今、劇場が動き出す──始まった新たな日常 第4回 [バックナンバー]
「劇場がダメならオンラインや中庭で」、ロームシアター京都の“潔さ”
焦らずたゆまず5周年を迎えるために
2021年1月4日 13:00 7
1月10日に5周年を迎える、京都・ロームシアター京都。国内外のアーティストと継続的なクリエーションを複数走らせている同劇場も、昨年3月から6月まで多くの演目を見送った。
その一方で、劇場ではなくオンラインで実施するイベントや、広い中庭を使った屋外フェスティバルを新たに立ち上げている。コロナ以前同様、できることを着実に形にしてきたロームシアター京都の取り組みについて、副館長の足立充宏と広報・事業企画担当の松本花音に話を聞いた。
取材・
ロームシアター京都 / 足立充宏副館長、松本花音(広報・事業企画担当)
止め難かったクリエーションの数々
──昨年の1月中頃からコロナが話題になり始めましたが、ロームシアター京都では2月8・9日にレパートリーの創造 ジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ「ショールームダミーズ #4」を上演しています。劇場としては、何かコロナ対策をしていましたか?
足立充宏 そのときはまだ、「特別な対策を講じないといけない」という意識は特になかったですね。
──海外のアーティストが滞在制作する公演でしたが、その点でもハードルはなかったのでしょうか?
足立 ここまで長引くとは誰も思ってなかったでしょうから、海外アーティストだからといって特にはなかったですね。
──2月26日に政府からイベントの自粛要請が出たあと、2月28・29日のANTIBODIES collective×Sew Flunk Fury Wit「CORPO SURREAL」は公演が実施され、同じく29日に上演予定だった「シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 vol.3 人形浄瑠璃 文楽」は中止になりました。同日で判断が分かれたのはなぜですか?
松本花音 その数日前から京都にも緊急事態宣言が出るのではないかと言われていて、劇場でも協議をしていたんです。ただ、ANTIBODIES collectiveのほうは劇場の主催公演ではなかったので主催者が実施を決め、「文楽」は劇場主催だったので中止になりました。
足立 確かにとても微妙なタイミングではあったのですが、ロームシアター京都は京都市の劇場ですので、京都市から公演自粛の連絡が入り、中止を決めました。それが公演の前日でしたが、仕方がないという判断をしました。
松本 もう実際のホールでセットを組んでの通し稽古も終えたところで、準備をしていたのですが、急きょできなくなったんです。
足立 ただこの公演は我々をはじめとした制作側の「ぜひともやりたい」という思いもあり、中止ではなく延期という措置を取ることにしたんですが、コロナの問題もさることながら、あれだけの出演者たちがまたいつそろうことができるのかという問題もあり、いつ延期公演ができるのかわからなかった。結局今年の2月に、ロームシアター京都開館5周年記念事業の1つとして上演することになりました。……で、次にお聞きになりたいのはきっと、3月末のダムタイプのことじゃないかと思うんですけれど(笑)。
──はい、そうです(笑)。
足立 ダムタイプも主催事業だったので、公演実施は難しいと思われたのですが、こちらもカンパニー周辺に感染者などが出ていない状況で、かつそれまで2年近くかかって制作し続けてきた作品だったので、ここで完成を見ずにやめてしまったら、もうクリエーションを再開させることは難しいだろうと判断し、無観客で記録映像を撮ろうということになりました。それを編集し映像作品として10月に上映会で公開、その後年末に期間限定で無料配信したわけです。
──3月末にはダムタイプをはじめ、多くの公演の中止・延期が発表されました。ロームシアター京都では、演劇やパフォーミングアーツだけでなく、音楽公演も非常に多く行われていますが、音楽界の動きと舞台業界の動きはその時期、同じような状況だったのでしょうか?
足立 そうですね。実は3月に小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVIII J.シュトラウスII世:喜歌劇「こうもり」を予定していたのですが、コロナの状況を受けてまず海外からのキャストを招くことが難しくなり、さらに塾生はアジア圏からオーディションによって選ばれたメンバーなので、彼らを日本に呼び寄せて、滞在制作してもらうことは難しいだろうということになりました。それでかなり早い段階で中止が決まって。ただ、3月の音楽イベントはもともとそれしかなかったので、大きな痛手というわけではなかったんですが、4月以降は全国の状況と同様に、貸館公演が一斉になくなったので、ロームシアター京都としても大きな柱が抜けた感じはありました。
遊び場所を求める人たちが劇場にやって来た
──4月7日に緊急事態宣言が発令されました。その時点でロームシアター京都では、どのくらい先までこの状況が続くとお考えでしたか?
松本 海外アーティストとの関わりがある公演と国内アーティストのものではタイムスパンが違っていたとは思うのですが、5月に招聘するはずだったポーランド、スコットランド、アイスランドからの子供向け作品の上演(「プレイ!シアター in Spring 2020」)が各国での出入国規制などの影響から中止になったほか、11月に上演を予定していた名和晃平×ダミアン・ジャレ「PLANET<wander>」の中止を、4月14日に発表しています。こちらは夏に京都でクリエーションする予定だったのですが、クリエーションができないと、春先にもう決断が下っていて。
──発表された当時、「まだ4月なのに、11月公演の中止を決めるなんてずいぶん早いな」と思った記憶があります。国内のアーティストについてはいかがでしたか?
松本 5月に上演予定だったぐうたららばい vol.2「海底歩行者」が、劇団と協議した結果、4月17日に中止を発表していますね。
足立 緊急事態宣言下で、そのような判断が増えていったということですね。ただあの時点では、状況をにらみながら都度都度、上演できるかどうかを考えていたという感じで、「ここまで先のものまで止める」というような具体的な判断はしてなかったと思いますし、劇場スタッフとしてもチケットの売り出しや広報をいつ始めればいいか、ということを1公演ずつ検討していった感じです。
──劇場は4月10日から休館になりました。その間、スタッフの方たちはどんな動きをされていたのでしょうか?
足立 私は通常勤務ですね(笑)。ほかのスタッフは自宅でできることがあれば自宅勤務、そうでなければ休業という措置を取って、家から出ないように徹底しました。ただ業務自体が止まったかと言うとそうではなかったし、一番大きかったのは公演が止まったことによる払い戻し作業で、これが非常に大変でした。しばらくの間はそれに追われていましたね。
松本 そうですね。払い戻しと、あと劇場を借りていただいた方々への施設利用料の返金対応があって。その対応で貸館担当のスタッフはてんてこまいでしたし、企画チームは払い戻し対応と並行して、実際に公演がやれるのかどうかわからないながらも先の準備もしなくてはならないという感じでした。また京都市が「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金」を創設して、コロナに対応した形での映像収録や、無観客での作品発表に対する支援策を講じたため、ロームシアター京都もその相談窓口として対応しました。加えて、奨励金を得た活動に対してロームシアター京都は無償で施設を提供するというサポートを独自で決断したので、結果的に6月から8月にかけては施設の利用が比較的多かったです。
──ロームシアター京都の周辺には美術館や図書館などがあり、劇場の建物内にも京都岡崎 蔦屋書店などカフェやレストランが入っており、普段から人が集まる、にぎわいのある場所という印象が強いです。自粛期間中、このエリアはどんな様子でしたか?
足立 どこも軒並み閉じていたので、本当に静かでしたね。ただ学校が休校になった子供たちが、遊び場を求めてロームシアター京都の中庭にはよく来ていました。皆さん、行くところがなく困っていらっしゃるのだなと感じたので、できるだけ密を避け、マスクを着用してもらえれば、家族単位でいらっしゃる分には良いだろう、と見ていました。
劇場がダメなら中庭で!
──京都は東京より数日早く、5月21日に緊急事態宣言が解除されました。解除後、多くの劇場が“再開”の方法とタイミングに頭を悩ませていましたが、ロームシアター京都では毎夏恒例、家族で楽しめる企画「プレイ!シアター」を、今年はオンラインで実施しました。
松本 中止にしないためにはどうすればいいか、企画スタッフの中で議論を重ね、そこから出てきたのがオンライン開催という形でした。それまでは、たくさんの人を劇場に気軽に集めるというコンセプトでやっていた企画なので、企画方針から考え直すことになり、もともと参加をお願いしていたアーティストとは再度企画を練り直し、新たにお声がけしたアーティストには、映像コンテンツを作っていただきました。オンライン開催ならではの専門技術や知識を持つスタッフさんを集めたり、劇場内のネットワーク環境を整備することも必要でした。
足立 せっかくオンラインでやるなら、いわゆる映像をただ撮って流すのではなく、その方法も含めて新しいものを生み出したいと考えたんです。すごく大変でしたけど、かなりノウハウの蓄積になりました。
──それは大変でしたね。
足立・松本 大変でした……(苦笑)。
足立 でもどれも面白かったですし、おかげさまで好評をいただいて。「なかなか家から出られない状況にあって、子供たちと楽しみました」という声をたくさんいただきましたし、遠方や海外の方にも観ていただけたので、今後もこういった形で続けていくこともできるのではないかなと。最近、“ハイブリッド”という言葉をよく聞くようになりましたが、劇場とオンラインと、両方のいいところを残しつつ、展開していけたらいいなと思いました。
松本 ちなみにコロナになって生まれた企画があるんです。10月に実施した「KYOTO PARK STAGE」で、中庭を使って音楽ライブやトークイベントなどを実施しました。これもけっこう大変な企画だったのですが(笑)、「劇場がダメなら野外でやろう」という発想の転換ができるチームだということが大きかったと思います。
7月から徐々に公演再開
──緊急事態宣言解除後、夏から少しずつ公演を再開させます。
松本 7月に寄席とロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”として中川裕貴さんの「アウト、セーフ、フレーム」を上演しました。
足立 中川さんの公演は、当初ノースホールでやる予定でした。でも密になることを避け、急きょサウスホールでの上演となって。ノースとサウスでは劇場のサイズがかなり違うので、企画内容もかなり変わりましたが、結果的にいいものが出来上がったと思います。
──9月には地点「君の庭」も上演されました。
足立 「君の庭」は、もともと配信を前提にクリエーションを始めた作品で、その過程で、「できることならお客さんにも入ってもらいたい」と思うようになり、最終的にわずかではありますが、客席に観客を入れて上演しました。ただ、コロナの状況次第で配信だけの可能性も考えていましたし、劇場としては払い戻しの対応がすぐできるように準備していました。また「君の庭」は京都公演のあと、愛知・神奈川でも上演されたので、劇場ごとに少しずつ違う形の配信を楽しんでいただけたのは新しい試みだったのではないかなと思います。
副館長が“専門家”という安心
──その一方で、6月にはスタッフの方からコロナ感染者が出て、対応を迫られました。そのときの経験が、その後に生かされていることはありますか?
足立 ちょうど6月の終わりで、今から思えばコロナ第二波が始まるという時期だったんですが、そのスタッフとの濃厚接触者をすぐに調べました。で、保健所の指示に従いながら、もしほかにも陽性者がいれば次のステップに行こうと考えていましたが、3日後には接触者全員が陰性だと判明し、結局当該のスタッフと濃厚接触者が所定の期間休むということで終わって。その経験を踏まえて、スタッフには自分の行動履歴をしっかり持っておいてほしいと改めて伝えましたし、館内設備の消毒・拭き取りをさらに徹底しました。それによって、みんなの意識がより高くなったんじゃないかと思います。
松本 この点については、足立が専門家だということが本当に大きくて、困ったとき相談できる人の大事さを感じました。副館長は、実は……。
足立 薬剤師なんです(笑)。ずっと京都市の保健衛生に関わってきたので、これスタッフ向けに講習会したときの資料なんですが……(レジュメを取り出す)、ここにも書いた通り、なんでマスクをしたほうがいいか改めて考えるとか、“クリアな環境”を保てるように、1人ひとりが意識するということが大事なのであって、必要以上に怖がる必要はないんじゃないかなと。もはや誰が感染しているかわからない状況ですから、“うつらない”ではなく“うつさない”とする意識と行動をするように、と私は言っています。
──このような状況の中、ロームシアター京都は1月10日に5周年を迎えます。同日に上演されるシリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.4「雅楽 ~現代舞踊との出会い」を皮切りに3月まで、開館5周年記念事業が多数実施されますね。
足立 ハンブルク・バレエ団の来日が難しくなり、公演ではなく上映会という形になりましたが、5周年記念事業は基本的に、当初の予定通り実施します。クリエーション側もいろいろな対策を講じたうえで公演当日に臨めるように作っていますし、状況を見つつではありますが、お客様にもぜひ劇場にお越しいただきたいなと。さまざまな対応ができるよう、準備しているところです。
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