「デコミクLIVE」特集|DECO*27が語る、前代未聞のステージの裏側とファンへの思い

ボカロPのDECO*27がプロデュースする“DECO*27仕様”の初音ミク・デコミクによる初の3Dワンマンライブ「デコミク LIVE starring 初音ミク『Hello』Produced by DECO*27 / OTOIRO」が、2月14日に東京・国立代々木競技場第一体育館で開催された。

ボカロシーンを飛び越え、さまざまな世代の人々に愛される合成音声ソフトである初音ミクを、ボカロPが自分仕様のキャラクターとして構築し、自身の楽曲でライブを行うというのは前代未聞のこと。デコミクは“明るくポップ”な側面を表現するデコミク(ライトネス)と、“ダークで病み”な側面を表現するデコミク(ダークネス)の2人が存在し、それぞれの個性あふれるステージングで超満員の会場を沸かせた。

音楽ナタリーでは「デコミクLIVE」を終えたDECO*27を直撃し、「デコミク LIVE」プロジェクト立ち上げの経緯や演出面でのこだわり、初音ミクへの思いについて語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦DECO*27撮影 / 梁瀬玉実ライブ写真撮影 / 山副圭吾(LENSMAN Inc.)、今元秀明(Studio3969)

「初音ミク」とは?

初音ミク

クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発した、歌詞とメロディを入力して誰でも歌を歌わせることができるソフトウェア。大勢のクリエイターが初音ミクで音楽を作り、インターネット上に投稿したことで一躍ムーブメントとなった。キャラクターとしても注目され、今ではバーチャルシンガーとしてグッズ展開やライブを行うなど多方面で活躍するようになり、その人気は世界に広がっている。

デコミクとは?

「デコミク LIVE starring 初音ミク『Hello』Produced by DECO*27 / OTOIRO」ビジュアル

「デコミク LIVE starring 初音ミク『Hello』Produced by DECO*27 / OTOIRO」ビジュアル

DECO27仕様の初音ミク。2023年5月18日に誕生した、DECO27楽曲の“ライトで可愛い”面を表現するデコミク(ライトネス)と、2024年3月9日に誕生した、“ダークで病み”な感情を映し出すデコミク(ダークネス)の2人が存在し、YouTubeをはじめSNSを中心にダンスなどの動画を展開している。さらに、グッズ販売やLINEスタンプ、ショートコミック企画「デコミクコミック」、プロテインとのコラボなど、多彩なメディア展開も行われている。

「デコミクLIVE」公式サイト

DECO*27インタビュー

二度、ミクに救われた

──「デコミクLIVE」を終えて、今の率直な気持ちを教えてください(参照:DECO*27の悲願達成! 2人のデコミクによるボカロ3Dライブの新境地)。

昨年末の時点でライブに向けたミクの調声、MC周り、曲中にどんなことを言わせるか、といった自分の作業はひと段落していたんです。なので本番まではライブを観たみんながどういう反応をしてくれるか、ということに思いを巡らせていました。無事にライブを終えて、自分のイメージした通りにみんなが盛り上がってくれてひと安心した、というのが今の気持ちですね。

──公式パンフレットには、10年以上前に観た「マジカルミライ」のライブに触発されて本公演を企画したと書かれていました。開催にいたるまでの経緯を改めて伺えますか?

当時の自分は燃え尽き症候群気味になっていたんです。活動から5年くらいが経って、「DECO*27としてやりたいことを全部やりきった」と感じていました。そんなときに観に行った「マジカルミライ」で僕の「ゆめゆめ」を演奏していただいて、お客さんが喜んでいる様子を見たら「自分が作ったものでこんなに喜んでいる人がいるのであれば、もう少しやらなきゃいけないよな」と思ったんですね。それからは自分の目標のためというより、恩を返したいという気持ちが強くなりました。その時点では具体的な構想はなかったけど、いつか自分を救ってくれた「マジカルミライ」のようなライブをプロデュースすることができたらいいなと考えていました。

──DECO*27さんにとって当時の「マジカルミライ」は救いでもあったんですね。

僕はミクに二度救われているんですよ。一度目はミクに出会ったとき。自分の表現の場として、ミクと一緒にやっていく選択肢が生まれたことは救いでした。二度目は「マジカルミライ」を観たとき。このときからライブというものが自分の頭の中に存在し始めて、その後の曲作りにもつながっていきました。

DECO*27

DECO*27

2014年からライブを意識して曲作り

──ライブを意識することで、曲作りに影響はありましたか?

これは「デコミクLIVE」を開催するまで言わないようにしていたことでもありますが、楽曲制作にはかなりありました。具体的には「ストリーミングハート」を出した2014年頃から、曲中にコール&レスポンスが入ってくるんですよ。それからはロックな曲でもかわいい曲でも、お客さんが参加できるパートを組み込んだ曲を意識的に作っていました。

──10年以上も前から!?

はい。コール&レスポンスだけじゃなくて、例えばライブのセットリストを思い浮かべたときに、かわいい系の曲で人気のあるものが足りないと感じて「ヴァンパイア」や「ラビットホール」を作ったんです。あの頃、僕の作る曲の曲調がガラッと変わってみんなびっくりしたと思いますが、それはライブを想定していたからでした。発表当初のタイミングで「ライブにこういう曲が必要なんだ」と言ってもファンは納得しないだろうから、このことはライブが開催されてからインタビューで話そうと思い、ずっと胸に秘めていました(笑)。

──これまでも数多くのボカロPがいろんな形でライブを開催してきましたが、自分仕様の初音ミクを用意したのはDECO*27さんが初めてだと思います。

ボカロPとして、初音ミクをどう見せるのか、どうプロデュースするかを考えるのが僕の仕事だし、ミクを多くの人に見てもらえるなら自分の楽曲を利用してほしいとすら思っているんですよ。ボカロPによっていろんなライブスタイルがあって、そのどれもが正解だと思いますが、僕の場合は自分で歌うシンガーソングライターとしてのライブは選択肢になかった。一瞬頭をよぎったのは、「デコミクLIVE」の最後に演奏した「愛言葉V」で、僕がギターを持ってサプライズで登場すること。それで喜んでくれるファンもいるだろうけど、僕に注目が集まってしまったらデコミクのライブとは言えないですよね。だからこそ僕は完全に裏方に徹して、ステージには上がらないことにしたんです。

DECO*27
DECO*27

DECO*27

“ボディが軽くてヘッドが落ちる”を再現

──合成音声ソフトとしての初音ミクに関しては、ボカロPの皆さんが自分仕様にしていくのが当たり前となっていますが、キャラクターとしての初音ミクを自分仕様にしてライブをする、という試みはかなり珍しく、場合によってはファンとの“解釈違い”のようなことにもなり得ると感じました。

形にしていく過程では、僕としては特に不安はなかったんですね。なぜかと言うと、けっこう前から楽曲でテストをしていたからで。例えば「ヴァンパイア」のような楽曲に独自のキャラクターソングとしての役割を持たせ、ファンがどういう印象を抱くのかを見ていたんです。それは曲調の面だけではなく、MVに出てくるミクのビジュアルを少し固有のものにしてみることとかも含めて。キャラクターソングっぽいアプローチと相まって、このMVを観た人が「こういうミクがいるかもしれない」と思ってもらえるかどうか、聴いてくれた人たちの反応を細かくチェックしてました。

──その反応を見て、「デコミク」を作っても問題ないと判断したわけですね。

はい。あとはせっかく固有のミクを作るのに、ちゃんとDECO*27の色が付いてないと「これだったら公式のミクでいいじゃん」と思われてしまう。でも、どれくらいの塩梅で固有の要素を入れるかは悩みましたね。ここまで試行錯誤した結果、デコミクという存在を世に出す際の不安はなくなりました。あとは世の中の風潮もありますね。コロナ禍以降はVtuberなどのムーブメントもあって、それぞれが自分の3Dモデルでショート動画を出す文化も一般的になったことで、デコミクのような表現を受け入れられる土壌ができていたと思います。

──そうして生まれたデコミクは、“明るくポップ”な側面を表現するデコミク(ライトネス)と、“ダークで病み”な側面を表現するデコミク(ダークネス)の2人が存在します。なぜ2人必要だったんでしょうか?

最初に生まれたのがライトネスという明るい子で、「ラビットホール」のようなかわいい系の曲に合わせて作ってみました。ただ、いろいろと試していく中で、ライトネスが「ヒバナ」「ゴーストルール」のようなロックの曲を最大限表現できるかを考えたとき、自分の中で腑に落ちない部分があったんです。それで、1年経たないくらいのタイミングでダークネスというもう1人のデコミクを作りました。2人になることでそれぞれのキャラクター性を強く打ち出す必要が生まれたので、初見の人がパッと見たときに「このキャラはこういう性格なのかな」と想像できるように、けっこう色濃く僕が監修して色を付けています。

──バンドにおけるギターボーカル的な佇まいを持つダークネスと、ダンスパフォーマンスが得意なライトネスというように、その個性はライブにも色濃く表れていました。

そう感じていただけてよかったです。特にライブ冒頭のダークネスのパフォーマンスにはかなり力を入れています。ギターボーカルとして生半可なパフォーマンスではファンは納得しないだろうと思ったので、ダークネスがギターを背負ったときにヘッドが落ちるところを表現したり、ギターから手を離して背負って煽るときのギターの傾きにこだわったりしました。ダークネスはギターを弾きながら歌えるので、楽器のディテールやパフォーマンスに力を入れていますが、ライトネスはギターを弾くのがまだ得意ではないので、多少のぎこちなさをあえて残しているんです。

──ダークネスがギターボーカルとして次々と楽曲を披露していくのに対して、ライトネスがギターを弾いたのは「サラマンダー」の1曲だけですよね。あとはダンスパフォーマンスが中心になる。

そうなんです。それと、ライトネスは手元を見ながらギターを弾くんです。大きくフレット移動するときは、目線を落としてポジションを確認する。そういう違いが両者にたくさんあります。