西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」キャスト(撮影:脇田友)

テンミニ!10分でハマる舞台

京都芸術センター25周年、初タッグの西田悠哉×in the blue shirtが語る「タイムズ」

何かがスパークするかも!?

PR西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」

1931年に改築された元明倫小学校の施設を利用して、2000年にオープンした京都・京都芸術センターが今年25周年を迎えた。記念すべき年を彩る演目の1つが、8月22日に開幕する西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」だ。

「タイムズ」は極東退屈道場の林慎一郎による戯曲。本作を、関西を拠点に活動する劇団不労社の代表・西田悠哉が演出する。また有村崚によるソロプロジェクト・in the blue shirtが音楽を手がける。共に京都に縁があり、かねてより交流があったという西田と有村に、初タッグ作「タイムズ」の制作秘話を聞いた。

取材・/ 興野汐里

極端な事象が繰り返される…交代浴のような戯曲

京都芸術センターは、京都市における芸術の総合的な振興を目指す施設。同センターでは、異なる専門性や価値観を持つ者同士の対話を通して、挑戦的な芸術文化を創造する舞台芸術事業「KAC Performing Arts Program」を行っており、メモリアルイヤーとなる今年は、西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」が同プログラムの演目として上演される。

「タイムズ」は、2013年に初演された極東退屈道場・林慎一郎の戯曲で、第20回OMS戯曲賞にて特別賞を受賞した。「タイムズ」では、コインパーキング、ゲームセンター、スタジアムの客席、インターネットの狭間など、さまざまな風景の断片がスピード感のあるセリフによって紡がれていく。

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」チラシ表

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」チラシ表

劇団不労社の旗揚げ公演が行われた2015年に、佐藤信演出による「タイムズ」を観劇したという西田は「とにかく感動したのを覚えています。この戯曲は、あり得ないぐらい真剣で、でも、あり得ないぐらいふざけている。社会を風刺しているようで、ウェットな目線が入っていたり、人間社会を愛でるような観点もあったり、両極端な事象が繰り返される交代浴のような作品。戯曲を書いた林さんご自身も手に負えない“何か”が、作品の中に残されているのではないかと感じました」と当時の衝撃を振り返る。

西田悠哉(撮影:宇治田峻)

西田悠哉(撮影:宇治田峻)

今回の公演には、劇団不労社の劇団員である荷車ケンシロウ、むらたちあきの2名に加え、100超の応募の中から選出された8名のキャストが出演する。公募キャストは、田川徳子、青年団の知念史麻と永井秀樹、夏目れみ、円盤に乗る派の日和下駄、ブルーエゴナクの増田知就、松永檀、喜劇結社バキュン!ズの吉田真知子。彼らと共に、思い入れのある作品を立ち上げることについて、西田は「個性豊かなバックグランドを持つ人たちが集まったので、今回しかできない座組になりました。バラバラなまま共存することができるのか、それぞれの魅力を生かした演出をつけられるかどうかが、『タイムズ』を演出するうえで鍵になると思います」と述べた。

演劇の面白さがわかってきた

西田演出版「タイムズ」を音楽面で彩るのは、サンプリングコラージュを中心にエレクトロニックミュージックを制作しているin the blue shirt。西田は演劇活動と並行して、“スーパーハイパーウルトラハッピーアングラポップミュージックグループ”SHU-MIに所属しており、数年前に音楽活動を通じてin the blue shirtの有村と出会った。また、西田は京都大学大学院に在学中、有村は京都府在住と、京都に縁があるアーティストでもある。

in the blue shirt

in the blue shirt

有村はこれまでにアニメやドラマ、CM、Web広告の音楽を制作した経験はあるが、演劇作品の劇伴を手がけるのは「タイムズ」が初めて。西田の発案により今回のタッグが実現したと言う。西田は「作品の芯になるような通奏低音が劇中で流れているといいなという構想があって。『タイムズ』はリズムとバリエーションの豊富さが大事な劇なので、有村さんの音楽とめっちゃ相性が良さそうやなと思って提案しました」と有村に劇伴を依頼した経緯を明かす。

有村は楽曲の制作工程について、「稽古を観たり、西田さんが仮でつけた曲を聴いたりして、西田さんの演出意図を想像しながら曲を作っています。どの曲を使うかは現時点でまだ決まっていないんですけど、短い曲も含めて30数曲作りました」と説明。また、「演劇の制作現場の雰囲気をつかむために、何度か稽古見学に行かせていただいたんですけど、“ここに集まった人たちのフィーリングですべてが決定されていく感じ”がまず衝撃でした。『演劇の稽古って、こんなに流動的なんや!』って。稽古に行くたびに、演劇の面白さがだんだんわかってきた気がします」と西田に笑顔を向ける。

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」稽古の様子。(撮影:脇田友)

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」稽古の様子。(撮影:脇田友)

そんな有村に対し、西田は「お世辞じゃなくて、有村さんに頼んで本当によかったなと思います。有村さんの曲からインスパイアされて演出を思いついたり、有村さんに稽古を観てもらうことによって新しい曲が生まれたり、お互いにアイデアを出し合いながら作品を作ることができている。今までの自分にはなかった引き出しが増えた気がします」と充実した表情で語った。

演劇の原始的な面白さを発見して

「稽古に行くたびに演劇の面白さがわかってきた」という有村は「自分のように、今まであまり演劇になじみがなかった方にこそ観てもらいたい作品です。これが適切なのかはわからないんですけど(笑)、初めての観劇体験が『タイムズ』なのもアリなんじゃないかな。騙されたと思って観に来てください! 皆さんの中で何かがスパークするかもしれません」と観客にアピールする。

西田も有村の意見に同意しつつ、「演出している身からしても『タイムズ』は決してわかりやすい戯曲ではないんですが、演劇をよく観る人、演劇を初めて観る人、老若男女問わず、実はあらゆる人にとって間口の広い作品なのかもしれないと思うんです。また今回は、京都芸術センターの25周年記念企画ということで、今まで京都芸術センターに来たことがない方や、劇団不労社の作品を観たことがない方にもぜひ観ていただきたいですね。自分が10年前に『タイムズ』を観て特別な体験をしたように、皆さんにも演劇の原始的な面白さを発見してもらえたらと思います」と呼びかけた。

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」稽古の様子。(撮影:脇田友)

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」稽古の様子。(撮影:脇田友)

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」公式サイト

西田悠哉 / 劇団不労社「タイムズ」

2025年8月22日(金)〜25日(月)
京都府 京都芸術センター フリースペース

スタッフ

戯曲:林慎一郎
構成・演出:西田悠哉
音楽:in the blue shirt

出演

荷車ケンシロウ / むらたちあき / 田川徳子 / 知念史麻 / 永井秀樹 / 夏目れみ / 日和下駄 / 増田知就 / 松永檀 / 吉田真知子

※U-25チケット、高校生以下割引、遠方割引あり。

公演・舞台情報

西田悠哉(ニシダユウヤ)

西田悠哉(撮影:宇治田峻)

1993年、東京都生まれ、富山県育ち。劇作家・演出家、劇団不労社代表、アートコミュニティスペースKAIKA芸術監督。2015年に劇団不労社を旗揚げ。以後ほとんどの作品で作・演出を務める。京都大学大学院在学。創作と並行して、ハロルド・ピンターの劇作術についての研究を行う。2021年、無隣館第4期を経て青年団に所属。2024年、“関西舞台芸術シーンの再興 / 再考”を軸とした運動体・西陽〈ニシビ〉の発起人となり、同団体を始動させた。主な受賞歴に「関西演劇祭2021」ベスト演出賞、「若手演出家コンクール2022」優秀賞、「演劇人コンクール2024」最優秀演出家賞・観客賞などがある。セゾン文化財団2025年度セゾン・フェローに採択された。

in the blue shirt(インザブルーシャツ)

in the blue shirt

1991年生まれ、京都府在住の有村崚によるソロプロジェクト。サンプリングコラージュを中心にエレクトロニックミュージックを制作しており、自身の作品のほか、アニメやドラマ、CM、Web広告の音楽も手がける。2024年4月に最新作「Convex Mirror e.p.」をリリースした。

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