「君の庭」は、地点の
配信が始まると、画面中央に朱色の“ひな壇”が映し出され、「娘、子、相続人、象徴、モデル、王、親、恋人、凡人、侍従、官僚、中間管理職、亡霊、昭和、王妃、コロス、夫、妻、あの総理、一般人」と、さまざまな“立場”を読み上げる音声が流れる。白で統一された衣装をまとった
小河原は王、安部は王の娘、田中は娘の恋人、小林は侍従に扮し、彼らはそれぞれの役を象徴するポーズを取り続ける。沈黙を破り、「聞こえてる?」と語り出す王の娘。続いて流れる録音声が「カメラは背後から写している。娘はリモコンを持ち、画面内に流出してくる映像をザッピングする」とアナウンスすると、近年、世界で起こった悲惨な出来事や風景についてが淡々と語られた。
本作では、役者自身の口からセリフが発せられるだけでなく、録音された声が多用される。そのセリフには関西弁、東北弁、博多弁、広島弁、名古屋弁、沖縄方言など各地の方言や英語が混在し、オンライン版の配信映像には標準語のテロップが字幕のように映し出された。
作中には日本国憲法や皇室典範の内容が引用され、天皇制のほか、既得権益、民主主義、政府、原爆、日米地位協定、ベーシックインカムなど多岐にわたるワードが飛び交い、日本人が“暗黙の了解”として使ってきた言葉が問い直されていく。セリフの合間には、リズミカルに繰り返される「バンザーイ」「ボンジン、ボンジン、ボボボボボンジン」というフレーズが差し込まれ、独特なグルーヴが生まれた。また松原がコロナ禍に書き上げたという本作では新型コロナウイルスについても言及されている。
言葉の応酬が続く中、観客をハッとさせるのは音の使い方だ。雅楽調で浮遊感のある音楽が流れているかと思えば、突然、オンラインのビデオ会議にログインするときの機械音、リモート通信が途切れてしまったときの音、ピーというノイズ、翻訳ソフトのAIが発するような声が挟み込まれた。そして中盤からは録音声と俳優が発語する生の声が重なり、ズレが生まれ、セリフが重奏のように聞こえ始める。さらに「君が代」が大きく流され、俳優の声をかき消しそうになる瞬間も。全方位から発せられる音は、やがて不協和音となって混ざり合い、劇空間に大きなうねりをもたらした。
オンライン版では、複数のカメラが俳優たちをさまざまな角度から捉えている。ときどき画面が分割され、左の画面には身体全体が、右の画面には表情のアップが映される、というような編集も加えられた。また360°カメラによる歪んだ画面、全体を俯瞰する横長のパノラマ映像、ブレのある手持ちカメラからの映像が差し込まれ、
終始同じ姿勢を保っていた俳優たちは定められた枠組みからはみ出し、禁忌を破るかのように徐々に動きを見せ始める。登場人物たちの声が、録音声やノイズと混線し、ハウリングを生み、それぞれのつながりやコミュニケーションは少しずつ分断されていった。「法の下の平等」「健康で文化的な最低限度の生活」「国民の総意」といった“前提”の実態を暴こうとするこの告発劇を、ぜひ劇場とオンラインの両方で目撃してほしい。
上演時間は劇場版、オンライン版共に約1時間20分。京都公演は9月22日まで行われ、その後、9月26・27日に愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース、10月1日から11日まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演される。各地のオンライン版は、それぞれの初日から10月18日までPIA LIVE STREAMで配信される。
地点「君の庭」劇場版
2020年9月14日(月)~22日(火・祝)
京都府 ロームシアター京都 ノースホール
2020年9月26日(土)・27日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
2020年10月1日(木)~11日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
作:
演出:
出演:
地点「君の庭」オンライン版
各会場の初日~10月18日(日)
作:松原俊太郎
演出:三浦基
出演:安部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、小林洋平、田中祐気
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薙野信喜 @nonchan_hg
【公演レポート】地点×松原俊太郎「君の庭」開幕、新たな映像演出を加えたオンライン版も配信開始 https://t.co/WZBMGsQNHa