「約束の鎮魂歌(レクイエム)」は、日本最後の引揚港となった舞鶴港がある京都府舞鶴市で行われる朗読劇。「約束の鎮魂歌(レクイエム)」は、昨年に開催された第1弾「
ステージ前方には5本のスタンドマイクと椅子が並べられ、帯のように垂れたいくつかのスクリーンの奥には満月が映し出されていた。オーケストラのチューニング音が、やがて悲しげなメロディ、そして戦前の昭和歌謡に変わると、シベリアの寒々とした吹雪の映像と共に、緑川演じる日本兵・青柳肇が登場。白樺の木の下で月を見上げ、故郷・日本に思いを馳せるモノローグで物語が始まる。
舞台は変わって、現代の日本。オーケストラに所属する西倉道流(佐久間)は、指揮者だった恩師を亡くし、音楽への情熱を失っていた。 道流は、同じオーケストラ団員で元カノの青柳茉莉(
本作では主に、シベリア抑留中の日本兵たちの様子が描かれる。最年少の勝一(佐久間)が班長を務める隊には、音楽に素養がある肇、片桐圭之助(
緑川は隊の年長者として皆に頼られる肇を、大人の風格ある声色で表現。緑川は、終始、足が地についた言動をする肇が、プロポーズのエピソードを揶揄される場面では柔らかく声を弾ませ、肇の深い愛情とかわいらしさをのぞかせた。また、佐久間は、熱を失った道流の姿と、“くそ真面目”とからかわれるほどの勝一の愚直さを対象的に演じ分け、演技の幅を見せる。雄叫びを上げるシーンでは、身体の芯から感情を放出し、会場の空気を震わせた。岡本はムードメーカーの片桐が抱える暗部を丁寧に演じて片桐の“人の良さ”を際立たせ、佐倉は抑留中に新たな“生きる意味”を見いだす女性兵士の変化をしなやかに演じた。また、初日公演で神部役を務めた下野は、時折表情を歪ませながら、怒りや憎しみ、後悔に苛まれる神部をあふれんばかりの熱量で演じ切った。
「約束の鎮魂歌(レクイエム)」では、舞鶴港で帰還を待つ人々の様子も色濃く描かれる。肇の妻・恵役の井上は、周囲を巻き込んでいくポジティブな恵をパワフルに演じ、
シベリア抑留を題材にした作品は、抑留生活の過酷さが観客の胸を突くが、本作では生演奏の演出効果も相まって、“音楽を通じて誰かの救いになる”という日本兵たちの確かな希望が、悲惨さの中にも前向きな空気感を漂わせた。またスクリーンには、満月や三日月、水面に揺れる月光など、“月”が印象的に映し出される。それは、劇中で登場人物たちが月を見上げながら、遠く離れた場所にいる最愛の人への思いを託したり、誰かと誓った約束や自分の願いを反芻したりするからだが、月はシベリアで、日本で、昔も今も変わらず人々を照らし続けてきた歴史の証人でもある。ラスト、道流のオーケストラの演奏に乗せてコムソモリスク楽団の姿が現れると、シベリア抑留が今を生きる我々と地続きであるというメッセージが強く浮かび上がった。同じ月を見上げている限り、決して忘れてはならない史実があることを思い知らされたのだった。
公演は明日8月4日まで。
朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還「約束の鎮魂歌(レクイエム)」
2025年8月2日(土)〜4日(月)
京都府 舞鶴市総合文化会館
スタッフ
脚本:静森夕
演出:
出演
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姫菜 @sn39himena
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♡【公演レポート】同じ月を見ている、緑川光・佐久間大介らが舞鶴でシベリア抑留伝える朗読劇「約束の鎮魂歌」開幕(舞台写真あり)
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