同じ月を見ている、緑川光・佐久間大介らが舞鶴でシベリア抑留伝える朗読劇「約束の鎮魂歌」開幕

7

468

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 128 326
  • 14 シェア

緑川光佐久間大介(Snow Man)らが出演する「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」が、昨日8月2日に京都・舞鶴市総合文化会館で開幕した。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」より。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」より。

大きなサイズで見る(全10件)

「約束の鎮魂歌(レクイエム)」は、日本最後の引揚港となった舞鶴港がある京都府舞鶴市で行われる朗読劇。「約束の鎮魂歌(レクイエム)」は、昨年に開催された第1弾「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の果て』」に続く、READING WORLDの第2弾となり、海上自衛隊舞鶴音楽隊の木管五重奏とピアノ、バイオリン、チェロによる生演奏に乗せて、静森夕が脚本、保科由里子が演出を手がけるオリジナルストーリーが展開する。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」キービジュアル

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」キービジュアル[拡大]

ステージ前方には5本のスタンドマイクと椅子が並べられ、帯のように垂れたいくつかのスクリーンの奥には満月が映し出されていた。オーケストラのチューニング音が、やがて悲しげなメロディ、そして戦前の昭和歌謡に変わると、シベリアの寒々とした吹雪の映像と共に、緑川演じる日本兵・青柳肇が登場。白樺の木の下で月を見上げ、故郷・日本に思いを馳せるモノローグで物語が始まる。

舞台は変わって、現代の日本。オーケストラに所属する西倉道流(佐久間)は、指揮者だった恩師を亡くし、音楽への情熱を失っていた。 道流は、同じオーケストラ団員で元カノの青柳茉莉(井上麻里奈)に思いやりのなさを指摘されつつも、茉莉の頼みで、シベリア抑留体験者で語り部をしている曽祖父・西倉勝一に、当時の話を聞きに行くことに。茉莉の曽祖父・肇(緑川)は、強制収容所で勝一と同じ隊にいたが、抑留中に亡くなり、日本に帰ることができなかった。その肇から送られてきた俘虜用郵便葉書に、家族を裏切るようなことが書かれていたという。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」より。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」より。[拡大]

本作では主に、シベリア抑留中の日本兵たちの様子が描かれる。最年少の勝一(佐久間)が班長を務める隊には、音楽に素養がある肇、片桐圭之助(岡本信彦)、篠森有栖(佐倉綾音)、そして神部大地(下野紘豊永利行)がおり、日本で帰りを待つ家族や恋人がいる者、天涯孤独な者、戦争で家族を失った者と、さまざまな背景を持ちながら苦役に服していた。そんな彼らが収容所で楽器を手作りして“コムソモリスク楽団”を結成し、兵士たちに娯楽を与え、音楽で彼らの心を癒やし、故人の魂を鎮める活動を行っていく。

緑川は隊の年長者として皆に頼られる肇を、大人の風格ある声色で表現。緑川は、終始、足が地についた言動をする肇が、プロポーズのエピソードを揶揄される場面では柔らかく声を弾ませ、肇の深い愛情とかわいらしさをのぞかせた。また、佐久間は、熱を失った道流の姿と、“くそ真面目”とからかわれるほどの勝一の愚直さを対象的に演じ分け、演技の幅を見せる。雄叫びを上げるシーンでは、身体の芯から感情を放出し、会場の空気を震わせた。岡本はムードメーカーの片桐が抱える暗部を丁寧に演じて片桐の“人の良さ”を際立たせ、佐倉は抑留中に新たな“生きる意味”を見いだす女性兵士の変化をしなやかに演じた。また、初日公演で神部役を務めた下野は、時折表情を歪ませながら、怒りや憎しみ、後悔に苛まれる神部をあふれんばかりの熱量で演じ切った。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」より。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」より。[拡大]

「約束の鎮魂歌(レクイエム)」では、舞鶴港で帰還を待つ人々の様子も色濃く描かれる。肇の妻・恵役の井上は、周囲を巻き込んでいくポジティブな恵をパワフルに演じ、岸尾だいすけは有栖の婚約者で、シベリア抑留者返還のために奔走する浅野直樹役を誠実な声色で表現した。そのほか、声のみの出演の中井和哉やアンサンブルが、シベリア抑留の惨状や舞鶴への航路での兵士たちの姿を描写する。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」8月2日公演の出演者。左から岸尾だいすけ、佐倉綾音、岡本信彦、緑川光、佐久間大介、下野紘、井上麻里奈。

「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の鎮魂歌(レクイエム)』」8月2日公演の出演者。左から岸尾だいすけ、佐倉綾音、岡本信彦、緑川光、佐久間大介、下野紘、井上麻里奈。[拡大]

シベリア抑留を題材にした作品は、抑留生活の過酷さが観客の胸を突くが、本作では生演奏の演出効果も相まって、“音楽を通じて誰かの救いになる”という日本兵たちの確かな希望が、悲惨さの中にも前向きな空気感を漂わせた。またスクリーンには、満月や三日月、水面に揺れる月光など、“月”が印象的に映し出される。それは、劇中で登場人物たちが月を見上げながら、遠く離れた場所にいる最愛の人への思いを託したり、誰かと誓った約束や自分の願いを反芻したりするからだが、月はシベリアで、日本で、昔も今も変わらず人々を照らし続けてきた歴史の証人でもある。ラスト、道流のオーケストラの演奏に乗せてコムソモリスク楽団の姿が現れると、シベリア抑留が今を生きる我々と地続きであるというメッセージが強く浮かび上がった。同じ月を見上げている限り、決して忘れてはならない史実があることを思い知らされたのだった。

公演は明日8月4日まで。

この記事の画像(全10件)

朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還「約束の鎮魂歌(レクイエム)」

2025年8月2日(土)〜4日(月)
京都府 舞鶴市総合文化会館

スタッフ

脚本:静森夕
演出:保科由里子

出演

緑川光 / 佐久間大介(Snow Man) / 岡本信彦 / 下野紘(8月2日のみ) / 豊永利行(8月3・4日のみ) / 岸尾だいすけ / 佐倉綾音 / 井上麻里奈

公演・舞台情報

読者の反応

  • 7

姫菜 @sn39himena


♡【公演レポート】同じ月を見ている、緑川光・佐久間大介らが舞鶴でシベリア抑留伝える朗読劇「約束の鎮魂歌」開幕(舞台写真あり)

https://t.co/pmLHLccH9D

#約束の鎮魂歌
#佐久間大介

コメントを読む(7件)

関連記事

緑川光のほかの記事

リンク

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャのステージナタリー編集部が作成・配信しています。 朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還「約束の鎮魂歌(レクイエム)」 / 朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還「約束の果て」 / 緑川光 / 佐久間大介 / 岡本信彦 / 下野紘 / 豊永利行 / 岸尾だいすけ / 佐倉綾音 / 井上麻里奈 の最新情報はリンク先をご覧ください。

ステージナタリーでは演劇・ダンス・ミュージカルなどの舞台芸術のニュースを毎日配信!上演情報や公演レポート、記者会見など舞台に関する幅広い情報をお届けします