1990年代に日本の音楽シーンで起きた“渋谷系”ムーブメントを複数の記事で多角的に掘り下げていくこの連載。7回目は
取材
「愛犬の名前は?」って聞かれると「ジョイ」って入れるぐらいには影響受けてる
──まず、豪さんが渋谷系という言葉を聞いて思い浮かべるのはどんなイメージですか?
リアルタイムだと渋谷のZESTで、その後はBOOKOFFのバーゲン棚ですかね。フリッパーズ・ギターの解散がボクの専門学校時代で、この仕事を始めてからカジ(ヒデキ)くんのソロデビュー時や
──なるほど。
普遍的ないい曲だらけなのに、BOOKOFFのバーゲン棚の常連になりすぎてるじゃないですか。Chocolatの「ショコラ・ア・ラ・モード」とか
──Chocolatさん(
今と同じで渋谷系もハードコアもアイドルも並列に聴いてましたね。80年代末のビートパンクを中心としたバンドブームにモヤモヤしたものを感じていた側としては、そのあたりを小馬鹿にするフリッパーズ・ギターにすごいパンクを感じてました。海外のパンクが日本盤だとRamonesとThe Toy Dolls、あとはグラインドコアぐらいしかリリースされない時代に、まったく同時代性のない音楽をやってるのってどうなのかなって。そう思ってたら、ボクが当時バイトしてたレンタルビデオショップの店長がWinkの元マネージャーでポリスターに出入りしてたんですよ。で、サンプル盤とかしょっちゅう大量にもらってきて、ある日、発売前の「GROOVE TUBE」のサンプルテープに衝撃を受けて。「うわ、Primal Screamやってる!」って(笑)。
――それまでのフリッパーズともまったく違うアプローチだから驚きましたよね。
専門学校が御茶ノ水にあったから、ジャニスでPrimal Screamの「Loaded」とか借りてた時期だったんですよね。その後、この仕事を始めてからbridgeの自主テープを三軒茶屋のFUJIYAMAで買ったり、
──「大好きなシャツ」の歌詞に出てくる犬の名前を引用して(笑)。ちなみにあの曲はDouble Knockout Corporation(フリッパーズ・ギターが楽曲制作をする際のチーム名)が作詞作曲を手がけています。
そう。そして「バースデイ・ボーイ」が100円CDの棚に刺さってるのを見るたびに、やっぱり「名曲なのに!」と憤るっていう(笑)。
──わかります(笑)。今日は豪さんに“渋谷系の流れを感じるアイドルソング”というテーマで何枚かCDを持ってきていただいたので、そちらを紹介してもらいましょう。
CDが見つからなくて現物は持ってこれなかったんですけど、まず紹介したいのは Pretty Chatの短冊シングル「WAKE UP,GIRLS!」。
(楽曲が流れる)
──いいですね。曲は誰が手がけているんですか?
「編曲:ペール・ヘンリクソン」って書いてありますけど、当時は情報が全然なくて。雑誌「BOMB」か何かの新譜コーナーで3行ぐらいの文章で紹介されてたんですよ。「子役がスウェディッシュポップを歌う」みたいな。調べていくうちに、スウェーデンのPINKO PINKOってバンドの「Cheekbone」という曲のカバーであることが判明して。最高すぎて何枚も買いましたね。
──このユニットは継続的に活動していたんですか?
これ1枚だけです。ドラマ「木曜の怪談」絡みで結成されたユニットみたいで。「これ仕組んだの、誰?」っていう意図のわからなさ(笑)。PINKO PINKOはCloudberry JamやRay Wonderとレーベルメイトではあったけど、「なぜそこを選ぶ!」という。前田愛はその後ソロでもCDを出してるんですけど、そっちは童謡っぽい感じで全然ピンとこなかった(笑)。
──そういう文脈で期待して聴いたら全然ハズレだった、みたいなのもけっこう多いですよね。同じ人でも次の作品ではテイストがまったく変わっていたり。
子役流れで言うと奈良沙緒理の曲も渋谷系ですよ。まあ今の時代に奈良沙緒理の曲の話をしてもロマン優光ぐらいしか反応しないと思うんですけど(笑)。彼女の「HAPPY FLOWER」っていう曲が、完全に
──イントロが「ラブリー」(笑)。ちなみにスウェーデンものだと、いわゆるスウェデッシュブームみたいなときに佐藤康恵が……。
ああ、やってましたね。
──スウェーデンはスウェーデンなんだけど、The CardigansやCloudberry Jamの文脈ではなくAce of Baceなどをやっていたダグラス・カーのプロデュースで「そっち?」みたいな(笑)。音楽的にはすごくいいんですけど。
スウェディッシュポップ路線の
──上戸さんのリミックス集「UETOAYAMIX」、クレジットを見るとリミキサーがすごいメンツですね。DJ TASAKA、KREVA、Jazztronik、TOWA TEI、Incognito……。
そう。中でもCloudberry Jamのリミックスが素晴らしくて。ただ、これもはやリミックスじゃない気もしますけどね(笑)。完全に演奏してますから。上戸彩は藤井フミヤの提供曲もよかったですよね。「下北以上 原宿未満」。あれも完全に音の作りは渋谷系です。
“安達祐実のアルバムにニック・ヘイワード
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吉田光雄 @WORLDJAPAN
ボクは渋谷系について「今でも大好きだからこそ、流行りものとして消費して、その後まったく聴かなくなる人が多すぎることに憤ってる」と公言してるんですけど、恥ずかしいのはその音楽そのものじゃなくて、ブームに流されやすくてすぐ過去を否定するあなたですよ、という。
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