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吉田豪

渋谷系を掘り下げる Vol.7 バックナンバー

吉田豪が語るアイドルソングとの親和性

「渋谷系は無価値なものに価値を与える文化」

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1990年代に日本の音楽シーンで起きた“渋谷系”ムーブメントを複数の記事で多角的に掘り下げていくこの連載。7回目は吉田豪へのインタビューを掲載する。この連載では、日本の音楽史において重要な位置にありながら極めて実態のつかみにくい“渋谷系”について、主にムーブメントの中核を担ったアーティストや関係者の証言をもとに考察を進めてきた。しかし渋谷系が起こした波紋はアーティストに紐付いた文脈の中だけではなく、文脈外にも広がっているのではないか。それまでの日本の音楽シーンにはなかった多種多様なサウンドとビート、豊かなコード感覚を持ち込んだ渋谷系の音楽は、同時代から現在に至るまで多くのクリエイターの耳を刺激し、さまざまなジャンルでその影響を感じさせる楽曲が生み出されている。ことアイドル、女優、声優が歌う音楽はポップなことが前提としてあるためか、意図して作られているか否かに関わらず、渋谷系の血脈を感じさせるものが多い。渋谷系と呼ばれるアーティストが制作に関わった楽曲もあれば、無関係かつお手軽にブームとして取り入れられた“渋谷系風サウンド”や、はたまた完全なる偶然から生まれた“渋谷系っぽい曲”もあるが、それらはいずれも不思議な魅力を放っている。そういった文脈内外にまで目を光らせ、古今の隠れた名盤を発掘、紹介し続けているのが、プロインタビュアーの吉田豪だ。今回は吉田が所有するガールポップ作品を軸に、現在までつながる“渋谷系の血脈”を掘り下げる。

取材 / 臼杵成晃 文 / 臼杵成晃、望月哲 撮影 / 相澤心也

「愛犬の名前は?」って聞かれると「ジョイ」って入れるぐらいには影響受けてる

──まず、豪さんが渋谷系という言葉を聞いて思い浮かべるのはどんなイメージですか?

リアルタイムだと渋谷のZESTで、その後はBOOKOFFのバーゲン棚ですかね。フリッパーズ・ギターの解散がボクの専門学校時代で、この仕事を始めてからカジ(ヒデキ)くんのソロデビュー時やEL-MALOが小山田(圭吾)くんプロデュースの2ndアルバムを出すタイミングでインタビューしたり、藤子・F・不二雄先生の葬式で面識もない小山田くんに「TVブロスの取材ですか?」と声をかけたり、直接的にはその程度の接点しかなかったけど、今でもずっと好きな音楽ジャンルみたいなものです。パンクもハードコアも後追いだったボクにとっては初めてリアルタイムで体験できた音楽ムーブメントだったし、今でも大好きだからこそ、流行りものとして消費して、その後まったく聴かなくなる人が多すぎることに憤ってるっていう。

──なるほど。

普遍的ないい曲だらけなのに、BOOKOFFのバーゲン棚の常連になりすぎてるじゃないですか。Chocolatの「ショコラ・ア・ラ・モード」とかカヒミ・カリィの「マイク・オールウェイズ・ダイアリー」とか100円でいいわけないと思うし、スウェディッシュな人がプロデュースしたというだけで250円棚の常連になってるのとか腹が立つんですよ。「めちゃくちゃいいのに!」って。そのあたりの盤を何回買い直して、何回配ったか(笑)。例えばhal(※halの「a」はアキュートアクセント付きが正式表記)とか最高なわけで。

──Chocolatさん(Chocolat & Akito)と並んで注目される存在でしたよね。Cloudberry Jamをプロデュースしていたペール・ヘンリクソンと組んだりして。豪さんは当時、渋谷系と言われるアーティストの作品をリアルタイムで聴いてたわけですよね。

今と同じで渋谷系もハードコアもアイドルも並列に聴いてましたね。80年代末のビートパンクを中心としたバンドブームにモヤモヤしたものを感じていた側としては、そのあたりを小馬鹿にするフリッパーズ・ギターにすごいパンクを感じてました。海外のパンクが日本盤だとRamonesとThe Toy Dolls、あとはグラインドコアぐらいしかリリースされない時代に、まったく同時代性のない音楽をやってるのってどうなのかなって。そう思ってたら、ボクが当時バイトしてたレンタルビデオショップの店長がWinkの元マネージャーでポリスターに出入りしてたんですよ。で、サンプル盤とかしょっちゅう大量にもらってきて、ある日、発売前の「GROOVE TUBE」のサンプルテープに衝撃を受けて。「うわ、Primal Screamやってる!」って(笑)。

――それまでのフリッパーズともまったく違うアプローチだから驚きましたよね。

専門学校が御茶ノ水にあったから、ジャニスでPrimal Screamの「Loaded」とか借りてた時期だったんですよね。その後、この仕事を始めてからbridgeの自主テープを三軒茶屋のFUJIYAMAで買ったり、渡辺満里奈「大好きなシャツ(1990旅行作戦)」の8cmCDも速攻で買いに行って。いまだにパソコンのパスワードとかで「愛犬の名前は?」って聞かれると「ジョイ」って入れるぐらいには影響は受けてるわけですよ(笑)。

──「大好きなシャツ」の歌詞に出てくる犬の名前を引用して(笑)。ちなみにあの曲はDouble Knockout Corporation(フリッパーズ・ギターが楽曲制作をする際のチーム名)が作詞作曲を手がけています。

そう。そして「バースデイ・ボーイ」が100円CDの棚に刺さってるのを見るたびに、やっぱり「名曲なのに!」と憤るっていう(笑)。

──わかります(笑)。今日は豪さんに“渋谷系の流れを感じるアイドルソング”というテーマで何枚かCDを持ってきていただいたので、そちらを紹介してもらいましょう。

CDが見つからなくて現物は持ってこれなかったんですけど、まず紹介したいのは Pretty Chatの短冊シングル「WAKE UP,GIRLS!」。浜丘麻矢野村佑香前田愛大村彩子 という人気子役4人からなるユニットがシングルを1枚だけ出してるんですけど、子供の危うい歌唱力+最高の楽曲で、もう完璧なんですよ。ネットに動画がアップされてるんで、とりあえず今、観てみます?

(楽曲が流れる)

──いいですね。曲は誰が手がけているんですか?

「編曲:ペール・ヘンリクソン」って書いてありますけど、当時は情報が全然なくて。雑誌「BOMB」か何かの新譜コーナーで3行ぐらいの文章で紹介されてたんですよ。「子役がスウェディッシュポップを歌う」みたいな。調べていくうちに、スウェーデンのPINKO PINKOってバンドの「Cheekbone」という曲のカバーであることが判明して。最高すぎて何枚も買いましたね。

──このユニットは継続的に活動していたんですか?

これ1枚だけです。ドラマ「木曜の怪談」絡みで結成されたユニットみたいで。「これ仕組んだの、誰?」っていう意図のわからなさ(笑)。PINKO PINKOはCloudberry JamやRay Wonderとレーベルメイトではあったけど、「なぜそこを選ぶ!」という。前田愛はその後ソロでもCDを出してるんですけど、そっちは童謡っぽい感じで全然ピンとこなかった(笑)。

──そういう文脈で期待して聴いたら全然ハズレだった、みたいなのもけっこう多いですよね。同じ人でも次の作品ではテイストがまったく変わっていたり。

子役流れで言うと奈良沙緒理の曲も渋谷系ですよ。まあ今の時代に奈良沙緒理の曲の話をしてもロマン優光ぐらいしか反応しないと思うんですけど(笑)。彼女の「HAPPY FLOWER」っていう曲が、完全に小沢健二の「LIFE」から影響を受けた音作りをしてるんですよ。「だぁ!だぁ!だぁ!」っていうNHKの育児アニメの主題歌なんですけど……(曲を流す)。

──イントロが「ラブリー」(笑)。ちなみにスウェーデンものだと、いわゆるスウェデッシュブームみたいなときに佐藤康恵が……。

ああ、やってましたね。

──スウェーデンはスウェーデンなんだけど、The CardigansやCloudberry Jamの文脈ではなくAce of Baceなどをやっていたダグラス・カーのプロデュースで「そっち?」みたいな(笑)。音楽的にはすごくいいんですけど。

スウェディッシュポップ路線のバニラビーンズがシングル「LOVE & HATE」でようやく本場スウェーデンの人に曲を頼んだと思ったら……と同じパターン(笑)。東京パフォーマンスドールのThe Cardigans「Carnival」のカバーとかもありましたね。アレンジがイマイチなやつ(笑)。あと声優の飯塚雅弓がスウェディッシュ系のシングルとか出してていいですよ。3rdシングルの「Pure▽」(※「▽」は白抜きハートマークが正式表記)。あれはすごくいい。「SMILE×SMILE」というアルバムにも入ってます。イギリス録音で、トーレ・ヨハンソンによるプロデュース。スウェディッシュでいうと、上戸彩のシングル「愛のために。」のCloudberry Jam Remix が最高ですよ。

──上戸さんのリミックス集「UETOAYAMIX」、クレジットを見るとリミキサーがすごいメンツですね。DJ TASAKA、KREVA、Jazztronik、TOWA TEI、Incognito……。

そう。中でもCloudberry Jamのリミックスが素晴らしくて。ただ、これもはやリミックスじゃない気もしますけどね(笑)。完全に演奏してますから。上戸彩は藤井フミヤの提供曲もよかったですよね。「下北以上 原宿未満」。あれも完全に音の作りは渋谷系です。

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“安達祐実のアルバムにニック・ヘイワード

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