佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 4回目 前編 [バックナンバー]
劔樹人&ぱいぱいでか美とアイドルファンの未来を考える
ハロプロに魅了されたヲタクたちの生態
2021年4月30日 19:00 11
構成
ミキティがくれたアンサー
佐々木敦 今日はハロプロの大ファンであるお二人に来ていただいたのですが、僕がでか美さんに会うのは今日が3回目ですね。
ぱいぱいでか美 私、この連載全部読んでます!
佐々木 ありがとうございます(笑)。
南波一海 お二人はハロプロファンでありつつ自身もアーティストとして活動されているので、純粋なファンとしての目線だけでなく、プレイヤーとしての視点もお持ちですよね。
でか美 でも私はこの職業に就く前からハロプロのファンだったので、「プレイヤー側の気持ちもわかる」みたいな感覚は恐れ多いかもしれないです。私が本格的にハロプロのファンになったのは高校生のときですが、当時の気持ちが今も続いている感じかな。むしろ昔よりも経済的に豊かになった分、湯水のようにお金を使って。
佐々木 ファン生活を謳歌していると。
でか美 はい(笑)。昨日もグッズの支払いが迫っていることに締切時間の5分前になって気付いて。ファミリーマートで入金しなきゃいけないのに、近所にファミマがないので、ファミマの近くに住んでいる友達に電話して「お礼は絶対にするから、今すぐ私の代わりにグッズの料金を支払ってくれない?」とお願いして事なきを得ました。そんなふうにファンとしての日々を過ごしています。
佐々木 はははは(笑)。劔さんとは今日が初対面ですが、劔さんのエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」と、その実写化作品である映画「あの頃。」も拝見しました。「あの頃。」は2月に公開されましたが、ご自分が書いたエッセイが映画化されるというのはどんな感覚なんですか?
※動画は現在非公開です。
劔樹人 自分でもこの成り行きを理解しきれていないのが正直なところです。今となっては「なぜこうなったんだろう?」と(笑)。でも、そのなぜ?をたどっていくと、やっぱり自分がハロプロを好きになって、この本を出したということが、どういうわけかアップフロントさんに伝わって……ご本人たちや運営サイドの方々に何か響くものがあったのかなという。
でか美 「この人、本当に好きなんだ!」と伝わったんですかね?(笑)
劔 うーん、不思議なんだよね。エッセイではハロプロのことだけを書いていたわけではなかったのに、当時の僕らファンの間にあった空気感みたいなものが伝わったような気がしていて。映画を観た
佐々木 なるほど。
劔 そういうアンサー的なものを、今彼女たちが素直に表してくれているのは、あんなにくだらない物語の中にも何か不思議な力があったんじゃないかなって。そのうえで、自分が少しはハロプロに貢献できる立場になってきたのかなと思うと、これも本当に、僕をハロプロに出会わせてくれた
地中に射した松浦亜弥という光
佐々木 僕も「あの頃。」は映画としてもすごくいい作品だと思いました。作品を拝見して劒さんにまず聞きたいと思ったのは、松浦亜弥さんにハマったきっかけの話で。劔さんがいろいろな壁にぶつかってふさぎ込んでいたときに、友達から松浦さんの映像作品をもらって、それを観ているうちに気が付いたら泣いていたというシーンがありますが、あのファーストインパクトというか、松浦さんに強く惹かれた瞬間というのはどんな感じだったんでしょう?
劔 そうですね。はっきりと記憶にあるのは、真っ暗な部屋の中、パソコン画面に写っている松浦亜弥だけが光っている状態ですね。
でか美 うわ、本当に映画のシーンそのままなんですね(笑)。
劔 そうそう。当時組んでいたバンドメンバーに家に来てほしくなくて、居留守を使うために部屋をずっと真っ暗にしてたんですよ。電気を消してドアにもガムテープを貼って、光が漏れないようにしてたくらいで。だから、地底人が地中で穴を掘っていたら不意に日の光が射したみたいな(笑)。
佐々木 あやや(松浦亜弥)を観たのもそのときが初めてだったんですか?
劔 いや、初めてじゃないはずなんです。そのとき部屋で観た「▽桃色片想い▽」(※▽は白抜きハートマークが正式表記)のミュージックビデオもテレビか何かで観ていたはずなのに、環境なのか、バイオリズムの影響なのか(笑)、ものすごく刺さるものがありまして。
南波 きっとアイドルにハマる多くの人と同じパターンですよね。自分が弱っているときに、アイドルの姿に強く惹かれるという。アイドルブームも震災や不況の時期に重なっていたりしますし、日本を盛り上げようと健気にがんばっている人たちの姿に胸を打たれるというケースはあると思います。
劔 確かにアイドルは不況のときに流行るって聞きますね。
南波 「日本の未来は(wow, wow, wow, wow) 世界がうらやむ(Yeah, Yeah, Yeah, Yeah)」と歌っているモーニング娘。「LOVEマシーン」も、1999年にリリースされていますし。
佐々木 考えてみたら、今に至るアイドルブームが始まったのもちょうどリーマンショック(2008年)のあとぐらいからだし。
でか美 そういうときに何かにすがりたくなる気持ちはわかる気がします(笑)。
南波 劔さんと僕は完全に“ロスジェネ”世代ですけど、就職氷河期をはじめなんとなく時代に暗い影が落ちていた中で、ああいう超アッパーな存在が眩しく感じられたのかもしれません。
劔 確かにそうかも。
佐々木 でも、劔さんが出会ったのはたまたま松浦亜弥でしたけど、これが別のアイドルだったとしたら……同じような衝撃を受けていたかわからないですよね。
劔 そこなんですよね。こればっかりは本当に巡り合わせというか。
でか美 ね! 運命ですよね。
巡り巡ってやっぱりハロヲタ
佐々木 でか美さんがハロプロにハマったきっかけはなんだったんですか?
でか美 私は最初に
佐々木 入り口が違っていても、巡り巡ってやっぱりハロヲタになっているという可能性も……。
でか美 全然あると思います! それで言うと、昔「ザッピィ」って音楽雑誌があったじゃないですか。実家に帰って、自分が小5、6くらいのときに買った「ザッピィ」をパラパラ見てたら、「ハロー!プロジェクト・キッズ オーディション」(2002年に開催された小学生限定のハロプロオーディション)の広告ページの端が折ってあってびっくりしたんです。私の世代はみんなモーニング娘。が好きな時代を生きていたのでもともと憧れはあったと思うんですけど、オーディションのページに印を付けていたくらい自分はハロプロが好きだったんだという(笑)。
佐々木 へえー。自分ではまったく覚えていなかった?
でか美 完全に忘れてました。2002年は私の周りでもモーニング娘。の人気が落ち着き始めていた頃だから、たぶん同じクラスの友達に合わせていたわけではなく、自分が意識的に好きだと思っていたんでしょうね。だから、巡り巡ってやっぱりハロヲタというのはあるのかなと。
戻るわけにはいかないあの頃
南波 「あの頃。」の話に戻りますが、当時ハロヲタである劔さんたちが開催していたイベントのような、ファン同士が自由にしゃべって交流する場は、今もありますよね。そういう非公式な場で交わされていた思いや情熱が、今回のようにご本人たちや運営陣に届くということは、今のファンにとっても希望になる気がしました。
劔 確かに今もSNSやYouTubeなんかでファン同士が自由に語り合う様子を見かけますが、そういうことって今はけっこう本人たちに届いてますからね。でも当時の僕たちは、本人たちに喜んでもらえるなんてまったく想像してなかったし、何も考えずにみんなで好き勝手に話していただけでした。もちろん、本人たちにも絶対届いていなかったし(笑)。
佐々木 僕も劔さんたち「恋愛研究会。」がイベントを行うシーンは印象に残っています。というのも、あのイベントや劔さんたちの様子が、かつて僕がよく知っていた、マニアックな音楽リスナーや映画マニア(シネフィル)の在り方にすごく似ているなと思って。人は何かに心酔すると孤独になりやすいから、自分と共通の固有名詞で話が通じる人に出会うとものすごい勢いで仲よくなってしまったり、なんとなく社会や周囲に対して被差別感を抱いているだけに、同好の士を見つけたときにすごく気持ちが高ぶって、あらゆるものを飛び越えて結束したりする。でも今はいろんなSNSで簡単に仲間を見つけられるようになったから、当時の感覚ともまた違うような気もしますが。
劔 そうですね。当時はSNSでいうとmixiが主流で、TwitterとかInstagramはまだなかったな。
でか美 あとはテキストベースのファンサイトとかですよね。
佐々木 やっぱりSNSでフォローし合ったりするよりは、イベントみたいな場所で直接出会って一緒に語り合うほうが交流は濃くなりますよね。
劔 あと僕はひねくれていたので少数派になろうとする癖があったし(笑)、佐々木さんのおっしゃる通り、当時の僕らは被差別感みたいなものを感じていたと思います。それと同時に自分たちはダメなやつらだという自覚もあって、「アイドルヲタクをやっている、そんな俺たち」という意識のもとで一緒に過ごしていたかもしれません。
佐々木 少数派になろうとしていたというのは、昔から?
劔 地元の新潟から出るときも、みんなが東京に行くからという理由で大阪を選びましたし、聴く音楽もオルタナティブやアバンギャルドのほうに偏っていって、流行りものは一切聴かなくなりました。で、そういう音楽のコミュニティにいたらいたで、今度はアイドルソングをオルタナとして受け取り出すという(笑)。そういう性格もあって、ずっと自分自身を模索し続けていたんですよね。
南波 最近ずっと劔さんの出ている記事や配信やラジオをチェックしていて思うんですが、当時の仲間たちの間では当たり前だったホモソーシャル的な観念に、かなり気を遣われていますよね。「あの頃。」の公開以降は特に。
劔 はい。僕には男性社会で生きてきたという過去が事実としてありますし、原作でもそういう部分をたくさん描いてきました。でも、今はそこに戻るわけにはいかないという気持ちが確かにあります。
南波 自分が原作を手がけた作品のプロモーションなのに、そういう部分にもちょこちょこ釘を刺していく劔さんは、とても今の人だなと思います。
でか美 うんうん。偉い!
劔 いやあ、そうやって自分を見ていてくださる人がいるのはありがたいです。いつも「どうせ誰も見てないし……」みたいな気持ちで生きてますから(笑)。
大人が大人に怒られる
でか美 ちなみに私、「あの頃。」にちょっと出てたの気付きました?
佐々木 クレジットは見たんだけど……どこに出てたんですか?(笑)
でか美 エゴサしてても、私を見つけた人とそうじゃない人の割合がちょうど半々なんですよ!(笑)
南波 わかりやすく出演してましたよね? なんで気付かない人が多いんだ(笑)。
劔 コズミンたちが行ったAV女優の握手会のシーンで、差し入れとしてお弁当を渡そうとするファンに、「それは困ります」とストップをかけるスタッフ役ですよね。
佐々木 そうだったんだ! 演技が自然すぎて気付きませんでした(笑)。
でか美 あははは! そういうことにしておきます(笑)。でもあれは、密かにモデルにしている人がいるんですよ。私が心の底から大好きな「SATOYAMA & SATOUMI movement」(アップフロントグループが主催する“里山”および“里海”の文化や魅力を発信するプロジェクト)によるハロメンから手渡しで物産品やフードを購入できるイベントがありまして、その中にカレーを買えるブースがあったんですね。で、私は友達と一緒に列に並んだんですけど、やっぱりヲタクは自分の推しメンからカレーを受け取りたいじゃないですか。でも並んでいるうちに、推しメンのレーンには行けない可能性も出てくるわけです。それで友達が近くにいた見ず知らずのヲタクと申し合わせて、列を入れ替わってワチャワチャしてたら、そこにいたスタッフさんに「ちゃんと並んでください!」とものすごく怒られて(笑)。
一同 あははは!(笑)
でか美 ほかのお客さんやハロメン本人たちにも迷惑がかかっちゃうから、スタッフさんが怒るのも無理はないんですけど、大人が大人に本気で怒られている光景があまりに衝撃的で。役作りの参考にさせてもらいました(笑)。
ハロプロを応援していたら宇多丸さんと知り合えた
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佐々木敦 @sasakiatsushi
あらためて自分で前中後編通して読んでみたけど、これ相当面白いんじゃないでしょうか、というかすごく重要な話をしてる、延々と笑
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