パンチライン・オブ・ザ・イヤー

パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025 (後編) [バックナンバー]

女性ラッパーの闘い、JJJへの思い、2020年代的ヒップホップへの移行……そして大賞の行方は?

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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「2025年もっともパンチラインだったリリックは何か?」をテーマに、高久大輝、YAMADA KEISUKE、ポーザー白石、渡辺志保という4人の有識者たちが日本語ラップについて語り合う短期連載「パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025」。ここまで前編中編で、「RAPSTAR 2025」の熱狂やラッパーたちが描く社会などについて語り合ってきたが、最終回となる後編では、ミソジニーと対峙しながら自分らしさを貫く女性ラッパーたちの闘いや、新たなスターが台頭するシーンの“地殻変動”に光を当てる。

そしていよいよ、2025年を象徴する最高のパンチラインが決定。果たして、今回の「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」に輝いたのはどのリリックか……?

取材・/ 宮崎敬太 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)

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コラム
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暴力的な表現をどこまでよしとするのか問題

──個人的に、ポーザーさんがセレクトしたLink Hood「Maiko step」の「真っ黒に染め上がった俺らの手 / 白塗りなんかじゃ隠しきれねぇ / 俺らの世界はグレーだぜ? ok? / 一見さんお断りやで ok?」も気になりました。このラインには怖さとユーモアが同居していますね。

Link Hood「Maiko step」ミュージックビデオ

ポーザー白石 そうなんですよ。タイトルはマイケル・ジャクソンと舞妓さんをかけてるんですよね。リリックでも言っているように、彼らは過去に黒い仕事に手を染めてしまったことがあったようで。でも今は音楽という白い仕事でお金を稼いでいる。ただ、完全には断ち切れない面もあるから「グレー」と言っているんですね。Link Hoodは千葉のクルーで、実際にお会いしに行ってきたんですが、僕自身は普通の音楽ファンなのに、「俺らに会いに来るなんてギャングだな」みたいに歓迎してくれました(笑)。

渡辺志保 成功してほしいなあ。ただ、これはMasato Hayashiにも言えることだけど、バイオレンスなリリックをどこまでよしとするのかというのは難しい問題ですよね。「あっちはよくてこっちはダメ」ではただのダブルスタンダードになってしまうし。日本もそろそろアメリカのようにクリーンバージョン(※過激な言葉を取り除いて公共の場でも流せるようにした自主規制音源)を導入してもいいんじゃないかなと思います。これは暴力的な表現というよりも性的な描写に対して必要だとも思うんですが。

高久大輝 サグのリアルなストリート感覚を歌詞にして成り上がると、リスナーが同じ刺激を求めてしまう、という悪循環もありそうですよね。

渡辺 私は、ラップは裏稼業を抜け出すための1つ手段だと思うんですよね。

高久 抜け出した先で何を表現していくかが重要ですよね。

渡辺 それこそNORIKIYOとかね。ヒップホップシーンのいいところは、人生に躓いてしまった人に対しても居場所が残っていることだと思うんですよ。もちろん、犯罪行為そのものを肯定するつもりはありません。ただ、罪を償った人が戻ってきたときに受け入れる場所は必要だと思うし、ヒップホップはある意味その受け皿としても機能している部分がある。

女性ラッパーはマジでみんなめっちゃがんばっているし、やめないでほしい

──ポーザーさんは、e5の「BUTTOBASHIT」から「安いビーフを売り付ける偽モン肉屋 / 臭いわちゃんと上手いエサ草食わしな / つまらんアンタの地元には生えもしないか?」というラインと、「たまに言われるんだ / 女だからラップすんな / 思い出せ魂の兄弟 / あんま意味ない / 借りもんこの体」という2つのラインで迷って選べなかったそうで。

e5「BUTTOBASHIT」ミュージックビデオ

渡辺 「安いビーフを~」はどういう意味なんですか?

ポーザー 「RAPSTAR」の場外乱闘じゃないですけど、話題作りや再生回数を稼ぐための“安いビーフ”が去年はけっこう多かった印象なんです。この「BUTTOBASHIT」は10月末くらいにリリースされたので、2025年のそうした一面を切り取ったラインだと思いました。

渡辺 なるほど。この曲は怒りの詰め合わせパックみたいな感じですよね。怒っていることを隠さないという意味で、この曲は素晴らしいと思います。

ポーザー もう1つの「女だからラップすんな」というラインも、この時代にまだそんなこと言う人がいるんだ、と驚いて。でも言われている立場からすると、それが当たり前なのかもしれませんね。

渡辺 SNSには女性がヒップホップを聴いていることをバカにするムーブというか、謎の性別マウントがいまだにありますよね。「女はどうせKEIJUしか聴かないんだろ?」みたいな。死ぬまで言っとけと思う。LittyのミュージックビデオをYouTubeで観ると、コメント欄が本当にひどくて、ああいう現象も本当に反吐が出ます。

Litty「Pull Up」ミュージックビデオ

ポーザー e5が「RAPSTAR」に応募した動画が嫌なバズり方をしたんですよ。100万回以上再生されたけど、いま志保さんが言われたような「女のくせにラップするな」的なコメントが半分くらいを占めていて……。

渡辺 私は「借りもんこの体」というラインがすごく好き。

ポーザー 僕も好きです。男女以前に「この体はそもそも借り物だから」という概念を持ち出して一蹴するのがe5っぽい。

高久 e5の「MODE POP」というアルバムがめちゃくちゃよかったんですよ。「KANTAN」という曲では、日本語、韓国語、英語を使ってめっちゃハッピーな曲を作っていて。難しいと思われていたことを、新しい世代が「KANTAN」というタイトルでサラッと実現させていて、軽やかに国境も越えていける感じがしました。

e5「KANTAN ft. Collie Wave」ミュージックビデオ

渡辺 女性のラッパーはマジでみんなめっちゃがんばっているなって思うし、周りのノイズに負けずにやめないでほしいと思う。

Elle Tellesaが「女女」するのは好きな男の前だけ

──この流れで、志保さんが選んだElle Teresa「Love Deluxe」のリリックについての話を伺いたいです。

渡辺 Elle Teresaがこの曲を「POP YOURS」で歌ったとき、観客の女の子がめっちゃ一緒に歌っていたことがすごく印象に残ったんです。Elle Teresaは好きなラインがたくさんがあるからどれにしようか本当に迷ったけど、そのシーンが忘れられなくて「好きなタイプの男 ちょっとオラオラ / 好きな男の前でしちゃうよ女女」にしました。

Elle Teresa「Love Deluxe」オフィシャルオーディオ

──本当に、このラインで女性の声がグワッと会場に広がった記憶があります。

渡辺 「フェミニズム=強さ」みたいな主張が主流になっている中で、Elle Teresaはもうそこを超越しちゃっている。ラップシーンを見回しても、「自分よりもちょっと態度の強い男性が好き」とラップする女性は最近あんまりいなかった気がするんですよ。オラオラな男性の前で女女しちゃうって、前時代的な価値観でもあるし。なのに、そんな歌詞を「POP YOURS」で今の若い女の子がElle Teresaと一緒に歌っているのが面白いというか、圧倒されたというか。男女の二項対立の話になりそうなのに、Elle Teresaが歌うと自然。

高久 ギャップもありますよね。

渡辺 ただ、さっきのWorldwide Skippaにも言えるけど、このラインだけが一人歩きしてほしくはないんですよね。これはElle Teresaが「自分の個性」としてラップしている面が強いから。去年の「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」でも言ったけど、日本語ラップにおけるギャルのリリックにはドキュメンタリー性があると思っているんです。彼女たちにしかわからない言い回しとかフレーズとか空気感がある。Elle TeresaだけでなくLANANENEもそう。e5やLittyだって同様です。若い女性が自分たちの言葉で自分を表現して、それを観たファンがその言葉に感化されるいうのはヘルシーだと思う。ブルシットを気にせず、彼女たちが健やかにラップを続けられるような環境をマジで作っていきたいですね。

──志保さんが言われた「男女の二項対立の話になりそうなのに、Elle Teresaが歌うと自然」という言葉を聞いて、Daichi Yamamotoの「メルセデス」の「ガラスのマインドもわるかない / 君は繊細 / それは才能さ天才」というラインを思い出しました。つまり人間の内面には、他人からは矛盾しているように見えることも当たり前にあって、画一的に捉えることはできないという。

Daichi Yamamoto「メルセデス」

渡辺 リリックに嘘がないということなんですかね。e5の「BUTTOBASHIT」にも言えることなんですが、日本のみならず世界共通で、女性は怒るだけで揶揄されるんですよ。トーンダウンさせられるというか、私も日常的に怒れなくて、丸く収めてしまうことが多いです。だから女の子が怒っているラップを聴くとスッキリする。

──確かに怒っている女性を腐す空気はありますね。

渡辺 さらに言うと、Elle TeresaやNENEのMVのコメント欄と、Littyのコメント欄ってトーンが違うんです。明らかに強そうな女性のミュージックビデオには、ネガティブなコメントが少ない。逆にLittyのように童顔でちょっと弱そうに見える子にはひどいコメントが付く気がして。

高久 Elle Tellesaが「女女」するのは、あくまで好きな男の前だけですからね。

渡辺 その通り。

ポーザー Elle Teresaの彼氏ネタだと、「YUKAKO」に入っている「Fuji3」の「ジュビロ磐田 元彼やってたサッカー」も完璧でしたね。もう「この人にしか言えないオブ・ザ・イヤー」ですよ。

Elle Teresa「Fuji3」オフィシャルオーディオ

──「怒る女性」という文脈にはNENEもいらっしゃいますよね。

渡辺 私個人としては、「OWARI」のNENEはMVPでした。ただ、この曲にまつわる一連の騒動については、私自身も学ぶことがたくさんあったし、この件に触れても誰もハッピーにならない気がしていて。ファンダム・カルチャーのすごさを身をもって経験できました。

NENE「OWARI」ミュージックビデオ

ポーザー 自分もNENEの曲を取り上げたら、あっちのファンダムからすんごい数の批判的なリプが付いてしまったんですよ。この前も別のラッパーが別のグループについて曲で言及して、そちらもとんでもない炎上になってしまった。こういう集団的なバッシングが起きると、めんどくさがって誰も何も言わなくなる。

──特に日本の推し文化においては推しこそが絶対なので、あらゆる批判は物量で封殺されてしまうんですよね。ただ、BTSRMTWICEのチェヨンは国内外インディペンデントのアーティストを招いて素晴らしいアルバムを制作しているし、韓国ではアイドルがラッパーやダンサーへのリスペクトを公言しているので、日本とはややトーンが違うんですよ。

渡辺 私は日本のヒップホップシーンがすごく好きで、誇りに思っています。AwichYZERRはインディペンデントでメイクマネーして、地元に還元している。そこが重要なんです。ZORNがマイク1本でさいたまスーパーアリーナを埋めたこともそう。確かにヒップホップのカルチャーは特殊だし、問題がたくさんあることはわかっているけど、そういうアーティストがいることは誇るべきだと思っています。

──戦後から続く音楽業界や芸能界の構造を変える動きとも言えますからね。

渡辺 なぜ私がNENEや日本のヒップホップにここまで惹かれるのか振り返ると、やっぱり私自身にも音楽業界や芸能界の古くからの構造に対する反抗心があるからなのかなと思います。私もフリーランスワーカーですし、インディペンデントでがんばって成り上がっているアーティストに肩入れしてしまう。

高久 あの騒動では文化盗用的な視点から「NENEもパクってる」という言説もありましたよね。あれはヒップホップカルチャーを理解してないように感じました。ヒップホップはときに既存のアイデアを「自分なり」に工夫して表現して、競い合って成り上がる文化でもあるじゃないですか。そこに「自分なり」の要素を加えていくクリエイティブな作業が面白さもあって、このカルチャーはここまで世界中に広まっている。NENEは完全にインディペンデントで、自分でフィールできるアイデアを見つけて、自分らしい作品を作っている。だからNENEはみんなからリスペクトされているんです。そんな文脈も知らずに「パクりじゃん」というのはあまりに浅はかな指摘だと思いました。そもそもそういった見方はすでに「車輪の再発明」のようなもので、はっきり言って姑息です。

渡辺 やっぱりその話も、Jinmenusagiの「うそさ」の「結局バースで歌うほどみんな好きじゃなかったんだろ / この音楽『これしかねぇ』とか平気で嘘つける / お前なら余裕だよ就活」というラインに帰結していくんだと思う。プレイヤーも、リスナーも、裏方も、このカルチャーを愛して残る人しか残らない。中途半端な人は知らないうちに消えていく印象があります。

「2010年代的ヒップホップ」から「2020年代的ヒップホップ」への地殻変動

──最後に、志保さんがピックアップされたKID FRESINO「hikari」からの「ありがとう言う前に会えなくなったりするのも俺達らしい」というラインについてお話しください。

渡辺 昨年4月にJJJが亡くなられて、半年と置かずにこの「hikari」がリリースされました。ご存知の方も多いと思いますが、KID FRESINOはJJJ、そして2018年に亡くなられたFebbとFla$hBackSというグループで活動されていました。この曲は1行1行すべてが切なくて。昔から知っている人は自ずとFebbのことも思い出すでしょうし。

KID FRESINO「hikari」ミュージックビデオ

高久 自分はKID FRESINO、Febbと同い年で、昔からよく彼らのパーティに遊びに行っていたんです。そんなこともあってJJJの訃報は驚きましたし、寂しさもありました。皆さんも同様だとは思いますが。

渡辺 あまりにも突然でしたからね。

高久 僕は先日JJJの「Eye Splice」のビートを作ったNoshに取材させてもらう機会をいただいたんです。Noshは音楽から離れていた時期があったんですが、それでもFla$hBackSの面々は以前とまったく変わらずに接してくれて、また音楽を作り始めたときにすごく助けられたと言っていて、なんだかすごくグッときてしまいましたね。

YAMADA KEISUKE 「hikari」はMVも素晴らしかったですよね。「別々の始発列車 同じ曲で首を振ってた」というラインを再現するような電車のシーンが印象的でした。と同時に、圧倒的な不在感が襲ってくる。改めてJJJの存在の大きさを感じました。

渡辺 おそらくすべてのリスナーがそれぞれの距離感でJJJの音楽に触れていただろうから、感じ方もそれぞれありそうですよね。STUTSがビートを制作したこの曲は素晴らしいと同時に複雑な感情が湧いてくる楽曲で、2025年を語るうえではどうしても外せなかったので選びました。

──同感です。

渡辺 振り返ると、2023年にKANDYTOWNが終演して、2024年はBAD HOPが解散、そして2025年はTohjiが活動休止を発表した。一方でWorldwide SkippaやSieroのようなこれまでいなかったタイプのラッパーが登場した。この流れを見て、私は「2010年代的ヒップホップ」から「2020年代的ヒップホップ」への地殻変動が起こっているように感じました。

高久 時代の変化という意味では、僕は5lackのアルバム「花里舞」に衝撃を受けたんです。それこそ個人的にはアルバム・オブ・ザ・イヤー的な作品だと思うんですが、作中に「バック・トゥ・アンダーグラウンド」的なリリックがあって。それを聴いて「またいろんなところから面白くて質の高い音楽が出てくる時代になっていくのかな」って期待させられました。

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いよいよ2025年の一番のパンチラインが決定!

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アボかど @cplyosuke

「東北でお互いに団結しているイメージがありますね。YELLASOMAを擁するFAMILY BUSINE$$の人たちと、青森の人たちと、新潟の人たちみたいな」

https://t.co/ysksCUhzU7

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