ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.5(後編) [バックナンバー]
若きモンスターの苦悩と成長:T-Pablow
「フリースタイルダンジョン」での経験、R-指定とのエキシビションマッチ
2024年2月29日 19:00 19
「凱旋MC BATTLE」で5年ぶりのバトル
──卒業後すぐに
KEN 5年ぶりのバトルだったけど、どういうモチベーションだったの?
T-Pablow キャバクラ接待とギャラで受けた部分もありますけど(笑)、個人的な気持ちとしては、2人目の子供が産まれたというのもあって、自分に活を入れたかったのはありますね。父親としてたくましくありたいなって。
──活を入れることができるのは、MCバトルだったと。
T-Pablow やっぱり、自分の人生を変えたのはMCバトルですからね。あと、自分に自信がなくなってた時期でもあったんですよ。自分のソロとBAD HOPとの動きに齟齬を感じたり、ラップに対して葛藤みたいなものを抱えていて。新しいラッパーもどんどん増えていく中で、自分に自信を取り戻したいと思ってたし、それにはMCバトルが、今の俺にはいいんじゃないかなと。
──でも、絶対に勝つという確証はないわけだし、負ければ自信を喪失することになるかもしれなかったですよね。
T-Pablow 「最近のバトルはレベルが低いな、大丈夫なの?」という気持ちをその時期は感じてたんですよ。バトルを観ても「ダンジョン」の頃のほうがレベルが高かったと思ってたし、「このレベルなら勝てるでしょ」と思ってましたね。スタイルや言うことの内容の幅の広さとか、全部を考えても、「俺が負けることある?」って。
──「レベルが低い」というのは具体的には?
T-Pablow バトルをやりすぎなのか、勝つためのモチベーションがないのか、言うことがなくなったからなのか、出るメンツがあまり変わらないからか……いろんな理由があると思うんですけど、「ダンジョン」のときのような爆発力は、ここ最近は乏しくなって、なんかキレが悪い感じがしてたんですよね。
KEN 勝敗へのこだわりが落ちてるとかはあるかもね。
T-Pablow 全体的に熱量が低いというか。だから、この温度だったら俺は勝てると思ったんですよね。BAD HOPがドームに進んでいく中で、ここでみっともない試合をしてさっさと負けたら、俺だけじゃなくてBAD HOPへのダメージもかなりデカいよな……という覚悟や熱があるからこそ、相手には負けないなって。でも、あの日はMU-TON(現COCRGI WHITE)くんと当たってたら、もしかしたら負けてたと思いますね。
KEN そんな分析もしてたんだ。
T-Pablow 自分のビートの乗り方とラップの性質を考えると、相性はよくないなと思ってて。相手も言いたいことはあるだろうし、16小節2本だったら厳しいかもな、って。
KEN あの日のパブロは、まずラップがとにかく聴き取りやすかった。
T-Pablow 言葉を詰め込むのだけはやめようと思ってましたね。アリーナクラスになると、音が周りまくって、何を言ってるかわからないし、正直フリースタイルでは余計に巧いラップはできないな、というのは、これまでの経験上わかってて。だからとにかく間を取って、わかりやすくラップしようと思いました。
KEN 自分語りも極まってたよね。やっぱり、あの場でパブロが何を言うのかはみんな知りたかったと思うし、そこで田園調布に引っ越したとか、子供が産まれたとか、初めて聞くような情報を言ってくれるじゃん。そのたびにオーディエンスが爆湧きしたのは、パブロの発言にニュースバリューがあって、スターとして確立されてるからだよね。言い方は変だけど“一人文春砲”みたいな面白さがあった(笑)。
T-Pablow 相手のことをほぼディスってないと思いますね。
──CHICO CARLITO戦での「ラップしてなかったら入ってるよ刑務所 / 今、稼ぎすぎて目つけられてる税務署」とか、今の
T-Pablow 「高ラ」とかで審査員をやらせてもらったのも大きかったですね。「こういうポイントの稼ぎ方があるんだ」とか「ここでパンチラインがあったら勝ってたな」みたいな、評価の仕方がわかるようになってた。あの日も客判定だったらもっと巧いラップ、ガンガン押すようなラップをしてたと思うけど、審査員判定だったんで、ポイントを稼ぎながら、徐々に押していくというか。そうやって派手に全部KO勝ちするっていうよりは、ポイントを稼ぎながら、65対35で勝つようなイメージでずっとやってましたね。
──「高ラ」のような高校生のバトルを審査して、感じることはありましたか?
T-Pablow 自分の人生が変わったイベントだからこそ、ちゃんと向き合って、しっかりと審査するという気持ちは強くありました。その子の今後の人生に関わることですからね。
──重みがわかる立場だからこそ、丁寧に審査するというか。
T-Pablow だから大変でした、すごく。
KEN 「激闘!ラップ甲子園」もそうだけど、今あの場に登場するラッパーって、パブロたちに憧れた世代の子たちだもんね。
T-Pablow 自分が上に上がることは想像してきたけど、自分たちに憧れる下の世代が出てくることは想像してなかったんで、すごくうれしいですね。
R-指定は“化け物” FSLでのエキシビションマッチ
──そして2022年10月3日、「フリースタイルリーグ」(FSL)において、R-指定とのエキシビションマッチが行われました。
T-Pablow FSLの企画段階には俺も関わってたんですよね。でも、計画が進む中で自分の想定とはちょっと変わりそうだったんで、少し距離は置いていて。ただ、FSLが実際にスタートする段階で「パブロにも出てほしい」という話があったんで、「じゃあRくんとやってみたいです」と。それでイベントで一緒になったときに、Rくんに直接相談したんですよね、喫煙所で(笑)。
KEN 喫煙所コミュニケーションで(笑)。
T-Pablow Rくんとはモンスター同士だったから戦ったことがなかったし、一度は戦ってみたいと思ってたんです。バトルって戦うと相手の脳を覗く感覚があるじゃないですか。そこに興味があって。
──実際に覗いてみていかがでしたか?
T-Pablow 化け物でしたね。異常な情報量を的確に全部当ててくるから、こっちはどこに焦点を絞って当てればいいかわからなくなって、完全にお手上げ状態。
KEN パブロも超エグかったと思うけどな。Rがナイフで細かく指すとしたら、パブロは日本刀で叩き斬るみたいな。スタイルは違えど、お互いに確実に殺しにいってた(笑)。
T-Pablow 「サイファーみたいな感じになったら楽しくないし、ちゃんとパンチを当てていきましょう」とは話してたんですけど、もう10対0で負けたと思ってましたね。だからRくんが「もう1回やろ」と言った瞬間は「マジか! 勘弁してよ!」と(笑)。でも、お客さんもその言葉に湧いてたから、俺がいいやつキャラになるしかない、そこだけは譲れないと思って、「よし! 2回目やりましょう!」と俺がRくんより大きく宣言して面子を保つという(笑)。
KEN 2回目はお互い、より温まってエンジンがかかった感じがしたし、パンチラインの応酬をしてたと思うけどね。
──これからもオファーがあれば、バトルに参戦する可能性はゼロではない?
T-Pablow まあ、さっきはギャラとかキャバクラとか言いましたけど、それは冗談で、「そこに出る義理があるか」「出ることに意味があるかどうか」ですね。関係性や意義を感じるオファーがあれば考えます……けど。まあ、この「けど」で感じ取ってください(笑)。
──最後に、これからのバトルシーンはどう進んでいってほしいですか?
T-Pablow もっとプロっぽくなったほうがいいなと思いますね。ただ、会場の規模はもっと小さくなってもいいと思う。本当に地下闘技場みたいなところでバトルするほうがいいと思うんですよね。お客さんも近くで観たいと思うし、ラッパーとしても大きい会場だと、相手の言葉を聴き取るのも、自分が巧いラップをするのも難しいから。だから、そういう小さな規模で何度もバトルが組まれたり、大物同士のエキシビションがあったりしたうえで、年に1回でチャンピオンズリーグみたいなことが行われると、見応えがあるのかなって。そして、そこでプロが成り立つと、より面白くなるんじゃないかなと思いますね。
T-Pablow(ティーパブロウ)
神奈川県川崎市出身のラッパー。2012年、K-九名義で出場した「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」第1回で優勝。2013年には、同大会の第4回で現在のT-Pablow名義で再び優勝を飾った。2014年、地元・川崎で結成したクルー・BAD HOPとしてコンピレーションアルバム「BAD HOP ERA」をリリース。同年に双子の弟であるYZERRとのユニット、2WINを結成した。2015年よりテレビ朝日で放送開始されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に初代モンスターとしてレギュラー出演。2017年には、ソロデビュー作となるミニアルバム「Super Saiyan1 The EP」をリリースした。2024年2月19日、東京ドームにて開催されたライブ「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」にてBAD HOPを解散。
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表している。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。
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