緑黄色社会のニューシングル「風に乗る」がリリースされた。
このシングルには、劇場アニメ「パリに咲くエトワール」のために書き下ろされた主題歌「風に乗る」と、挿入歌「étoile」を収録。映画の世界観とリンクしたクラシカルさと、リョクシャカらしいポップネスが共存した2曲を堪能することができる。これまでも数々のタイアップ曲を制作してきた4人だが、今作ではいかに映画サイドのリクエストに応えつつ、リョクシャカらしさを形にしたのか。その制作過程をたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 西槇太一
当時使われていた楽器を使って
──ニューシングル「風に乗る」は、表題曲が主題歌として、カップリング「étoile」が挿入歌として、ともに劇場アニメ「パリに咲くエトワール」のために書き下ろされた楽曲ですね。制作はどのように始まったんですか?
穴見真吾(B) お話をいただいたのはかなり前なんです。「パリに咲くエトワール」が今まで僕らが担当してきたアニメタイアップと大きく違ったのは、オリジナルアニメという点で。なので、台本と序盤のVコン(ビデオコンテ)をもとに曲を作り出さなければいけないという、ハードルが高い状態で制作が始まりました。映像に音も付いてないし、声優さんが誰になるかもわからない状態で、まずは自分たちでアフレコするような感覚でVコンを再生しながら、どういう作品かをイメージしなければいけなくて。
──「どんな映画になるか」を想像しながらの曲作りだったんですね。そんな中でどのように取っかかりを見つけていったんですか?
穴見 メインキャラクターの1人である千鶴はバレエに心惹かれる少女なんですけど、僕は実家がバレエ教室なので、そこに接点を見出したり。あと、僕らは幼い頃からアニメ映画に触れてきた世代なので、幼い頃に感じた、映画館から家までトキメキを持って帰るような感覚を思い出したり。そうやって曲を作っていきました。今回は0から1を生み出した感覚がかなり強いです。
──映画サイドからの要望は、何かあったんですか?
長屋晴子(Vo, G) 「パリに咲くエトワール」は舞台が20世紀初頭のパリで、「当時使われていた楽器を使ってレコーディングしてほしい」という要望が最初の段階からありました。
──それはかなり特殊な要望ですね。
穴見 「基本的に当時使われていた楽器で、エレキギターやエレキベースはなしでお願いします」って。「実際に映画で流れるものと、音源としてリリースされるものは違ってもいいよ」という気遣いもありつつ、ですけどね。僕ら4人はもともとミュージカルや舞台音楽的なものが好きなので、そういうものに挑戦できるという意味では最適な機会でしたね。「いいタイミングでいいお話をいただけたね」って、バンド内ですごく盛り上がりました。ただ、基本的にギターで弾き語りをしながら作曲してきた僕からすると、今回は入り口から別の切り口で考えていく必要があって。そこは大変でした。主題歌に関しては、映画サイドから「主人公の、タガが外れてどこまでも行っちゃいそうな感じを表現した、勢いのある曲が欲しい」とも言われていて。勢いを出しつつ、それを普段の僕らのバンドアンサンブルではない、クラシカルな楽器で表現するにはどうすればいいんだろう?という部分も悩みました。J-POPらしい要素もちょっとはあったほうが親近感が湧くだろうし、ガチガチにクラシックすぎても広がりが出ない。いろんなものをつなぎ合わせるように曲を作らなければいけなかったんです。
前例のないことを始める勇気
──「パリに咲くエトワール」完成版をご覧になって、どのような印象を抱きましたか?
長屋 まず、もともとお話をいただいた段階で、主人公がバレエであったり、絵であったり、芸術を突き詰めていく物語であることは聞いていたので、私たちと近い作品だなと感じていて。リンクするものがたくさんある内容だったのがうれしかったです。
──映画について語ったコメントで、小林さんも「バンドの軌跡と重なる」とおっしゃっていましたね。
小林壱誓(G) 主人公のフジコは絵を描くためにパリに行くんですけど、なかなか自分が描きたい絵が見つからない。「自分の表現ってなんだろう?」「何がしたいんだろう?」と悩む。それって、僕らがバンドを始めて真っ先にぶち当たった壁なんですよね。ここではフジコがどうなるかはあえて語りませんけど、彼女の成長の様は、まさに僕らが通ってきた道だなと思いました。
長屋 好きで始めたはずなのに、「好き」という気持ちに自信がなくなったりね。何かを作り出す人にとって切っても切れないものがテーマになっている作品だなと思います。それに、戦時中という時代背景もあるし、「女性の在り方」というテーマも描かれている作品だなと思いました。物語の舞台になるのは、ちょうど女性が社会に進出し始める時代なんです。だからこそ、それに反対する声や、しがらみもある。「何かを始める」ということについてはこれまでも歌ってきたけど、「前例のないことを始める」って、もっと勇気のいることなんですよね。
──確かに。「自分にとって新しい」を越えて、「世の中的に新しい」を始めるというのは、またハードルが上がりますよね。
長屋 そういう経験って、私もできていないことだし、新しいテーマをいただけた作品でしたね。
peppe(Key) 私は、最初に絵コンテを見ながら想像していて、そのあとに完成版を観て「私、想像が足りていなかったな」と感じたのが、親の立場からの愛の大きさなんです。夢は1人の人の中に芽生えるものだけど、それを叶えていく最中は、1人じゃないんですよね。自分のことを振り返っても、幼い頃に目標に向かってがんばっていたときには家族や先生、友達とか、そういう存在が支えになっていて、1人ではなかったなと思って。なので、この映画を観る方には、誰かとともに夢を追いかける素晴らしさを感じてもらえたらいいなと思いました。
穴見 僕は服部隆之さんの劇伴にも感動しました。本当に素晴らしい音質、音像の劇伴なんです。それに、バレエのシーンは本物のバレエの先生が振付をしているし、アニメ映画の長い歴史の中で洗練されてきた職人たちの英知が結集したという感じがして。物語としてももちろんですけど、表現としてものすごく感動する映画ですね。それでいて、この作品には魔法とかが出てこないんです。リアリティが重視されている。アニメなのにノーマジックっていうのは、今だからこそ、すごく新鮮な感じがしました。この令和8年に観たいアニメ映画だと思いましたね。
──服部隆之さんの劇伴からは、今後の音楽制作に向けていい影響を受けましたか?
穴見 そうですね。いい劇伴を録るって、ものすごく細かい知識やアレンジ技術が必要なんだなと思いました。劇伴は、音楽の分野で職人が最終的に行き着く芸術という感じがして。そこは本当に感動しました。
──ご自身で劇伴を作ってみたいという気持ちも湧きましたか?
穴見 いやあ、それについては前にメンバー間で話したんですけど、もし僕がやるとしたら作るのに1年くらいかかっちゃいそうで。そもそも4、5分の曲を作るのに1カ月くらいかかっちゃってるから(笑)。劇伴は、計り知れない作業量だし。
小林 考えなければいけない楽器の数も違うしね。
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