にしな「日々散漫」インタビュー|音楽や世界、そして自分自身と向き合って生まれた21曲

にしなが3rdフルアルバム「日々散漫」をリリースした。

「日々散漫」は彼女にとって2022年7月発売の「1999」以来、約3年8カ月のフルアルバム。その間に発表された「ホットミルク」「春一番」「シュガースポット」「わをん」「輪廻」「パンダガール」などの既発曲に、新録曲を加えた全21曲が収録されている。

音楽ナタリーでは「日々散漫」のリリースを記念して、にしなにインタビュー。前作から約3年半を経た今、彼女は音楽や世界、そして自分自身とどのように向き合っているのか。アルバムを紐解きながら、その等身大の姿に迫った。

取材・文 / 小松香里撮影 / 森好弘
スタイリング / haoヘアメイク / Eriko Yamaguchi

日常とカオスを表現した日々散漫

──アルバムを作るにあたって、具体的にイメージしたことはありますか?

1曲1曲作っていく流れの中で「こんなに曲が溜まったからアルバムにしよう」と思って、そこからまとめていったので、あらかじめイメージしていたことは特にないんです。まとめ方を考える中で、日常的な側面を持った曲と、ちょっと飛び散ってるようなカオスな側面を持った曲という2つの軸が見えてきて。なのでタイトルを「日々散漫」にして、2枚組の「日々」と「散漫」にまとめました。

──約半年前、「輪廻」の取材の際に、にしなさんは「今、自分のフェーズとしては、まずそのとき自分がやりたいことを大切にすることを重視しているということもあって、次のアルバムにはいろいろな方向を見ている曲が収録されるんだろうな」とおっしゃっていました(参照:にしな特集|大切な人との永遠の別れ──新曲「輪廻」で歌う、巡り合いの先にある希望)。その予感は当たったと思いますか?

当たっているような気がしますね。

──そういうアルバムになっていますよね。DISC 1の1曲目「intro」を、DISC 2のラスト曲「Twinkle Little Star」をにしなさんが口ずさむというプロローグ的なトラックにしたのはどうしてだったのでしょうか?

アルバムを聴く中で、自分の人となりが見えてきたらいいなと思ったんです。そのためにはどうしたらいいのか考えたときに、新曲の中で一番今の自分らしい曲が「Twinkle Little Star」だと思ったので、日常生活の中で歌詞のワンフレーズを口ずさむことで、制作している人間の姿が見えたらいいなと思いました。「intro」はレコーダーを持ってあらゆる街で録りました。それもわざわざ録りに行くというより、ふと思い出したときに録るみたいな感じで、その音源を編集したのが「intro」ですね。想像力を掻き立てられるような音源を中心に編集しました。

にしな

富や名声よりも目の前のことを大切に

──まさに「Twinkle Little Star」が一番今のにしなさんを表している曲だと感じたんですが、その曲を弾き語りのデモっぽい音源にしたのはどうしてだったのでしょう?

この曲はギターを持ってポロポロ歌いながら作っていった曲で。レコーディングに関しては、音楽を始めた頃からずっと見守ってくれている方がいるんですが、その方にひさしぶりにお会いしたときに「ギターを弾いてほしいです」とお願いして。表で演奏している方ではないのですが、快く引き受けてくださったので、レコーディングスタジオではなく一軒家の部屋で窓を開けて、2人で耳をすませながら「せーの」で録音しました。自然な生活音を録りたくて。木の鳴り感みたいな温かみを表現したかったんです。それで私はトイピアノも弾いて。

──今のにしなさんのベースであり、多くの人にも共通する「生きるとはこういうことで、社会や世界はこういうこと」みたいな根源的なことが書かれた歌詞になっています。どういう曲にしたかったのでしょうか?

手のひらの幸せみたいなものがモチーフでしたね。富や名声も大切だけど、それよりも目の前にあることを大切にしたいし、そこに幸せを感じるっていうことが歌えたらいいなと思って書き始めました。

にしな

──歌詞の「えいえん」「かなしみ」「よろこび」がひらがな表記になっているのは何か意図があるんですか?

小さい子が言っていてもかわいいなっていうイメージがあって、ひらがなのほうが個人的にしっくりきたんですよね。

──「輪廻」の取材のときに話されていた「自分が生まれた国をいい形で未来に残していきたい。これから生まれてくる子どもたちが未来なんだなと思う機会が増えている」という言葉が頭に浮かびました。

確かに。そういう気持ちがあったから書いた歌詞だと思いますね。

──DISC 1と2を全部通して最後に聴く「Twinkle Little Star」は、また重みが変わってくると思いました。DISC 2終盤の「ねこぜ」で描かれているような日常を失いたくないと思いますし、その次の「つくし」は生きる意味が描かれている。さらにその次の「グローリー」では世界で戦争が起きているという現実を踏まえながら日常の幸せが描かれていて、そのあとに「Twinkle Little Star」でアルバムが締めくくられるという、とても素敵な流れだなと。

21曲の流れを組むのがなかなかハードでした。何が正解かもわからなかったし、今もわかってはいないんですが、サブスクで2枚続けて聴いても、それぞれ分けて聴いてもなるべく飽きずに楽しめるような流れを大切にしました。あと、アルバムを通して自分の人間像がなんとなくでも感じてもらえたらいいなというイメージはありましたね。

自分の手が届く範囲で人を幸せにしたい

──リード曲の「グローリー」はトオミヨウさんがアレンジを担当しておりますが、最近作った曲ですか?

そうですね。一部分は前からあったんですが、アルバムを作るにあたってしっかり完成させた曲です。聴き方によってはちょっと重く感じられるので、暗くするというよりは明るく開けていくような曲にしたくて、「ポジティブな空気感を感じられる曲になったらうれしいです」とトオミさんにお伝えしました。余白を残したものをトオミさんにお渡ししたらすごく素敵なアレンジをしてくださいました。

──過酷な現実を踏まえつつ、日常の幸せを祈るような曲を書こうと思ったのは?

素敵なきっかけがあったわけではなくて、何気ない日常の中でできた曲なんです。結果的にとても大きいことを歌ってるように聞こえる曲になりましたが、制作過程では自分自身と向き合って、自分のことを書いていきました。でも「平和とは」っていうことを意識したわけでもなくて。好きな人たちと一緒に穏やかに最後まで生きたいなと思うけど、そうはいかないこともあったりする。自分の未来がどうなるかわからないけど、“PEACE”でありたいよなっていう普段思ってることを書きました。

──好きな人たちと穏やかに過ごすことができない人がたくさんいることが垣間見える歌詞で、とても切実さがありますよね。

みんなそうだと思うんですけど、無力と言えば無力じゃないですか。大きな事柄に対して自分が何かを言ったことで直接的な変化が起きることはないけれど、私は自分の手が届く範囲で人を幸せにしたい。音楽のいいところは、歌っていたらその歌を誰かが口ずさんでくれて、それが巡り巡って私が会ったことのない人にまで届いていく可能性があることで。それで何かが変わるかはわからないけれど、それが自分にできることなのかなって。

にしな

──歌詞の中で、栄光や名誉という意味がある「グローリー」というワードを擬人化しています。

素直にお伝えすると、最初はただ口の動きに導かれていっただけで。でも歌詞を書き進めるうちに、主人公の内省的で悲観的な性格と一見相反する「輝き」という意味の「グローリー」がしっくりきました。私は自分のことを輝いているとは思わないけど、ほかの人を見たときに輝きを感じます。自身にはなかなか思えなくても、人から見たら輝いて見えるもんだよなって。私もそうだったらいいなと思ってそのまま採用しました。

自分のことで精一杯だった学生時代

──「グローリー」や「Twinkle Little Star」に加えて、「わをん」はすべての愛を肯定する曲で、俯瞰したような視点やどこか達観したような境地を感じたのですが、内面的にそういった変化があったのでしょうか?

自覚する変化とかきっかけとかはないけど、自分のことで精一杯だった学生時代よりは、心に余裕が生まれて、ほかのことに目を向ける時間が増えました。その中で、自分の嫌いだった部分も「なんかいいかも」って思える気持ちや、周りの人を大切にしたいという気持ちが年々強くなっている気がします。

──以前は受け入れられなかった自分の嫌いな部分ってどんなところなのでしょう?

わかりやすく挙げるならば、体型や容姿ですかね……。学生時代は人と比べてしまうことが多くて、細いほうがいいのかなとか、もっとこういうほうがいいなって。でも自分に対しても人に対しても「今のそれがかわいいんじゃん」みたいな気持ちが増してるんですよね。

──そういうマインドになると楽になりますよね。

そうですね。「かわいいものであふれててもう最高!」みたいなことは思います(笑)。

──そうなると、「わをん」のようなすべての愛を肯定するような曲は学生時代には書けなかったのかもしれないですね。

確かにそうかもしれないですね。この曲を書いたのは、とある動画を観たことがきっかけで。映画の役者さんたちが「それぞれにとっての『愛する』とは」みたいなことを話していて、10人いれば10通りの愛の形があるということを強く思ったんですよね。それで自分の中にある愛を書き出していってできた曲です。

にしな

──「わをん」はかなり歌声のレンジが広いですよね。

かなり広いです。流れるままに気持ちよく作った結果、気付いたらそうなっていました。最初は低くて、サビはすごく高いです(笑)。

──サビはゴスペルっぽいですよね。

そうですね。「わをん」はサビをオーディエンスや演奏にお任せするのもいいなと思って、自分で歌わないことを前提にして作ってみました。天使のコーラスのようなイメージです。

──レコーディングではすんなり歌えたんですか?

いや、もうキーッ!って歌ってました(笑)。