね。
サ上 KENもメシアTHEフライとバトルでかなりやりあってたじゃん。恵比寿・MILKの裏とかでも揉めてたし。
KEN そうね。シカトはしないけど、日常会話は絶対しなかった。普通にムカついてるし(笑)。でも暴力沙汰はないんだよ。
サ上 それがすごいよな。MSCとダメレコでバチバチにやってるし、KENも口が悪いじゃん、実は(笑)。
KEN 今のバトルは「板の上の発言だから」「バトルだし」みたいな雰囲気があるけど、当時はステージでバチバチにやってて、バトル後の楽屋でも“ゼロ距離”は何度もあった(笑)。お互いに若くて、いろいろ言いすぎてたと思うし。だけど直接行動はみんな自制してて。
サ上 だからラップバトル、ヒップホップのアートフォームをダメレコもMSCもわかってたんだよね。
KEN 輪入道が初期に出てた現場はどうだったの?
輪入道 まあ直接行動もありつつ(笑)。やっぱりステージと観客の距離が近いから、自分の発言の“答え合わせ”は、いずれ起きるんですよ。その中で「これは間違ってた」「これは言うべきではなかった」ということを肌で学んで、発言にちゃんと責任を持てるようになったら、そういうことも減りましたね。
サ上 攻撃的なスタンスだけど、理不尽で変なことは言わなかったり、筋が通ってるのが輪入道のスタイルだと思うし、それがその結果に結び付いてるんだろうな。
輪入道 逆に言えば、めっちゃ理不尽なことを言ってきたし、言われてきたから、自然にそれが整理されて、調整されて、今に至るというか。
サ上 アップデートされたんだ。なんでもかんでもアップデートするのはあんまり好きじゃないけど、それでもラッパーは言葉を使う職業だからこそ、その使い方はやっぱり気にするし、気にするべきだよね。考えることは絶対大事。本読んだり、映画観たり、人と話すなかでも、「これはよくないな」「これは見習おう」と思うことは絶対あるし、MCバトルだってそう。それに人のことを傷つけることが多いシステムだからこそ、そこで何をどう言うかは、即興だからこそ大事だよ。即興だから許されるんじゃなくて、即興だからこそ、その人が出るわけだから。
KEN 口が滑ることはあるけど、ポリシーや自分のイズムを超えたことは、なかなか言葉では瞬時に出てこないからね。バトルでキャラクターを作り上げて、そのうえで発言しても、それには限界があるし、そんなに即興は甘くはない。でも逆に言えば、ポロッと深層心理が出てしまう怖さもあるよね。
サ上 やっぱり輪入道は、人を無闇に傷つけたり、おとしめたりしないことがバトルからも伝わってくるしさ。そういうやつじゃないと、やっぱりずっとバトルはできないよ。
言葉に気をつけないといけないのは誰しも一緒
──一方で、バトルがテレビ放送やYouTube配信によってアーカイブ化されることで、自分のコントロールを超えて、言葉が残ってしまうという傾向もありますね。
KEN 試合がアーカイブ化されるのも大事だけど、一部が切り取られたり、常識が変わる中でそれが“不適切な発言”としてやり玉に上げられる可能性も絶対にある。
──過激な言葉が切り取られて、それが炎上の燃料になることも実際に起きているし。
KEN バトルに限らず、人はより過激なほうを求めがちだけど、「あいつこんなひどいこと言ってたぞ!」というようなことは今後も起きるだろうね。
サ上 「マザファッカー」とか「ぶっ殺す」みたいな言葉は慣用句的に出ちゃったりするし。だけど「ダンジョン」で「これはテレビだから止めよう」みたいなことは思わなかった。結局それでSNSがガンガン燃えたし、むしろそれに返す俺の口調のほうが悪くて余計燃えたけど(笑)。
KEN 酒呑んでSNSやるからだよ(笑)。
サ上 「ダンジョン」でモンスターとしての俺の勝率が下がってるとき、番組スタッフがサ上とロ吉のコメントを撮りにきて。で、景気いい発言を引き出すためか、番組がガンガンテキーラを呑ませてくれたんだけど、インタビューで「上野さんの負けが込んでますけど」みたいな、かなりざっくりした聞き方をスタッフがしたんだよね。その瞬間、酔っ払った吉野が「てめえ、人の負けがそんな楽しいのか! この野郎!」ってスタッフにつかみかかって(笑)。
輪入道 演出じゃなくて!?
サ上 ガチンコ。「バトル戦ってる人間の気持ちがテメエにわかんのか!」って興奮しちゃって。「やめろやめろ! あとそれ俺のセリフだから!」みたいな(笑)。それで一緒にいた番組の前説のゆんぼだんぷが、吉野をあの肉の間に挟んで止めてくれた(笑)。半分余談みたいな話だけど、言葉に気をつけないといけないのは誰しも一緒だと思うし、ラッパーならなおさらだよね。
──その質問も、聞き方を変えればまた反応も違っただろうし。
サ上 気を使われすぎたら俺がキレてたかもしれないし。
──結局ダメだ(笑)。
サ上 結局「バトルで人が傷つけ合う」のが観たいのか、「バトルでその人たちの何かが発信される」のが観たいのか、それをリスナーは見極めないといけないよね……いいこと言いすぎたからもう1本飲んでいい?(笑)
サイプレス上野(サイプレスウエノ)
サイプレス上野とロベルト吉野のマイクロフォン担当。通称・サ上。大型フェスやロックイベントへの出演、アイドルとの対バンなどジャンルレスな活動を展開。2020年にはサイプレス上野とロベルト吉野が結成20周年を迎え、同年7月に結成20周年コラボEP「サ上とロ吉と」をリリース。2022年には漢a.k.a GAMI、鎮座DOPENESS、TARO SOUL、KEN THE 390、tofubeats 、STUTSらが参加する7枚目のオリジナルフルアルバム「Shuttle Loop」をリリースした。2015年よりテレビ朝日系で放送開始されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」では初代モンスター、2代目司会進行役を務めた。
サイプレス上野とロベルト吉野official website
輪入道(ワニュウドウ)
1990年、東京生まれ千葉育ち。2007年にラッパーとしての活動を開始。2013年に自らが主宰するレーベル・GARAGE MUSIC JAPANから1stアルバム「片割れ」をリリースした。フリースタイルを得意とし、数々のMCバトルで好成績を収める。「MC BATTLE THE罵倒」では2014年、2016年、2018年の3度優勝。テレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」では2017年8月より2代目モンスターを務めた。2023年7月に5枚目のアルバム「朝が満ちる」をリリース。
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。
※記事初出時、クレジットに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
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輪入道 @rap_wanyu
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