三谷文楽は、
開演前、舞台は定式幕で覆われている。舞台の上手と下手の上部はそれぞれ、太夫と三味線弾きの演奏スペースとなっており、その下部にある人形遣いの出入り口には、「パルコ」「ミタニ」というロゴを染め抜いた幕が。拍子木の音と共に定式幕が引かれると、三谷そっくりの“三谷くん人形”が登場して口上を述べ、観客を文楽の世界にいざなう。そして冒頭の劇中劇「鑓の権三重帷子」を終えた人形たちは、舞台裏で“素”に戻り、関西弁で軽妙な会話を繰り広げた。
物語は、太夫によるセリフや情景描写の語りと、三味線弾きの奏でる旋律、そして3人で1体の人形を動かす人形遣いの、息の合った演技で展開していく。人形たちは怒りで肩を震わせたり、手で「×」を作ったりと、まるで生きているかのように繊細な動きを見せる。劇中では、自分を操る存在に初めて気付いた人形が人形遣いに会釈をしたり、人形遣いが人形を放置して床にへたり込んだりといった、コミカルなシーンも描かれた。
陀羅助は自身の境遇に不満を抱き、「鑓の権三重帷子」の作者の近松に「話の筋を変えてほしい」と直談判するが、逆に怒られてしまう。初めはふてくされていた陀羅助だが、作中では、自分に注目してくれる観客の存在を陀羅助が意識したことで、舞台の上に“生きがい”を発見していくさまが活写された。源太、姐さんといった人形仲間たちとのやり取りや、「文楽人形に不可能はない!」と見事にスケボーを乗りこなし、次々にポーズを決める陀羅助にもぜひ注目しよう。
開幕前会見には、三谷と一輔が出席。三谷は本作の創作について「俳優さんにあて書きをするように、文楽にあて書きできた。前回の『其礼成心中』は登場人物を10人くらい出したが、人形1体に人形遣いさんが3人付くので舞台が満員電車のようになった(笑)。今回は登場人物の人数を絞り、人間模様や心情を細かく作れました」と振り返り、「改めて、文楽はめちゃくちゃ面白い。演劇の面白さは知っているつもりでしたが、文楽には“次元”が違う、ドリーミーな世界がある。人間の演劇を見慣れていると、文楽人形は小さく感じる。でも凝縮された世界の中で、小さいながらに人形が必死に生きる姿が素晴らしい。もし人形が8メートルくらいあったら、絶対にこの面白さは出ません。これを知らずに生きているのはもったいない!」と熱弁を振るう。
一輔は、文楽を絶賛する三谷の言葉に「プレッシャーを感じる……(笑)」と視線を送りつつ、「私たちには、300年以上続いてきた文楽を受け継ぎ伝える責任がある。文楽には悲しい物語が多いが、三谷文楽は楽しい“爆笑文楽”の道を切り拓いてくれた」とコメント。また「古典芸能の世界では、演出家の下で稽古する機会が基本的にない。今回は太夫さんや三味線弾きさんに至るまで三谷さんの演出が入り、よりわかりやすくなりました」と述べた。
三谷は「一輔さんは『人間にできることで人形にできないことはない』と言っていた。『其礼成心中』で人形の水中遊泳をお願いしたらできてしまった」と話し、「今回の見どころは陀羅助が通天閣に登るシーンと、スケボーに乗るシーン。スケボーは難しいと思いましたが、皆さんが一発で動きを作ってくれた」とアピール。これを受けて一輔は「僕を含め、陀羅助の人形遣いは誰もスケボーの経験はないんですけどね(笑)」と明かした。
最後に三谷は「口を酸っぱくして言いますが……文楽は本当に面白い!」と熱を込めて語り、「本作は入門編としてベストだと思う。文楽を知る方にも『こういう表現もあるんだ』と文楽をさらに好きになるきっかけになればうれしい」と会見を締めくくった。
上演時間は約2時間。公演は8月28日まで行われる。
PARCO PRODUCE 2025 三谷文楽「人形ぎらい」
2025年8月16日(土)〜28日(木)
東京都 PARCO劇場
スタッフ
出演
吉田一輔 / 鶴澤清介 /
囃子:望月太明蔵社中
※U-30チケットあり。
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