ジェーン・スー

GREAT TRACKS×音楽ナタリー Vol. 4 [バックナンバー]

ジェーン・スーが振り返る「ジングルガール上位時代」

“戦わないアイドル”Tomato n' Pine──最強のクリスマスソングはいかにして生まれたのか?

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Tomato n' Pineはクリエイターの創作意欲を刺激する、ラボのような存在

──改めて「ジングルガール上位時代」の話に戻りますと、先ほどJR東海のCMを例えに出しましたけど、直接的ではないにせよ、1980~90年代のクリスマスソングのムードを感じさせる世界観を意識したところはありますか?

東京の話にしたかったというのはあったと思います。どこの都市でも当てはまる話ではなくて、東京のおしゃれなカップルの話にしたかった。都会的なカップルを主人公にしたクリスマスソングを作りたいという気持ちがありました。

──「ジングルガール上位時代」というタイトルはどのようにして決まったんですか? 僕ら世代はピチカート・ファイヴのアルバムタイトル、あるいはその引用元となったイタリア映画「女性上位時代」をどうしても真っ先に思い浮かべてしまいましたが。

たぶんピチカートっぽいムードも少し欲しかったんじゃないかな。そういう音楽が好きな人に対する、うっすらとしたメッセージを遊びで入れていくというのはトマパイの曲でよくやっていましたね。

──ただ、あからさまに「渋谷系を狙ってます」という感じではなくて、トマパイはそこも面白いなと思ったんですよね。

「これって元ネタあれじゃん?」って誰かが言ってくれたら、「そうかも」って(笑)。そういう感じが楽しかったんでしょうね。

ジェーン・スー

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──「ジングルガール上位時代」はタイトル以外にも、ピチカート界隈のファンに刺さる雰囲気がありますよね。ジャケットの50'sっぽい雰囲気とか、MVに出てくる北欧的な家具の配置だとか。

彼女たち自身が、いろんなクリエイターの創作意欲を刺激してくれるんですよね。ジャケットの方向性が決まった時点で、MVはこういう感じにしようとか、各分野のプロから面白いアイデアがどんどん出てくる。そういう意味で、トマパイはいろんな人たちが自分のクリエイティビティを遺憾なく発揮できる現場だったんだと思います。ある種のラボのような。

──同じ時期に近い場所で活動していた人たちだと、バニラビーンズも徹底して北欧風の世界観を作っていましたけど、トマパイのクリエイションには、何かに極端に寄せすぎない柔軟性があるように感じていました。ある程度フレキシブルにしておきたいというところがあったんですか?

単純に、本人たちのキャラクターを生かすことを考えると、バニビほどコンセプチュアルでスタイリッシュなのはフィットしないと思ったんでしょう。彼女たちの個性を生かしつつ殺さないというところで言うと、本人たちの実体験はないけれど、ちょっと昔の時代のものを面白がってやってもらうのが一番輝くから、じゃあ次はどれをやろうかっていう。

「赤いヴァイナル奇跡を起こす」

──このシングルを名盤たらしめているのは、カップリング曲の存在も大きいと思います。中でも「ワナダンス!」は、ここまで完璧なソウルミュージックをやったアイドルソングがほかになかったので、アイドルのことはよくわからないけど「ワナダンス!」に釣られた、という人は多いと思います。

あの曲には玉井のこだわりが色濃く反映されていますね。歌詞の世界感も含めて。

──90年代初頭のクラブカルチャー的な雰囲気ですね。

芝浦にDJバーインクスティックがあった頃の渋谷とか西麻布とか、あの頃の空気感をトマパイの楽曲を通じて表現したいというのが当時、玉井の中で明確にあったんです。本当に面白いんですよね。あの子たちがやったら面白そうだというアイデアがどんどん出てくる。歌詞に「西麻布」とか「ミラーボール」とか具体的なワードが出てきたり、あとJ・TRIPとか実際の店舗名が出てくるのも玉井のアイデアでしたね。「夢の続きはまだ“赤い靴”」というのは、レッドシューズというクラブのことだったかな。今でいう“匂わせ”みたいな言葉を歌詞に入れてましたね。

──1つの物語として構成されている「ジングルガール上位時代」と違い、こちらの歌詞はパーツパーツで刺してくるというイメージで。「赤いヴァイナル奇跡を起こす」はすごいパンチラインですね。

視覚的なイメージから、「赤いヴァイナル」という言葉が最初に出てきたんじゃないかな。

──へえー。そういった要素にクラブミュージック好きが一斉に食いついて。

「ミュージシャンではない人だからこそできること」というのが一番体現されて、予想以上の結果を導き出すのはアイドルだと思うんですよ。男性も女性も。「ワナダンス!」はその成功例の1つだったんじゃないかな。音楽がすごく好きな人がやるのとはまた違う味が出たなと思います。

Tomato n' Pine「ワナダンス!」

“いいところのお嬢さん”感

──アートワークのこだわりについても聞かせてください。

50'っぽいムードとか、ホームパーティのような雰囲気……あと“いいところのお嬢さん”というイメージには特にこだわりました。

──“いいところのお嬢さん”感は確かにトマパイにとって重要な要素ですよね。そこはかとない上品さ。

ガツガツしてなかったり、チャレンジ精神にあふれていなかったり(笑)。先ほどもお話ししたように、アイドル戦国時代を生き抜いていくために必要だとされていた要素を彼女たちが持っていないからこそ、できることがあったんだと思います。

──アナログ盤は帯もCDのものをそのまま拡大して再現していますけど、この「私たちのパーティーはこれから!」というコピーもジェーンさんが考えられたんですか?

コピーは私が考えています。この言葉もすぐに出てきましたね。トマパイ以降もいくつか音楽の仕事をしていますけど、アーティストにインスパイアされて、スムーズにイメージやコンセプトが湧いてくるということはほとんどなかったので、そういう意味でもトマパイは稀有な存在だったんだと思います。

Tomato n' PineTomato n' Pine「ジングルガール上位時代」アナログ盤ジャケット

Tomato n' PineTomato n' Pine「ジングルガール上位時代」アナログ盤ジャケット [高画質で見る]

Tomato n' Pine「ジングルガール上位時代」CD通常盤ジャケット

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どのグループも“奇跡の三点倒立”みたいなことをやっている

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