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映像で音楽を奏でる人々 第9回 [バックナンバー]

Ghetto Hollywoodが狙うのは“日本における「ワイルド・スタイル」”

多くのラッパーが信頼を寄せる、謎多き映像クリエイターの正体

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自分の作風をひと言で表すと「薄めないクロスオーバー」

去年作ったPUNPEEの「タイムマシーンにのって」は初めて全編アニメで作ったMVなんですが、スタッフみんなのスキルが相乗効果を生んで、いいビデオができたなっていう手応えがありましたね。たいていのMVは発注から納品までの時間が短いから、物理的にも予算的にもアニメは難しいことが多いんですよね。でも今回は、依頼があった時点でアルバムの発売から半年以上経ってたし、「これ締め切りないよね? 納期がすげえかかるけどいいっしょ?」みたいな感じでやらせてもらいました。俺は「ヘビー・メタル」やラルフ・バクシの「ストリートファイター」みたいなアニメが好きだったので、昔からやりたかったロトスコープに挑戦して。PUNPEEは好きな映画やアメコミがけっこうかぶってるから、話も早いし、毎回細かいネタを入れたりしてます。

「タイムマシーンにのって」の作業中は、作画スタッフが鬼神の勢いでがんばってくれてて、現代版のトキワ荘にいるみたいな感覚がありました。特に最後の3日はみんなクリエイターズハイ状態で、ほとんど睡眠も取らずに作業してましたね。大変ではあったけど至福の時間でした。

それと同じような感覚はAKLOくんの「RGTO」のときもありましたね。「ヤンキーマンガのオマージュで、学校を舞台にしたMVを撮りたい」というのはずっと考えてたからコンテも楽しく描けたし、撮影監督を普段から遊んでるスタジオ石のMr.麿くんに頼んだので、イメージの共有も楽でした。あのMVは世界観を作り込んでるうえに出演者が多いから、たぶん普通の制作会社が同じようなものを作ったら倍以上の予算がかかってたと思うんですけど、DARTHREIDERT-Pablowくんが声をかけてくれて、現役の高校生ラッパーが足代と弁当だけで20人くらいエキストラとして集まってくれたんですよ。学ランも人数分用意してくれて。今改めて観るとシーンの第一線で活躍してるラッパーがたくさん出てるので、見直すのも面白いと思います。

このMVはヤンキー同士の抗争を描いていますが、最後はラップで本音をぶつけ合って、敵対してた2人が抱き合って終わります。これはたまたまじゃなくて、俺は昔から“アンチ暴力”を一貫して裏テーマにしてるんです。BRON-Kの「PAPER,PAPER…(MxAxD)」やNORIKIYOの「夜に口笛」も同じテーマです。ストリートには暴力が蔓延してたけど、俺は昔から人を殴るのはまったく好きじゃないんで、そこはアイデンティティとして大切にしてます。

自分の作風をひと言で表すと「薄めないクロスオーバー」かなと思います。EPMDが1992年にリリースした「Crossover」って曲は「クロスオーバーするな。ヒップホップにR&Bを混ぜるんじゃねえ」という、ある意味保守的なリリックなんですが、今振り返ると90年代に狂い咲いたヤバい音楽って、ジャンルをクロスオーバーしてるものが多いと思うんですよ。例えば、映画「ジャッジメント・ナイト」のサントラは全曲、メタルやオルタナのバンドとヒップホップグループのコラボ曲で構成されてるんですけど、あれこそが90年代を象徴する1枚だと思います。今聴いても全然いけてる。クロスオーバーを嫌う人は、混ぜると薄まると思い込んでるんです。でも本当は、1つの作品の中にいろんなものをぶち込んでいけばラーメンのスープみたくどんどん濃くなっていきますよね。もし薄まってるとしたら、それは元の素材が薄っぺらいか、誰かがビビって世に出す前に薄めてるだけだと思います。俺は自分が好きなものをクロスオーバーさせていくことに躊躇はまったくないですね。例えばヒップホップに少女マンガを混ぜても、児童文学や絵本を混ぜても、「こんなのヒップホップじゃねえ」とは絶対に言わせない自信があります。

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日本における「ワイルド・スタイル」は絶対に俺にしか撮れない

こんな連載に出ておいて本当に申し訳ないんですが、正直なことを言うと最近はもうMV制作にはほとんど興味がなくなってしまっていて。以前は暇さえあればYouTubeを観てたけど、最近はそれすらあんまりしなくなってます。今興味があるのは断然ドラマと映画ですね。この10年間、MVを撮りながら、これがいつか映画やドラマにつながったらいいなと漠然と思ってたんですが、業界も違うし、そういう展開にはならなくて。Webドラマを作るのは可能だったけど、「フリースタイルダンジョン」の一般層への浸透ぶりを目の当たりにすると、探さないとたどり着けないWeb上のコンテンツじゃなくて、どうしても民放の深夜ドラマ枠がやりたいんです。ここ2年くらい、何度か民放の企画会議に案を出してみたんですが、やっぱりなかなか難しくて。

構想中のドラマは「少年イン・ザ・フッド」っていう題名で、30分×12話分のプロットと簡単な企画書を書いてあります。どうせやるなら世界観も作り込みたいから、監督は無理でも脚本だけじゃなくて、キャスティングと全体の監修もやりたいんですよ。企画会議に出す前にプロットをPUNPEEとMACCHO(OZROSAURUS)くんとNORIKIYOに読んでもらったんですが、みんな「超面白いから、何かあれば協力する」って言ってくれて。それで意気揚々と企画を出してみたら、「ヒップホップのドラマ企画は珍しい」ってことで最初の反応はそこそこいいんだけど、俺にはドラマに携わった実績がまったくないのと、マンガや小説みたいな、人気作品の原作がないってこともあって、結局どこにも引っかからなかった(笑)。俺はブームの勢いで行けちゃうんじゃないかって期待してたんだけど、テレビ局からしたら、ヒップホップドラマは面白そうでも、企画だけ買って経験豊富な人に作らせたいですよね。

SITEの部屋のドアに貼られている「少年イン・ザ・フッド」のキャラクター相関図。

SITEの部屋のドアに貼られている「少年イン・ザ・フッド」のキャラクター相関図。

なので最近は発想を変えて、ドラマの原作になるようなマンガを作っちゃおうという方向に切り替えました。まだ詳しくは言えないんですが、夏頃からとある週刊誌で「少年イン・ザ・フッド」のマンガ連載を始める話を進めてます。そっちに集中するためにMVは今受けてるぶんで休業します。次に映像をやるときは、ドラマか映画がいいですね。ドキュメンタリーも撮りたいです。

俺は「CONCRETE GREEN」(SEEDAとDJ ISSOによるミックスCDシリーズ)世代だから、そこに参加してたような同世代のラッパーのMVをいっぱい撮ってきたけど、気付いたらゲームに残ってる同世代もだいぶ少なくなってきて、シーンの最前線にいる若いアーティストはもはや歳が半分くらい。やっぱ若い世代のリアルを撮るなら、実際につるんでる若い監督が撮ったほうが絶対いいですよね。新保拓人くんとかSpikey JohnくんのMV観てると、クオリティが高いだけじゃなくて、アーティストと同じノリで作ってるのが伝わってくる。最近は俺に監督のオファーがあっても「それなら新保くんがいいと思いますよ」って言ったりしますよ(笑)。

最近はフリースタイルやラップをテーマにしたマンガもいくつかあるけど、結局フリースタイルバトルが流行っただけで、ちゃんとヒップホップを扱えてる作品はほとんど作られていないと思います。だから俺は、日本のヒップホップのマスターピースと呼ばれるような、初めての映画を撮りたいってずっと思ってて。井上三太さんの「TOKYO GRAFFITI」と「TOKYO TRIBE」シリーズが昔からあんまり好きじゃないんですが、園子温監督が「TOKYO TRIBE」を監督するって知ったときに、演じるメンツも豪華だったし「やべえ、これは先を越されたか……」って焦ったんですよ。で、けっこうドキドキしながらMr.麿くんと映画館に行ったら、出てるラッパーは最高の人選なのに、演出が絶望的にダサくて、つまんないけど安堵もしました(笑)。今度は俺の敬愛するマンガ家、高橋ツトム先生がプロデュースしてANARCHYくんが監督する映画「WALKING MAN」が公開されるってニュースも見たので、今はMV撮ってる場合じゃないんですよね。俺も急がないと。

音楽について勉強していて詳しい人は日本にもいるけど、グラフティやブレイキンのことはほとんどの人が何も知らないんですよ。4大要素とかすぐに言うわりに、ぼんやりしたイメージで、スタイルのよし悪しとか、タグの読み方すら全然わかってない。だから日本における「ワイルド・スタイル」みたいな映画は、絶対に俺にしか撮れないはずだっていう自負があります。ラッパーが普段どうやって歌詞を書いてるかとか、ドラッグ描写のディテールとか、今まで見てきたものや経験のすべてが注ぎ込める。最後に、俺の誕生日は“ヒップホップの誕生日”と言われている8月11日なんですが、そこらへんに合わせていろいろ仕込むので、よかったらなんとなく覚えといてください。

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Ghetto Hollywoodが影響を受けたMV

Saian Supa Crew「y'a」(1999年)

当時のラップフランセのドリームチームで結成された、“フランス版Jurassic 5”みたいなグループです。このMVは曲もいいので一時期繰り返し観てましたね。街中でただひたすらサッカーをしてるだけの内容だけど、編集も曲調にあってるし、レンズにゴミが付いてたりもするけど、なんか雰囲気が好きなんですよね。ライティングなくても「これでOKなんだ」という自分の中の基準の1つになってる気がします。

Justice「Stress」(2008年)

最初はこれが本当の出来事なのかどうかわからずに、ただただ興奮して観てました。繰り返し観てるうちに構成とか狙いがわかってきて、最終的には本当にうまくできてるなと感心しました。遠くからズームで撮るカメラワークの心理的な効果とか、緊張感とリアリティがある描写はかなりイケてますよね。殴られてる人たちは絶対に仕込みだけど、部分部分に挿入される、離れたところで嫌な顔をしてるギャラリーはたぶん本物の観光客だと思います。とにかく演出のテンポと内臓を抉られるような嫌な感じが最高ですね。

SITEも参加する展覧会「KANE×AMES×SITE "SHOCK WAVE" EXHIBITION」のフライヤー。2019年3月8日(金)から3月17日(日)にかけて神奈川・SHOP & GALLERY OPUS 2にて開催。

SITEも参加する展覧会「KANE×AMES×SITE "SHOCK WAVE" EXHIBITION」のフライヤー。2019年3月8日(金)から3月17日(日)にかけて神奈川・SHOP & GALLERY OPUS 2にて開催。

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二木信 @shinfutatsugi

@Genaktion @nofm311 取材・文は橋本尚平(音楽ナタリー)氏、そして題字はSITE(Ghetto Hollywood)氏です。https://t.co/WRKqM2W4Z8

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