佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 4回目 後編 [バックナンバー]
劔樹人&ぱいぱいでか美とアイドルファンの未来を考える
ハロプロを辞める=活動の終わりではない
2021年5月14日 19:00 15
“伸びしろ”があるから応援する?
劔 でも、長い長いハロー!プロジェクトの歴史の中でも、2000年前後に全盛期を経験したメンバーを含めて、ハロプロの現役時代と同じように音楽的な活躍をしてきた人っていないんですよね。ママタレントとして自身のポジションを確立していった方はいますけど。
佐々木 僕はアイドルがアイドルを辞めてアーティストになる、という考え方はどうなんだろうと以前から疑問を持っていたんですが、ある意味それは現実的には難しい部分もあるだろうなと。なんちゃんがさっき、ファンの意識変化について話していましたけど、やっぱりアイドルに対するファンの基本的な姿勢が、どうしてもちょっと上から目線になっているという現状があると思うんです。
南波 うんうん。
佐々木 これはしょっちゅう思うことだし、もはや言っても仕方がないことかもしれないんだけど、“伸びしろ”という言葉がわかりやすいように、日本のアイドルに対しては「伸びしろがあるんだから、その分がんばれよ」という一種の応援文化が根付いているように思うんです。応援する立場でいられることの気持ちよさが動機の多くを占めていて、アイドル本人が完璧に仕上がっていたり自分の理想像から逸脱したりして応援する余地がなくなると、ほかの人に興味が移るということが往々にしてある気がして。
劔 そうですね。実際にそういうケースもあると思います。
佐々木 そういうファンが自分よりも若い女性アイドルに対して抱く、「こいつの成長に俺が貢献してやるんだ」という気持ちをどうにかしないと変わらないと思うんです。でもそういう部分って、アイドルをビジネスとして成立させることと強く結び付いているわけで。
劔 その意識をガラッと変えると、そもそもアイドルという業態が成立しなくなってしまうという。
佐々木 アイドルの歌がうまくなったり、パフォーマンスの完成度が高くなればなるほど引いてしまうファンもいると思うんですが、それって応援すること自体に矛盾が生じているし、あまりほかの国では見られない現象なんじゃないかと。でもそういう倒錯的な応援の仕方を変えよと求められると、「じゃあファンを辞める」という方もいるでしょうし、すごく難しい問題ですよね。
でか美 私はアイドル本人たちも、応援するファンも、いろんな人がいることが当たり前になったら一番楽なのになと。「私はみーんなの恋人だよ!」みたいな子がいたとして、そういうタイプが好きな人はその子を応援したらいいし、バリバリパフォーマンスを磨いて「スキル重視!」という子が好きならば、そういうアイドルを推せばいい。アイドルもファンもいろんなスタイルがごく普通に混在して、みんなが自由に生きているというふうになったらいいなと思います。
ザ・在宅の握手会デビュー
でか美 話は変わるんですが、佐々木さん、今度こそ一緒にハロメンの写真集イベント行きましょうね。
南波 なんで写真集?(笑)
でか美 いやあ、佐々木さん的にハロプロの中で推しがいるとしたら野中美希さん(モーニング娘。'21)だと聞きまして。
劔 ほう! 野中さんに興味があるんですね。
佐々木 いや、以前その話をしたのがちょうど野中さんの写真集(野中美希1st写真集「To be myself」)が発売されるタイミングだったもので。
でか美 そうそう。で、佐々木さんはアイドルにハマって以来、そういうイベントとかライブに一切行ったことがないというから、背中を押したくて(笑)。「野中さんの写真集のイベント、お誘いしますから!」と言ってたんですけど、緊急事態宣言が発令されて、ちょっとこのタイミングでは誘いにくいなとなり、結局行けなかったんです。だからそのリベンジで!(笑)
南波 佐々木さんが現場や握手会に行って体験を語る企画、読んでみたいです。
劔 それやりましょうよ!(笑)
でか美 ザ・在宅の握手会デビューですね。
佐々木 どんどん大きなセレモニーになってしまう(笑)。
劔 でも、佐々木さんが行って浮くような場所じゃないですから。安心してください。何か後ろめたさを感じる必要はまったくないです。
佐々木 僕もファンの一員になれますかね?(笑)
でか美 すぐなれますよ。私も最近、ハロプロメンバーと話せる「お話し会」に参加していて、推しメンの森戸知沙希(モーニング娘。'21)ちゃんに会いに行ったりしてますけど、自分はそういうイベントが苦手なタイプなのに、なんでこんなに足を運んでるんだろうと夜な夜な考えて。でも直接交流するイベントが苦手だという気持ちよりも、やっぱり好きな子に会いたいという気持ちが勝るという(笑)。
佐々木 ガチじゃないですか……。
でか美 そうなんですよ。毎回なんでこんなうまくしゃべれないんだろうと自己嫌悪に陥るんですけど、それでも会いたいから会いに行っちゃうんですよね(笑)。
佐々木 それが恋ってやつですね。
でか美 だから、ちぃちゃん(森戸知沙希)に好きな人がいたらたぶんショックはショックなんですけど、「ちぃちゃんが幸せならOKです!」とは思っています(笑)。
劔 隣のクラスの気になる子に彼氏がいたぐらいの感覚でね。「あっ、そうかあー! 好きな人いたのかあー!」みたいな。
でか美 「いやあ、でも、やっぱかわいいなー!!」と(笑)。
佐々木 マンガみたいですね(笑)。
南波 だから、「うわっ、好きな人がいたのか!」と取り乱したりしてもいいということですよね。
でか美 相手を傷付けたり、嫌な言葉を吐かなければ、十分に取り乱していいと思います。というか、「アイドルの熱愛が発覚した」という考え方ではなく、自分の失恋として取り乱せばいいんじゃないでしょうか。そのほうがしんどいかな(笑)。
佐々木 それこそ翌日から違う人を好きになっていたって別にいいですしね。
でか美 そう、それでも別にいいんです。現実世界でそんなことをしたら反感を買うと思いますけど、それをしてもいいのがアイドルの世界だから。次の日から違う子を推していても許されると私は思います。
佐々木 そういうものですよね。
南波 いやあ、答えがない(笑)。
でか美 答えはないですよ、本当に(笑)。
持続可能なヲタク生活
でか美 まあでも、私の今年の目標は佐々木さんを現場に連れていくことなので。モーニング娘。'21ニューアルバムのリリース記念イベント、佐々木さんの分もついでに申し込んでおきますね!(笑)
佐々木 あははは(笑)。でも1回行ってしまうと、2回目以降行かない理由が見つからないじゃないですか。それが問題なんですよね(笑)。
劔 僕も昔はそういうイベントごとに対して義務感を抱いていたというか、「またリリースイベントの季節が始まるぞ」という感じだったんですけど、今は行けるときに行けばいいという感覚がものすごい強くなったんですよ。
でか美 私もそうですよ!
佐々木 それはもうお二人がメタ的な視点に立っているファンだからですよね。もはや親戚のような感覚で、ときどき顔が見られて本人が元気だったらいいみたいな(笑)。
南波 もう一生添い遂げることを前提にしていますよね。
でか美 いやあ、行けるときに行こうと思って、めちゃくちゃ行っているという不思議な体験をしているんですけど(笑)。自分の中ではすごく能動的な行為で、全然使命感や義務感は感じていないです。むしろ“体が勝手に動き始めるの”状態(笑)。
劔 僕は育児があるので、前よりも物理的に動けない時間が多くなってしまったから。でも、それで負い目を感じることもなく、ちゃんと自分のタイミングが合うときに行こうと思っています。
佐々木 そうなんですね。なんちゃんは握手会とかは行かない?
南波 行かないです。
佐々木 だってそういう人じゃないもんね。あなた、ジャーナリストだもんね。
南波 でも、物販を買った流れでそうなることはたまにありますよ。こっちが頑なに断ったりすると変な空気になってしまうこともあるので。
でか美 というわけで佐々木さん、私と連番しましょう。
佐々木 もう後戻りできなくなりそう(笑)。
でか美 できなくなりますよ。会いたくて仕方なくなりますよ!
一同 (笑)。
佐々木 そうなったら完全なヲタクですね。俺はこれからどうなるんだろう……(遠い目をする)。
劔 こうなったからには、ぜひ末永く楽しんでください。今はサステナブルな時代ですから。
でか美 持続可能なアイドルヲタク生活を送っていただいて。
南波 うん、それがいいと思います(笑)。
劔樹人
1979年生まれのベーシスト / マンガ家。狼の墓場プロダクション所属。大学在学中より音楽活動を開始し、2009年より神聖かまってちゃん、撃鉄、アカシックなどのマネジメント、プロデュースを手がける。現在は
ぱいぱいでか美
1991年生まれのタレント / 歌手。日本テレビ系「有吉反省会」へのレギュラー出演のほか、ソロ楽曲の作詞作曲やライブ活動、他アーティストへの楽曲提供、DJ、コラム執筆などを行う。また自身が中心となるバンド・ぱいぱいでか美withメガエレファンツ、アイドルユニット・APOKALIPPPSのメンバーとしても活動中。2021年3月に自身が作詞作曲、ONIGAWARAが編曲を手がけた新曲「イェーーーーーーーー!!!!!!!!」を配信リリースした。同年4月よりYU-Mエンターテインメントに所属。8月8日には自主企画の生配信イベント「でか美祭 2021」を東京・TSUTAYA O-EASTほかで開催する。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「
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