左からT-Pablow、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.5(後編) [バックナンバー]

若きモンスターの苦悩と成長:T-Pablow

「フリースタイルダンジョン」での経験、R-指定とのエキシビションマッチ

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ラッパーのKEN THE 390がホストとなり、MCバトルに縁の深いラッパーやアーティストと対談する本連載。EPISODE.5の前編では、ゲストのT-Pablowがバトルとの出会い、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(「高ラ」)優勝後のエピソードを語った。

後編では、バトルブームの火付け役となった番組「フリースタイルダンジョン」初代モンスターとしての経験や、2022年の「凱旋MC BATTLE」について、さらに「フリースタイルリーグ」(FSL)で行われた、R-指定とのエキシビションマッチを振り返る。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

「フリースタイルダンジョン」初代モンスターの苦悩と成長

KEN THE 390

KEN THE 390

──2015年にMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」がスタートし、T-Pablowさんは初代モンスターに抜擢されます。

KEN THE 390 「ダンジョン」の話を受けたときはどう思ったの?

T-Pablow 正直「危ないな……」と(笑)。

KEN ははは! 「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(「高ラ」)での経験上そう思うよね(笑)。

T-Pablow 毎週のようにバトルに出ることのしんどさや、もっとちゃんとした大人といろんな交渉をするようになることを考えると、一瞬悩みましたけど、「高ラ」を超えるデカいプロジェクトだと理解してたし、ここで出なかったら売れないなとも思ったんですよね。そのとき俺は19歳だったんですけど、自分の周りはYZERRも含めて音楽で飯が食えてなくて、俺もちょっと小遣いが稼げてる程度。20歳というタイミングが迫って、俺は音楽で生きていこうと思ってたけど、不良の世界に入ることに腹を決めてるやつもいた。その中で、みんなまとめて音楽で飯が食えるようになるために、自分だけじゃなくてBAD HOPとしても知名度や影響力を高めるために、自己犠牲じゃないけど、「ダンジョン」に出るべきだと思ったんですよね。

KEN 「高ラ」でMCバトルが一般的にも話題になってたとはいえ、「ダンジョン」が始まるまではブームというほどではなかったし、「ダンジョン」自体がどうなるかも最初はわからなかったじゃない?

T-Pablow そうですね。

KEN 最初は「のぼりを持って山車に乗って登場する」とか、バラエティ的な要素もあったし。

──「のぼりはキツいからやめよう」というのはモンスター側からの提案だったらしいですね。

T-Pablow 実はのぼりに関して、俺は何も思ってなかったんですよ。「なんか持たされてんな~」ぐらいで(笑)。

KEN そうだったんだ(笑)。パブロは「MC BATTLE THE罵倒」や「KING OF KINGS」にも出場したけど、そんなに対戦数は多くなかったし、基本的には「ダンジョン」で高校生以外のラッパーと戦うことになったけど、感触は違った?

T-Pablow びっくりしましたよ。「こんなにレベルが違うんだ」「全部で負けてる」みたいな。プロスポーツとかでよくある、高校卒業してプロの世界に入ったら全然違ったという感じでしたね。でも「『高ラ』とはバトルの進め方が全然違うな」という部分に早めに気付いて、適応できたのは大きかったかもしれないですね。

KEN 具体的にはどういう違いを感じたの?

T-Pablow 「引き出しを作って、それを熱くフロウすると勝てる」のが初期の「高ラ」だとしたら、「即興のラップでディベートして論破する」というのが「ダンジョン」だったんですよね。今でこそ「ダンジョン」の方法論を、高校生でもできるようになってるけど、俺らのときはまだそれがみんなできなかった。でも逆に「高ラ」では「ダンジョン」のスタイルでは湧かなかったと思うんですよね。

KEN 「高ラ」は“熱”を求めるもんね。

T-Pablow 俺は「ディベートする」「論破する」みたいなスタイルが苦手なんですよね。相手の話を聞いてると感心しちゃう(笑)。

KEN 「うまいこと言うな~」って(笑)。

T-Pablow 収録前の肩慣らしで、モンスター同士でサイファーしてたんですけど、R(R-指定)くんとか(サイプレス)上野さんは「その場での切り返し」がめちゃくちゃ巧いんですよね。でも俺はそれができなくて、いまいちサイファーに入りきれなかったときもあって。最近でも、呂布カルマさんのディベートとかを見て、俺だったらどう返すかなとか考えたりもするんですけど、「あ、そういう話に持ってくの? すげーな」って感心してしまう。それに、相手の発言の矛盾点を突くのも苦手なんですよね。

KEN でも、パブロはバトルのときに相手の言葉を冷静に聞くタイプだよね。

T-Pablow 聞いてるけど「……だからなんなんだろう?」と思ってしまうんです(笑)。何か言われても何も感じないから、矛盾も気にならない。「お好きにどうぞ」という感じで、他人に対して興味がないんですよね。

KEN それだとディベートや相互コミュニケーションにはなりにくいから、今のバトルのスタンダードとは相性が悪いよね。言い負かしてやろうと思わないわけだし。

T-Pablow まったく思わないですね。だから最初、「ダンジョン」で勝てなかったと思うんです。でも、そこでどうすればいいのかを考えたときに、「自分のスタイルを、フレックスをぶつける」という方向を見つけて。相手と距離を置きながら、自分のスタイルを出し、フレックスを形にすることで、ポジションを確立させるというか。

──ボクシングでいえば、アウトボクシングのような感じですね。

T-Pablow ただ、やっぱり気合いや気持ちは大事だと思いますね。「なんで俺は戦う前から負けることを気にしてたんだろう。勝つ前提でいなくちゃ。そもそも勝つ人は負けることを気にしてない」という気持ちや姿勢は、般若さんのバトルから学びました。

KEN そういうふうに自分の弱点を克服していく部分も含めて、初期の「ダンジョン」は「T-Pablowの成長物語」でもあったと思うんだよね。実際に最終的には勝ちまくるようになったわけだし。

──そして自分のスタイルを確立して、フレックスの規模を大きくしていったということが、その言葉に説得力を持たせて、勝率につながったんだとも思います。

KEN 「このフレックスの先に何があるんだろう?」って、パブロのバトルは曲が聴きたくなるんだよね。曲まで聴きたくなるバトルと、そこで完結しちゃうバトルがあるけど、パブロは常に前者のバトルをしてると思う。しかも、バトルで出してるメッセージが曲とリンクしてるし、音源ではそのカッコよさが純化してるのも大きい。

T-Pablow バトルするときの脳と、音源を作るときの脳が、自分の場合はあまり変わらなかったのもあるかもしれないですね。感覚は一緒というか。楽曲で使えるようなパンチラインを、可能な限りバトルでも出したいと思ってたし。

「フリースタイルダンジョン」からの卒業

左からT-Pablow、KEN THE 390。

左からT-Pablow、KEN THE 390。

──これはR-指定さんから伺ったんですが、番組収録の打ち上げで、RさんとCHICO CARLITOさんとT-Pablowさんの3人で、Zeebraさんに降板の相談をしにいったそうですね。

T-Pablow 番組開始から2年ぐらい経ったときだったんですけど、Rくんと楽屋にいたら、深刻なテンションで「なあパブロ、『ダンジョン』どう思う?」と聞かれて。もうそのテンションだから、「ダラダラと続けるよりは、辞め時をしっかり考えた方がきれいだと思います」と答えたら、「せやんな」みたいな(笑)。

──誘導尋問だ(笑)。

T-Pablow で、その日の打ち上げで、Zeebraさんの前で「3人で話し合ったんですけど」という話になって、「え~! 話し合ってはないよ!」と(笑)。

──ははは! でも、辞め時は考えていたんですね。

T-Pablow 考えてましたね。それは自分の活動やBAD HOPとしてもそうだし、「ヒップホップシーンのため」という部分でもありました。「ダンジョン」を通して確実にファンは獲得できたし、そこで興味を持ってくれたファンを勘違いさせないためにも、バトルや「ダンジョン」じゃなくて、BAD HOPの音源やライブを通して、自分や自分たちのスタンスを明確にする時期にきてるんじゃないかなって。もっと言えば、新しいリスナー、まだ理解が追いついてないファンに、バトルじゃなくて、少しずつでもヒップホップを伝える時期なのかなというのは、Rくんと話す前から考えていたんですよね。バトルシーンの話としても、バトンタッチじゃないけど、例えば自分だったら裂固のような人間に、この場所を譲る時期だとは感じてました。

──バトルはバトル、音源は音源、と切り分けられなかった?

T-Pablow 自分はそう割り切れなかったからこそ、キツかったんですよ。日本のヒップホップも大好きですけど、アメリカのヒップホップに衝撃を受けてラップを始めたはずなのに、「高ラ」で「あれ? このままだと自分が目指してるところには行けないな……」と感じていた溝が、「ダンジョン」でさらに大きくなっていって。まったく知らない初対面の人に人格否定されて、印象操作されて……それも込みでバトルが面白いのはわかってるんだけど、それを続けていくと、自分がやりたいこととかけ離れていくし、このままじゃ後戻りできなくなるな、と。もっと本音で言えばバトル中に「なんでこんなガキにナメられねえといけねえんだ? 高額納税者ぞ? 我は!」とずっと思ってましたし(笑)。

──主語が「我」になるぐらい(笑)。

T-Pablow 自分のなりたいラッパー像とかけ離れていくばっかりだから、「ダンジョン」に出てる最中はずっと荒れてましたし、私生活は本当にひどかったと思う。BAD HOPのメンバーとの関係も当時は正直あまりよくなくて、「俺はがんばってるのに、なんでアイツらはちゃんと動かねえんだよ」とイライラもしてて。正直、毎週バトルを続けたい人なんていないと思うんですよ。漢(漢 a.k.a. GAMI)さんですらキツいと言ってましたから。

KEN 2017年8月2日放送回で「ダンジョン」を卒業したけど、そこで精神は安定した?

T-Pablow めちゃくちゃよくなりました(笑)。BAD HOPの動きも大きくなって、状況も好転していって。

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「凱旋MC BATTLE」で5年ぶりのバトル

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KEN THE 390 @KENTHE390

T-Pablowとの対談、後編が公開されました!

ぜひご覧ください! https://t.co/lQfFsu5PHS

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