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我妻恵美子が「虫めづる姫君」再演に自信!東京文化会館シアター・デビュー・プログラム
大事なのは言語化できない“なんかキタ”の感覚
2025年6月13日 12:00 PRMusic Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム「虫めづる姫君」
東京文化会館が、青少年の成長段階に合わせた題材をクラシック音楽と他ジャンルのアーティストとのコラボレートで展開している「シアター・デビュー・プログラム」。2025年度のシリーズ第1弾として、2022年に初演され、好評を博した「虫めづる姫君」が再演される。「虫めづる姫君」は、平安時代の短編集「堤中納言物語」に収められた一編で、虫を愛する変わり者の姫と彼女を取り巻く人々の姿が描かれる。初演に続き、演出・振付を手がけ、姫役も務める舞踏家・
取材・
舞踏に通じる、姫の生き様
台本をペヤンヌマキ、音楽監督・演奏を加藤昌則が担う「虫めづる姫君」では、クラシック音楽の楽曲やソプラノ歌手の歌声に乗せて、おかっぱ頭で白塗りの姫(我妻恵美子)が舞い踊り、虫と人間の垣根を超えた“命”を寿ぐ。我妻は本作の魅力について「舞踏に通じる面白さがある」と前置きしつつ、「舞踏には既成概念を疑い、身体を使って自分の中の“本質”を探究していく側面があります。姫様は、周囲から風変わりだと認識されていますが、私は姫様の“どんなに周囲から不思議がられようと、自分は、虫の中に何かがあるんだ”と没頭する姿にすごく共感しました。近年はLGBTQ問題で性別について考える機会もたくさんありますが、日本人女性にはつい最近まで、社会から求められる性役割みたいなものがあり、大まかに言えば生き方が限定されていた。でも平安時代という遠い昔に、幼いながらも自分軸で生きることを楽しんでいる姫様がいて、『虫めづる姫君』というこんなにも斬新な物語があったことに驚きながらもうれしかったですし、舞踏を通してこの作品をアピールできたらという思いがありました」と創作当初を振り返りつつ、物語が持つ現代性にも言及した。
“人をのぞくような時間”を作りたい
初演では、カラフルな虫の衣裳を身に着けた演奏者たちがステージ中央に鎮座し、我妻と2名の舞踏家、ソプラノ歌手が競演。さらには我妻以外の舞踏家がラップの掛け合いを披露するなど、約70分の彩り豊かなパフォーマンスが繰り広げられた。我妻は、「踊り手の内面を表現する舞踏はどうしても抽象的になりがち。舞踏公演では舞踏やダンスに詳しいお客さんが多いのでそれでも成立しますが、小学生や舞踏に触れたことがない人も観に来るこの作品では、わかりやすくシンプルな表現を心がけました。シンプルと言っても、舞踏のコアの部分は失わず、強い身体表現を使って振付をする。……ちょっとマニアックな部分もあったかもしれませんが(笑)、パパパッと流れるように踊りを見せるのではなく、『姫様はこのとき何を考えていたのだろう』と、“人をのぞくような時間”を作りたかったんです」と演出・振付面でのポイントを語った。
音楽、身体、音楽、身体……と、2022年の「虫めづる姫君」の稽古では加藤と我妻がそれぞれの体感を交換し合い、対話的に積み上げていくスタイルで、我妻いわく「短距離走のような追い込み」のスピード感で作られた。初日公演後、SNSで評判が広がり、翌日の券売数が跳ね上がるという、東京文化会館史上まれに見るエポックメイキングな事象が起きた。当の我妻は本番中に手応えを感じていたようで、「ステージ上で私は憑かれるように踊るのですが、それでもお客さんが食い入るように集中して観ていたのがわかりましたし、その熱量が踊りに昇華される感覚がありました。当時はまだ、コロナの余波でさまざまなルールや制約が生活に影を落としていた状況で、うつうつとした雰囲気がありました。でも、『虫めづる姫君』のカーテンコールでは客席がピースフルな空気に満ちていましたし、観客の皆さんがわあっと解放された様子で、私もうれしかったのを覚えています」と微笑む。
言語化できない“なんかキタ”を大事にして
そんな話題作の3年ぶりの再演に臨むにあたり、気負いやプレッシャーがあるのかと思いきや、我妻は「無性に、自信がある感じです(笑)」とニヤリ。再演では劇中で演奏される楽曲、詠まれる和歌に変更があるほか、客席の通路を練り歩く蛇の操演では、縁起物の獅子舞が人の頭をかじるように、観客とのコミュニケーションを増やす予定だという。我妻は「ありがたいことに、再演によって作品を客観的に見直すことができました。そうすると踊りの部分でも、遊び心やいたずらを入れられる余白が見えてくるんです。例えば、少し大人し過ぎたかな?という反省もあって……。3年という時間を経て、出演者の表現力もアップしていますし、新加入の舞踏家からは身体表現の違いに刺激を受ける日々。もっとやっちゃえ!というポジティブなノリで、エネルギー高く精進しているところです」と稽古の充実ぶりをのぞかせた。
前向きな創作意欲によって新たに生み出される2025年版「虫めづる姫君」から、観客に何を感じ取ってほしいのかを聞くと、「何も考えないで観てほしい」と我妻。「私がこの作品に込められたメッセージをお伝えするのは簡単なことですが、割と何も考えずにワハハと笑ったり、複雑な気持ちを味わったりしてほしい。舞台を観たときに、誰かに内容を説明したり、感想を求められる機会もあると思いますが、自分の中で答えが見つからないことや、言語化できないような“なんかキタ”という感覚をもっと大事にして良いんじゃないかなと。“よくわからないけど気になる”ことが心の中に生まれる状況を、ぜひ面白く感じてほしいです」と思いを明かした。
Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム「虫めづる姫君」
2025年6月20日(金)〜21日(土)
東京都 東京文化会館 小ホール
スタッフ
台本:ペヤンヌマキ
演出・振付:我妻恵美子
音楽監督・作編曲:加藤昌則
出演
姫君:我妻恵美子
侍女 / 虫の精:三宅理恵
侍女 / 虫 / 殿方:塩谷智司 / 鯨井謙太郒
演奏
ピアノ:加藤昌則
フルート:上野由恵
クラリネット:濱崎由紀
チェロ:笹沼樹
※小中学生料金あり。
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