「消しゴム森」は、昨年2019年10月に「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2019」にて上演された劇場版「消しゴム山」と対を成す“美術館版”作品で、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市を2017年に訪れたチェルフィッチュの
プレスガイダンスではまず、「消しゴム森」と、展覧会「開館15周年記念 現在地:未来の地図を描くために[2]」展および「lab.4 Space Syntax」の説明がなされた。島敦彦館長が挨拶を述べたあと、黒澤浩美チーフキュレーターが「消しゴム森」について解説する。黒澤キュレーターは「本作では役者の方々、映像、オブジェクトが一体化したような環境が設えられます。どこにも境がない状態になるので、通常の演劇を観るのとは違う関係になると期待できます。ただ、慣れない方には一体何が起きているのかわからないかもしれません。でもそれ自体も楽しんでいただければ」と話す。また「(内容は)だいたい2時間ぐらいで1ループですが、どこが始まりでどこが終わりかということは、わからないようになっています。最初は戸惑うかもしれませんが、その場にいていただくと環境になじんできますので、観る作法、動く作法が見えてくるまでそこにい続けていただく、ということが鑑賞のポイントの1つになると思います」と笑顔で語った。
続けて「開館15周年記念 現在地:未来の地図を描くために[2]」展の各展示室が紹介され、出展作家のミヤギフトシ、毛利悠子、安部泰輔が各作品の説明を述べる。その後、「消しゴム森」のリハーサルが20分程度公開された。「消しゴム森」はそれぞれにタイトルが付けられた7つの展示室で展開されるが、リハーサルが行われたのは「演劇」の展示室。無数の卓球ボールやテニスボール、バイクカバー、パイプ、色水が入った空き容器などさまざまな“モノ”が置かれた部屋に、俳優たちがぞろぞろと入ってくる。そのうちの1人が前に進み出て、カラフルなチューブの輪の中に身を置いてじっとたたずむと、その様子をほかの俳優たちが数秒見つめ、やがて糸がふっと切れたようにうろうろと辺りを動き回った。続けて別の俳優が、大きなオレンジ色のゴム風船のような塊を持ち上げ身体の横に掲げたり、大きな鏡を頭上に掲げて部屋の隅に佇んだり、俳優2人がバイクカバーを被ってみたり、大きなボールの横でかがみこんでみたりすると、ほかの俳優たちは数秒間止まってその様をじっと見つめ、うなずいたり、何かを囁き合ったりして、また動き出すのだった。やがて、俳優の1人が拡声器を持って語り始める。それは、優先順位が下がってしまった、見捨てられた“モノ”たちの言葉で……。
パフォーマンス後、岡田と金氏が作品について語った。岡田は「従来の演劇は、人間の人間による人間のための演劇だったと思いますが、今回は人間に向けた演劇ではないものをやりたいと思っています。その試みを、展示室ごとに“彫刻演劇”“映像演劇”といったように表現しています」と述べ、「“モノ”はこれまで、人間の目的に従事する道具という存在でしたが、“モノ”によって人間が“半透明”になると、人と“モノ”の新しい関係ができるのでは」と語った。また金氏は「僕が普段作っている作品と演劇との一番の違いは人間がいること。今回の作品を通して、人と“モノ”の新しい空間性、関係性ができるのでは」と述べつつ、「僕はすでにある“モノ”を組み合わせることで彫刻を作りますが、本作ではそういった、僕が彫刻を作るプロセスそのものが、演劇として機能するのでは」と意気込みを語った。
さらに記者が岡田に、本作のきっかけとなった陸前高田での体験について尋ねると、岡田は「僕が陸前高田で見た光景は、商業地区が津波で流され、それを復興しようという現場でした。元の状態を再建するために、地面を12メートルかさ上げする工事をしていたんですね。ものすごく広いところなので、そんな広い場所をすべてかさ上げするなんて信じられないと思って。もちろんその背景にある気持ちはわかるのですが、『そんなことをやってもいいのか』と素直に疑問に思い、そこに適用される価値観、人間中心的な尺度にびっくりしたんです」と語った。
チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム森」は2月7日から16日まで。開場時間は10:00から17:00で、ライブパフォーマンスは11:00から16:00に実施される。なお2月7日には篠原雅武、岡田、金氏、8日には宮沢章夫と岡田によるポストパフォーマンストークが開催される。
なおステージナタリーでは「消しゴム森」特集を展開。黒澤キュレーターによる作品の紹介、岡田、金氏、映像を手がける山田晋平のインタビューを掲載している。関連する特集・インタビュー
チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム森」
2020年2月7日(金)~16日(日)
石川県 金沢21世紀美術館 展示室7~12、14
作・演出:
セノグラフィー:
出演:
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熊井玲 @rei720
「“モノ”によって人間が“半透明”になると、人と“モノ”の新しい関係ができるのでは」→リハを体感して、観客側も半透明になる意識になったとき、ある一瞬それを感じられるように思いました。あと、映像演劇が面白かった。https://t.co/c6wppsCOIT