八代目尾上菊五郎と六代目尾上菊之助が語る「襲名とは先人達の技や想いを受け継ぎ発展させること」6月は歌舞伎座で会いましょう

目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。6月の歌舞伎座は、5月に続き八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助の襲名興行で連日湧いている。が、その賑わいは、劇場の中にとどまらず、劇場の外にも広がっている。

2カ月に及ぶ歌舞伎座での襲名興行も後半に入り、新たな名前に実感が伴い始めているという八代目尾上菊五郎と尾上菊之助に、現在の心境を聞いた。

なお「八代目尾上菊五郎 六代目尾上菊之助襲名披露興行」は7月5日から24日まで大阪松竹座、10月は名古屋の御園座、12月は京都南座、来年6月に博多座と続く。

文 / 川添史子

歌舞伎座での襲名興行もいよいよラストスパート

お練り、襲名を祝う会、五世以来の菊五郎や音羽屋の先祖が眠る墓への墓参など、一歩一歩を踏み締めるように準備をし、ついにスタートした2カ月連続の襲名興行。劇場の中も外もお祝いムードに包まれ、新時代到来をひしひしと感じさせる公演が華やかに続いている。新菊五郎&新菊之助誕生を「目撃した!」という喜びに満ちた先月の「三人道成寺」と「白浪五人男」は、長く歌舞伎ファンの心に残る月となった。そして今月。目が覚めるような鮮やかな「車引」「寺子屋」「連獅子」をぜひご覧いただきたい。まだまだ続く襲名興行、親子で力を合わせて全身全霊で舞台を勤める二人の“現在地”をどうぞ。

八代目尾上菊五郎「日を追うごとに実感が湧いてきます」

「六月大歌舞伎」夜の部「口上」より、八代目尾上菊五郎。©松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「口上」より、八代目尾上菊五郎。©松竹

──五月公演を終え、ふた月目に入り、襲名のご実感は強まりましたか?

4月29日に顔寄せ手打ち式をさせていただき、八代目菊五郎としてスタートさせていただきました。5月の初日に(「勧進帳」の)富樫でお幕から出てきたときには大変大きな声援をいただきました。その声援を胸に5月の「團菊祭」を勤め上げることができました。6月になり菊五郎という名前で一日一日役に向き合い、日を追うごとに実感が湧いてきます。

──ご子息・尾上菊之助さんの成長ぶりをどんなところにお感じになりますか?

芸の道というのは終わりがありません。日々全力で舞台を勤め、幕が閉まれば反省をし、その反省を次の日の舞台に活かす。倅は日々成長しようとその日の舞台の出来を必ず聞いて、成長することを諦めないところが成長しているところだと感じます。

「六月大歌舞伎」昼の部「菅原伝授手習鑑 寺子屋」より。左から八代目尾上菊五郎演じる松王丸、片岡愛之助演じる武部源蔵。©︎松竹

「六月大歌舞伎」昼の部「菅原伝授手習鑑 寺子屋」より。左から八代目尾上菊五郎演じる松王丸、片岡愛之助演じる武部源蔵。©︎松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「連獅子」より。左から八代目尾上菊五郎演じる狂言師右近、尾上菊之助演じる狂言師左近。©︎松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「連獅子」より。左から八代目尾上菊五郎演じる狂言師右近、尾上菊之助演じる狂言師左近。©︎松竹

──6月以降も続く、襲名公演に向けてのご自身の思いは?

襲名というものは名前を受け継ぐとともに先人達の技や想いを受け継ぎ発展させ、広く世の中の方にお伝えするのが意義だと思います。歴代の菊五郎が大切にしてきた、時代物、舞踊、世話物を菊五郎菊之助として勤めさせていただき、音羽屋の魅力ひいては歌舞伎の魅力をお客様にお伝えできるように懸命に一年間の襲名披露興行を勤めます。ぜひ劇場にお越しください。

──菊之助さんへのメッセージをお願いいたします!

11歳で菊之助という青年期の名前を受け継ぎ、昼夜に渡って大役を勤めるのは、大人でも精神的体力的に大変なことです。よく稽古をし、日々向上心を持って舞台に向かっていてがんばっていると思います。休みの日には一緒に気分転換をし、約一年の襲名を、手を取り合って楽しんでいきましょう。

プロフィール

八代目尾上菊五郎(ハチダイメオノエキクゴロウ)

1977年、東京都生まれ。1984年に「絵本牛若丸」の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。1996年に「弁天娘女男白浪」の弁天小僧ほかで五代目尾上菊之助を襲名。古典で幅広い役に挑むほか、「NINAGAWA十二夜」「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」など新作歌舞伎にも積極的に取り組んでいる。5月に八代目尾上菊五郎を襲名した。

尾上菊之助「菊之助になったんだという想いが強くなってきました」

「六月大歌舞伎」夜の部「口上」より、尾上菊之助。©︎松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「口上」より、尾上菊之助。©︎松竹

──五月公演を終え、ふた月目に入り、襲名のご実感は強まりましたか?

5月公演の初日から襲名し、菊之助になったと気持ちを切り替えられました。毎日舞台に出演していくたびに、菊之助になったんだという想いが強くなってきます。

──「六月大歌舞伎」の演目で、ご自身が特にがんばっているところ、「ここを見てください!」というおすすめのポイントを教えてください。

昼の部は「車引」の梅王丸を勤めています。形を力強く、大きく決まるところに注目してほしいです。衣裳も刀もとても重く、いい形をするのがとても難しいのではじめはできなかったのですが、お稽古をがんばりました。

「六月大歌舞伎」昼の部「菅原伝授手習鑑 車引」より、尾上菊之助演じる梅王丸。©︎松竹

「六月大歌舞伎」昼の部「菅原伝授手習鑑 車引」より、尾上菊之助演じる梅王丸。©︎松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「連獅子」より、尾上菊之助演じる狂言師左近後に仔獅子の精。©︎松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「連獅子」より、尾上菊之助演じる狂言師左近後に仔獅子の精。©︎松竹

──6月以降も続く、襲名公演に向けてのご自身の思いは?

松竹座も御園座も南座も博多座も出演するのは初めてなので楽しみです。来月の松竹座公演は「羽の禿」と「土蜘」の胡蝶を勤めます。藤間勘祖先生と父から教わったことを一つひとつ大切に勤めたいです。一生懸命がんばっています。みなさん、舞台を観に来てください。

──お父様・八代目菊五郎さんへのメッセージをお願いいたします!

いつもお芝居を教えてくれてどうもありがとうございます。舞台でも楽屋でもお父さんと一緒に過ごすことができてうれしいです。

プロフィール

尾上菊之助(オノエキクノスケ)

2013年、東京都生まれ。尾上菊之助の長男。祖父は尾上菊五郎、中村吉右衛門。2016年「勢獅子音羽花籠」で寺嶋和史の名で初お目見得。2019年、「絵本牛若丸」の源牛若丸で七代目尾上丑之助を名のり初舞台。2025年、六代目尾上菊之助を襲名。

「六月大歌舞伎」夜の部「連獅子」より。左から尾上菊之助演じる狂言師左近後に仔獅子の精、八代目尾上菊五郎演じる狂言師右近後に親獅子の精。©︎松竹

「六月大歌舞伎」夜の部「連獅子」より。左から尾上菊之助演じる狂言師左近後に仔獅子の精、八代目尾上菊五郎演じる狂言師右近後に親獅子の精。©︎松竹

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