ミュージカル「二都物語」博多座大千穐楽を配信で、井上芳雄・浦井健治・潤花が作品と役への思い語る

5月7日に明治座で開幕し、大阪・愛知公演を経て、福岡で千穐楽を迎えるミュージカル「二都物語」。au Live StreamingおよびTELASAでは、7月13日に博多座で行われる、大千穐楽の模様を独占配信する。

ステージナタリーでは2013年の初演から続投となるシドニー・カートン役の井上芳雄と、チャールズ・ダーニー役の浦井健治、今回が初参加となるルーシー・マネット役の潤花にインタビュー。18世紀のイギリスとフランスを舞台に、人を思い、人のために奔走する者たちの生き様、そして時代を超えて共感を呼ぶ本作の魅力について、話を聞いた。

取材・文 / 熊井玲

au Live StreamingおよびTELASAでは、ミュージカル「二都物語」博多座公演最終日の模様を独占配信!

ミュージカル「二都物語」ポスター

ミュージカル「二都物語」生配信

2025年7月13日(日)


ライブ配信開始日時
開演時刻の30分前

視聴チケット販売期間
2025年6月12日(木)15:30~7月20日(日)20:00

アーカイブ配信期間
公演終了後準備整い次第~2025年7月20日(日)23:59

視聴料金
5,500円(税込)

シドニー・カートン:井上芳雄
チャールズ・ダーニー:浦井健治
ルーシー・マネット:潤花

マダム・ドファルジュ:未来優希
エヴレモンド侯爵:岡幸二郎
バーサッド:福井貴一
ジェリー・クランチャー:宮川浩

ドファルジュ:橋本さとし
ドクター・マネット:福井晶一

ジャービス・ロリー:原康義
ミス・プロス:塩田朋子
弁護士ストライバー:原慎一郎

荒田至法、奥山寛、河野顕斗、後藤晋彦、砂塚健斗、田中秀哉、常住富大、福永悠二、丸山泰右、山名孝幸、横沢健司、彩花まり、石原絵理、岩﨑亜希子、音道あいり、樺島麻美、北川理恵、島田彩、原広実、玲実くれあ

大村つばき、齋藤菜夏、髙木郁、若杉葉奈、張浩一、松坂岳樹

配信チケットをau Live Streamingで購入

配信チケットをTELASAで購入

再演でさらに磨かれたミュージカル「二都物語」

1859年に発表されたチャールズ・ディケンズの「二都物語」は、イギリス・ロンドンとフランス・パリを舞台に、青年2人と女性1人の関係を描いた長編小説。ミュージカル版は2007年にアメリカで、ジル・サントリエロの脚本・作詞・作曲より誕生した。物語は18世紀後半のイギリスから始まる。ルーシー・マネットは、死んだと思っていた父が実は17年間バスティーユに投獄されていて、居酒屋を営むドファルジュ夫妻に保護されていることを知り、パリを訪れる。その帰路、フランスの亡命貴族チャールズ・ダーニーと出会うが、チャールズはスパイの濡れ衣を着せられてしまう。そのピンチを救ったのが、ロンドンで事務所を営む酒浸りの弁護士シドニー・カートン。以降3人は親交を深め、やがてルーシーとチャールズは結婚することになった。過去と決別して幸せな毎日を過ごしていたチャールズだったが、フランス革命によって窮地に追い込まれたかつての使用人の危機を救うため、フランスに戻ることに。すると、自身も民衆に拘束されてしまう。そんなチャールズのため、シドニーは奔走するが……。

ミュージカル「二都物語」より。

ミュージカル「二都物語」より。

日本では2013年に鵜山仁の演出で初演。井上芳雄演じるシドニー、浦井健治演じるチャールズの、対照的でありつつも共鳴し合う生き様が多くの観客の胸を打った。12年ぶりの再演となる今回は、井上、浦井が続投するほか、ルーシー役には潤花がキャスティング。赤と青で“二都”を表現した松井るみの舞台美術、登場人物の立場や心情の変化をグラデーションや白濁で表現した前田文子の衣裳など、視覚的にも見どころの多い本作は、東京で開幕して以来、連日、多くの感動を呼んでいる。

井上芳雄・浦井健治・潤花が語るミュージカル「二都物語」

シドニー・カートン役 井上芳雄

井上芳雄

井上芳雄

──ミュージカル「二都物語」は、井上さんにとってどのような印象が残っている作品でしたか?

すごく大きな話という印象です。シドニーは“決断をする人物”ですし、人生において大切なことが描かれた話だと思って初演は演じさせていただきました。ただ、初演は帝劇公演だけでしたし、自分の力不足もあって作品の良さをお客様に届けきれなかったのではないかと思っていたので、浦井くんとも「いつかまたやりたいね」と話していましたし、ファンの方から「また観たい」と言っていただくことが多くて、よく思い出す作品ではありました。でもまさか、12年経って再演するとは思っていなかったですけれど(笑)。

──シドニー・カートンという役に対して、再演で考察が深まった部分はありますか?

最後に彼がする決断がこの作品の核だと思うのですが、12年前は、シドニー自身にその大きな心がもともとある人というか、聖人君子とはいかないけれども、もともと立派な資質を持っていた人という印象で、その素質を発揮して、シドニーは“強力な自己犠牲”を成し遂げると思ったんです。だから、なかなか自分は同じことはできないけれど、こういう人がいると思うだけで励みになるなと思い、自分とはちょっと違う人という感じが強くありました。でも今回は、僕がそういう人物像に近づいたというわけではないのですけれども、カートン自身が立派な資質を持った特別な人物というより、彼も迷ったり悩んだりしながら選択を繰り返すうちに最後の決断をすることになったところがあるんじゃないかなと思い、そう考えると、もしかしたら自分もひょんなことでそういう選択をするかもしれないし、できるかもしれないと、自分とシドニーの距離がすごく近くなった気がしています。

──確かに再演では、登場からラストまでのシドニーの心の動きがより細やかに伝わってきました。目標もなく飲んだくれていた最初の状況から、自分の命をどうやって全うするかと焦点が定まっていくまでの過程が、井上さんの繊細な演技、歌の1つひとつによって深く刻まれ、初演以上にシドニーの人間味を感じました。

そうだといいなと。2回目でいろいろと身体に入っているからこそ表現しやすいところはありますし、実際12年前より楽に演じられている気もします。その点でも、12年ぶりの再演はいいタイミングだったんじゃないかという気がしますね。

ただ、カートンがどういう人物なのかは、実は台本にあまりはっきりとは書かれていないんです。でもきっと、もともと“欠けている人”なのではないかなと思っていて……親の愛情もでしょうし、誰からの愛情も得てない、信じてない人なんじゃないかなと。そういう人物がルーシーから愛情をもらって、お互いに思い合うことはできなかったけれども、家族の一員にしてもらったことで欠けていたものが埋められ、さらに彼女からもらった愛情があまりに大きかったので、感謝の思いを最後まで貫こうと突き進んでいく……シドニーのそういった行動の“動機”は、今回自分の中にもけっこうはっきりとあるかなと思います。

──浦井さんとは同じ役、同じ関係性での共演となります。改めて浦井さんの変化を感じた部分はありましたか?

浦井くんとはずっと付かず離れずの距離で一緒にやってきていますが、お互い12年経験を積んできて、12年前とは違う演じ方ができているんじゃないかと思います。もちろん役者さんとしてどんどん進化していっていることは、一緒にやっていても感じますし、いろいろな役柄を彼も演じているけれど、今回はダーニーという人を演じることに徹しているなと。その徹し方は、職人のようだなとも思います。

──今回が初参加となる、潤花さん演じるルーシーの印象はいかがでしょうか?

潤花さんとは今回初めてご一緒するんですけれど、本当にみんなから愛される人で、ルーシーにぴったりの人間性という感じがしますね。またみんなで話し合いながら作っていく中で、初演ではどちらかというとルーシーはカートンに対して恋愛感情も含めて特別な思いがあったのではないか、と考えて演じられていたと思うのですが、今回潤花さんは、ダーニーへの愛とカートンへの愛を分けて演じていて、そのように演じてくれていることで、言葉で説明するのがなかなか難しい類の愛情ではありますけれども、ルーシーのカートンに対する思いは性別を超えた大きな愛情になっているんじゃないかと思います。

ミュージカル「二都物語」より。

ミュージカル「二都物語」より。

──演出の鵜山さんも初演からの続投です。

鵜山さんは本当に面白い演出家だなと思います。断定をしない方で、「こうじゃないのかな」とか「これはどうですかね」という感じで、こちらに考えたり発見したりする猶予を与えてくださるんです。それでいて、ポイントポイントはしっかり押さえて物語の流れを作っていってくださるので、やっぱりすごい演出家だなと思います。大きなミュージカルは久しぶりだとおっしゃっていましたけれど、音楽のこともすごくよくわかっていらっしゃいますし、この作品はミュージカルでありつつドラマの部分もすごく大きな作品なので、その点をしっかりと描いてくださっている。鵜山さんのお力は大きいなと思います。

──チャールズ・ディケンズ作品は日本でもなじみ深いですが、改めてディケンズ作品の魅力をどんなところに感じますか?

フランス革命を描いてはいるんだけれど、描き方が一辺倒ではないというか、“民衆が正義で、貴族が悪”ということだけでなく、どちらにもその人たちなりの意見や立場があって、見方を変えればどちらもいいものにも悪いものにもなる、という描かれ方に視野の大きさを感じます。そして民衆と貴族の間に立つカートンという人物を作り出したところがすごいなと思いますね。でも原作はとにかく長いし、話が横道にそれまくって、ある意味とっ散らかっていた印象なんです(笑)。それが、ミュージカル版ではカートンに焦点を当てることで整理されていると思いますし、すごくわかりやすくなっているのではないかと思います。

──本作は東京・大阪公演を経て福岡で大千穐楽を迎えます。配信をご覧になる方にメッセージをお願いします。

劇場で観ていただくのが演劇なので、可能な限り劇場に来ていただければうれしいですが、コロナ禍以降、昔は配信できなかった作品も観られるようになりました。という点で、作品を観ていただける方が1人でも多いのは僕たちにとってもうれしいことですし、劇場に行けなかった方にはぜひ配信でご覧いただきたいですね。また劇場でご覧になった方たちには、鵜山さんがすごく丁寧にお芝居をつけてくださっていることや、キャストのみんなが毎日トライアンドエラーを繰り返しつつお芝居を作っている様子がアップになるとより感じていただけるのではないかと思いますので、配信ならではの楽しみ方でご覧いただけたらと思います。

プロフィール

井上芳雄(イノウエヨシオ)

1979年生まれ、福岡県出身。2000年にミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役でデビュー。以後、さまざまな舞台で活躍し、多数の演劇賞に輝く。第13回読売演劇大賞 杉村春子賞、第33回菊田一夫演劇賞、第20回読売演劇大賞 優秀男優賞、第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第26回松尾芸能賞優秀賞など受賞歴多数。そのほか、歌手活動やテレビドラマ、バラエティ番組へも活動の幅を広げている。ラジオ「井上芳雄 by MISELF」(TBSラジオ)、BS-TBS「美しい日本に出会う旅」、NHK「はやウタ」レギュラー司会、WOWOW「生放送!井上芳雄ミュージカルアワー『芳雄のミュー』」などレギュラー番組放送中。8月に「ミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』ARENA LIVE」、10・11月にミュージカル「エリザベート」(東京公演)が控える。

チャールズ・ダーニー役 浦井健治

浦井健治

浦井健治

──ミュージカル「二都物語」は、浦井さんにとってどのような印象が残っている作品でしたか?

12年前というと、井上芳雄さんと共にStarSというユニットを組んで活動していたころで(編集注:2012年に立ち上げられた井上芳雄、浦井健治、山崎育三郎によるユニット。2013年にCDデビューし日本武道館コンサートを行うなど人気を博した)、常に稽古場とリハーサルを行き来して……というような時期だったと記憶しています。初演では、ミュージカル界、演劇界を第一線で引っ張ってくれている兄貴的な存在である芳雄さんが、本当にカートンのように感じられたというか……自分のことよりも演劇界のこと、ミュージカル界の未来のことを考えて奮闘している姿が、僕にはカートンと重なって見えたんです。
あれから12年を経て、芳雄さんが今回「この役でまた浦井と」と思ってくださったのはとても光栄ですし、ある意味、奇跡的だなとも思います。また僕たちだけでなく、諸先輩方に初演から同じ役を続投されている方も多く、そのことも演劇界ミュージカル界ではかなり稀なことではないかと思うのですが、みんなの芳雄さんへの信頼感、プロデューサーさんの熱意、お客様も含めみんなのこの作品を愛する思いがあってこその再演だと思っています。

──再演でダーニーのノーブルさや誠実味、人間としての葛藤がさらに深掘りされ、それゆえに彼の生きづらさが増している印象を受けました。チャールズ・ダーニーという役に対して、考察が深まった部分はありますか?

そうですね。血縁とか家柄とか、複雑な生い立ちを背負っているからこそ、すべてを捨てでも人のためになりたいと彼は考えていて、貴族であることは間違いないんだけれども、市民に寄り添うような気持ちを持った青年だということをより感じるようになりました。でもそういう考え方の中で、ダーニー自身は苦しんでいて……。
前田文子さんが手がけられた衣裳では、ダーニーの服の色が1幕から2幕後半になるにつれてどんどん色濃くなっていくんですけれど、同時に心情がより複雑になっていくんです。逆にカートンの衣裳は最初のほうが色濃くて最後はかなり色が抜けて透明になっていく。そういった意味で、2人は対照的ではあるのですが、どちらも人との出会いによって変わっていくという点では同じ。そのことを改めて感じました。

──同じ役、同じ関係性で井上さんと共演されて、井上さんの変化を感じた部分はありましたか?

12年間のうちに立場的なものも変わってきて、芳雄さんのスターとしての責任の重さは増していると思いますが、同時に表現者として、自分に負荷をかけながらいろいろなことにトライし、さまざまな役と対峙してきたであろう芳雄さんの生き様のようなものを感じていて。12年ぶりに同じ役を演じることで、そういった部分を強く感じています。

ミュージカル「二都物語」より。

ミュージカル「二都物語」より。

──今回が初参加の潤花さん演じるルーシーの印象はいかがでしょうか?

宝塚歌劇団娘役トップスターさんとして、天真爛漫で華がある明るいキャラクターを確立されて来た方だと思いますが、ルーシーは苦悩したり、いろいろなものを内に秘めていたり、母親としての強さも見せなければいけない役。そういうお役に、宝塚を退団されてすぐに挑戦するのは大変ではないかと思いますが、果敢に取り組んでいらっしゃるのがすごいなと思います。

──浦井さんは鵜山さんと新国立劇場のシェイクスピアシリーズで長くお仕事されていますが、今作で改めて感じられたことは?

初演も感じたことですが、例えば袖中で「グッド!」みたいなポージングをする鵜山さんって普段のスタイルからは、あまりお見かけしない姿だと思うんですよね(笑)。ラフに楽しんでいらっしゃるのかなと感じますし、音楽がお好きなんだろうなとも感じます。ただ戯曲を読み解いていく中で、「人生はこういうものだ」という人生讃歌だったり、ちょっとした教訓を織り込みつつも、足し算というより引き算で作品を立ち上げていく手腕はさすが鵜山さんだなと思います。またミュージカルの場合はセリフ劇よりも言葉の情報量が少なくなるわけですが、1つの言葉の中にどのような表現を込めるのか、またお客様にどのように情報のキャッチの仕方を委ねるかといった部分に、鵜山さんの演出のすごさを感じます。

──またダーニーのソロ曲「もう一度だけ」で、死を前にした彼の引き裂かれるような思いを浦井さんは繊細かつ深淵に表現されています。ダーニーとはある意味対照的な役ではありますが、今年上演された「天保十二年のシェイクスピア」では、言葉を巧みに操り人を魅了していく佐渡の三世次の色気と狂気を歌の中でダイナミックに表現されていました。改めて浦井さんの歌唱における演技の幅広さに驚きます。

「天保」では、初演ではきじるしの王次、再演では佐渡の三世次という2役をやらせていただく稀有な経験をさせていただきましたが、音楽の宮川彬良さんから大きな言葉をいただいたんです。それは「浦井くんはシェイクスピアシリーズをやっているからわかっていると思うけれど、三世次はそういう(心と言葉が反対の)人物。歌詞と反対の感情で三世次の言葉を言ってごらん」と。その宮川さんの言葉は大きなヒントになりましたし、今後、いろいろな役で表現としての武器になるなと思いました。実際、上演中もどんどん演技が変わっていく感じがあり、楽しかったです。

──本作は東京・大阪公演を経て福岡で大千穐楽を迎えます。配信をご覧になる方にメッセージをお願いします。

今回、アンサンブルメンバーに熟練された方が多く、皆さん自分たちでシーンをどう立ち上げるか考えながら演じていて非常に芝居力が強いのですが、フランス革命で市民の怒りが徐々に狂気をはらんでいく様をよく体現しているんです。なので、配信でご覧になる方には、ぜひみんなの表情や演技を細やかに観てもらえたらと思います。そして、いろいろな方に作品を観ていただけるのはとても貴重なことだと思いますので、ぜひ多くの方に楽しんでいただけたらなと思います。

プロフィール

浦井健治(ウライケンジ)

1981年、東京都生まれ。2000年、テレビドラマ「仮面ライダークウガ」でデビュー。2004年、ミュージカル「エリザベート」皇太子ルドルフ役に抜擢されたほか、新国立劇場のシェイクスピアシリーズなど幅広いジャンルの作品に出演。第31回菊田一夫演劇賞、第17回読売演劇大賞 杉村春子賞、第22回読売演劇大賞 最優秀男優賞、第67回芸術選奨文部科学大臣演劇部門新人賞など受賞歴多数。8月に「ある男」、11月から「デスノートThe Musical」、来年3・4月にミュージカル「破果」に出演予定。

ルーシー・マネット役 潤花

潤花

潤花

──本作は、潤さんが宝塚歌劇団を退団して初めてのミュージカル作品となります。お稽古や本番の中で、新鮮な出来事や発見はありましたか?

新鮮なことばかりでしたね。退団して初めてのミュージカル作品で、いろいろなミュージカル作品がある中、鵜山さんをはじめこのカンパニーの皆さんとご一緒できてすごく幸せだなと思っています。

──潤さんの明るく華やかな雰囲気と、苦難に果敢に立ち向かうルーシーの人物像は、一見すると印象が異なるようにも感じますが、演じられるうえでご苦労はありましたか?

まだまだまだではありますが、今までさまざまな経験をさせていただく中で、心にあるものからルーシーに共感できる部分はたくさんありましたね。ルーシーが幼い頃に経験したことには、彼女自身にしかわからない孤独、葛藤、恐怖があります。中でも乳母のミス・プロスさんや(ルーシーの父ドクター・マネットの財産管理人でテルソン銀行の)ジャービス・ロリーさん、そして母が残してくれた愛情が彼女自身を強く豊かにさせてるのではないかなと。たくさんの苦しみを経験しているからこそ相手へも自分自身へも豊かで温かくいられる。彼女を生きていて、そう思います。
シドニーが心の中で感じていることがわかってしまうからこそ、ルーシーは彼が本当は今何を思っていて何に悲しんでいるのかをごまかさずに、もっと自分を大切にしてほしいと誰よりも願っています。ルーシー自身も初めてなほど、彼をこれでもかというほど大きな愛情で包んでいます。ルーシーをそうさせたのは彼自身だとも感じています。
愛する人々のおかげでルーシーが強く豊かに生きていること。いろいろなものを受け取って自分で抱えつつ、まっすぐな彼女の繊細な心の動きも丁寧に演じていきたいと思っています。

──冒頭でルーシーとドクター・マネットが再会する場面は、とても重要ですね。

そうですね。もうこの世にはいないと思っていた、そしてずっと愛し思い続けてきた父が目の前に現れたとき、父が生きていてくれたこと、母が1人で抱えてきたこと、たくさんの感情と現実とが思い巡らされ、受け入れるまで苦しかったです。
けれども、あのときに「母の思いをしっかり抱いて私は父を幸せにする、守る」と強くなったように思います。

──公演パンフレットのインタビューでは、シドニーとチャールズに似ている部分がある、という話題が上がっていました。シドニーとチャールズの関係性は、ルーシーからはどのように見えていますか?

シドニーとチャールズはとても対照的に描かれているなと思います。2人ともに感じるのは悪がなくまっすぐで優しく温かく強いところだと思います。
守るべきもののために生きる様は2人とも共鳴しているようにも、一心同体になっているようにも感じています。
小さなルーシーと3人で歌っている場面でそれを強く感じます。

──役を離れて、井上さんと浦井さんの関係性についてはどう見えますか?

たくさんの経験をされて、長い月日を経ても、こうして信頼関係を持たれ互いに尊重され合っているお姿は本当に素敵で、ご一緒している皆さんも心地が良く安心感を感じられていると思います。そんな素敵なお2人とご一緒できて心から幸せに思っています。

ミュージカル「二都物語」より。

ミュージカル「二都物語」より。

──チャールズ・ディケンズ作品は、宝塚歌劇団でも「二都物語」が上演されるなど日本人にもなじみ深いですが、改めてディケンズ作品の魅力をどんなところに感じますか?

魅力であふれていると思います。誰かと助け合うこと、誰かのために生きることはどういうことなのか、誰しもの心に残るメッセージが描かれていると思います。シドニーへの愛、チャールズへの愛。娘、家族への愛。それぞれに言葉では表せないほどの大きな愛情を注いでいます。このさまざまな愛の形、愛情はかけがえのないものだと強く感じています。

──人を思う気持ちや“赦し”の難しさ、社会や歴史の中でかき消されていく個人の思い……持ち帰るものが多い作品です。

そうですね。今この時代に生きている皆さまにもたくさんのメッセージをお届けできる作品になっていると思います。私自身も何度も考えさせられます。
でもだからこそ人を愛すること、誰かと生きること、誰かを思うことの価値がどれだけのものかを強く感じています。

──本作は東京・大阪公演を経て福岡で大千穐楽を迎えます。配信をご覧になる方にメッセージをお願いします。

配信と直接劇場とでは、きっと受け取られるものも違うと思います。配信での方はもっと繊細にいろいろなものが見えてくると思いますので、新たなものも受け取っていただきたいなと。劇場での方は、ぜひ同じ空間を温度を感じていただけたらなと思っています。

プロフィール

潤花(ジュンハナ)

北海道生まれ。2016年に宝塚歌劇団に102期生として入団。星組公演「こうもり / THE ENTERTAINER!」で初舞台を踏み、雪組に配属。2020年に宙組に組み替え、2021年に宙組トップ娘役に就任し、2023年「カジノ・ロワイヤル~我が名はボンド~」で退団した。今作が退団後2作目の舞台出演。