抜群のスタイルにクールな目元、長い手脚を生かしたシャープかつ華やかなダンスと、アツい芝居心で観客を魅了してきた、元宝塚歌劇団雪組トップスターの彩風咲奈。2024年に自身の思い入れが深い「『ベルサイユのばら』-フェルゼン編-」で宝塚歌劇団を退団した彩風は、2026年3月にミュージカル「天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~」で初の女性役に挑戦。彩風の“新章”をスタートさせる。
そんな彩風は、実は大の“香水好き”でもある。今回、ステージナタリーは、東京都杉並区の高円寺にある金熊香水高円寺ラボショップで、彩風のコラボ香水製作に密着。真剣なまなざしとふわっとした笑顔を交互に見せながら、彩風が“ファンの皆さんにつけてほしい香水”を作る様子をレポートする。後半のインタビューでは、彩風が自身の香水への思いを、宝塚歌劇団時代のエピソードも含めてたっぷりと語った。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 平岩享
ヘアメイク / 金澤美保(MAKEUPBOX)
金熊香水は、山梨県北杜市八ヶ岳南麓の美しい自然に囲まれたエリアに工場を構える香水工房。日本の気候や風土に合わせた、優しく、柔らかい、日々の生活と調和する香水作りを行っている。金熊香水では自社商品、他社ブランドの製品、合わせて年間300種類以上の香りを開発し、八ヶ岳で製造。金熊香水リゾナーレ八ヶ岳本店、金熊香水高円寺ラボショップではスタッフによるサポートのもと、自分だけの香りを気軽に調香することができる。また、オンラインの金熊香水カスタムラボでは、AI調香師・八峰コロンとの会話を通じてイメージにピッタリな香りを導き出し、オーダーメイドで注文することも。迷った方はまずはこちらで試してみよう。
公式サイトでは1本からオンラインで注文ができるほか、オリジナルグッズにも最適な10個からの小ロット製作販売も行っている。さらに、プロがサポートする香りの開発によって、完全オリジナル仕様の香水を作ることができる。
“隠れ家的”なラボショップで彩風咲奈が調香体験!
2026年1月上旬。正月気分が抜け、世間に慌ただしい日常が戻ってきた頃、彩風咲奈のコラボ香水製作が行われた。場所は、高円寺駅を背に北へと歩き、住宅街に差し掛かろうかというところにある香水専門店・金熊香水の高円寺ラボショップ。レトロな趣のあるエレベーターで3階に上がると、“隠れ家的”な佇まいのラボショップがひっそりと姿を現す。中に入ると、大きなガラス窓から差し込む柔らかい光と、思わず「わあ……」と口にしてしまうような、“いい香り”に優しく迎えられた。彩風は、「今日はよろしくお願いします!」と、スッキリとよく通る声であいさつし、店内に並ぶ香料の数々を興味深そうに見渡した。
金熊香水は山梨県北杜市の八ヶ岳に工場を構えるジャパンブランドの香水工房。“じぶんのかおり”を持つことで日々の生活が豊かになる……そんな理想の毎日に一歩近づくサポートを、金熊香水ではコラボ香水の製作を通して行っている。ラボショップでは、自分の好きな香りやイメージする香りのコラボ香水を、店舗スタッフのアドバイスを受けながらじっくりと、腰を据えて作ることができるのだ。
取材に訪れた日は、前日からの寒波の影響でひどく冷たい風が吹いていたが、店内は日だまりのように暖かかった。彩風は落ち着いた空気をまといながらもワクワクした様子で、コラボ香水の製作をスタートさせた。まずは、“金熊ベース”と呼ばれる18種類のフレグランスの中から、ベースとなる香料を決める。いずれも香りが4時間から5時間ほど続くオードパルファムで、単体の香水としても楽しめるが、数種類をブレンドして自分好みの香りを作ることができるのがポイントだ。金熊ベースを説明する一覧表には、シトラス系、フローラル系、ムスク系、ウッディ系などの香りが、トップノート、ミドルノート、ラストノートに分かれて載っている。それぞれのノートから1つずつ選ぶとバランスが取れた香りになりやすいが、金熊ベースはどれをどう組み合わせても香りが破綻しないように開発されているのだそう。彩風は金熊ベースのガラスロートを手に取り、気になったベースの番号をレシピにメモしながら、次から次へと香りを嗅いでいった。
色で言うと“紫”…奇跡のようなベースが完成
彩風は今回のコラボ香水について、製作前に「ファンの皆さんにつけていただけるような香水を作りたい」と語っていて、イメージとして、“心のふるさと”や“すみれの花”、“パウダリーな香り”といったキーワードを挙げていた。フローラル系の2種類のベースを試した彩風は、ウッディ味のある“フローラルブーケ”に対し、「この香り、好きです」とにっこり。さらに甘みが少ない“ホワイトムスク”を手に取り、「これも合いそう。マストで使おうかな」と直感を働かせ、イメージを膨らませていった。
金熊ベースがずらりと並ぶ棚の前で、1つ匂っては「あー」、1つ匂っては「うーん」と、まるで頭の中で数式を解く化学者であるかのように、静かな思考を巡らせていた彩風。“すみれの花”を体現する香りの配合を求めて、フローラル&ムスクの組み合わせに“グラスグリーン”をほんの少し加えてみると、甘さの中にもシャープな装いが立ち現れた。しかし彩風は、「ちょっとリンゴっぽい。ジューシーな雰囲気になりました」と言って、フローラルの種類を華やかさがあるものに変えることに。さらに彩風の提案で、フゼアー調の“アロマティックラベンダー”を一振りすると、店舗スタッフいわく「色で言うと“紫”」という、落ち着きがありつつもどこか懐かしさを感じさせる香りができあがった。彩風は、ムエット(試香紙)を振りながら、「お花っぽさとせっけんっぽさがあって、これがイメージに近いです。自分がつけるなら、アンバー系の“バルサム”を入れたほうが好みですが、華やかになりすぎてしまうので、ラベンダーが香ったほうが季節や場所を選ばずに、ファンの皆さんが1年中使えるものになっていいかな」と満足そうな表情を浮かべた。
バチバチの決断、“和な白粉×洋なお酒”でジェンダーレスに
アーティスティックな感性と素早い判断力で、わずか15分でコラボ香水のベース香料の最適解を導き出した彩風。ベースを決めたあとは、トッピング香料の選定を始めた。トッピングは3種類まで選べるが、3種入れるとかなり複雑な香りになるそう。彩風は、“すみれの花”に近いと勧められた“イリス”を早速試し、「入れましょう」とバチッと決断。イリスは、花っぽさがありつつも白粉のような香りがして、わずかに入るだけで、香りに風格が出た。さらに、仕上がりつつある香水の輪郭を出すために、彩風はトッピングの“ゼラニウム”や“ヒノキ”を試していく。そんな中、さらなる紫色を想起させる香りとしてたどり着いたのが、ジンの香り付けに使用される“ジュニパーベリー”だった。洋風で男性的な印象のジュニパーベリーの匂いを確かめた彩風は、「甘さと爽やかさのバランスが取れて、ジェンダーレスな香りになりそう!」と納得した様子でこくりとうなずき、「これで」とクールに一言。彩風のコラボ香水の香りが決定した。あまりにスムーズに事が運んだ様子に驚く周囲に「もっと迷ったほうがいいですか?(笑)」と笑顔を向ける彩風の周りには、揺るぎのない、リラックスした空気が流れていた。
真剣な表情で繊細な配合、届けたいファンの存在がそこに
使用するベース香料、トッピングが決まり、香りの方向性が見えてきたら、今度はそれぞれの配合比率を、はかりを使って調整し、世界に一つの自分だけの香りに近づけていく。「香水が死ぬほど好き」だと話していた彩風は、理科の実験のようなはかりを前に、やや緊張した面持ちでスポイトを手に取った。店舗での調香体験では、15ml(13g)以内で配合し、トッピングはそれぞれ配合上限のパーセンテージが決まっている。彩風がベース香料をそっとビーカーに垂らすと、ふわりと花の匂いが店に立ち込めた。配合では、微量の変化によって香りにせっけんっぽさが消えたり、甘みが増えたりする。彩風はその都度、店舗スタッフのアドバイスをもとに納得がいくまで配合を続け、何かに集中する子供のように真剣な顔ではかりを見つめていた。しかし、ふいに「わからなくなってきちゃった(笑)。廊下で嗅いできていいですか?」と、扉の外へ。数十秒の退室で嗅覚と気分をリセットした彩風は、戻るなり周囲のスタッフに試香を促して、「どうですか?」「いい香り?」「わかってきたかも!」と、自身が求めるテイストをより明確に言葉にし始め、さえ渡った配合を練り上げた。ビーカーの中の香水をマドラーで混ぜた直後は、揮発性の高いアルコールの香りが先に立つ。彩風はベストな配合がアルコール臭に惑わされないよう、新たな香りができあがるたびにビーカーに浸したムエットをカメラマンや店舗スタッフに渡し、香りがどのように変化しているかを、それぞれに聞く。スタッフたちの意見をうなずきながら聞いている彩風の目線の先には、自身の香水を届けたいファンたちの存在があるようだった。
そして香りがなじんだところで彩風が匂いを再度確認し、採用するか否か、判断を下すという作業を繰り返す。それが3、4回続けられたあと、とうとうコラボ香水が完成! 肌につけると清潔感あふれるソーピーな香りがわっと広がり、奥のほうからラベンダーや花の香りが顔を出す。花と言っても大輪の花ではなく、小さくかわいらしい、まさに彩風が求めた“すみれの花”のようなつつましやかな印象だ。甘すぎず、ハンサムにまとまった香りは彩風らしくもあり、いくつも折り重なった香りの層に探究心が刺激され、ずっと嗅いでいたい気分になった。彩風は「ありがとうございます!」と、その日一番の笑顔で喜びをあらわにした。
彩風咲奈の“自己紹介香水”は、劇場で推しの香りを嗅げるくらいの控えめさ
──今回は、彩風咲奈さんにコラボ香水をお作りいただきました。初めての調香体験はいかがでしたか?
楽しかったです! 私は香りの中でも特にムスク系の香りが好きなのですが、たくさんの種類の香料を嗅ぎながら、改めて自分が好きな系統の香りや香水に対する思いを確認することができました(笑)。
──今回製作した香水のテーマを、“ファンの皆さんにつけてもらいたい香り”とされた背景を教えてください。
私自身、香水が大好きなんです。誰にも教えない“自分だけの香り”というのはもちろん持っていますが、それとは別に、季節によってつける香水を変えることもけっこうあって。もし、ファンの皆さんも1年を通してデイリーに使う香水を3つくらいお持ちなら、その中の1つにしていただけるものを作れたらなと、最初にパッと思いつきました。また、宝塚歌劇団を卒業して1年が経ちましたが、これまでの私のことを知ってくださっている方以外に、初めて知ってくださった方に、私の原点が宝塚歌劇団であると知ってもらうことは、私にとって大切なことだと感じています。“香りは記憶と強く結びつく”というのは私自身実感することなので、宝塚歌劇団に「すみれの花咲く頃」という曲があったり、劇団の本拠地である宝塚市のお花がすみれであったりすることも踏まえて、すみれの花や香りを代弁するような香水で、「私の原点はここです」と伝えられたらとイメージしました。
──彩風さんの“自己紹介香水”にもなるわけですね。
そうですね(笑)。それに、劇場に行くと自分の推しそれぞれの香りを嗅ぎたいと思われるお客様もいらっしゃるはず。作らせていただいたコラボ香水は柔軟剤のように柔らかく香る、“肌の香り”くらいの控えめさにしたので、劇場ではぜひ推しの香りを堪能していただきたいと思います。
──彩風さんにも好きなアーティストに対してそういった経験があるのですか?
宝塚歌劇のファンのときはありました。客席降りで近くを走り抜けられた方が、ふわっといい匂いをまとっていて。それに宝塚大劇場は、それが楽屋なのか、劇場なのか、客席なのかわからないけれど、すごくいい匂いがするんです。どこからか化粧品と香水が混ざったような香りがすると「あ、楽屋の匂いだ」と、懐かしくなります。
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何の香りが残るかはお楽しみ、それが狙いでこれがいい



