パンチライン・オブ・ザ・イヤー

パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025 (中編) [バックナンバー]

Worldwide Skippa、ZORN、Jinmenusagi、SEEDA……ラップが映し出す社会の空気とパーソナルな痛み

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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「2025年もっともパンチラインだったリリックは何か?」をテーマに、高久大輝、YAMADA KEISUKE、ポーザー白石、渡辺志保という4人の有識者たちが日本語ラップについて語り合う短期連載「パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025」。前編の記事では、「売れること」に対するMIKADOの今っぽいスタンスや、オーディション番組「RAPSTAR 2025」がもたらした熱狂、そしてシーンの排外主義に対する視点について語り合ったが、この中編の記事ではWorldwide SkippaZORNが描く社会との接点、TeteSEEDAの楽曲に見られる「男性の育児描写」、そしてKamuiJinmenusagiといったキャリアを重ねたラッパーたちの成熟について深いトークが交わされた。

取材・/ 宮崎敬太 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)

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コラム

政治がラップやヒップホップと切り離されたカテゴリーだった時代

──「団結前夜」に対しては新しい世代による明確なカウンターもありました。Worldwide Skippaもディス曲「ダサくて助かる」を発表しましたし(参照:排外主義の曲は腹立つけど「ダサくて助かる」ラッパーWorldwide Skippaが痛烈ディス)。

渡辺志保 Worldwide Skippaのパンチラインとして、私は「まほろば」の「すべての差別と改憲に反対です」を選びました。彼はこういうことを真正面から言うけど、実は1曲まるごとこういうことを歌っているわけではない。音楽ナタリーのインタビューにあった通り、むしろ全体としてはファニーなラインの中に「すべての差別と改憲に反対です」みたいなラインがサブリミナルに入っている(参照:排外主義や差別に音楽でどう抗うか? Worldwide Skippaが目指すのはクラブで流れる“サブリミナルポリティカル”)。

Worldwide Skippa「まほろば」

ポーザー白石 テーマの選び方や曲の雰囲気に世代感が顕著に出ていますよね。僕はWorldwide Skippaのファニーな面として、「WAKARASE」から「ハネたことないけどコイキング / 次ギャラどうする? / 沢山ギャラ貰う」というラインを選びました。

渡辺 このラインの意味わかりますか?

──まったくわからなかったです……。

渡辺 私は息子の影響でギリ理解できました。これ、ポケモンなんですよね。

Worldwide Skippa「WAKARASE」FREESTYLE NEETFLEX

ポーザー そうなんですよ。僕は世代だから反応したし、大好きなラインだけど、むしろわからなくて当然という面もあります(笑)。解説すると、まず「コイキング」はポケモンの最弱キャラなんですね。「ハネる」がコイキングの技なんだけど、全然ダメージが入らない攻撃なんです。Worldwide Skippaはマイクを握ってまだ1年ちょいだから、マイクすら握れてなかったときのことを「ハネたことないけどコイキング」と言っていて。続く「次ギャラどうする?」はコイキングの進化形態であるギャラドスというポケモンとかかっているんですよ。文字で見ると「次ギャラどうする?」だけど、音源を聴くと「ギャラどす」と歌っていて(笑)。

──え、めちゃうまいですね!

ポーザー ですよね! コイキングって育てるのが超大変なんですけど、ギャラドスに進化させるとめちゃくちゃ強くなる珍しいポケモンなんです。

YAMADA KEISUKE しかも有言実行にもなっている。

──一気にシーンを駆け上がったWorldwide Skippaという珍しい存在を、ポケモンの進化になぞらえて表現しているのがうまいですね。

ポーザー そうそう。これはポケモン好きにはたまらないラインですよ。

渡辺 このラインには時代性を感じますよね。もう我々の世代はわからないですもん。

ポーザー こういうリリックはだいぶ増えてきましたよ。若い子は「Minecraft」というゲームのネタとかもめっちゃ入れてきて。自分ももうギリギリわかるかわからないかというレベルです。

──でも、ポケモンやマイクラのような固有名詞には時代性が記録されているので、もっと時間が経つとジャーナルとしての意味が出てくるんです。この時代の若者はこんなことを面白がっていたのか、みたいな。そういう意味でも固有名詞をうまく使うリリックは貴重だと思います。

ポーザー Worldwide Skippaがネットミームを取り入れることについて、「それって今しか面白くないじゃん」みたいな叩かれ方もしていますけど、ちょっと時間が経つと逆に「あの頃、こういうミーム流行っていたね」となりますもんね。

渡辺 そういう中にさっきの「すべての差別と改憲に反対です」だったり、「俺が出るライブで痴漢したら殺す」という曲で「俺が出るライブで痴漢したら殺す / 例え俺が出てなくても」みたいなことを言ってくれることに、すごく希望を感じます。

Worldwide Skippa「俺が出るライブで痴漢したら殺す」

ポーザー Worldwide Skippaは発明家だと思います。「俺が出るライブで痴漢したら殺す」を歌うことで、警告にも啓蒙にもなる。

渡辺 こういうことって、いくら女性が言っても矮小化されたり揶揄されたりしてなかなか伝わらないんですよ。

音楽ナタリー編集部 あとWorldwide Skippaが「RAPSTAR」で敗退したとき、ファンの間で「BIBIONATRACKが上がって、なんでSkippaが落ちるんだ」的な批判があったんです。そういうときもWorldwide Skippaは「俺はBIBIONATRACKさんをカッコいいと思っているので、そういうこと言わないでください」的なことを言っていて。

ポーザー 「本当に俺が好きだったらそういう言葉出てこないはずだけど」みたいなノリでしたよね。みんなが無視してきたことをちゃんと言う姿勢がありますよね。確か、ゲイをあざけるジョークに対しても、Sieroが「それ全然面白くない」としっかり言っていたし。カッコいい人がダサいことをちゃんとダサいって言い始めるのはすごくいいなと思いました。

音楽ナタリー編集部 jellyyとSieroのコラボ曲「Fxck Pt. 2」には、jellyyの「くだらん アイツらはいじってるゲイ」というラインがありました。

渡辺 Worldwide Skippaよりも2世代くらい前のラッパーにとって、レイシズムの話題も含めて、政治はラップやヒップホップと切り離されたカテゴリーだったと思うんです。アメリカでは当然地続きですが、先ほどの世代の人たちは「日本の俺たちのラップはそうじゃない」と思っているフシがあるように感じる。

高久大輝 あくまで想像の範囲ですが、上の世代は、政治に関しても反権威的な意図を持ってあえて歌詞に取り入れてこなかった面もあると思うんです。その当時、政治について我が物顔で語る人に対するうさん臭さのようなものを嗅ぎ取っていたんじゃないかなと。だからこそ、こうしたズレが生じてしまっている気もします。あと、「団結前夜」については右翼系暴力団を扱った映画になぞらえて、「現代版の『凶気の桜』だ」なんて言われていたりもしたんですけど、その話を友達のDJにしたとき、「全然違うよ。『凶気の桜』は無知な若者が狡猾な大人に騙されて洗脳 / 搾取される話で、今回の一件とはまったく違う話だよ」と言われて、確かになと思ったんです。あの映画と「団結前夜」は完全に別物なんですよね。

人の痛みと真剣に向き合い、共感する努力をすることの意味

渡辺 この流れで私は、YAMADAさんがZORNの「戦争と少女」の「虹がかかんのは雨のあと/ 歴史の末っ子 誰もがそう」をどんな理由で選ばれたのか伺いたいです。

ZORN「戦争と少女」ミュージックビデオ

YAMADA これはNHKで放送されたドキュメンタリー「戦火の時代(いま)に紡ぐ歌 PASS THE MIC」を通じて制作された楽曲です。この番組はZeebraとZORNそれぞれが番組側からお題をもらって、リリックに落とし込んでいくという内容でした。Zeebraのテーマが「現代の戦争」、ZORNのテーマが「東京大空襲」と「戦災孤児」。Zeebraはイスラエル、パレスチナ、ロシア、ウクライナといった各国のラッパーたちとディスカッションして、「UNITY」的なマイクリレーをしようということになったんです。ただ、今挙げた国の人たちがマイクリレーすることは当然難しくて……。

──お題の設定の時点で、ちょっとZeebra側はハードルが高すぎるような……。

YAMADA そうなんですよね。世界各地で起きている現代の戦争について、日本で暮らしている我々が当事者たちにどうこう言えることは少ないと思うので、Zeebraサイドの企画は難しいなと感じました。一方でZORNは、戦争体験者のおばあさんから話を聞いていました。ZORNはリリシストであり、言葉を軽く扱わない人なので、自分でもいろいろ考えて、迂闊なことは言わないようにしている。でも、取材を進める中で、とある女性から「想像できないでしょ」と言われてしまうんです。これは企画の根本を揺るがす発言ですよね。それでもZORNがめげずに言葉と向き合って紡いでいく様子がカッコよかったです。

──そんな中でもYAMADAさんがZORNの「戦争と少女」のラインを選ばれたのはなぜでしょう?

YAMADA ZORNの「歴史の末っ子」という表現に感銘を受けました。最近の情勢の中で自分もそう感じさせられることが多いですし、この曲をヒップホップが好きな若い世代が聴く意味は大きいなと感じます。番組では、ZORNが娘さんに戦争の話をするものの、「それはいいから遊びに行こう」と言われて終わります。これは逆説的に日本が平和であることを象徴していて印象的なシーンでした。話を聞いたおばあさんの中には、その後に亡くなってしまった方もいたんですが、戦争体験者である彼女たちの話がZORNのヴァースというアートとして残った点でも、意味のある曲だと思います。あと、この曲はビートがNujabesというのも特別な点です。Nujabesのビートに日本人のラッパーが乗ることなんて、今後もう一生ない気がするのでNHKには感謝ですね。

高久 今の話題の流れから、僕はdj.Blackolyのアルバム「現場からは以上です」に収録された「Our Friend」での、客演の仙人掌が歌っている「お前の苦しみは俺たちの一部だと知れ」というラインについて話したいです。この曲は仙人掌が友達に向けて歌っている曲だけど、自分自身に向けて言ってるようにも聞こえるし、もっとたくさんの痛みも包摂しているように感じたんです。ここまで何度か話題になった「RAPSTAR」のフッドステージでは、誰がどれだけハードに生きてきたか、苦しんできたか、ということが評価軸の1つになっていますよね。大前提として、それはそのラッパーの背景にある事実で、もちろん番組を盛り上げる演出でもあるのですが、視聴者はどんどんハードなエピソードに惹かれる傾向がある。要するに痛みを数値化していくような流れがどうしても出てくると思うんです。このラインはそんな状況を踏まえた中で、そもそも「痛みの共有」とは他者と深くつながる手段だったんじゃないかというところに立ち戻らせてくれた。

dj.Blackoly「Our Friend(feat. 仙人掌)」

──他人の不幸な生い立ちを、ただエンタメとして消費するだけではなく。

高久 はい。生きているとみんなそれぞれ何かしらの痛みを抱えています。もちろん人それぞれだから、どういう痛みで、その人にとってどんな重さなのかも違う。人種、民族、宗教、ジェンダーの違いからくるものや家庭環境の問題などさまざまな形があると思うんですけど、痛みを比べることって本質的にはできないと思うんです。あくまで、「痛みの種類が違うだけ」で。種類は違っても、痛みは痛みとして、いろんな人の中にある。だからこそ、その痛みを通してつながることができるんじゃないかと思います。

──それは誰かの痛みを矮小化するわけではない、という意味も含めてですね。高久さんがMasato Hayashiのときにお話しされた内容につながる視点だと思います。

高久 はい。痛みは本来共感し合えることだ、というのをこの仙人掌のラインで再確認しました。先ほどの話題で言うと、仙人掌も政治的なこととは距離を置いていた世代だとは思います。でもMoment Joonとシャウトを送ったりと変化しながら、物事の本質を突くような表現を続けているラッパーです。MONJUもそうですが、僕は仙人掌が東京最高峰のラッパーの1人だと思っているし、実際にシーンのプロップスも得ている。客演も含めてラッパーとしてもコンスタントにリリースを重ねていますし、2025年には幻の1stアルバムと言われた「Be In One's Element」もリイシューしてるので、若い世代のリスナーにもぜひゲットしてもらいたいですね。DJ Slowcurv名義でミュージックラバーとしての側面も見せてくれているのも魅力的です。

男性の育児参加をヒップホップから感じた

YAMADA 「痛みの共感」という話題が出たので、痛みではないのですが共感したラインであるTete「angela」の「帰ってきたら 泥だらけ / お風呂に入れたら 靴を磨く」を紹介します。このラインを選んだのは、私が育児に比較的コミットしているからなんですが、2025年は育児に関して言及するラッパーが、ベテラン、若手問わず多かった年でもあったと個人的には記憶しています。過去の「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」では女性目線の家事、育児がピックアップされてきていますが、今年でいえばほかにもBenjazzyの「RAPと子育てしかしてねぇ今はもう」など、5年前とかだったら考えられないラインがあります。

Tete「angela」ミュージックビデオ

高久 Teteのこのライン、すごいですよね……。

YAMADA この曲には「机に氷結と紫」といった退廃した描写もありつつ、そんな中でも子供について考えていることがわかるのが、ピックアップしたラインなんです。お風呂に入れたあとに、泥だらけの靴を洗う描写にリアリティを感じました。

渡辺 Teteが歌う娘さんの描写には、育児の連続性がありますよね。おむつを替えるとかそういう瞬間的な行動ではない、生活の中で育児と自分自身が並走しているイメージと言いますか。

YAMADA 渡辺さんのおっしゃるとおりで「男性が育児している」というドヤ感がない。Teteのリリックには情景描写がよく出てきますが、その中にたまたま育児がある、という印象ですよね。あくまで日常の中の一部という自然体のラインになっていて、Teteのリリックの中でも特に好きでした。

高久  育児といえば、SEEDAの「親子星」も最高でしたよね。

YAMADA あの曲ではフックで「スプーンで食べてよ ほら」と歌ってるんですけど、小さい子供って、親がいくら言っても手で食べちゃうんですよね。そこを拾ってリリックにできるところが、等身大を大事にしているSEEDAならではだと思いました。実際に育児をしてないと、このラインをフックに入れようという発想にならないと思うので。

SEEDA「親子星」ミュージックビデオ

──自分は子供がいないので、そのニュアンスを全然わかってませんでした! 個人的にSEEDAの「親子星」は2025年におそらく一番聴いたアルバムなので、新しい視点を教えてもらえてうれしいです(笑)。

YAMADA 本当に素晴らしいアルバムでしたよね。収録曲「L.P.D.N. Feat. VERBAL」で日本屈指のビーフとして知られる「TERIYAKI BEEF」を終結させたのも、シーンにとっても大きな出来事でしたし。

SEEDA「L.P.D.N. Ft. VERBAL」ミュージックビデオ

高久 「親子星」に関しては、SEEDA自身が若い世代とチームになってコライトでアルバム制作したことを大々的に打ち出したことも重要だったと思います。

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「2025年を代表する曲だと思います」ローソンの前で2人組のギャルが楽しそうに歌っていた曲とは……?

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Dina @Koralan111

@natalie_mu Skippaほんま異次元すぎる

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