チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム森」 PR

チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム森」特集|あなたも「消しゴム森」の一部に──人間中心主義の先に導く、人類の未来に向けた岡田利規の挑戦

チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム森」が2月に石川・金沢21世紀美術館にて上演される。「消しゴム森」は、2019年10月に「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2019」にて上演された劇場版「消しゴム山」(参照:「消しゴム山」に岡田利規「変なものができました。ここまで変だとは」)と対を成す“美術館版”作品で、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市を2017年に訪れたチェルフィッチュの岡田利規が、急ピッチで進む復興工事の様子を見て考え始めた、“人間的尺度”を疑う新作。セノグラフィーには「家電のように解り合えない」や「わかったさんのクッキー」などで岡田とタッグを組んでいる現代美術家の金氏徹平、映像にはチェルフィッチュと“映像演劇”に取り組んでいる舞台映像デザイナー・山田晋平が名を連ねている。

本特集では、金沢21世紀美術館のチーフ・キュレーターの黒澤浩美による作品説明のほか、岡田、金氏、山田へのインタビュー、さらに本作の出演者である“モノ”と“人”を紹介。人間中心主義の先に導く、人類の未来に向けた岡田利規の挑戦に迫る。

構成 / 熊井玲

キュレーターが語る、About「消しゴム森」

「消しゴム山」(劇場版)と「消しゴム森」(美術館版)は未来に向けた演劇

文 / 黒澤浩美(チーフ・キュレーター)

金沢21世紀美術館の外観。(撮影:渡邉修、提供:金沢21世紀美術館)

チェルフィッチュの新作「消しゴム山」(劇場版)と「消しゴム森」(美術館版)は、演劇作家・岡田利規が、2017年、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市を訪れたときに始まります。津波被害を防ぐ高台の造成工事には、周辺の山を削り取った土砂が使われていますが、岡田は人の手によって風景が大きく変わってしまった様子に驚き、もはや人間的な尺度を大きく逸脱するものだったと、その様子を言い表しました。度重なる環境の変化に向き合う私たちは、何とか自然に打ち勝ちコントロールしようとしてきましたが、そもそも自然と人間は相対する関係なのでしょうか。そうした自然の作り変えをする人間は環境の一部であるにもかかわらず、対立するかのような関係にあると考えていることこそ疑うべきなのでないか。長く支持されてきた人間中心主義への疑いから、岡田によるチェルフィッチュの新作の構想は、「脱人間中心主義」に基づく“演劇”になり、発展していきました。

「消しゴム山」(劇場版)と「消しゴム森」(美術館版)は、テキストのほとんどを同じくしていますが、“劇場”と“美術館”というまったく異なる装置が前提とされているがために、その様相は大きく異なることになるだろうと予想できます。劇場には舞台とそれ以外、という領域を分ける境界が設けられていますが、美術館の展示室にはそうした領分がありません。あるとしても作品と観客というマージナルで、一定ではありません。そのうえ、「消しゴム山」では、その場にいた観客はリニアな時間を共有しますが、「消しゴム森」では、観客が空間と時間を自由に選択することができます。しかし、これは裏を返せば、同時に異なる場所の体験は不可能ということでもあり、環境にいる人や物の数だけ、あるいは人や物の関係によって異なる時間が同時に複数存在することになります。そして“あなた”も「消しゴム森」の一部となるので、もはや観客とすら言えないのかもしれない。「消しゴム森」は、この考えを演劇で可視化する実験だと言えます。

金沢21世紀美術館の内観。(撮影:中道淳 / ナカサアンドパートナーズ、提供:金沢21世紀美術館)

岡田の視座は、明らかに未来に向けて据えられていて、演劇が人間の物語やその起承転結に貢献するための形式ではなく、人間中心主義の先に導く、人類の未来に向けた挑戦に使う手法であることを示しています。それに応えるのは、チェルフィッチュとセノグラフィーの金氏徹平。現代美術作家の金氏は、空間における物や人の存在と関係について、これまでも岡田と共に実験を繰り返してきました。いわゆる絵画や彫刻であれば、かろうじて壁や展示台の上にある限り領域を分ける境界がありますが、今回の金氏の作品は、どれも環境と分かち難く「消しゴム森」の中に存在しています。また、岡田が舞台映像デザイナー・山田晋平と共に取り組む“映像演劇”は、演じている映像を観る人々が現実とフィクションの間で揺れ動く、曖昧さを創出する演劇。ここでもまた領域が環境に融解しています。さて、我々はこの森に分け入り、環境の一部となって静かに佇むとき、何が目に入り、何が聞こえるのでしょうか。

「消しゴム森」のキャストたち

本作には、“モノ”と“人”が同等に登場する。そこで舞台に出演する代表的なメンバーのプロフィールを紹介。なお“モノ”のプロフィール部分は、金氏が担当している。

撮影:守屋友樹

テニスボール

消しゴム山の舞台の上に見えるもので最も数の多いモノ。

規則的に整列している時間もあるが、小さく、転がることから、人間やほかのモノ、もしくは目に見えない風などによってコロコロと転がり、舞台上を撹拌する。性質上、鮮やかな黄色であるため、小さいながら、とても目を引くので、遠くから見るとスケール感を狂わせる。レモンにサイズも色も似ているが、フルーツもその性質上とても鮮やかな色をしていることが多く、自然や都市の中でも目を引き、スケール感を狂わす。球技の球とフルーツは本質的に似ている。

青柳いづみ©︎篠山紀信

青柳いづみ(アオヤギイヅミ)

2008年、「三月の5日間」オーストリア・ザルツブルグ公演よりチェルフィッチュに参加。2007年よりマームとジプシーに参加、以降、両劇団を並行し国内外で活動。近年の主な出演作にチェルフィッチュ「部屋に流れる時間の旅」、金氏徹平「tower(THEATER)」、藤田貴大演出「みえるわ」(小説家・川上未映子との共作)、「CITY」など。また、音楽家・青葉市子とのユニットやナレーション、文筆活動なども行う。漫画家・今日マチ子との共著「いづみさん」(筑摩書房)、朗読で参加している詩人・最果タヒの詩のレコード「こちら99等星」(リトルモア)が現在発売中。

撮影:守屋友樹

バレーボール

テニスボールの次に数の多いモノ。

同じく丸く、鮮やかな黄色をしているが、テニスボールより大きい。異なったルールの中に存在していたために、大きさが変わってくる。特定のルールに合わせて作られたモノが、そのルールから取り出されると、とても抽象的な存在感を放つ。

安藤真理

安藤真理(アンドウマリ)

2006年兵庫のAI・HALLにて岡田利規ワークショップ&パフォーマンス「奇妙さ」に参加。以降、2008年「フリータイム」、2009年「記憶の部屋について」(金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」)、「ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶」、2011年「家電のように解りあえない」、2016年「部屋に流れる時間の旅」ほかに出演。

撮影:守屋友樹

鮮やかな色をした液体が入った透明のプラスチック製のボトル

洗剤などが入っている。

これらはまた違った理由で異様に目立つ鮮やかな色をしている。おそらく人間が間違えて飲まないように警告としての鮮やかな色。人間はそれだけ液体を見ると飲もうとする生き物なのかもしれない。ある意味で危険であり、それがゆえに目立つ色をした液体の存在は、空間を不安定にするし、不穏な雰囲気を持っている。長めの棒と共に、飛行機に持ち込む時に最も警戒されるモノの一つである。

板橋優里

板橋優里(イタバシユリ)

宮城県生まれ。尚美学園大学に入学し演劇を始める。大学卒業後、小田尚稔の演劇、ウンゲツィーファ、アナログスイッチなどに出演。近年ではチェルフィッチュ「『三月の5日間』リクリエーション」に出演。

撮影:守屋友樹

反射板(ハンシャバン)

特に屋外で、ある角度から光を当てられると激しい光を放って反射するが、それが機能していないときは、知らない場所や時間からやって来た何かしらの機械の一部のようである。これも危険を知らせるための鮮やかな色をしたモノである。

原田拓哉

原田拓哉(ハラダタクヤ)

1981年大阪府生まれ。嵯峨美術短期大学卒業。美術家。2007年「Uchu」(Gallery Den 58)、2008年「oneroom3」(大阪の元・立誠小学校)、2013年「What(n)ever」(大阪・コーポ北加賀屋)、2015年「DAYDREAM with GRAVITY」(京都・ホテル アンテルーム 京都)のグループ展に参加。

撮影:守屋友樹

油粘土(アブラネンド)

何ものでもない存在であり、常に何かの形になる準備をしている状態である。

矢澤誠

矢澤誠(ヤザワマコト)

1972年福島県生まれ、福島市在住。俳優。NODA・MAP、宇宙㋹コード、ニブロール、ミクニヤナイハラプロジェクト、カムカムミニキーナ、安藤洋子プロジェクト、遊園地再生業団、カンパニーデラシネラ、オフブロードウェイミュージカル「リトルショップ・オブ・ホラーズ」などに出演。チェルフィッチュには「わたしたちは無傷な別人である」「地面と床」「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」に出演。

撮影:守屋友樹

バイクカバー

バイク以外のモノや人間、もしくは空気が中に含まれると、ただちにこの世のものではなくなる。気がする。

米川幸リオン

米川幸リオン(ヨネカワコウリオン)

1993年三重県生まれ。父がイギリス、母が日本、のニッポン人。京都造形芸術大学映画学科俳優コースと映画美学校アクターズコースを卒業。主な出演作品は、チェルフィッチュ「『三月の5日間』リクリエーション」、小森はるか+瀬尾夏美「二重のまち / 交代地のうたを編む」、ミヤギフトシ「感光」など。また、伯楽─hakuraku─のメンバーとして、岩手県住田町で自主映画の企画から上映まで行っている。

撮影:守屋友樹

陸前高田の工事現場の分度器のようなモノ

陸前高田の嵩上げ工事の現場でたくさん目にした物体を再現したモノ。

建設中の人工的な山の角度を見るためのモノか。実際はわからない。まだ見えない新しい山。これまであったがなくなってしまった過去の山。計り知れない自然の脅威をなんとか人間が測ろうとするための道具。そういうモノを想像させる。