良い意味での問題作に…松本幸四郎が“暴君”足利義教を演じる「花の御所始末」

歌舞伎座新開場十周年「三月大歌舞伎」の第一部「花の御所始末」より、足利義教を演じる松本幸四郎の取材会が昨日2月17日に東京都内で行われた。

「花の御所始末」は、宇野信夫がウィリアム・シェイクスピアの「リチャード三世」に想を得て、六代目市川染五郎（現・松本白鸚）のために書き下ろした異色作。1974年に東京・帝国劇場で初演され、1983年に東京・新橋演舞場で再演された。以来、40年ぶりの上演となる。

1973年生まれの幸四郎は、再演時の記憶を振り返り「当時はまだ子供でしたので、芝居イコール歌舞伎、歌舞伎イコール『勧進帳』という感じでした。それでも『ワーッ！』とか『ギャーッ！』という声がするこのお芝居のことは覚えているくらい（笑）、衝撃的な作品でしたね。なので、まさかこの作品に自分もご縁があるとは。宇野先生の作品の中でも独特な作品ですし、徹底して悪が貫き通されているので、演出の齋藤（雅文）さんとも、良い意味での問題作になるようにしたいなと話しています」と話す。

また「この作品は映像資料がなく、音声と舞台写真しか残っていません。今回はそれらを頼りに、ある部分では復元し、ある部分では新たに作っています」と言い、中でも音楽は「新作の場合はテーマ曲を作るということにこだわっているので、今回も新たに作っていただこうと思っています」と明かした。役に関しては「宇野先生の作品世界と父が持っているものがぶつかり合って生まれた作品だと思いますのでその精神を目指しつつ、積極的に自分なりの『花の御所始末』にできるようにしていきたい」と話した。

幸四郎が演じるのは、暴君として知られる室町幕府の六代将軍・足利義教。「悪人を演じるときに意識することは？」と問われると、「特別悪い人とは意識せず、“悪”の部分は誰もが持っている部分だと考えてアプローチしていきます。義教の場合は、悪行を犯す目的が何なのかわからないところが面白いです。手に入れたいものは全部手に入れることができているのに、それでも達成感を感じられない……そこがこの男の魅力なのかもしれませんね」と返答した。さらに「幸四郎さんにとっての暴君のイメージは？」と問われると、「ある意味カリスマ性がある、ということでしょうか。義教も、選んだ手段は良くないことですが多くの人の心を操っているので、それだけカリスマ性や自分の力を信じる力を持っている人だと言えると思います」と語った。

また再演時の音源や写真から、白鸚が演じた義教像に「野生的な感じ」を受け取ったという幸四郎は「今回はそれよりはもっと冷徹な、何をしても動じない強さが怖さにつながるような表現にできれば」と言い、先日公開された、アラーキーこと荒木経惟が撮影した本作のビジュアルについても、そのような意図で制作されたと話した。またアラーキーによる撮影は幸四郎たっての希望だったそうで「『まだ悪人じゃない！ 良い人の顔だ！』とか『殺す相手が僕だと思って！』なんて言われながら撮影しました」と、楽しげに撮影を振り返った。

「三月大歌舞伎」は3月3日から26日まで東京・歌舞伎座にて行われ、「花の御所始末」のほか、「仮名手本忠臣蔵」「身替座禅」「髑髏尼」「廓文章」が上演される。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。