大橋トリオの17枚目のフルアルバム「A BAND」がリリースされた。
「A BAND」は2013年発売のアルバム「plugged」以来となる“ロック”をテーマに据えた作品。管楽器やストリングスを入れず、ギターとピアノを中心に大橋が1人でほとんどの演奏を担った新曲8曲と、代表曲「HONEY」の再レコーディングバージョンが収められている。“ロック”に軸を置きながらラテン、ファンク、ジャズの要素も絶妙に練り込まれた、アイデア満載の芳醇な1枚となった。
大橋は自ら設けたテーマにやや苦しめられながら本作の完成に漕ぎ着けたという。音楽ナタリーでは、大橋の特集でおなじみの音楽ライター高岡洋詞によるインタビューを実施し、“ロック観”の進化がうかがえる「A BAND」についてじっくりと話を聞いた。
取材・文 / 高岡洋詞
大橋トリオなりの“ロックの筋”を通す
──今回のアルバムのテーマはロックだそうですね。
一応、入り口はそうでした。3ピースのシンプルロック的なアプローチで制作を始めたんですけど、いざやり出したら難しくて。やっぱり3ピースはカリスマが3人そろってこそ、あるいは絶対的なカリスマが中心に君臨してこそさまになるものだし、アイデアが重要なので、それぞれの楽器のまあまあなスペシャリストじゃないと、小編成で音楽を成立させるのは難しいんですね。僕はどっちかというと、いろいろ積み重ねて音楽を成立させてきたんだな、と明確に再確認しました。1曲か2曲は3ピースになったかな?
──どの曲ですか?
「水中のメトロ」がピアノ、ベース、ドラムの3ピースですね。あとは……。
──「シナリオ」もすごくシンプルですが。
あれはギターが入ってますね。そう考えると「水中のメトロ」ぐらいか。
──アルバムタイトルが「A BAND」ですから、ロックバンドの編成を意識されていたのかな、と思うんですが。
タイトルは後付けなんですけど、メジャーデビュー作が「A BIRD」(2009年)で、それとThe Bandをもじって「A BAND」という。「次のアルバムはロックをテーマにしています」とちょいちょいラジオ(J-WAVE「THE UNIVERSE」)で言っちゃってたのもあって、ロックをテーマに、という線は捨てずにやってきたんです。タイトルはその意思の表れといいますか。
──ロックをテーマにしたのは2013年の「plugged」以来だそうですが、あのアルバムと「A BAND」を聴き比べてみると、この12、3年で大橋さんのロック観がだいぶ変わった印象を受けます。
そう思いますよね、「ロックがテーマ」と言っちゃってたら。3曲ぐらいは完全にラテンですから(笑)。
──ラテンとかファンクとか、幅はありますね。
ポップスって幅広いじゃないですか。ロックも幅広いという意味ではいいのかな、と。こじつけになっちゃいますけど。一応、ちゃんとロックを意識してはいるんですよ。押し出しの強さとか、あとは曲によりますけど、歌のハードルを少し上げた感じはありますかね。ちょっと声を張らないと歌えないような。
──なるほど。
普段だったらこのキーまでいかないけど、ちょっとがんばってみようと。音域をかなり高くしてしまってるので、ライブがちょっと怖いです(笑)。「ラララ」で歌ってるデモのときは地声でいけたのに、歌詞が入ると意外と無理だった、みたいなこともけっこうあったりして。
──ロックのイメージは人それぞれで、僕は本来これぐらい幅のあるものという感覚なので違和感はないんですが、大橋さんにとってのロックとは?
漠然としたイメージはあります。エッジの効いた印象的なギターが軸になっていて、そこにほかがついてきて成り立つ、みたいな。演奏がほぼほぼメインですね。3ピースといえばそのカッコよさかなと思います。
──「A BAND」を聴いて、音像のシンプルさも大事なのかなと感じました。
シンプルなほどいいんですけど、もうやり尽くされてるだろうし。かつ、どうしても自分の歌がネックになってくるんで。この、静かに歌わざるを得ない音域と声量。そこがうまく噛み合わない感じでしたかね。ギターは気持ち、歪み多めにしてます。完全なるクリーンギターは使ってないと思います。ジャズギターっぽい音もちょっと歪ませてます(笑)。そのちょっとの違いも押し出し感に影響してくるので。
──そこで大橋さんなりにロックとしての筋を通したというか。
そうですね。
──今おっしゃったジャズっぽいギターというのは……。
「君とのダンス」「One coin advice」、あと「Lady Cinema」もそうかな。完全なるラテンの3曲ですね(笑)。
スーパー登山部・Hinaの歌声に惚れ込む
──1曲目から順番に伺っていきます。「シナリオ」はお得意の8分の6拍子で、メロディのダイナミズムが大きくて爽快感のある曲だなと思いました。
8分の6ならではかなと。「水中のメトロ」も8分の6ですね。二度とやらないでおこうと思ってたのに、2曲も入ってるという(笑)。でもこの疾走感が、自分の中のロックとの整合性を成立させている気がして、手を出してしまいました。
──とてもよくわかります。次の「スタンダード」はスーパー登山部のHinaさんがゲストボーカルとして参加されていますね。最初はコーラスの予定だったとか。
Hinaさんは名古屋の方で、リモートでやりとりするつもりだったんですけど、わざわざ来ていただけると言うので「コーラスだけじゃ悪いから」と2番を歌ってもらいました。そもそもコーラスが必要なのはサビだけだし、なんなら彼女のパートのほうがメインメロディで、それでコーラスっていうのもおかしいよな、と思って。
──結果的に、素敵なデュエットになりましたね。
人の歌を聴いてひさびさにグッときました。倍音の出方がすごく特殊で、聴いたことない感じ。ダブルにしてみたんですけど、倍音が何層にもなって、すごくグッときて、めちゃくちゃファンになりました。
──Hinaさんのことは前からご存じだったんですか?
1回挨拶したことがありました。知り合いが関わっていた関係で、ファンクラブのライブを観に来てくれたんですよ。それが去年の春かな。で、このあいだ蔦谷(好位置)さんが「EIGHT-JAM」(テレビ朝日系)で2025年ベスト10の2位として紹介していて。それを観た神谷洵平(大橋トリオのライブやレコーディングで長年ドラムとパーカッションを担当するサポートミュージシャン)が「あの子めちゃくちゃいいじゃん」「声をかけてみませんか」と言っていたので、抜擢させていただきました。
──この曲はそれこそ、ぶっとい音色のギターソロが入っていて、ロックですよね。
味の極みですね。ほかの音が減ってすごく静かなところのギターソロ。ゆるいけど、ちゃんとロックになったなと思える曲です。
なんならロックを一旦忘れてもいいかも
──「君とのダンス」はどうですか?
これは完全にラテンなんで(笑)。デモを出さなきゃいけない時期に、全然イメージしていたものが形にならなくて、難航していた中でパッとできた曲なんですよ。ディレクターに聴いてもらったら「いいんじゃない?」と言われて。「全然ロックじゃないけどね」と思いますけど(笑)。ロック縛りの緊張からちょっと解放してくれた曲ですね。スキャットも入れてますし。
──「この曲がOKなら、ロックと言ってもこれぐらい幅があっていいや」という割り切りができた感じですかね。
そうです。なんならロックを一旦忘れてもいいかも、みたいな。
──とはいえ、ロックがずっと頭にあることによって生じる効果はきっとあったでしょう。
それは絶対あります。ずっと意識はしていたんで。ドラムの音色とか、方向性の意識は常にありました。ドラム録り、楽しかったなー。前回もそうでしたけど、ドラムの録音環境をアップグレードしたんですよ。
──どのへんを変えたんですか?
マイクの種類と数。前回は10本だったのを、今回は13本かな。アンビエンスのマイクを増やして、キックも1本増やして。自分じゃないと叩けない音があって、人に任せるとイメージとだいぶ変わっちゃうんですよ。
──どう変わっちゃうんですか?
オカズが人によって違うんです。自分がイメージしてるものが絶対に欲しいんだけど、それをいちいち伝えてるとキリがないから。フィルもそうだし、左右どっちのシンバルにいくかとか、ハイハットのオープンの具合とか。「もうちょっと開けてくんないかな」とか思って(笑)。
──自分で叩くときと人に振るときの基準は、そういうテクニカルな部分が大きいですか?
一番はそこで、あとは客観的に、エンジニアとかプロデューサー目線のジャッジをしたいんです。音色とか、録り音とか。大事な曲になってくるほどそうなるのかなって。今回は自分の音で満足度高く仕上がったものが多いですね。
──神谷さんに振ったのは2曲だけですもんね。
「シナリオ」と「ドアーズ」ですね。
ブライアン・メイ×チューリップのマリアージュ
──「ひだまりの傘」はゆったりめのバラードですが、この曲で印象的なのは、なんといってもブライアン・メイ風のギターソロですよね。
ブライアン・メイと取りますか、あれを。
──違うんですか?
もちろん意識はしてますけど、僕の中ではね、ブライアン・メイと……チューリップ。
──チューリップ? 日本の?
はい。チューリップのサウンド感。1970年代のチューリップがやりそうな、ベースがいるのにギターもルート音をダーンと弾くみたいな。パワーコードじゃなくてルート音だけ弾く曲があるんですけど、それが面白いなと思って。
──それを大橋さんの中でマリアージュさせた感じなんですね。
「虹とスニーカーの頃」(1979年)という名曲があるんですけど、それの元祖のバージョン(2000年発売のアンソロジーアルバム「TULIP Anthology 1~Rare Tracks~」に収録された「虹とスニーカーの頃(メロ違いバージョン)」)がこういう感じなんです。ギターソロというか、トータルのサウンドが。70年代のドライ歌謡ロックみたいな曲のリバイバルって、意外にみんなやってないんですよね。次はもうちょっとそこを突き詰めてみたいなと思ってます。
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「ジャンルがわからない」=褒め言葉





