目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。7月の歌舞伎座では、夜の部「蝶の道行」で市川染五郎と市川團子が久々に共演。恋が報われずに世を去った助国と小槇が蝶となって舞い踊る様を優美に演じる。「前とはまた違った化学反応を」と意気込む2人に思いを聞いた。続けて8月の「火の鳥」では兄弟役も。インタビューでは、演出の坂東玉三郎への思いも語られた。
取材・文 / 川添史子撮影 / 平岩享
各々がやるべきことをやることで、息の合った作品に
──7月歌舞伎座夜の部、締めくくりはお二人の「蝶の道行」。久々の“染團”共演を楽しみにされている方も多いと思います。
市川團子 舞踊で言うと2021年の「三社祭」、芝居は2022年の“ヤジキタ”(「東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚」)以来ですから、ご一緒するのは本当に久々です。
市川染五郎 僕たち自身も楽しみな公演ですし、この数年間、お互いが別々の場所で経験したことをぶつけ合って、前とはまた違った化学反応が起きればと思います。
團子 共演はいつもいい意味での戦いでもありますが、今回は恋人役。これまで演じてきた関係性とはかなりテイストが変わりそうな予感もあります。“ヤジキタ”で僕たちが演じてきた、梵太郎とお供の政之助の主従関係ともまた違いますから。
染五郎 “ヤジキタ”でも早替りで女方になる恋人同士のような場面はチラッとあったけれど、たった2人、男女の役で息を合わせて、というのは初ですからね。
──お二人の役は、主君とその許嫁の身替わりとして命を落とした助国(染五郎)と小槇(團子)。生前は恋仲だった二人による死後の道行、蝶の姿となった恋人同士を夢の中のように描いた舞踊です。
染五郎 息がぴったり合っていないと成立しませんが、「合わせよう、合わせよう」と意識しすぎると、かえって合わなくなってしまう難しさがあります。でも、それぞれがきちっと作品と役柄と性根を理解していれば必ず合うはずですから。各々がやるべきことをしっかりとやり、お互いのものを持ち寄って1つの作品に作り上げることができればと思います。
團子 全くの同意です。お役の理解を深めることが、どんどんお互いの息が合うことに繋がっていくのだと思います。
──歌舞伎座で「蝶の道行」が上演されるのは2009年以来。これまでは武智鉄二構成・演出版で上演されることが多かったです。
染五郎 今回は藤間のご宗家(藤間勘十郎、日本舞踊宗家藤間流家元。振付は二世藤間勘祖)にご指導いただきます。
團子 勉強のためにいただいた参考映像がいくつかあって、いっくん(染五郎)と会うと「迷ったときはこの映像に立ち返ろう」「この雰囲気がいいよね」なんて話し合いもできていて、準備の時間も大事なセッションだと感じますね。しゃべっていると「ここがステキだね」と目に留まる部分が一緒なのもうれしくて。
染五郎 一緒なのかはわからないですけど……(笑)。
團子 え、え!? 急に手を離さないでよ! 今、突然の裏切りが起こりました!
染五郎 (静かに笑っている)
──では確認のためにも(笑)、お二人が目指す方向性をもう少し詳しく教えていただけますか?
染五郎 登場時から2人は死後の世界にいるので悲劇的ではあるのですが、馴れ初めや楽しかった日々を回想するなど、途中でぱっと楽しく華やかにもなる。このコントラストをはっきり見せるのは大事なポイントでしょうね。でも蝶の羽ばたきのような浮遊感というか、明るい場面でも死後の世界で魂が舞っているような身体感覚を、最初から最後まで持っていなくてはいけない。これを一貫して表現するのも難しいんです。
團子 最初蝶々で出てきて、引き抜いて回想場面となり、また蝶々に戻って……と、蝶→人→蝶と行ったり来たりする構成もすごく面白いですよね。そんな中で、いっくんが言うような浮遊感、儚さをどう踊りで見せていくか。義太夫の踊りなので振りが音にはまらなすぎても面白くない。随所にある塩梅がとても難しいけれど、それがこの舞踊の独特な魅力であり、ステキなところだと思います。
──蝶々といえば、松本幸四郎さんが「春興鏡獅子」を踊られたとき(2013年国立劇場)、まだ小さかったお二人が胡蝶の精をなさっていました。こうして大きくなられ、お二人だけで歌舞伎座のひと幕をお勤めになるなんて月日が経つのはあっという間です。
團子 あれも蝶々でしたね! 僕たち、節目節目に蝶になるみたいです(笑)。僕が9歳、いっくんが8歳。あのときは出の前に2人が苦手なところを「こうだよね」と毎回確認して舞台に出て行った記憶があります。
染五郎 それは全然覚えてないんですけど……。
團子 え! (振りを見せながら)「♪ちゃんちゃんちゃん……だよね」って言い合ったの、覚えてない?
染五郎 ……でも本番の何カ月も前から稽古したことはすごく記憶にあります。
團子 そう、あのときはたくさん長いことお稽古しましたね!
染五郎 本番よりも稽古期間が長くて、今思えばその時間がすごく濃かったなって。
團子 確かあのときは、夏休みを挟んでお稽古したんだよね。
染五郎 そう、夏でした。懐かしい。
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8月は坂東玉三郎演出「火の鳥」で兄弟役に