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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 4回目 後編 [バックナンバー]

劔樹人&ぱいぱいでか美とアイドルファンの未来を考える

ハロプロを辞める=活動の終わりではない

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。中編に引き続き、大のハロプロファンである劔樹人あらかじめ決められた恋人たちへ)とぱいぱいでか美をゲストに迎え、アイドルシーンを取り巻くさまざまな問題や、“ハロヲタ”間に存在する意識的なギャップ、またアイドルファンとしての理想的な在り方などについて語ってもらった。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 朝岡英輔 イラスト / ナカG

“アイドル”という言葉の引力

ぱいぱいでか美 これは以前佐々木さん、南波さんとご一緒したイベントでも話したことなんですが、私はかねがねアイドルという言葉が持つ引力はすごく強いと思っていて。今日ね、こうやって着ている服は小関舞(ex. カントリー・ガールズ)ちゃんがInstagramにアップしていたのと同じものなんですが、これを買うか否かについて本当にものすごく迷ったんです。

ぱいぱいでか美

ぱいぱいでか美

佐々木敦 迷って、結局買ったんですね。

でか美 はい、買いました(笑)。でもなんでそこまで迷い続けていたかというと、それは小関舞ちゃんが今はもうアイドルじゃないからなんですよ(小関は2019年12月にカントリー・ガールズおよびハロー!プロジェクトを卒業)。彼女が現役アイドルだったときは、同じものが欲しいと思ったら速攻特定して買っていたりしたんですが、それは私が、アイドルってそういうキモい愛し方を受け入れてくれる職業なんだと思っていた部分があったからで。

佐々木 小関さんがアイドルじゃなくなった今、そういうことは受け入れてもらえないかもしれないと葛藤していたわけですね。

でか美 そうです。結局今回は買いましたけど(笑)、改めて自分はアイドルという言葉の引力にめちゃくちゃ囚われているなと思ったし、恋愛問題についても「だってアイドルだから!」とか「アイドルだって人権がある!」とか、アイドルっていう言葉がずーっと付いて回っているような気がして。

佐々木 世の中には「アイドルを辞めて女優になりました」とか「アイドルを卒業してタレントになりました」という言い方は、ごく普通に存在していますよね。でもそれって裏を返すと、アイドルという職業は一生続けられないということになってしまっているんじゃないかと。

南波一海 確かに。

佐々木 僕はそれが大いに問題だと思う。つまり本当の意味で職業として成立していないんですよね。ある一定の年齢や期間だけ呼ばれる肩書きみたいになってしまっていて、Negiccoのようにメンバーが全員結婚したり、そのあとお母さんになっても活動を続けてもいいのに、実際はほぼそう思われていない。だから、アイドルってすごく刹那的な存在として消費されるものになっているというか、それでいいとされている気がする。別にそれでもいいんだけど、そうではない在り方もないと、アイドルという言葉が非常に限定された、ちょっと歪んだ意味合いの単なるマーキングになってしまうんじゃないかと。

劔樹人 本当にそうですね。歌が好きで、アイドルとして歌を歌っていたばかりに、アイドルを卒業したら歌う場を奪われるような結果になることもありますから。

南波 でも、ほんの数年前まではアイドルはピュアで刹那的なものというイメージが定説化していたというか、「だからこそ輝く」みたいなことが普通に言われていましたよね。

 うん、僕も前は確実にそうでした。

佐々木 むしろそれがマジョリティでしたよね。

南波 今はさすがに2020年代だから、年齢や純真さを物差しにするのはもうやめようみたいなムードもある一方で、今でも「アイドルは恋愛をせずにライブに打ち込んでいるからいいんだ」という意見も根強くある。

佐々木 もちろんそれで輝いているのはいいと思うんですけど……。

でか美 というか、そもそも若い年齢にこだわること自体がおかしな話ですよね。14歳にしか歌えない歌があれば、58歳にしか歌えない歌があって当然だし。自分にとってどれが好みかというだけで。

佐々木 現状アイドルはまさにその若さを売りにして成立している業態でもあるから、難しい話ですけどね。

 これはスポーツ選手とかにも言えることかもしれないですけど、アスリートにとって恋愛は目標達成の邪魔になるという定説があったように、当然パートナーがいることで活動に支障が出てしまうという人もいれば、逆にそのほうがパフォーマンスが向上するという人もいてしまうから難しいですよね。恋愛のおかげで人としてめちゃくちゃ魅力的になったりもする。

佐々木 確かに。でも、男性アイドルと女性アイドルが恋愛して結婚して2人ともそのままアイドル活動を続けていくみたいなケースって、まだほとんどないですよね。

 そこもまた、男女間の不均衡的なものがある気がしていて……どうしても女性のほうが男性のサポートに回ってしまって、仕事ができなくなったりする場合が多いですよね。ジャニーズを見ていると男性はある程度高い年齢までアイドルとして成立しているように見えるけど、女性アイドルの場合はなかなかない。とりあえずその不均衡だけでも少しずつ是正されるべきじゃないかなと思いますし、「女の子は10代が一番」みたいな思想はちょっとまずいような気がします。

でか美 そうですね。結局泣かされているのが女性アイドル本人だけというのはすごく悲しいし、最後のしわ寄せが彼女たちに行ってしまうという構造は、変わっていってほしいなと思います。

大森靖子はいつ行ってもいるぞ!

南波 僕は、そういうアイドル本人に我慢や精神的負担を背負わせてしまう現状の構造を変えていくには、やっぱり運営側やファンの意識から変化していかないといけないと思うんですよね。

 僕もそう思います。でも事務所や運営側がファンを導いていくべきか、それともファンが意識を変えて一歩踏み出していくのか……卵が先か鶏が先かという話になるんですよね。

でか美 うーん、そこはどちらが先というよりは、同時に少しずつ進んでいくしかないのかな。

佐々木 確かに最近は、ファンが運営側の意向を受け入れるという一方通行的なコミュニケーションだけでなく、運営側のほうもファンの声や反応を多少なりとも取り入れるということが増えてきているように思います。

 そうですよね。だから、今は1人ひとりのファンが、自分は何を受け取り、どのような態度を示していくべきかを考えるいいタイミングなんじゃないかと思っていて。ハロプロのいちファンの立場から言えば、僕は「ファンから変わっていこうぜ」という人たちが増えたらいいなと思うんです。

劔樹人

劔樹人

でか美 ハロプロファンに関して言えば……応援していた子がハロプロを引退するときは大騒ぎするけど、M-line club(ハロプロを卒業したアップフロントグループ所属アーティスト / タレントの公式ファンクラブ)が主催するイベントにその子が出るとなったときに、果たして何人の人が行くだろうかと。いろいろな考えがあっていいとは思うんですが、実際そういうイベントが行われるときに「行かなきゃ!」と思うファンは全員ではないよなって。

 それですよ、僕がずっと言いたかったのは!(笑) ハロプロを辞めたメンバーへの興味が薄れてしまう人が多すぎると思うんです。ただそれは、実は人よりも箱そのものにファンが付いているというシステムゆえに仕方ない部分があるから、非常に難しいんですよね。ファンがみんな卒業した人に付いて行ったら、ハロプロ自体は20年以上も存続しないですから。かといって卒業したメンバーには、自分の魅力が結局若さゆえだったとは感じてほしくないなって。

南波 ああ、それはありますね。

でか美 ちょうど明日、M-lineのメンバーが出演するコンサートに行こうと思ってるんですけど、「当日券あったら行きたいなー」という感覚で。やっぱりこういう自分を含めて、ハロコン(ハロプロ現役メンバーによるコンサート)のときとは、お客さんの熱量というか、人気度にギャップがあるなと気になっていました。こういうご時世だからいろんな事情で行きたくても行けなかったという方もいるでしょうし、一概には言えないですけど……前から明らかにそのあたりの意識に隔たりがあるなと。さっき話に出た受け皿的な要素の短所の側面というか、自然と現役メンバーのヲタクであり続けることが可能な環境がある分、ハロプロという箱の外に同じ熱量で意識が向かない部分もある。

佐々木 ハロプロを辞めるイコール活動の終わりではないですもんね。

 以前、大森靖子さんがテレビで「ハロプロファンはメンバーがハロプロを辞めたら興味を持たなくなる」と発言してすごく叩かれたことがあったんです。「なんてこと言うんだ」と。でも、みんなが目を逸らしてきたことを言われてしまったというか、これからは向き合わないといけないテーマだと思うんですよね。

でか美 あのときすごく感動したのが、道重さゆみ(ex. モーニング娘。'14)さんのファンが「大森靖子には特に肩入れしていない立場として言うけど、今彼女に何か言う資格があるのは『SAYUMINGLANDOLL』(道重さゆみのソロコンサート)に来たことあるやつだけだ!」と書いてたんです。「大森靖子はいつ行ってもいるぞ!」って。本当にそういうことですよね。

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