ジェーン・スー

GREAT TRACKS×音楽ナタリー Vol. 4 [バックナンバー]

ジェーン・スーが振り返る「ジングルガール上位時代」

“戦わないアイドル”Tomato n' Pine──最強のクリスマスソングはいかにして生まれたのか?

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どのグループも“奇跡の三点倒立”みたいなことをやっている

──その後、2012年8月にリリースされたアルバム「PS4U」は、Tomato n' Pineというグループの魅力を最大限に伝える決定打になった作品だと思います。アルバムを作るうえで最も大事にしたことは?

aagehaspringsが総力を挙げて作るということで、誰も直接的に口にはしなかったけど「音楽的にクオリティの高い作品にしよう」という気持ちは確実にチーム全員の心の中にあったと思いますね。「メンバーがかわいいからCDを買う」とかじゃない、クオリティの高い作品にしようと。その結果「ミュージック・マガジン」の2012年度J-POP部門ベストアルバムに選ばれて。あのときは、すごくうれしかったですね。優れた音楽作品として、ちゃんと認めてもらえたわけですから。

Tomato n' Pine「PS4U」初回限定盤ジャケット

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──「PS4U」の中で特に思い入れの深い楽曲は?

「キャプテンは君だ」ですかね。トマパイは最初2人組(小池唯=YUIと奏木純)でスタートしたんですけど、メンバーが辞めてしまって。そこにWADAとHINAが加入して3人組になったんですけど、吉田豪さんをはじめ2人組時代から応援してくださっているファンもたくさんいたので、そういう方々にちゃんと刺さるようなメッセージソングを作りたいなと思ったんです。これだけ時間が経っても好きだと言ってくれる人がいて、アナログまで出してもらえるんだから、彼女たちは本当に幸せですよね。

──Tomato n' Pineは2012年の年末に惜しまれながら“散開”してしまいます。音楽的にも高く評価されているこのタイミングでグループを終えるのはもったいない、という気持ちはなかったですか?

諸般の事情で活動を続けられなくなったので。3人いれば、それぞれに事情がありますから。例えば「学校を辞めてアイドル活動を続けなさい」みたいなことって、やっぱり言えないわけじゃないですか。事実上、続けられなかったから終わりにした、というのが正しい表現ですね。

──“散開”を決めたときは、やっぱり残念でしたか?

そうですね。「もうちょっとやりたかった」という気持ちは強くありましたけど、がんばって続けられるものでもないと思ったんで。あの年頃の女の子たちを集めて何かをやるうえで最初から覚悟していたところもあります。2人組時代も、いきなり1人いなくなっちゃったので、「まあ、こういうもんだよね」っていう。うちの子たちだけに限った話ではないんですよね。どのグループも“奇跡の三点倒立”みたいなことをやっていると思うし、誰も人生の責任は取れないですから。

──「あのまま続けていれば、こういうこともやれたかな」と思ったりすることはありますか?

むしろあのまま続けていたら、こんなふうにしてもらえなかったかもしれないですよね。あっという間にいなくなったからこそ、15年近く経ってもアナログを出していただけているような気がします。

Tomato n' Pine

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失われていくこともアイドルのよさ

──トマパイの“散解”から13年が経ち、アイドルシーンもすっかり様変わりしました。CDというメディアが廃れて、今ではアイドルファンも配信で曲を聴くことが主流になっている。ジェーンさんから今のアイドルシーンをご覧になって何か思われることはありますか?

今は配信がメインになってミュージシャンが音楽制作だけで食べていくのがなかなか難しい時代ですけど、CDが出てきたときに「レコードがよかった」みたいな声が高まったように、結局ずっとそういうことの繰り返しですから。これまでの歴史を踏まえて、最も新しいものが時代にとっての最適解だと思うようにしています。SNSでバズる曲がヒットしているのであれば、その最適解が世に出ているんだろうし。Tomato n' Pineみたいな存在が世の中の人に届くのは、あの時期がギリギリだったのかもしれないですね。間に合ってよかったという感じがありますけど。

──もし今この時代に、トマパイを立ち上げたときのように「この子たちで何か面白いことをしませんか」という依頼をされたとしたら、ジェーンさんはどうされますか?

トマパイのときもそうでしたけど、まず本人たちと話します。最初にいろんなことを話してリサーチして、イメージが湧くようなところまで本人たちの情報を入れてから、コンセプトを考えると思います。ただ、あの3人のようにインスピレーションを与えてくれるような子たちに会えるかどうか。それも大きいですよね。

──当時のことを玉井さんと振り返ったりすることはありますか?

当時の話をすることはないですね。最近はお互い忙しくて、ほとんど会っていないので。当時も玉井は忙しかったですけど、今に比べたら2人とも遊ぶ時間がありました。“遊ぶ時間”というのは、脳の中で遊んで企画に落とし込む時間のことですね。私もメンバーと一緒に衣装を買いに行ったりする時間があったくらいなので。活動していたのは実質3年くらいでしたけど、自分の中では期間限定の部活みたいな感じですね。

──きっとむちゃくちゃ楽しかったですよね?

そうですね、すごく楽しかったです。

──これだけ面白いクリエイティブが作品として残っているわけで。振り返って、この熱量のプロジェクトをもう一度やりたいと思ったりすることはないですか?

今、私は自分で文章を書いて、ラジオで話してという活動がメインになっているので、誰かを媒介にして何かを発信する機会がないんですけど、発注があれば、という感じですかね。

──単純な興味で聞いてしまいましたけど、この記事を読んで「ジェーン・スーさんに歌詞を頼みたい、プロデュースをお願いしたい」といろんな人が言い始めたら、それはそれで大変だろうなって(笑)。

agehaspringsまでお問い合わせお願いします(笑)。トマパイは本当に“奇跡の部活”でした。「あの先輩が部長だった時期のサークル、めっちゃ楽しかったよね!」というノリに近いと思います。

──その刹那的な感じがトマパイというグループのいいところでもあるんですよね。

例えば、あれからさらに5年ぐらいグループが続いて、すごいヒット曲が出ていたとしても、こうして15年後にアナログ化はされないと思います。大ヒットが出るというのは多くの人にわかってもらうということで、そうすると楽曲の表現方法もまったく変わってくるので。

──アイドルグループが解散したときに毎度思うのが「この曲が今後、歌われる機会はもうないんだな」ということなんです。解散自体も寂しいんですけど、楽曲が世に出る機会が失われてしまうことも同じくらい寂しくて。lyrical schoolが「TOKYO IDOL FESTIVAL」のステージで突然「ワナダンス!」のトラックをバックにラップをするというドラマもありましたけど。

そうそうそう。でも、そうやって失われていくこともアイドルのよさだと思うんです。例えば、さくら学院のバトン部も本当にいい曲ばかりでしたけど、あの時代に、あのメンバーだからこそ生まれた輝きがあったと思うんですよね。

──確かに。時代時代のいろんなマスターピースがある中で、今回再発された「ジングルガール上位時代」は間違いなくあの時代のアイドルシーンに強烈なインパクトを残したと思います。

そうですね。今聴いても全然恥ずかしくないし、色褪せない作品を作れたんじゃないかと思います。

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プロフィール

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(毎週月~木曜 / 午前11時~)のパーソナリティを担当。毎週金曜17:00に配信されている話題のポッドキャスト「ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN」 が、2021年3月「JAPAN PODCAST AWARDS2020 supported by FALCON」にて、「ベストパーソナリティ賞」と、リスナー投票により決まる「リスナーズチョイス」をW受賞。2013年に発売された初の書籍「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」(ポプラ社)は、発売されると同時にベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)で、第31回・講談社エッセイ賞を受賞。2021年に「生きるとか死ぬとか父親とか」が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に。ほか著書多数。毎日新聞や「AERA」「週刊文春WOMAN」などで数多くの連載を持つ。

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※記事初出時、歌詞の記述に誤りがありました。お詫びして訂正致します。

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