有安杏果 ニューアルバム「雫ノ音」全曲解説|11のストーリーに刻まれた時間と感情

有安杏果がニューアルバム「雫ノ音」(しずくのね)を4月15日にリリースした。

彼女の音楽的なルーツから現在地までを語ってもらった前回のインタビューに続き、今回は新作の全曲解説インタビューを実施。アルバムに収録された全11曲について、1曲ずつ制作の経緯や歌詞に込めた思いを聞いた。

数々のソロライブやツアーで披露してきた楽曲から、ももいろクローバーZ在籍時に初めて作った「ペダル」「ハムスター」の再録バージョンまで、それぞれの曲に刻まれた時間と感情を、有安自身の言葉でたどっていく。

取材・文 / 柴那典撮影 / 宇佐美直人

1. 夢の途中

この曲は2019年のZeppツアー(「有安杏果 Pop Step Zepp ツアー 2019」)が終わったあとに「自分のオリジナル曲が足りないな」と思って作り始めました。そのときにいくつか作った中で、最初に取りかかった曲です。作曲を始めたばかりの頃は楽器が使えなかったので鼻歌で作っていたけれど、この頃からようやく自分でコードを付けて、弾き語りの状態でアレンジャーさんに渡せるようになって。この曲はピアノで作りましたね。たまたま聴いたカッコいいアレンジの曲にインスパイアを受けて、その勢いでピアノをガシガシ叩くように。コード進行とほぼ同時にメロディが浮かんできました。

──Aメロが3拍子で、サビが4拍子。けっこうテクニカルなアレンジですよね。

最初に私が作ったデモはまったくそんなエッジの効いたアレンジではなく、普通に4/4で作って送ったんですけど、アレンジしてくださった宮崎(裕介)さんが「Aメロがちょっとモタついてるな。もうちょっと何とかできないかな」と時間をかけて考えてくださったんです。しばらく経った頃、「この曲、3拍子にしていい?」って。そのときは正直、3拍子にして何が変わるのか、あんまりよくわかってなかったんですよ。でも絶大なる信頼を置いている宮崎さんの意見なので「お願いします」と。そんな感じでアレンジは宮崎さんが考えてくださいました。

──歌詞に関してはいかがでしょうか。「夢の途中」というフレーズが、この曲を書いたときの有安さん自身のリアルな気持ちだったんじゃないかと思うのですが。

全曲、基本的に何%かの自分の思いは入っていますね。あとこの曲は、ちょっとアニソンをイメージしたところもあります。いつもメロディからストーリーや伝えたいメッセージが生まれて、そこに向かっていくんですけど、この曲はワンコーラスできた時点で「負けない、強い女の子」を主人公にしようと思って。そこに自分を重ねながら書いていった感じです。

2. 靴ひも

「靴ひも」は制作に一番時間がかかりました。曲は先にできていたんですけど、歌詞が大変でした。メロディがワンコーラスできたときに「さわやかな恋愛ソングにしたい」と考えたものの、全然書けなくて。最初は自分とかけ離れた主人公で書いてみたんですけど、あまりにも共感できなくて、「違うな」と1回寝かせてたんです。曲は2020年の頭くらいにできてたんですけど、歌詞を書いたのは梅雨の頃でした。

──曲調としては、わりと明るいアイドルポップ風ですよね。

それが、自分にとっては明るすぎて元気すぎて、しんどかったんです。曲を作ってはみたものの、「この曲の歌詞は私には書けない」みたいな感じで……すごく苦戦しました。それでちょっと考え方を変えようと、2番から書いてみることにしたんです。2番はもうちょっと自分らしく書いてみようと。「コーヒーは煮詰まって冷えきって 上手くいかないと蓋をしてた」と、自分の弱い部分を重ねられるような主人公の一面を書いてみたら、ようやくフィットする感覚があって。それでなんとか最後まで書けました。

──「靴ひも」というタイトルの由来は?

コロナ禍に突入したときに歌詞を書き直したんですけれど、あの時期はジムにも行けなかったので、ランニングを始めたんです。走りながら歌詞をイメージしたらリフレッシュできていいかなと思って。裏テーマとして「マラソン大会の応援を書く」というつもりで書いてました。「追いかけたい 追いかけたい ほどけそうな靴ひも」というフレーズも、そういうところから出てきたんです。

有安杏果

3. Runaway

この曲は2019年のZeppツアーに向けて書いた曲です。いつもライブのために新曲を作ろうと考えていて、実際にセットリストを組んでみてから「こういう曲があったらいいな」と思って書いたりすることもあるんですけど、まさに「Runaway」はそれで。ライブ映えする、ロックの、Zeppが似合う曲を作りたい。それだけをイメージして書きました。時間があまりない中、切羽詰まりながら夜中に作っていたら、急にサビのメロディが浮かんで。それを録音したところから作っていきました。

──歌詞はどんなところからイメージを膨らませたんですか?

サビの歌詞は家で夜中に考えましたけど、AメロとBメロは新宿を歩いてるときにできたんです。「人の波に乗られ揺られしてたら 本当の自分はどっかに bye bye」というのは、雑踏の人混みを見て、当時の自分が感じてた「自分の思いは曲げたくない」っていう気持ちと、都会の景色を重ねながら書いていきました。

──アルバム冒頭の3曲には通じ合うテーマがあるようにも思いました。自信満々ではないし、不安もあるけれど、立ち上がって歩んでいこうという有安さんの意志が歌われている感じもします。そういう実感はありますか?

実感はないです。でも、今言われて確かにと思いました。常にもがいてます。この曲は歌の面でも挑戦があって。私、もともと力んで歌うクセがあったんです。ももクロのときからそうだったんですが、山口(寛雄)さんが「自然と歌っても絶対に感情は乗るから、そのまま歌ったほうがいい」とアドバイスをくださって。自分の中では新しい歌い方でした。